
⚠このレビューには過去の戦争映画作品なども含め重度のネタバレがあります!
とりあえず劇場で『雪風』を観たあとご覧いただくことをオススメします!
まず、ネタバレ無しの寸評です。
(以下、敬称略)
とりあえず戦争映画初心者向けの優しい戦争映画となっています。特に戦史や兵器に詳しくなければ太平洋戦争の最中、こういう船もあったんだということを知れて良いと思います。
これを機会に先の大戦に思いを馳せて貰えればと思います。
竹野内豊、玉木宏、中井貴一といったいつものベテラン俳優もいつも通り良い味を出してますが、若手の奥平大兼と當真あみのフレッシュな方々の演技もなかなか悪くなかったです。
主題歌を歌っているUruは、実はガンダム鉄血のオルフェンズの『フリージア』の頃から透明感のある歌声が好きだったので今回の『手紙』も劇場で聞くと思わずウルっとくるものがありました。
あと、戦史や軍事に明るい方は、何も期待せずに観ると精神的に良いでしょう。
パンフレットも990円ながら雪風の戦績やキャスト・スタッフのインタビューも網羅されていて、昨今の物価高の中、まあまあそれなりに満足のいくものでした。個人的には、昭和の戦争映画パンフのようにイラストで艦の解説とか艦内見取り図とかあるとモアベターでしたが…
先日映画『F1®』を観て買ったパンフが1,100円もしたのに、ろくにF1の画像も使ってなく重要な脇役達の写真も掲載されてない平凡な内容だったので、それに比べたら110円も安い!のかな…
さて、ここからはちょっとマニアックに、ネタバレありで攻めていきます。
結論を言うと【覚悟の無い戦争映画】です。
ストーリーとしては先程の寸評の通り優しい戦争映画ですが、何のために『雪風』をテーマにしたのか。戦後80年の節目だから何か作っておきたかったのか?よく分かりません。すべてにおいて中途半端。
①『雪風』を描く覚悟
あの不沈艦『雪風』といえば、多くの日本人だけでなく、海外のミリタリーマニアも多大な期待をしうるものになるのは当然のこと。
そりゃ昨今軍事的な作品を作ると言うだけでやれ「戦争賛美だ」とか「戦争美化だ」「右翼的だ」と一部から騒がれもするだろう。
だが、実在する有名艦を題材に製作するのであれば、是非を含め相当な覚悟を持って誠実に製作すべきだった。
しかし、俳優はこれまで戦争や軍事を題材にした映画やドラマに出演してきたある意味で実績のある俳優に出てもらうしかないのだろう。だから観る方も"またか"と層の薄さを感じる。
【大場大尉が駆逐艦長? 深町が兵曹長? 軍神広瀬中佐が砲術長? ゴジラ-1.0雪風艦長が有賀艦長?これは有りだけど(笑) そして伊藤整一長官が中井貴一!ま、まさと〜!😢モウエエ…ケモウエエケエ、カエレ〜😖 特攻機から大和沈没を見届けた小田切中尉が第二艦隊司令長官に大出世じゃ〜😃 でも益岡徹が一番しっくりきて好きじゃのぅ】
そして、史実のトレースやキャラクターの思考がもの凄く混沌としてて中途半端過ぎる。風呂敷を広げてみたけど、畳めなくなった印象しかない。
とりあえず、脚本の長谷川某には二度とこのような戦争映画の仕事をして欲しいとは思わない。『君を忘れない』『亡国のイージス』『ミッドナイトイーグル』『真夏のオリオン』『空母いぶき』と、どれも戦争・軍事映画として生煮えの中途半端な脚本ばかりではないか。(『聯合艦隊司令長官山本五十六』は半藤一利原作ありきなので、まあマシだが)
今回サマール沖海戦(だと思われる)でもまるで栗田艦隊の反転が「謎」でもなんでもなく栗田長官の判断は正しいような見方になるし、その直後にあったはずの駆逐艦「ジョンストン」が沈没する傍を雪風が通過する際、対空砲でトドメを刺そうとする乗員を艦長が制し艦長以下が直立不動の敬礼を送った出来事について、何故か後に関係のない場面で米軍の漂流者シーンが出てきたので、知らない人は"殺さずに敬礼したのに救助せず洋上で見殺しにするのか!?"と思ったはずである。
そもそも敵の正規空母(※誤認)を目の前に総攻撃かけときながら、急に転進命令出して「敵機動部隊(空母艦隊)を追う!」ってまったく意味がわかりません。
反戦ありきのストーリーラインは多少は理解できるが、意味のわからない史実の"改変・改悪"は本当に辞めてほしい。
あと、福井晴敏がスーパーバイザーだと?頼むからもう関わらんといてくれ!
この人達が池上司著の『雷撃深度十九・五』を原作と言うことに仕立て上げ『真夏のオリオン』という超糞駄作映画にしたことを忘れてはいない。
②特撮表現の覚悟
戦争映画といえば、ガチの戦記物であろうとどんな悲劇であろうと迫力のスペクタクルが期待されるわけです。とくにCGの無い時代のミニチュア特撮だけでは、今の若い人の視線はかなり厳しいでしょう。まあ樋口真嗣監督や尾上克明レベルならVFXとミニチュアの両立が可能だと思います。
しかし、いま日本映画のVFXは山崎貴監督が第一人者といって間違いなく、率いる白組が製作した『永遠の0』『海賊と呼ばれた男』『アルキメデスの大戦』『ゴジラ-1.0』のVFXに慣れてしまったいま、今作のようなVFXはとにかくお粗末としか表現できない。
2005年の『ローレライ』がプレステ2レベルなら一応『雪風』はプレステ3相当と進化した感はあるのだが、正直昨今のNHKスペシャルの方がよっぽどリアルな映像を作る。
増槽を落とさず攻撃を仕掛けてくるグラマンとか、ものすごく速力の高い魚雷とか、モデリングを隠すためかどこかの市長くらい艦影をチラ見せして大爆発させる海戦シーンとか、あと呉海軍基地のシーン何回使い回した?
特にクライマックスの天一号作戦いわゆる大和水上特攻の場面。あれ生成AI使ってないか?凄く違和感のある気持ち悪い映像だった。
もうその辺が気になって気になって雪風の映画を楽しみにしていた気持ちがどんどんスポイルされていくんですよ。
『この世界の片隅に』がどれだけ素晴らしい作品か、身に沁みる。片渕監督くらいの覚悟が欲しかった…
あと、個人的には佛田洋は東映特撮(戦隊モノ・ライダー)の方なので東宝特撮のような仕事を頼むのはちょっと違うと思う。『男たちの大和』観た時に疑問を感じたが、今回はどの程度関与したのか。
そして、本当に迫力のある海戦シーンを描くなら庵野秀明に絵コンテを書いてもらわないと!それだけでもう180°違う印象になるw …絵コンテだけだぞ!
まあ、とにかく一番の問題は予算が無く戦闘シーンもまともに描けなかったんだろうと推測。武蔵も信濃も瑞鶴も描かれない。第二艦隊の主軸 巡洋艦矢矧なんか見当たらない(泣)
ただ、『ゴジラ-1.0』のように低予算でもアイデア次第で最大の効果を出すこともできる。
何度も言うが何のために『雪風』を題材にした?その辺の覚悟もまったく感じられない。
とりあえず庵野秀明に絵コンテを〜(後略)
③戦争を追体験させるディテールにこだわる覚悟
今作の山田監督、よく存じ上げないが、とにかくカットの悪さが目立つ。
・どの艦も艦橋にいる人間がまっすぐ前しか見てない。周りで他の艦が被害受けたり沈んでたりするのに、報告に来た士官を見て誰も外の様子を伺わない。ボー立ち
・あえて俯瞰を取らずとにかく人のドアップだけ見せとけば、視聴者にわかってもらえると思ってる?あぁ、なるほど予算無いから周りの画が撮れない、描き足せないか!?
ふざけんな〜😃
・さらに、アップ時のカメラ揺れが酷い。船の動きをトレースしたような動きじゃなく『24』リスペクト的な手持ちカメラ揺れレベル。全然海の上を感じないただの手ブレ。さらに伊藤長官と有賀艦長の大和艦橋でのシーンも同じ手ブレ。大和はデカい艦なのでそんな変な揺れか?イメージできてたか?
・この映画の肝(?)の舷側での救助シーン。ほとんど手を掴むシーンばかり。それと顔。毎回同じアングル、顔アップ。残念だけど、そんなに沢山助けたように見えない
・せっかくリアルな実物大雪風を製作して撮影しているにも関わらず、まっまく活かせてない。肝心の戦闘シーンで本来大活躍するはずの九二式61センチ四連装魚雷発射管も展開して発射態勢を取るシーンもなく(あ、そもそも雪風自体魚雷発射の俯角を取るため敵に舷側を向けることすらなかった😔)
・戦時にも関わらず坊主頭無し。民放の再現ドラマか!配役に成り切る俳優の覚悟が無い。もちろん軍令部のエリートさんや航空部隊など一部長髪が許されたところもあるが、令和の髪型ってどうなんだ…
そして、綺麗過ぎる画。撃沈された艦から投げ出された人間は皆五体満足な人ばかりではない。手や足を失ったり、破片などで重傷を負った人、浮き出た重油で目も見えずドロドロの状態で引き上げられる人もいる(本来は短艇などで救助し艦に横付けして引き上げる)。そんな阿鼻叫喚の地獄絵図が甲板で繰り広げられるわけだが、劇中で引き上げられた人たちは皆溺れかけただけのような様子で、靴下も真っ白だった。
ちなみに劇中一番酷い状態になったのは先任伍長のみだったが…
けしてグロ映像を出せというわけではない。下手すると本当にトラウマになる。
ただ、綺麗事過ぎる画が気になる。そういった避けられない事実もまったく意識もさせずに"戦争は悲惨なものなんですよ"と訴えたところで、戦争の本当の恐ろしさは若い人たちに伝わるのだろうか。
割と近年に近い戦争映画『連合艦隊』『男たちの大和』『永遠の0』などでもそういった避けられない悲惨さもある程度逃げずに伝えてきた。だからそれぞれ公開時に一部から『戦争賛美』のレッテルを貼られていても反戦映画としてもきちんと機能しているのだ。
④『雪風』が何であったのかを伝える覚悟
この映画のエンディングは衝撃的だ。たぶん観る人を選ぶかな?
私は夏エヴァを思い出した😁
戦後1946年、復員船となった雪風がその後どうなったかは明確には語られず、公開まで編集する時間がなかったのか?というレベルの映像展開が流される。
これらにはっきりした説明や解説は無い。普通の人はわからんよ!?と、思うので思い出せる限り自分なりの解説(推定)です。
・寺澤艦長(竹野内豊)は復員船で最後の航海の最中、日本を目前にして緊張の糸が切れた瞬間艦長室で過労死
・日本は復興し1970年大阪万博が賑わう中、井上(奥平大兼)が雪風は復員船後中華民国に賠償艦として活躍した後、台風により沈没したことをモノローグの中で艦長に報告
・その10年後、日本の何処かで台風により夜間に水害が発生。海上自衛隊が災害派遣のためゴムボートで被災者の捜索を行っており、ワッチの婦人自衛官が水没した屋根上にいる男の子と猫を発見し救助。実はこの自衛官は寺澤艦長の娘(有村架純)
・雪風右舷上甲板に乗組員が集合して、劇場で観ている観客に向かって「おーい、日本!頼んだぞ〜!見てるぞ〜!」と手を振る。劇場内あ然
・雪風艦上の日常風景、相撲で勝った井上水雷員など
・りんごにかじりつく當真あみ(歯槽膿漏で出血しないか気になる)
・寺澤艦長の奥様(田中麗奈)は寝ている3歳の娘(後にさっきの有村架純化)の布団をかけ直す
・現代の海上自衛隊江田島第一術科学校。全員が校庭に集合し、国旗掲揚?していると思われるが、喇叭吹鳴は『君が代』ではなく『栄誉礼冠譜・祖国』。何故?
・その第一術科学校の一角に錨のモニュメントがある。実はこれ、中華民国から譲渡された駆逐艦『丹陽』、つまり『雪風』の主錨。ちなみに教育参考館には一緒に返還された舵輪が展示されているそうだ
(以下、エンドロール)
↑上映時間が長くなるから解説端折ったのか。Uruの歌声と一緒にシーンが駆け抜けた。
言わば雪風が帰還させた多くの命が戦後日本を復興させ、万博のような国を挙げた国際行事も催行できるような国になりましたよ!
寺澤艦長の後輩(娘含む)も良き伝統を引き継ぎ日本の国を護っています。なんとか、平和な国になりましたよ(雪風も見守ってるぞ!)
ということが言いたかったんですね。
観る側に感じ取ってねということなんですね。
◯まとめ
不満点というか、例えば闇夜の洋上で灯火管制もせず煌々と明かりを照らした艦が生き残れるわけない(タバコの火でさえ数キロ先からも見えるので敵潜水艦の良い的になる)し、無線封止を厳正にするべき作戦でいきなり僚艦と無線通話するとか、新任艦長の乗組を気が付かないマヌケな舷門番がいるとか、突っ込みどころが多すぎるところですが、気にするときりが無いのでここまで。
そんなに予算がなく『雪風』を描ききれないならば、せいぜい民放の終戦ドラマにすればよかったんじゃないかな?
とにかく、「この物語は史実に基づいたフィクションであり 人名、事象、時制などに架空の設定が含まれています」と、テロップ出したら時系列の改竄や歴史的事実の改変でもなんでも許されると思ってるのか?。
もう今後日本で、戦争を経験していないスタッフだけで戦記を題材とした実写映画を作るとこういう風な作品になってしまうのかもしれない。
そういえば、大喰らいのハチはどうなったんだろう…