2015年09月23日
2ちゃんねるのまとめサイトの中に「アフリカに売られた日本製軽トラックの末路」とかいうお題の記事を見かけました。お題では軽トラックと謳われていましたが掲載されていた写真は全て軽トラじゃなくってピックアップやその他の通常トラックばかりでした。まあ、一般人にはああいう形状の貨物車は全て軽トラックとして認識されているものなのかもしれません。
だが、しかし。トラックをなめてはいけません。
貨物車というと、そのイメージだけで乗用車よりも下に見られがちな風潮がなくもありませんが、トラックの本質は、よりよい仕事をこなす為の鉄火場というか真剣勝負のガチンコ車なのです。中身は機能性の塊なんですよね。
一見どれも同じよなフォルムのトラックたちも良く見ると下手な乗用車よりも実に様々なバリエーションがあり、多種多様な業界のユーザー様たちから寄せられた御希望(わがままとも言う)に存分に応えるため、実に機能美にあふれた世界がトラックには広がっているのです。そんな、実はあんまり知られていない(?)世界をちょっとご紹介してみましょう。
とはいってもあまりにもバリエーションが多い為、今回は普通貨物・小型貨物の所謂トラック形態の説明にとどめます事を御御了解下さい。
基本トラックは「はたらく車」ですから、どのような荷物をどのように「運びたい・載せたい」という事を基本形に盛り込んだ発展をしています。つまりメインステージに立つ主役は荷台という事です。
そんな訳で一番代表的な初期の作品は「高床(こうしょう)」と呼ばれるトラックでした
。
黎明期トラックの初期ユーザー様は高額商品を買えるだけの初期投資が出来る土木関係や大型機械を扱う工場様でした。となると、そのユーザー様の御要望を叶えるための荷台の開発が急務となります。
大量の荷物を積める為の頑強な骨格
荷室スペースを最大限に確保した広大な荷台
製品や荷の積み下ろしを邪魔しないフラットな床
この3条件を満たす為には、荷台下の骨格は極力まっすぐな方が強度も得られやすく、タイヤもなるべく加重制限に余裕のある、大きなタイヤの方が積載量を犠牲にしません。フラットな床の為には荷台にタイヤハウスが出っ張る事など論外ですから、その解決策として荷台を上に逃がした、車体・荷台の強度と荷物の量と積み易さを両立させたトラックが出来上がったわけです。これがいわゆる「高床」と呼ばれるトラックです。
大量の土砂や大型の機械はどうせ人力でしょぼしょぼと積み込むのではなく重機やフォークリフト等で行いますから、当然人の手が届く高さよりも機械の都合に合うかどうかが重要視されます。床がフラットならば荷物を載せたパレットも引きずり易いですしね。
また床の材質も木製(ウッドデッキ)の物と鉄製(スチールデッキ)というバリエーションがあります。
加えて、お客さんの御要望に応えて車が来てから更に平らな鉄板を重ね張りしたり(通常のスチールデッキは床の強度を出すのと水はけを考えて溝付きな為)、載せる製品が傷つかないように荷台への板張り加工をする事もあります。こういう事をする専門の業者さんも存在します。
また、重量級の荷物を積む車は乗り心地が極度に悪化することを考慮して、運転席スペース(キャビンと呼んだりします)全体がサスペンションで車体から浮いている構造をした「キャブサス(キャビン・サスペンション」なるシステムを装備したトラックもあります。
また、キャブサスまでは行かずとも運転席だけに別のサスぺンションシステムが組み込まれた「サスペンションシート」を装備したトラックも存在します。まあサスペンションシートだけならランクルにもオプション設定があった時代もありましたね。
高床があれば低床(ていしょう)もあります。今度は荷台の高さにも焦点が当てられた車です。重量物は積みたいけどタイヤの荷重制限を考えるとタイヤサイズは落とせない、という方向けの車です。
ただし今度は荷台の低さを優先した為、どうしてもタイヤハウスと呼ばれるリアタイヤを寸法を逃す為の荷室内への出っ張りをお客様に許容してもらう必要が出てしまいました。
このためパレットやみかん箱のような定型の箱モノを積みたいお客さんとは慎重に荷台寸法を検討する必要が出てきます。柔らかい物やタイヤハウスの位置が積荷に関係ないモノを積みたい方にはあんまり関係ないんですが。
低床タイプの荷台にタイヤハウスが存在してしまう原因は「前後とも同じタイヤを履いているから」です。もちろんタイヤには荷重制限がありますし、使用年数を延ばすためのタイヤローテーションが出来るメリットもあります。
じゃあ、定型の荷物は積みたいけど重量はそれほどでもない、でも荷台の広さは最大限確保したいという要望をかなえた車はどういう形になるか?と考え出されたのが「ジャストロー」というトラックになります。
前後のタイヤサイズを変えることによりフラットで低い荷台を実現したトラックです。それでもやはり荷物が最優先ですので、載せる荷物に応じた荷重制限をクリアーできる様にリアタイヤがダブルタイヤだったり、ものすごい幅広な扁平タイヤになっていたりするモデルもあります。
今度はここまでくると「そもそも前輪タイヤの大きいのは何故?」というか、前後共通のサイズのタイヤで荷重制限がクリアーできる程度の重量しか積まない方向け限定なら、前後のタイヤサイズを揃えちゃってもよくないですか?という発想から生まれたのが「フルジャストロー」という形態のトラックです。前タイヤが小さくてもいいのなら運転席の位置の下がりますから、運転手さんの乗り降りも楽チンになりますしね。
とまあ、こんな具合でトラックも用途別にいろいろな種類が存在するわけです。値段は結構高額なのに、従業員の手に渡った途端、単に業務用として乱雑に扱われる事も少なくないのが残念な所ではありますが、色々考えられて様々な進化を遂げているんですね。
普通・小型トラックともなるとそれなりにエンジンのボリュームも大きいので、だいたい運転席の後ろあたりにエンジンが搭載されている物が殆どですが、これが軽自動車のようなコンパクトな容積のエンジンのトラックとなると座席の下だけではなく荷台の一番前とか真ん中にある車とか、中には一番後ろに載せてあった車も昔はあったりと非常にバリエーションが豊富です。
更には車体の基本形が出来上がってきた後で架装と呼ばれる荷台への加工を行うトラックもあります。
骨組みを組んで幌シートを被せたり、幌のように風でバタつかず、重くならないようアルミの板で荷室を囲ったアルミバンにしてみたり、それに加えて保冷車や冷凍の設備を組み込む車もあります。その他にも荷物の積み下ろしを考慮して荷台を覆う屋根材が翼のように上方に跳ね上がって開くウイングバンと呼ばれる高価な架装車を見るとなんかクラクラ来ちゃいますね。その金額を想像してしまって。
また巨大な荷室容積を確保しようとすると、必然的に運転席の屋根の後ろには垂直に切り立った壁(荷室前面)が屹立する事になります。まるでランチア・インテグラーレのリアウイングの様にですね。このままで高速道路を走った日には常にエアブレーキを掛けているようなもんです。
という事で運転席の上に巨大なエアロパーツを載せているトラックも多いのですが、あれって巨大な一体成型モノなのでワリと値が張ります。昔お客さんから問い合わせを受けたことがありましたが、金額を伝えたたら一発で却下されましたねえ。ただ燃費と走行安定性はえらく違うみたいです。
でも。これら全ては「仕事の為に」という一途な思いが詰まった結果の賜物です。
新車のトラックを売ってきた身としては「もうちょっとトラックにも愛情を」と、つい思ってしまいます。あの商談をまとめるのって苦労するんですよねえ。乗用車なんかと比べると荷台の後架装の打ち合わせもあったりして、えらく大掛かりで細かい詰めの作業や架装業者への手配が必要な話になるので。
Posted at 2015/09/23 13:02:50 | |
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