それは、何年か前のある秋の日のこと。
その食堂は、手作りパン屋さんの跡にいつの間にかありました。
大きなガラスの窓。白いドア。中の雰囲気はすっきりと簡素なのに暖かみがあっ て、とても心地よさそうでした。
その食堂は、僕がその頃住んでいたところから、大きな通りに出る小道沿いに在っ て、毎日その前を僕は通ってました。
夜、部屋に帰る時には奥にあるキッチンで、とても素直そうな、女の子と言ってもいい年齢の人が料理を作っているのが見えました。
飾り気がない、それでいて不思議に惹かれるその食堂に、ある日の昼下がり僕は入ってみました。
昼ご飯のメニューは、オムライスとその日の日替わりメニュー、あとはたまにカレーがあったりの数種類。とても シンプルですが、もちろんすべて手作りの料理。
僕は日替わりのハンバーグを注文しました。
30分後、夢中になってハンバーグランチを食べ終わった僕は、食後のコーヒーを飲んでまた驚くことになりました。
こんなに美味しいコーヒーは、初めてです。
一日にコーヒーを5~6飲杯むことも有るコーヒー好きの僕も、こんなおいしさは味わったことがありません。
それから僕は、毎日のようにその食堂に通うようになりました。
時には、仕事を抜け出して昼ご飯を食べに来て、そして夜プールからの帰りにまた夕ご飯を食べることも。
その頃、ガラにもなく心に傷を抱えていた僕は、その食堂に通いつめることでいつの間にか癒されていました。
店を一人で切り盛りする女の子は、一切無駄な話をせず、おいしい料理とコー ヒーを、とても良い雰囲気の中でいつも出してくれていました。
店には、僕がよく知らない心地良い曲がいつも流れていました。
その食堂で、僕はとてもユニークで楽しい人たちと出会いました。
やがてある日、その子は結婚し、しばらくしてその食堂も閉じられることになりましたが、それ迄の日々、僕はとても幸せでした。
その食堂の名前は、"奇跡"という言葉。
僕にとっては、傷き乾き切っていた心を少しずつ、ゆっくりと元気にしてくれた、本当にミラクルのような場所と時間でした。
あれは本当にあったことだったのだろうか?それとも、僕の夢の中の出来事だったのか?
でも、今も思い出す。あのハンバーグと、あのコーヒーの味。もう戻れない、あの空間。あの時間を。
Posted at 2010/06/01 20:03:12 | |
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