東京2020パラリンピック大会選手村で、トヨタ提供の自動運転車が、選手と接触事故を起こしたと報道されている。
CarWatchによれば、事故の概要は以下である。
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1346893.html
1)接触はT字路において発生。eパレットが右に曲がっていく際に横断歩道手前で、右に曲がる途中で一旦停止。再スタートした際に視覚障害の選手との接触が発生したという(ただし、接触が発生したかどうかは警察当局が調査中)。
2)eパレットは右に曲がる際に、オペレーターがマニュアルモードで発進を指示。(ジョイスティックで操作する方式)
3)オペレーターは、ジョイスティックでT字路の右折を指示。
4)eパレットはT字路で右折をはじめ、横断歩道手前一旦停止。再度スタートしたときには自動運転モードに入っていた。
5)このT字路には、外に誘導員がおり、横断歩道に近づいてくる選手を認識していたものの、止めるまでには至らなかった。
6)この選手は視覚障害者であったため、eパレットを認識できなかったものと思われ、時速1km~2kmで右折していたeパレットと接触(接触については当局が調査中)した後倒れ、その後起き上がって歩いて立ち去った。
自動運転、オペレータ、歩行者が関与する事故。
(接触していない可能性もあるという書き方になっている)
原因はどこにあるのか、簡単に結論は出ないであろう。
自動運転が街を走り出してもついて回る問題であろう。
この事故を聞いて、思い出したのが、トヨタイムズの記事だった。
https://toyotatimes.jp/insidetoyota/162.html
この中に以下の記載がある。気になったのは、太字部分である。
失敗を恐れずにという意味なのであろうが。
結果論としては、よろしくない状況になってしまった。
以下トヨタイムズ
トヨタは、東京2020に出場するアスリートが安心して闘える安全な大会運営の実現に向け、モビリティの支援を行っている。そのひとつが選手村のe-Palette。
16台のe-Paletteが選手村構内を走り、滞在する選手たちの構内移動をサポートしている。
オペレーターは乗車するが基本的には自動運転。トヨタ社員を中心としたチームが4組3交代の24時間体制で、その運行管理にあたっている。
選手たちも入村し、いよいよ本格稼働が始まったe-Palette運行。7月23日、開会式が行われる日の昼過ぎに、豊田社長は、その運行管理チームの現場激励に向かった。
管理室に入った豊田社長はいつもの作業着姿、工場の現場視察と同じである。
まずはモニターに映るリアルタイムの状況を見ながら、担当者から説明を受ける。
その後、“自動運転を止めてマニュアル運転に切り替えるようなトラブル”は起きたのか?と質問。
「ありがたいことに、今のところ、それはない」と担当が答えていた。
そして、そこからの豊田社長と担当のやりとりが、とても興味深いものだった。
豊田:(トラブルは)その内あるよ。
担当:覚悟はしてます…。
豊田:1回や2回はあるからね、それは楽しみにしたほうがいいと思うよ。
担当:ドキドキしてます。
豊田:楽しみにしといた方がいいと思うんだよな…。
担当:ありがとうございます!!
「ありがとうございます!!」と頭を下げた担当の表情は、なんともホッとした感じで嬉しそうだった。その後もやりとりは続く…
豊田:お!来たかぁ〜!みたいなやつ…。
担当:豊田さんにそう言ってもらえると、とても嬉しいです。
豊田:絶対そうだって、こんなもの…。
担当:それが無いように日々の努力はしてます…。
豊田:違う違う違う…“無いように”ってさ…、“あったって”いいんだよ!
担当:ありがとうございます。
豊田:そのために準備してるんだから!ね!? 一応あれだよね?危険なことは1回もないんでしょ?
担当:今のところは…。
豊田:そこだけだな…、そこだけ! 緊急ストップだろうがなんだろうが、それはしょうがないって。
担当:ためらわずに(緊急ストップボタンを)押せという指示が出ています。
豊田:そうそう、とにかく事故だけはゼロにして、あとはいいって!あとは適当でいいよ! だって、そこまでジャストインタイムじゃないんだもん。ちょっと遅れるとかさ…それを急いで、怪我させたとか、それだけは避けたい!
この話が出て、担当者の表情は明らかに柔くなり、部屋全体にも、安心感が漂い出したように思える。
おそらく担当者たちは「絶対に失敗があっちゃいけない」という思いで、今まで準備を重ねてきていた。そして本番を迎えるや、社長が視察にやってくる…。
普通なら「世界中が注目する大舞台…、そこで我が社の技術を示すチャンス…。おまえら絶対に失敗するなよ!」と願うトップが見回りにやってくると担当者たちは身構えてしまう。
しかし、実際にやってきたトップは「トラブルを楽しみにしておけ!」「緊急ストップだって、しょうがない!」しまいには「適当でよい!」とまで言ってくる…。
もちろん大切なところは守れとは伝えていたが、この“拍子抜けの言葉”に、緊張していた担当者たちは間違いなく救われていたように思える。
おそらく、豊田社長も、担当者たちがさまざまなトラブルを想定した訓練を重ねていることを知っている。だからこそ、これから続く大変な日々に向けて、こんな声がけをしたのだろう。
その後、豊田社長は、その部屋にいる担当一人ひとりとコミュニケーションをとっていく…。そして、最後に、もう一度みんなに向けて話をした。
豊田社長
オリンピックは、いろいるあるけれども…、アスリートと、実務の現場というのは、大変なんですよ。
実務の現場を回しているところがね…、最近の報道では幹部のゴタゴタで、こっちの(実務の)頑張りに、関心がいかないけども…。
それでもいいからやってください…、それでもいいからやってください!
それが我々がやることだし、現場で誰かが実務を回さない限り、この安心安全のオリンピックはできないと思うので…。
人の輸送というのはね、単にA地点からB地点に人を移動することかもしれないけど、英語で“動く”と書いて“感動”という意味もある。
ぜひ、日本の東京オリンピック良かったなぁっていう感動を与えてくれると、きっと日本に対しての気持ちも、このゴタゴタを超えて良くなると思いますので、ぜひ頑張っていただきたいと思います。
この話が終わった時、横にいた担当者はインカムに入った小さなトラブルの対応に追われていた。それに気づいた豊田社長は、その担当者に話しかけた。
豊田:トラブル?
担当:はい、ちょっと…。
豊田:大したトラブルじゃなかったね。
そして、みんなに聞こえるように「早くでっかいトラブル来ないかな…」「じゃ、健康に気をつけて、頑張ってくださいね!」と言い、その部屋をあとにした。
その日の夜、開会式には出ないと宣言していた豊田社長の姿は、トヨタイムズのアスリート応援企画「トヨタイムズ放送部」のスタジオにあった。