ある未来のある日の、レーシングチームの採用テスト(4)

テクニカルディレクターの憂鬱な気分を尻目に、レーシングチームの採用テストは佳境に入る。


「ドライバーの運転するランエボ」ｖｓ「ゴーストカーのランエボ」


コースインしてゆく。


そのときになって、
テクニカルディレクターの憂鬱な気分は、不安へと変わっていった。



ロボットカーの時代が来た現在。
ロボットカーは、人間の運転能力を越えつつある。

しかし、そんなに「運転の上手いロボット」は如何にしてつくるのか？
それは、「運転が超絶的に上手い誰か」のやり方を、システムとして構築するほかない。



要するに、「昔ばなし」なのだ。

ランエボの車体は実際に存在するけれど、
運転コンピュータには、もうとっくの昔に死んだドライバーの運転技術がシステムとして入っていたとしてもおかしくない。


だが、「総帥」が、
そんなつまらない「昔話」に興味があるはずがなかった。


私にはわかった。
ドライバー候補者たちにはわからなくとも、私にはハッキリとわかった。

ハッキリとわかったし、
「ゴーストカーのランエボ」が第1コーナーに入った時点で、100％間違いない、と思った。





「それ」は、「総帥の生霊」だ。

そのランエボの「運転ロボット」は如何にしてつくられたのか？
それは、「総帥」のやり方を、システムとして構築したにほかならない。




「それ」は、「総帥の生霊」だ。


運転プログラムのベースになっている人物も、実際に生きて実在しているし、
三菱ランエボの車両に、
プログラムとなって乗っかって、
本人に代わって、何か悪さをすることがありえる。





総帥は、「運転が超絶的に上手い」のか?
否。
超絶的に「運転が下品」なのだ。

運転なんて、並だ。
ごく平均だ。


超絶的に、不愉快にさせる走り方が上手いのだ。



ファントムブラックパールの三菱ランエボ。

この走り方、総帥の人柄そのものではなかろうか?


総帥は、三井系の会社によくいるイケメンではない。

三井系の、イケメンの持つカッコよさ、まっすぐさ、凛々しさに欠けている。


どこまでも、三菱に、「因縁」ばかりある人間だ。

あの気色悪い走り方、
気味の悪いほどのこだわりよう、
・・・三菱だ。


いま、目の前にあるゴーストカー。
ファントムブラックパールのランエボ。


「こいつ」に打ち勝てる人間なんて・・・、

「本当にロクでもない、超絶的に汚い人間」か・・・、
あるいは、
「人と駆け引きすることを知らない、超絶的な純粋まっすぐ君」か・・・

そのどっちかしかありえない・・・。


テクニカルディレクターの憂鬱と不安を尻目に、テストは進行しいった。







「ある未来のある日の、レーシングチームの採用テスト(一応、終。)」