北米でスバル・サンバーが走っているのは
以前書いた通りですが、今回はその中でも一風変わった兄弟をご紹介。
それがこちら。
Electra Van 600
1977年から1982年頃まで販売されました。三代目剛力サンバーベースの電気自動車です。
バッテリーは自動車用で使用されている鉛蓄電池を多段積みし、モーターは20HPを発生し最大55mphで走行可能、航続距離は最大100マイル(31mph走行時)と日本のサンバーと比べても(航続距離以外は)あまり遜色がありません。もちろん公道はおろかフリーウェイすら走行可能。販売価格は当時7000ドル弱。価格的には当時のガソリン車とさほど差がなかったらしくリーズナブルなようでした。
販売・生産元はテキサス州オースティンにあったベンチャー企業、Jet Industries , Inc。
Jet Industriesはもともと1960年代に電動ゴルフカートで実績のあったウィリアム.L.ベールズが起こした会社で、当時のオイルショック契機によるEV(電気自動車)回帰の流れの一環として政府からEV開発企業に対して多大な運転資金が用意されたことにより誕生した企業の一つでした。
Jet Industriesは当初電動ゴルフカート生産の経験から小型のアルミボディ製マイクロトラックを自社開発しようとしたそうですが断念し、既存の車体の改装でEVを生産する方針に転換したそうです。
そこで同社がベースとして選択したのがスバル・サンバー。
選定された経緯としてはフリーウェイの走行条件となる時速55マイル以上で走行できる剛性を持ち、適度な荷室を備え、ボディサイズが同社で生産実績のあったゴルフカートのものと近く、かつエンジンレイアウトがEV化に適していたと判断されたためであったと言われています。
当初は500ccモデルをベースとしていましたが、1978年で新規格ボディとなったため同時期にベースも移行しています。
しかしEVといえどもアメリカでは車が公道を走るうえでは、国家道路交通安全局(NHTSA) のFMVSS要件をクリアする必要があります。

日本の軽自動車規格であるサンバーはそのままのボディ形状ではFMVSS要件に適合しないため、バンパー等が要件に適合するよう改装されています。500ccボディ時代は台湾版サンバーの大型バンパーを使用していたそうで、新規格ボディ移行後は独自のダンパーを備えた5マイルバンパーへと移行しています。
それでもクラッシュテストを実施した際にはFMVSSのうち212、219(ガラス関連)、301(事故時の燃料漏れ関連)が低評価となりましたが、何とか市販にこぎつけたようです。
同社はその後ラインナップを広げ、最盛期にはダッジ・オムニ024、ダッジバン、ダッジラム、フォード・クーリエ等6車種を持つまでに至ります。
さらに末期にはElectra Vanはフェイスリフトなどもしてしまっています。
どこかで見たような顔つきへの改装ですが、この車の場合は1981年に行われていました。
しかし80年代も2-3年が過ぎるとオイルショックの影響は徐々に過去のものとなり、再びガソリン車隆盛の時代となりました。1回の充電で100マイル走行を謳っていたとはいえ当時は充電時間が膨大にかかりガソリン車に比べ使い勝手が著しく劣ったため、販売は鳴かず飛ばず。当時の米国不況も影響していたものとも思われます。
サンバーの販売は1982年にまで終了してしまい、その後1983年にはJet Industriesは生産ラインを閉じ、自動車製造業から撤退してしまいます。
Jet Industriesの製品は現存する個体数はあまり多くないそうですが、サンバーに関しては珍しさからか個体が多少残っているようです。あの異様なフェイスはUSDM好きでなくともインパクトが残りますね。
550cc規格の中でも特に小柄なあのボディでアメリカの広大な道路を走るにはなかなか勇気がいりそうですが、とても奇妙で楽しそうな光景に一度でもいいからお目にかかりたいものですね。
Posted at 2016/07/03 03:37:48 | |
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