
ようやく、今語られている「環八R伝説」の主人公の呼び方が出てきました。
総帥。
この「総帥」と呼ばれる人物については、
特に、「一人称」が安定していないので、
極めてわかりにくい。
闘志が燃えたぎっているようなシーンでは「俺」と言っているし、
少し冷静になっているようなシーンでは「私」と言っている。
また、幼年期の一人称は「僕」であるようだし、なかなか気難しい人なのかもしれない。
しかし、「闘争心」と「江戸っ子意識」・・・、
しかも「妄想と偏見によって確立された、オリジナルな江戸っ子意識」は凄いものがあるようだ。
その程度はといえば、男としては、「理想形」。
大袈裟ではなく、リスペクトせずにはおれない、勇猛果敢な気を発した人なのである。
さて、
(以下は完全にフィクションであるため、実在する人物・団体とは一切の関係を有するものではありません)
「だから、私が、神様だって?」
「ええ。あなたが。
だから・・・、
我々は・・・、
んんっん。
たとい我、死の影の谷を歩むとも、禍いを怖れじ。汝、我と共にいませばなり。
みんな・・・、そういう気持ちなんですよ」
こんなことを言われて困惑しない人間はいない。
それが、社会に生きる、普通の人間であるのならば。
私は、一般社会に生きる人間から、飛び出そうとしているので、あまり困惑はしなかった。
コンビニの中には、この男と一緒に来ていた連中が数人いた。
まあ、神様が、とあるコンビニの前においでになっているというのに、店の中でのんびりと買い物しているのだから、少なくとも、全身全霊でそう思っているとは思えない。
でも、彼らにそれを確認してみるのは、少しだけ怖かった。
たぶん、彼らは皆、狂信的だから、全身全霊ではないにしても、脳髄のどこかでは、そう思っているんだろう。
店の中の人間と目が合う。
ガラス越しにこちらを見て、申し訳なさそうに首をすくめて挨拶してくる。
別に彼は、何も悪いことなんてしてないのに。
本来なら、こんな突飛な話が出てきた時点で、会話をお開きにするべきだろう。
そうだ、
私がまだ、半ば「宇宙人スタイル」のままだったから、こういう妙な言い回しをしたがるのだろう。
コーヒーを飲むために、バイザーは上げていたが、ヘルメット自体は被ったままだった。
一応、自分自身をそう納得させて、ヘルメットを取る。
グローブも外す。
缶コーヒーを持ち直したとき、その熱が手に伝わる。
でも、何か一番重要なことを思い出していない気がしていた。
だから、私にしては珍しく、あえてこの男に突っかかって、会話を続けることにした。
「その台詞ってさ、わが国の神話じゃなくて、他の国の、だよね?
それとさ、
少し仮定して言うけど、その台詞を言った人ってさ、我々の集団に例えて言うと、私の立場に当たる人が言ってたんじゃなかったっけ?
だから、その集団のリーダーが神格化されたカリスマだったとしたら、それより上に、絶対神がいらして、その絶対神が共にいるからっていう」
「・・・そうっすね」
「あと、進化の順番なんて、どうでもいいんじゃないかな。
我々の世界は、要は、結果としての技術だし。
技術には、お互いにそんなに違いはないんだから」
「それは、神話には、順序とプロセスが大事ってことですよ」
「神話と言うなら、車を中心に据えて言うと、そっちの方が時代とかステージとかにピッタリ合っていたんじゃない?
私が最初に乗ってたR34スカイラインは、峠にはキツキツだった。
環八以上の高速セクションにはいいんだけどね。」
「そうっすか?」
「ああ。私は峠とか、森の道とか、そういうのが好きなんだけどね」
「自分も、そうですけど」
「R34スカイラインはそういう場所での取り回しに不向きだったんだ。
たぶん、そっちが乗ってたコルトの方が、ピッタリだったはずだ」
「そうですかね?
そういうところでの一般に言われる最速マシンって、やっぱり、シビックとかシティとか、ああいうブイテック搭載型のFFが一番だと、ず~っと思ってたんですよ。
だから、自分は選ばれた乗り手ではないだろう・・・と」
「ああいった初期のブイテック系の車種を神聖視する人間は多いよね。私もそういう時期があったよ。
8000回転以上でぶち回すことが出来るから。
少ない排気量でも、200km/h以上まで伸びるんだ。
だから、神聖視された。
でも、全日本とかのラリーのタイムは、ああいう平成元年頃のFFより、コルトの方がずっと速かったと思うけど」
「それはそうなんっすよ。峠によく出ていた実際の車は、スイスポとかコルトターボが多かった」
「ストップアンドゴーが続く峠では、低回転加速重視型の方が、タイムがいいんだ」
「だから、180km/hリミッターにも当てられないコルトの方が良かったと?」
「峠にはね。180km/hリミッターに当たらないエンジンであることが、逆にいいんだ。峠には・・・ね。
そもそも、部品調達の問題とかもあっただろうし、そっちだって、ああいった世代の中古車は、もうタマ数が無かったり、車体の歪みが酷かったりして使用不能だったんでしょ?」
「そうなんですよ。現実的に言って」
「そう・・・、現実的に言って。
新しい世代の車の方が、手に入りやすいし、簡単に速くすることが出来る。
よほど重くなければ。
まあ、高高速域の伸びは、多少の重さもさほど問題にならない。
むしろスカイラインのようなロング・ホイールベースがいい」
「ああ、だから、高高速域にはスカイライン系がイイって、昔、よしのり先生が同じこと言ってた」
「よしのり先生か・・・。
懐かしいな。早咲きの天才と言われたR32GT―R使いだね。
平成元年くらいに、19歳くらいで、高速湾岸線を300km/hオーバーで走れる人だったんだから、凄いセンスの持ち主ってことだよね」
「ポルシェターボが四駆になる前・・・、
つまり高速湾岸線の帝王ってのが現れる少し前の人ですよね。
よしのり先生の活動期間がもう少し長ければ、よしのり先生の方が帝王と呼ばれていたかもしれない」
「まあ、よしのり先生と、高速湾岸線の帝王とは同じ世代の人だけれども・・・、
よしのり先生の方が少し若いのかな?」
「ええ、たしか」