先日、Svend Andersen(スヴェン・アンデルセン)が作ったワールドタイムウォッチについてブログを書きました。今日は、スイスの独立時計師協会(AHCI、通称アカデミー)のもう一人の創立メンバー、Vincent Calabrese(ヴィンセント・カラブレーゼ)について書いてみたいと思います。この人もほんとにスゴイし面白い。
アンデルセンはその名の示す通りデンマーク人です。童話のアンデルセンと一緒ですね。一方カラブレーゼは、イタリアのナポリ生まれ。スイスの機械式時計の技術を象徴する独立時計師の協会を作ったのが、二人とも「外国人」だというのもスイスの国際性を表しているようで面白いです。例えて言うなら、日本の伝統産業の職人協会の創立者がベトナム人とインド人の二人になる、って感じ?ちょっとちがうか?あ、でも最近は国技の相撲も上位は外国人ばかりだし、やっぱりそういう感じなのかな? え、ぜんぜん違うって??
話が脱線しました。カラブレーゼですごいと思うのは、世界でダントツのトゥールビヨン作成技術の持ち主で、18金やプラチナを素材とした時計ムーブメントを手作りできる唯一の職人だと言われているのですが、いわゆる時計技術者の学校に通ったことはなく、すべての技術を働きながら独学で身につけた、という点です。学校教育による「縛り」を受けていないためか、彼の創作する機構は常識にとらわれることなく、全て非常に独創的なものとなっています。
イタリア人らしく彼の時計はとても機知に富み、イタズラ心を感じさせるものが多いのも特徴で、私が好きな理由もこの辺にあります。大変な職人気質で人に製作を任せることができない性格で、すべての時計を自分一人で手作りし、娘さんが広報や経理を手伝っていたそうです。ところが、その娘さんが体調を崩すか何かして工房が回らなくなり、彼は一旦は時計製作の現場から退いて、NHCという会社に対する企画やアイデア提供を行っていました。このNHC時代の時計はあまり評価が高くないように思います。(私が興味がないだけかも。今販売してるTime Webとかいう時計はカラブレーゼの名前を使ってるだけのようにしか思えないし、見るとゲンナリさせられます)
写真の時計は、彼がひとりで手作りをしていた時代の最後の作品の一つ、「サントラル」です。文字盤をご覧頂ければ分かる通り、通常の時計とは表示方法が全く違っています。この状態で、「3時57分過ぎ」を表しているのですが、文字盤の真ん中にある表示窓の数字が時刻を表します(いわゆるジャンピングアワー表示で、1時間ごとに表示窓の数字が瞬間的に切り替わります)。その周りで1時間に1回転する円盤上の白い三角が分を表します。つまり、この回転する円盤の回転軸に、時刻の表示穴が開いていて、その下にジャンピングアワー機構があるわけで、この円盤の支持と駆動がどういう仕組みになっているのか、とても不思議です。ま、天才のやることだから「なるほど、そういう手があったか」という簡潔な仕組みで実現してるはず。一度見てみたいものです。 他にも、「オーラス」、「ヴィンセント」、「バラディン」などのユニークな機構の時計を出しています。ベースムーブは極めてポピュラーなETAの28系、優秀ではありますがなんの変哲もない自動巻で、そこにユニークな機構を加えてそれなりにエレガントに纏めているのは流石です。
2008年にブランパンが彼の会社を買い、カラブレーゼを研究開発部門の要職に就けました。その2008年に「フライングカルーセル」を発表しているのですから、かなり前からカラブレーゼはブランパンと一緒に仕事をしていたはずです。以前ブランパンが出したトゥールビヨンもカラブレーゼの手によるもので、当時は社外の人間だったので名前が出せなかっただけという話もあります。
こんな天才が手作りした斬新な機構の絶版時計ですが、意外とリーズナブルな値段で購入できました。ブランドや見た目だけで中身は凡庸な時計に比べると、全くの自己満足ではありますがvalue for moneyの高い買い物だったと思ってます。(ま、あくまで自己満足なんで、見る人が見ればリセールバリューは低いし、とんがった職人が作った変わった時計を物好きが買ってるだけだと思います。でも、「これでいいのだ!」)
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時計 | 日記
Posted at
2009/09/05 00:43:53