
「スカイラインと私」
あの名設計者「桜井真一郎」の不変の設計哲学を集大成。
備忘録シリーズ、その6
~~ ドライバーの神経までも車に伝えたい。 ~~
自動車の設計に着手した当初から、いつも頭にこびりついていた問題が1つありました。それは人間の体、たとえば体の自然な動作であるとか、各人で微妙に異なる生活のリズムのようなものの徹底的な探求というテーマだったのです。1つの例をとって言いますと、ステアリング・ホイルのにぎりの形状をとってみても、もっと自然に握れる太さを決定するために、手のひらの神経がどんな具合なのかを調べました。親指と人さし指の間の神経は頭まで続いているのだそうで、ほんとうにそうなのか医者に聞いていたのです。そこに刺激を与えてやれば必ず軽くなると言われ、私も実際にお灸をして試したのですが、なるほど気分が壮快になるんですね。ステアリング・ホイルの断面の形状を決定するにも、あくまで人間はどこまで耐えられ、どれだけの能力があるのかをマクロ的に、そしてミクロ的に考察していったわけです。さらにノーマルな状態の潜在意識からアブノーマルな状態まで、ほんとうに広範囲の振幅をもって研究しました。ですから、よく「スカイラインは初めて乗った車という気がしない」という声を聞きますが、それとなく潜在意識みたいなものにこたえているからではないでしょうか。ただ潜在意識というなにかこう明らかな形をしてはでてこないものが、はっきりした形としてでてくるには時間が必要だと思うのです。人と家を考えてみても同じことでしょうが、新築した家に愛着を感じるには、ある期間がいりますね。人間同志の愛情についても、時間というものが必要だし、車との間にもそこにはほんとうの意味での話しあいができるまでの時間が必要だと思う。「スカイラインは運転していても疲れない」というドライバーの意見は、実際には充分乗りこなしてからの評価だと思うんですね。人間の生活リズムに合わせた、人間の波長に合った・・・・。そんな味付けをした車は時間と共にじっくり味が出てくるものだし、もともと車というのはそうでなくてはいけないと思います。
Posted at 2011/06/18 23:15:06 | |
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