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超七郎のブログ一覧

2015年11月13日 イイね!

RGQって、私のことなんですか? ~7.美奈子(4.1)~

「崇夫クンには、感謝しないといけませんね……」
 私は今一度心の中で軽くくずおれながら、何とか笑顔を作って言った。もう先に着いて私の到着を今か今かと待っていた様子の崇夫クンの表情が、きょとんとした感じで固まる。
「なんで、ですか?」
「だって、十九にしてビ……」
 私はそれ以上、言葉を続けることができなかった。自分で自分に止めを刺す行動に私の無意識が気付き、あわててセーフティを働かせたみたいだった。
「ジュークニシテビ?」
 崇夫クンがいぶかしげに繰り返す。
「いえ、なんでもないです」
 実際にくずおれそうになりながら、私は苦労して言葉を紡ぎ出した。
「先輩、大丈夫ですか?」
 崇夫クンは心配そうに私の顔を覗き込んで言った。
 大丈夫のような、大丈夫でないような。
 いやいや、私は大丈夫。私は、ここへと至る道すがら、心に誓ったことを思い出した。
 金輪際、ビールはやめる。
「美奈子先輩、もし具合が悪かったなら、ほんと、申し訳なかったっす。なんなら今日はこのまま帰りましょう。また今度にでも、お願いしますから」
 また今度ですって? 崇夫クンは何を言うのだろう。
 私は、彼の半端な優しさに、ちょっとむっときてしまった。ここまで強引に引っ張り出しておいて、今日は帰ろうなどと、振り回すのもたいがいにして欲しい。
 そこまで考えて、私はむしろ、彼の半端な強引さが頭にきたのだと気づいた。
 強引なのはいい。許してあげられる。でも、それを途中で放り出すのは、例え相手を思いやってのことであっても、許してあげる気にはなれない。覚悟のない強引さは、単なるわがままのように思えてしまうから。
「いえいえ、私は大丈夫です。そんなことより、さっそく始めましょうか、例のヤツを!」
 いやそんなことって……、いや例のヤツって……、などとあっけにとられている崇夫クンをさらりと無視しつつ、私ははりきってヘルメットを被り直した。
 いまや私の胸の内には、何か熱いものがたぎっていた。腰の使い捨てカイロが熱いのではない。ほんのわずか口に含んだビールの泡で、酔っ払っているのでもない。これは、心の内にメラメラと、炎が立ちのぼっているのだ。そうだ、私は、この炎で、いろいろと、とくにウエストまわりを重点的に、燃やしてしまうのだ。
 私はすっかりやる気になっていた。
「崇夫クン、覚悟はいいですか……」
 おびえたような声を喉の奥に貼りつかせた崇夫クンを後ろに乗せ、私はガンマを発進させた。
Posted at 2015/11/13 07:00:10 | コメント(1) | トラックバック(0) | 創作物 | 趣味
2015年10月28日 イイね!

RGQって、私のことなんですか? ~7.美奈子(4-1)~

 11月の落日はつるべ落とし。崇夫クンとの電話を切ったときには、すでに太陽はその姿を隠していた。
 私はネットの天気予報のページを開き、箱根近辺の気温をチェックした。10℃前後。その数字を見て、ぶるっと身震いする。
 いや、身震いしたのは気のせいばかりともいえなかった。日が沈んだら、急に気温が下がってきたようだ。昼間は汗ばむくらいだったのに。バスローブの代わりにとりあえずひっかぶったTシャツを脱ぎ捨てて、もう一度お風呂に入ってあったまって、改めて一杯飲って、布団にもぐりこんで寝てしまいたい衝動に駆られる。
『じゃ、今から行きますから』
 崇夫クンの嬉しそうな声。受話器の向こうでは、きっとガッツポーズさえ決めていたかもしれない。
「もう。しょうがないですね」
 私は言いながら立ち上がると、のろのろと身支度を始めた。

 気温が10℃を下回るようになると、パンチメッシュ加工された革つなぎではもう完全に寒い。一つ一つの穴から入り込んでくる風が、あっという間に体温を奪ってゆく。
 私はウィンドストッパーのインナーを着て、ちょっと考えてからその腰に使い捨てカイロを貼り、それから一張羅の革つなぎに手足を通した。湯冷めして風邪を引いたりしたら、明日の学校に差し支える。
「あら?」
 気合を入れるつもりで一気にジッパーを引き上げようとして、思わず声が出た。愕然として見下ろす。不吉な単語が脳裏に浮かぶ。次いでそれが不吉な一文となって脳内に木霊した。
 ジュウクニシテビールバラ……。
 まさか。グラビア雑誌から保健体育の教科書まで、世に出回る女性の体型に関わる指標は数々あれど、そのうちのどれに照らしても、私の胴囲は標準を逸脱するものではなかったはず。現に、直近で体重計に乗った時だって、怪しい数値は出てこなかった。
 あれ、でも最後に乗ったのって、いつだったかな。
 はたと考え込みそうになる。
「……これはインナーを着た上にカイロを入れてるからかさばっているのであって」
 私は考えるのをやめ、誰にともなく弁解しながら、わっせわっせとジッパーを上げてしまった。
 なんだか妙な具合に顔が上気していた。
 こんなことなら、カイロ、いらなかったかも。
Posted at 2015/10/28 08:44:18 | コメント(0) | トラックバック(0) | 創作物 | 趣味
2015年10月17日 イイね!

RGQって、私のことなんですか? ~6.美奈子(3)~

「美奈子先輩」
 晩秋にしては陽射しの強かったある日の夕方、厚木市内のインテリアデザインの学校から帰宅して、身体にまとわりつく自分の汗と人いきれをシャワーで洗い流し、帰り道のコンビニで買ってきた惣菜をつまみに夕食代わりの晩酌をしようと缶ビールのプルトップをカシュッと鳴らしたまさにその時、その電話は掛かってきた。
「あら、崇夫クンじゃないですか。どうしたんですか」
 ワイヤレスの受話器を左肩に挟んで、グラスにビールを注ぎながら受け答えする。お風呂上りの最初の一口を飲む時が、私の至福の時間。はしたないとは分かっていても、崇夫クンの言葉を待つ間、それをおあずけにしておくことはできない。ほおが緩むのを自覚しながら、白い泡に口をつけ、グラスを傾け、突き出すようにした唇がその奥の琥珀色の液体に達するのを心待ちにする。
「先輩は、誠二がいいんですか」
 私は吹いた。
「先輩は、誠二の奴に勝ってほしいって、そう思ってるんですか」
「な、なんでそんなこと急に」
 私の至福の一口目は、すっかりバスローブに飲まれてしまった。
「ああ……」
「先輩? 大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫のような、大丈夫でないような……」
「えっ、マジでどうしました? 俺の助けがいります? なんなら今から行きましょうか!」
「いえいえいえいえ、それは結構です。それは大丈夫です」
 ぐっしょりと濡れ、ほろ苦い香りを立ち上らせるバスローブを脱ぎかけながら、私は半ば必死で取り繕った。
「ほんとに大丈夫なんですか? あっ」
「はい?」
「まさか」
「え?」
 一瞬の沈黙。
「もしや今そこに、誠二の野郎がいるんじゃないんでしょうね……」
「ええっ?」
 私は心底驚いた。飲んでもいないのに、視界がぐるりと回転したかのように思えた。
 混乱した私は、思わず手にしたバスローブを掻き抱くようにして、辺りを見回した。
 誰もいない。この部屋には、私しかいない。いるはずもない。
「い、いやですねぇ。いるはずないじゃないですか。変なこと言わないでくださいよ」
 変な汗をかきながら、受話器を持ち直す。さすがにそういう状況は想像していなかった。いろいろな意味で、そういう状況は、まだ早いと思う。
「ほんとですか?」
「本当です」

「誠二から聞いたんですよ。先輩があいつをケツに乗せて走ったって。あいつすげぇ興奮してて、あの誠二が、大声出すんですよ。美奈子先輩すげぇよ、美奈子先輩すげぇよって……。そんなの、ずるいじゃないですか。フェアじゃないじゃないですか」
 崇夫クンが落ち込んだ声で抗議する。そんなの、ずるい、と言いたいのは私の方だったりする。
「あれは、誠二クンは、真面目に練習に出てくるから、そういうコには、報いるところがないと、いけないかなって思ってですね……」
 なぜかしどろもどろになる。なんで自分で言ってて言い訳がましく聞こえるのか、不思議に思う。
「それは、そうかも知れないですけど、俺は、朝は、時々用事ができて……」
 なぜか彼もしどろもどろになる。
「でも、俺だって本気です。負けてません」
 ぐらり。
 私も自分で、この弱さはちょっとどうなのかと思う。でも、しょうがない。思ったところで、変われるわけじゃない。
「も、もちろん、私だって誠二クンだけひいきしようと思ってるわけじゃ、ありませんよ」
「え、それじゃ」
 崇夫クンの声が、ぱっと華やいだ。
「機会があれば、崇夫クンにだって、してあげようとは思ってたんです」
「マジですか!?」
「そうですよ。ただ、ほら、崇夫クンは時々来ないから、たまたま……ね?」
 なだめるように、やさしく話す。
「よっし、じゃ、今から行きますから。いつものところで、いいですか?」
 ええっ、今から? これから?
「ちょ、ちょっと待ってください。私もう、シャワー浴びちゃったし、ビール開けちゃったし……」
「ええっ、先輩、もう飲んじゃったんですかぁ?」
 崇夫クンの声は、聞くだにがっかりしていた。
 そんなのは、ずるい。
 思わず心の中で抗議する。それをやられたら、私はめちゃくちゃに弱い。
「い、いえ、まだ、でしたけど……」
「じゃあ問題ないじゃないですか」
 崇夫クンはそう言い切る。もう、強引なんだから。
Posted at 2015/10/17 12:58:54 | コメント(0) | トラックバック(0) | 創作物 | 趣味
2015年10月16日 イイね!

RGQって、私のことなんですか? ~5.誠二(3)~

 一時限目終了のチャイムが鳴ると、アメリカ人英語教師のジョンが教室を出て行くのと入れ替わるようにして、宮田が駆け込んで来た。
「おい誠二っ、昨日のメール、あれなんだよ?」
 ほとんど俺の机にぶつかるようにしながら、勢い込んで聞いてきた。顔に宮田の唾がかかる。俺は眉根を寄せながら、制服の袖で自分の顔をぬぐった。
「……なにって、メールの通りだよ。昨日はコーナリングの感じが掴めたから・・」
「そっちじゃねえよ! お前、美奈子先輩のケツに乗ったって!?」
 クラスの連中のぎょっとした視線が、一斉に俺たちに注がれたのが分かった。数人の女子の、何かをひそひそと話す声が聞こえる。
 これは、たぶん絶対に誤解されてる。俺のやぶにらみで宮田も気がついて、おっと、なんて言いながら口元を押さえた。……おせぇよ。
「あ、ああ、確かに美奈子先輩の、Vガンマのケツに、乗ったけど。それがどうかしたかよ?」
 俺は、声を大きめに出しながら、言った。
 好奇の眼差しで見ていた奴らのうち、男子の一部は理解したらしく、ああ、そういうこと、みたいな得心顔で、元の話題に戻っていった。
 女子たちのひそひそ声は、まだ聞こえている。Vガンマなんて言わずに、バイクって言えば良かったな。
「それだよ、それ。どうかしたかもねぇもんだぜ」
 宮田は、俺の席の前の椅子に跨るようにして座りがなら言った。そこ、加藤の席だけど。
「抜け駆けってもんだろう?」
「朝練に来ないお前が勝手にチャンスを逃した。それだけのことだろ」
 俺はわざと意地悪を言ってやった。
「このやろ、分かってて言いやがるか。俺だって朝練行きてぇよ。夕練も、バイトであんま行けねぇしさ」

 俺が分かってる、宮田が朝練に来られない理由。そう、玲子ちゃんだ。
 宮田の妹、玲子ちゃんは、中学生で、実はかなり可愛い。宮田は、学校でもそれなりに人気はあるらしいぜ、なんて言ってるが、たぶんそれなりなんかじゃなくて、相当モテるはずだ。だが残念なことに、彼女は何と言うか、お兄ちゃんべったり、なんだ。ブラコンって言うのかな。
 去年、宮田と俺が同じクラスだった時の文化祭準備で、クラスの男女数人で宮田の家へ行ったことがあった。玲子ちゃん、お菓子や飲み物をちょくちょく持ってきてくれて、最初はいい娘だなー、と思ってたんだけど、ちょっとその頻度が半端じゃなかった。
 そのうち宮田が、玲子あんま邪魔すんなよ?なんてぽろっと言っちゃった。そしたら、涙をいっぱいに溜めた目で、クラスの女子の一人をキッとにらみつけてから、ぷいっと出て行って、それきり戻ってこなかった。
 俺には起こったことの意味がまったく分からなかったんだけど、あとでクラスメイトから聞いた話では、何でもにらまれた女子ってのが宮田の事を好きだったらしいんだけど、その一件で心が折れて、見事撃墜と相成ったんだそうだ。

 宮田は事の真相までは知らないはずだ。だけど、最近玲子がうるさい、くらいの認識はあるみたいで、よくこぼしている。兄妹だけあって宮田もツラは結構イケてるんだけど、それだけにその辺のニブさは俺から見るとちょっとザワザワするレベルだ。いずれ刺したの刺されたのって話にならなきゃいいと思ってる。
「最近玲子のやつ、俺が朝メット持って家出ようとすると、どこ行くの、なんて張ってるんだよ。ミナコさんてだれ、とか聞いてくるしよ。たまんねーよ」
 宮田はさらっと言いやがったけど、俺はちょっと背すじが冷える思いがした。玲子ちゃん、君こそどこへ行くんだ……。
 ああだこうだこぼしながら、それでも宮田は玲子ちゃんの事を大切にしてるんだ。そんな彼女を振り切ってまでは、宮田は朝練には来られない。

「まあそんな話はいいとしてだ。どうだったんだよ先輩のケツは?」
「そりゃおまえ……」
 俺は、目の前ですぱっすぱっと左右に移動する美奈子先輩の身体を思い浮かべて、思わず言葉を飲み込んでしまった。
「って、そっちのケツじゃねぇだろ」
 宮田が、軽く頭を小突くようにして突っ込みを入れてくる。
「このコッソリヘンタイ、略してコソヘン君が」
「……ちげーし」
 最近宮田は、よく変な略語を作って使う。もちろん流行ったりしないから定着もしない。というか、当の宮田自身が、同じ略語を二度は使わない。使い捨て、というよりは、その場の即興を楽しんでるだけなのか。俺としては別段面白くもないから、特に反応してやらないんだが、宮田は気にもせずに変な略語を生み出し続けている。
「まあ、実際のとこ、すごいよ」
 俺は優越感を感じながら、ちょっともったいぶるようにして言った。
「なんて言うかさ、俺らとの違いにびっくりだったよ。まずブレーキかけ始めるポイントが全然違った。すげぇ手前からさ、こう、キュウウゥゥンって感じに速度落としてって。んでまたアクセル開けるポイントも全然早くて。そう、全部の動作が俺らより早いってのかな。あ、スピードが速いってんじゃなくて、タイミングが早いってことだけど」
 言ってる途中から俺も興奮がよみがえってきて、俺なりに懸命に説明しようと熱を込めたんだが、あの感じを言葉で説明するのはすごく難しかった。
「なんだよそりゃ。お前の言ってることは全然分かんねぇよ。ちきしょ、やっぱらち明かねぇわ。○×*△$#……」
 予鈴が鳴って、宮田は何やら呟きながら、自分の教室へ戻って行った。
Posted at 2015/10/16 08:19:07 | コメント(2) | トラックバック(0) | 日記
2015年10月02日 イイね!

RGQって、私のことなんですか? ~4.誠二(2.5)~

 マジか!?
 俺は別の意味で、同じ言葉を胸中に繰り返していた。
 タンデムで峠を攻めるなんて、そんなに簡単なはずはない。リアシートに六十キログラムもの荷物が載っているのだ。車体姿勢は思いっきり後ろ下がりになっていて、バイクの挙動は大きく変わっているはずだ。それなのに、美奈子先輩は、まるで俺なんか乗っていないかのようにVガンマを扱っているように見えた。
 俺は、先輩の身体の動きをなるべく邪魔しないように、タンデムシートの心持ち後ろ寄りに尻を乗せ、肘を張り気味にタンクの上に両の手を置き、両膝は開いてブーツの踝をタンデムステップのホルダーに引っ掛けるようにしてホールドした。白状すれば、せっかくだから密着したいという気持ちは消しがたくあったし、はっきり言ってかなりつらい体勢だったが、先輩のハングオフや切り返しの体重移動を見たいという気持ちも強かった。もっとも、そんなものがなくても、俺のことだから、恐れ多くて実際にはとても密着なんてできないのだろうが。

 いつものように軽くフロントを浮かせながら、美奈子先輩のVガンマは小涌園前を発進した。そして、躊躇することなくアクセルを開けて、ぐんぐんと速度を乗せていく。ある意味、それは見慣れた風景だった。だが、視点を変えて見たそれは、まったく違うもののように見えた。
 俺は、頭の中が混乱するほどの衝撃を受けていた。俺や宮田の走りと、先輩の走りは、全く違うものだった。

 俺らが、それぞれのコーナーの間の短いストレート部分で、次のインを狙えるラインを争ってるポイントで、先輩は既にブレーキングを始めていた。一つ目の衝撃。こんなに手前からブレーキ掛けてるのか!?
 ラインはかなりアウト側寄りだ。これが二つ目の衝撃。俺らは、どちらかと言えば車線のミドルからインを狙って極力最短距離を狙うようなラインを通っていた。全体を通して、先輩と俺らでは、俺らの方が走行距離自体は短くなるようなラインを通っている。それなのに先輩の方が圧倒的に速いということは、俺らは何かを根本的に間違っていたようだ。
 コーナーへの進入では、先輩は5-4-3、必要に応じて2、とシフトダウンをし、すぱっと体重移動をする。連続したコーナーでは、俺の開いたひざの間を、先輩の身体が左右にすぱっすぱっとリズミカルに移動した。全ての操作がていねいかつ大胆で、なめらかに流れるようにつながっていく。そのため、実はそんなに速く走ってないんじゃないか、という錯覚さえ、起こしてしてしまいそうだった。

 そして一番の衝撃。それは、コーナーからの立ち上がりだった、コーナー中間点とも言える、ようやく出口が見えてきたような地点から、最初からほとんどフルスロットルのような勢いで加速していくのだ。俺らなら、そこはスピードコントロールに懸命で、アクセル開ければスリップダウン、良くてもアウト側へ膨らんで失速、という場面だ。

『どんなにがんばって減速を遅らせても、タイム的には高が知れてます。それよりも、無理したシワ寄せがコーナー出口にきて、アクセルを開けるタイミングが遅れる方が、よっぽどタイムには響くんですよ』

 頭の中で美奈子先輩の言葉がリフレインし、それが俺の胸にずどんと落ちてきた。
 これか! こういうことだったのか!

 小沸園前に戻って、Vガンマのリアシートから降りる。
「どうでしたか? 少しは参考になりましたか?」
 ヘルメットを脱いで、ぷはぁ、ばさばさ、とやってから、美奈子先輩は俺に聞いた。それから先輩は、後ろでまとめていた髪を解いた。これは、少し長い休憩をするつもりのいつもの仕草で、俺や宮田あたりにとっては、嬉々として先輩との会話を楽しみ始める合図でもあった。
 だが、今の俺は、とても先輩と話し込んでいる場合ではなかった。
「すごいですよ。なんて言うか、先輩すごいですよ」
 すごい以外の言葉が出てこない。俺は自分がバカになったのかと思った。
「俺、なんとなく分かったような気がします。だから、もう少し走ってから帰ります」
 俺は、居ても立ってもいられなくなって、ヘルメットも脱がずに、そのまま自分のNSRに跨った。
「え? あ、そうなんですか?」
「はい。先輩、お疲れ様でした。帰りもお気をつけて」
 ぽかーんとしている美奈子先輩を後ろに残して、俺はNSRを発進させた。
 しっぽが見えたような気がしたんだ。俺は、早くそれを自分のものにしたくてウズウズしていた。俺の身体のあちこちに、まだ先輩の感触が残っている。それを自分のものにしたい。俺は突き動かされるようにNSRを走らせた。

Posted at 2015/10/02 20:14:20 | コメント(1) | トラックバック(0) | 創作物 | 趣味

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「[整備] #SR400 トップブリッジ及びステム交換 https://minkara.carview.co.jp/userid/579192/car/3129258/6502682/note.aspx
何シテル?   08/14 09:28
Super7を手放した今、超七郎というHNを名乗るのは気がひけないでもないのですが。現在の愛車はMAZDA AXELA XDです。
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ディーゼルX6MTの乗用車。最高です。 だけどシートのバックサポートの形状は、ほとんど唯 ...
ヤマハ SR400 ヤマハ SR400
みん友が側車外した単車を譲ってくれることになり、現在コツコツと整備中。
ヤマハ YB-1 YB-1 Four (ヤマハ YB-1)
10年ほど放置していたものを整備し復活させた。
ホンダ ライブディオ Live Dio S (ホンダ ライブディオ)
数年前、みん友のつてで譲っていただいたものを修理、整備して乗れるようにした。

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