
私の好きな自動車ジャーナリスト、
岡崎五朗さんのブログでトヨタの豊田社長によるプリウスをはじめとする最近の問題に対する記者会見についてのエントリーがありました。
私もゴローさんの意見に同意です。
で、今回の一連の流れを見ていて思い出したのが、1980年代にアメリカを震撼させた「タイレノール事件」とそれに対するジョンソン&ジョンソン(J&J)社の対応。これは、アメリカでのマーケティングの教科書やケーススタディで必ず取り上げられる有名な話です。
1982年9月、アメリカのシカゴで7人の市民が青酸化合物による中毒で死亡し、その直前にJ&Jの鎮痛剤「タイレノール」を服用していた、と警察が発表しました。(実際にはタイレノールはJ&Jの子会社マクニール社製でした)
これを受けて、J&Jは直後に役員会を開き、タイレノールが原因かどうかまだ特定できていない段階で市民に対して「タイレノールを一切服用しないでください」という大規模な告知キャンペーンに乗り出します。合わせて専用のフリーダイヤルを設置し、10万件以上の消費者の問い合わせに対応。さらに、毒物混入可能性のある製品の店頭からの回収を発表し、実施しました。
当時タイレノールは鎮痛剤市場で35%シェアを誇っていましたが、主力のカプセル剤が店頭から姿を消し、もちろんこのブランドをわざわざ買う消費者もいなくなり、シェアは8%に激減したそうです。(8%残っただけでもすごいですが)
J&Jはこの間、1億ドル分以上もあった小売店頭商品の回収、消費者が既に購入済みの製品を安全な製品に取り替える取り組み、そしてなにより積極的な情報開示と告知キャンペーンを展開し、全米の世帯の85%が2.5回以上はこの告知TVコマーシャルを見た計算になるレベルでの投入を行いました。
やがて、毒物混入があった製品は複数の工場で別々に作られていたこと、そして混入商品がシカゴエリアでしか見つからなかったことなどから、製造段階ではなく小売店頭で第三者によって青酸カリが混入されたことが明らかになります。
事件の2ヵ月後には、こういったコミュニケーションの努力などの甲斐あってタイレノールの売り上げは事件前の80%までに回復。6ヵ月後には、外箱の密封化、ボトルキャップの固定、ボトル口のフィルム固着などの新パッケージとして、第三者が開封したらすぐに分かるような工夫をこらしたタイレノールの新製品を発売し、短い期間で鎮痛剤シェアNo.1の座を回復するに至った、とのこと。
この件でのJ&J社の対応は、極めて優れたものとして賞賛を受けました。今回のトヨタとの違い、あるいは学びは何があるでしょうか?僕の勝手な感想ですが、こんなところでしょうか?
1.なにはともあれ、事態への対処方法を消費者に大至急、具体的に伝える
*「タイレノールを飲むな」とまず明言したJ&Jに対して、「ごめんなさい、信頼してください」しか言わないトヨタ
*「プリウスに乗っている方、まずはこういう風にして対処してください、ご不明な点、不安のある方はこちらの問い合わせダイヤルに電話してください」という告知を、記者会見の場でも行うべきでは?
2.自分に責任があるかどうか、何が問題なのかが分かる前であっても、消費者を守るために必要な対策はコストをかけてでもスピーディに行う
*全商品の回収を決めて迅速に行ったJ&J、「調査中です」と言っているトヨタ
*別に、すぐにリコール/回収すれば良いと言うことではなく、まずは「こういう対策を至急打ちます」ということを現時点で可能な限り具体的に伝えるべき
3.問題を再発させないための対策を打ち、消費者に見える形で伝える
*J&Jはパッケージの刷新という分かりやすい手段で示すことができた(高コストにはなったが)
*クルマでも、説明の工夫で分かりやすくすることはできるはずだが、トヨタはあいまいにせずしっかり打ち出せるか、これからの課題
トヨタのような大会社、しかも比較的保守的な人が多そうで経営陣にも頭の固い人が居そうな会社だと、たとえ創業者一族の豊田社長が「こうしたい」と思っていても、社内の反対論があるとそれを押し切るのが難しいんだろうな、と勝手に同情してます。
もちろん、タイレノールでは7人もの犠牲者が出ていて、事態の深刻度ははるかに高かったのは間違いありません。また、医薬品という比較的シンプルな製品であり、問題の原因が店頭での第三者による故意の毒物混入と言うことも比較的早期に分かり、対処方法も具体化しやすかったのだとは思います。
ただ、危機的状況のときこそリーダーの真の価値が見えてくるのも事実。ぜひ豊田さんの力を発揮して、「あの危機があったからトヨタはさらに強くなった」とあとで言われるような会社にする好機と捉えて思いっきり推進してみていただきたい、と外野として勝手に思ってます。
これからもトヨタ車は多分買いませんが(ごめんなさい)、会社としてはおおいに応援してま~す!!
(あ、でもホントーにワクワクする車出してくれるなら、買っちゃうと思います。
実質価値だけじゃなくて、精神的価値もしっかり作り上げてくださいね。)
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Posted at
2010/02/06 10:17:43