2011年04月02日
色と塗装 2
塗装表面のキズというものは、塗膜が変形、もしくは欠けてしまっている状態で、そのうちポコンと戻るようなことはありません。まあ、鉄板というやつは熱によって伸び縮みをしますから、その程度の柔軟性は塗膜にも残している筈ですが、基本的には塗装表面のキズって奴はボコッと削れてしまっていたり折れたりしてしまっています。
という事は。
耐スリキズ性を高めた塗料というのは、基本的に硬いものです。硬いので傷が付かず、柔らかいから傷が付いてしまう。
もっとも私が目にした時期の記事では、日本車の塗装は「硬いけど、ほんのチョット粘りが残るような調整をしている」傾向にある、という文章は目にしました。外車は「とにかく硬く」という傾向にある、という話もでていましたね。
今がどういう傾向にあるのか、まさかショールームで鉛筆硬さ試験を実施する訳にも行きませんから残念ながら知りません。あ、ちなみに鉛筆硬さ試験に使用する鉛筆は「三菱Hi uni」だそうです。
初代セルシオの202という色は、とにかく「黒い黒」を実現する為に「とにかく細かい顔料」と「透明度の抜群にいいクリアー」を組み合わせた新開発の塗料だったそうです。顔料の粒子の細かさは光の反射を今まで以上に散らないようにする為でしょうし、透明度の高いクリアーは色を濁らせないことに繋がります。ただ、新開発であったが故に、クリアーの硬化硬度という面においてはまだまだ発展途上段階でもあったのでしょう。もしくは今までなら気にならなかった程度のキズですら、はっきりと判ってしまうほど黒い色が鮮明すぎたからか。
確か平成4年の晩夏に初代セルシオのマイナーチェンジがありましたが、「塗料を改良して傷付き防止性を向上させた」とかいう文言を見たような記憶があります。たしかグリルの桟の数を変更して、洗車後ボンネットを開けたときの水垂れが少なくなるようにした、なんていうのも書いてあったかな。
初代セルシオと言えば思い出すのが、納車準備時に気が付いたらしい、運転席鍵穴近くにあったスリキズです。まあ、所謂長期在庫車だったんですが、そんなことは対お客さんには関係の無い話です。いくらいつもより値引を上乗せした注文書を貰ってきていようが「傷があったのでごめんなさい。でも値引もいっぱいしてあるからいいでしょ?」という訳にはいきません。
担当セールス(当時課長)さんは必死になってコンパウンドで擦ってましたねえ。ただ、微妙に爪の引っかかる深さのキズでしたので、コンパウンドでは歯が立たないんですね。
で、やむなくそのセールス氏。セルシオを積載車に乗っけて何処へ出かけていきました。
でしばらくして帰ってきたんですが、見事に傷が消えているではありませんか。種明しをしてもらうとナルホド、と思ったんですが、じつは鈑金屋さんへ行っていたのだそうです。
通常私たちが手にする程度のコンパウンドは、せいぜいが水垢取り程度の研磨力しかありません。つまり表面のツヤ出し程度の能力しかないという事です。
ところが鈑金屋さんはブツ取りであったり、表面をきちんと均すことができなくては仕事の役に立ちませんから、きちんと研ぎ出しができる程度の研磨剤を取り揃えています。おそらく持ち込まれたセルシオも、ペーパーによる研ぎ出しから始め、そういうコンパウンドによって磨き上げられたのだろうなあ、と。
色には様々な色合いがあるわけですが、中学校の美術の時間にやったであろう、色の基礎の基礎のお話に「透明色」と「不透明色」というお話があったと思います。簡単に言っちゃうと「下地が透ける色」と「透けない色」です。
もちろんこれは「どの顔料を使うか」によっても差が出るわけですが、中にはハナから「この色はダメ。染まらない。」と鈑金屋さんに嫌がられる色があります。
黄色ですね。
あとは赤もそうです。
こうした色に限らず、色を乗せる時には先ず最初にグレーの下地塗装をしてしまい、先ず下地の色と材質を揃えてしまうことをします。こうして下地の材質による差を無くしてしまうわけです。クルマでは下地用の塗料の入ったプールにドボンと浸けてしまい、塗り残しの無い様に全てこの塗料で覆ってしまいます。「電着」なんてワザも使います。
で、このあと黄色や赤は一度白やピンクを乗せた後に改めて黄色や赤の本塗装に入ります。こうすることによって発色の良さや色の乗りの良さを作っているわけです。
特に赤という色は基本赤錆の色が多用される様ですが、あれって、塗り重ねてもドス黒くなっていくだけなんですね。だから鮮やかな赤にしたいときは1回ピンクを乗せて、それから赤を乗せる。
大変だったろうなあ、ということで印象深いのは4代目ソアラに特別色として設定されていた事のある「コスモシルバー」ですね。異様にキメの細かい光沢のある銀色です。多分あのオプションカラーだけで10~20万くらい費用をかけていたのでは?と秘かに思っています。
たしか「一度黒で仕上た後にものすごく薄いアルミフレークの層を定着させて、更にクリアー塗装を上塗りして........」なんて説明文が書いてあったかなあ。そんな記憶があります。実車は夜に一度見かけたことしかありませんが、アルミのインゴットのような質感でしたねえ。あの質感を塗装で出しているのですからすごいなあ、と。
こういうことを書いているとキリがないので、そろそろコーティングの話で締めにしたいと思います。
ここまでお読み頂いた方はある程度想像がついているかと思いますが、見栄えにおけるコーティングの良い所は、コーティング材そのものが云々という事よりは、その下準備行程の存在にあります。
メーカーは一生懸命流れ作業で車を作りますから、いちいち下地を整えてから塗っている余裕などありません。センチュリーの水研ぎ下地処理にかかける時間は1台40分程度だとか書いてありましたが、あれは1日に2台程度しか作らない車だからであって、あれを全ての車でやるとなれば一気に価格が跳ね上がるでしょう。
ですからおそらく、プレスで打ち抜いただけでもある程度キレイなプレス面となるような金型仕上もするでしょう。そういう加工性の良い、プレス加工後も表面仕上げがあまり要らないような材質も専用に作らせていると思います。で、そうした生産ラインをくぐり抜け、表面加工を施さずに、おそらく塗りっぱなしの状態で新車の塗装表面を実現しているのですから大したものだと思います。
でも、塗りっぱなしで作っているからこそ、じっくりと塗装表面を見ると、みかんの表面のようなブツブツの凹凸が一面に、うっすらと広がっているのが分かると思います。所謂ユズ肌ですね。
コーティング加工を施す場合、表面を均すという理由で、水洗い・鉄粉取りの後で一度コンパウンドによる表面処理を行います。ここでユズ肌がちょこっと均されます。
で、第一回目のコーティング液が塗布された後、一度磨きこみが行われます。ここでまた少し表面が均されて、更にその上にもう一回コーティング。で、完成。一般的にはこのくらいまででしょう。
だいたいこういう手順を踏むんですが、お判りのように、何度も表面の均し作業が入ります。つまり、コーティング層の良し悪しというよりはその前段階で、ある程度仕上りが決定されてしまう、という事もあったりなかったり。
では、コーティング材の踏ん張りどころとは?とくれば、よりきれいに見せるための硬化後の透明度とか、対スリキズ性のための硬度とか、塗装への密着度といったところかな。
コーティング加工の商品名は星の数ほどもあります。でも、そのコーティング材そのものを実際に生産・供給できるところは限られるでしょうし、更に元を辿って、その開発能力を有している所などほんの一握りでしょう。
という事はおそらく、材質という意味では、どこの加工・施工もガラス系ならガラス系というくくりの中では、それほどの差はないのだろうな、と思っています。もちろん専門業者からは「俺の所は違う」と猛反撃を食らうでしょうけども。
持ちが違うというのならば、それはメーカーが推奨する施工環境その他の条件が理想値に近いとか、施工回数であるとか、そういうところでしょう。往々にして高い車を所有する人ほど、施工料の高いコーティングをされる方が多く、同時に保管条件もいい事が多いような気はします。という事は何もしなくても状態が良くて当たり前というね。
でもそんなことよりも、基本はメーカーの塗装品質が良い、というのが全ての基本です。塗料メーカーも世界中でしのぎを削っており、よい塗料の開発に余念がありません。となれば、個人的には、それを凌駕する性能のコーティング材など存在しえない、とは思っています。
敵う訳ないというか、もしそんなものがあったら、即座にメーカーが採用していてもおかしくないしょ?製造ラインで流してしまえば、材料費そのものはそんなに高くつくものでもないだろうし。
やるだけ無駄とはいいませんが、それよりもぶつけないようにして、メーカーが施してきた塗装をなるべく損なわないようにする。現実的にはこれが一番でしょうね。
もっとも、それはそれとして何となくワックスは掛けてしまうのですが。
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Posted at
2011/04/02 15:47:19
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