2013年05月29日
伊藤正巳、木下毅『アメリカ法入門』[第4版] より抜粋。
以下、転載。
Ⅰアメリカ法研究の意味
1戦前(日本)のアメリカ法研究
2戦後(日本)のアメリカ法継受
・・・
「行政法」の分野に目を転じると、戦後、従来のヨーロッパ型(ドイツ型)の実体法的行政法体系の上に、新たにアメリカ型の行政手続的発想が採り入れられることとなった。当時、アメリカでは、第2段階の事後的「行政行為の司法審査」から第3段階のデュー・プロセスに基づく事前の「告知および聴聞を核とする行政手続」に移行しつつあり、1946年には連邦「行政手続法」(Administrative Procedure Act)が制定されたこともあって、わが国でも行政手続の問題を中心に戦後改革が展開していくことになる。司法型行政訴訟、行政聴聞制度、行政委員会制度、実質的証拠の法則、国家賠償法(公務員の不法行為について国および公共団体の賠償責任を定めた日本国憲法17条の規定に基づく)などは、アメリカ行政法の影響を受けた制度といえよう。
・・・
アメリカでは行政法の一部として扱われる「労働立法」に関しても、アメリカの連邦法(Wagner Act of 1935;Fair Labor Standards Act)の影響を受けて、制定された。
Ⅱ アメリカ法の法系的地位
1大陸法系と英米法系
世界には多数の実定法秩序=法体系(legal system=法システム)が併存しており、単一国家は一つの法体系の支配下にある地域=「法域」(jurisdiction)を構成するのが通例である。しかし、連邦制をとっているアメリカ合衆国のように一国内に複数の法域を(連邦、50の州プラスα)が存在している国もある。
大陸法系といい英米法系というのは、複数の法体系を共通性ないし類似性に着目して総称した法概念である。
かかる分類の基礎にあるのは、法系の観念であり、フランス法とか日本法といったある特定の法秩序ないし法体系と同一の次元にあるものではない。
この大陸法系と英米法系とは、世界の2大法系といわれてきた。
大陸法(continental law)とは、
イギリスから見た場合のヨーロッパ大陸諸国の法系を意味し、
近代化されたローマ法という含意からシヴィル・ロー(civil law)と呼ばれることも多い。
これに対し、
英米法(Anglo-American law)は、ゲルマン法に由来するイギリス法が当初イングランドを通じて単一であったことから、コモン・ロー(common law)と総称される。
では、
英米法系が大陸法系に対してもつ基本的な特徴は何か。
それは、
中世の封建法として成立したコモン・ローがローマ・カノン法の全面的継受を経験することなくゲルマン法を基調としてきた点、
および、
その第一次的法源が、大陸法系のように立法府たる議会の創造にかかる高度に体系化された制定法ではなく、司法府たる裁判所の裁判官の創造にかかる判例法であるという点に求められる。
その意味で、コモン・ローは司法的であることが特徴的であり、
コモン・ローの法律家は、ある法の体系を慣習的ないし伝統的なものとして考える傾向が強いといわれる。
これらの基本的特徴から、次のような具体的派生特色を指摘することができよう。
第一の特色は―――
第二の特色は―――
第三の特色は―――
第四の特色は―――
第五の特色は―――
第六の特色は―――
第七の特色は―――
第八の特色は、論理的総則的発想の欠如である。
「法の生命は、論理ではなく経験であった」というHolmes的なプラグマティズム的発想は、
大陸法系の
パンデクテン法学的発想と顕著な対象をなす。
パンデクテン式編別の著しい特徴の一つは、
民法を例にとれば、
民法典全体の総則編を設けるにとどまらず、物権、債権、親族および相続の各編の前にも「総則」という章を置いていることにある。
そして、さらに債権各則を契約、事務管理、不当利得および不法行為に分け、契約の部分をさらに契約総則と契約各則にわけて規定する。
このようなやり方は、数学の因数分解で共通項を前に出して括るという論理的操作を想起させる。
これに対し、
英米法系においては、そもそも最初に抽象的・論理的な概念によって組み立てられた「総則」というものをもってくるという発想そのものが存在していないといってよい。
「法律行為」(Rechtsgeschaft)のような上位概念は、その典型的事例の一つである。
経験に学ぶ愚者の眼からみれば、
英米法学者の眼からみれば、
それは「人間精神の真の征服か、それとも常軌の逸脱か」とやや皮肉った疑問が呈されることにもなる。
もっとも、最近のアメリカにおいては、RESTATEMENT、統一商事法典、模範刑法典(MODEL PENAL CODE)などに見られるように、
最初に定義的規定を設けたり、解釈原則の規定を置いたりする例が増しつつあることは注目されよう。
2 イギリス法とアメリカ法
3 アメリカ州法
・・・
まず、憲法に関しては、州ごとに州憲法があり、その内容も規定のしかたも州によって異なる。
州議会の構成(一院制か二院制か)および活動、
裁判官の選任方法(公選制か任命制か)および任期、
裁判所の種類、
名称、
および構成、訴訟手続などは、その例である。
租税制度も州によって異なる。
所得税を全く課していない州があることは別としても、
州所得税の税率は州ごとに異なりうるし、
ある州から他の州へ旅行するような場合に経験するような場合に、ショッピングの際に課される取引高税(sales tax)の税率も、州ごとに異なっている。
交通法規も州ごとにつくられ、
州によっては赤信号でも右折なら認めているところもある(←?! ???)。
刑事法に関しても、カナダのように連邦刑法典しか存在していないのとは異なり、
州ごとに刑法典があり、
その内容に関ついても、死刑を認めている州もあれば認めていない州もあり、
責任能力の扱いも州によって異なり、
殺人、強盗、強姦といった通常の自然犯の場合ですら、その量刑の幅は州ごとにことなりうる。
・・・
製造物責任に関して厳格責任(strict liability)を課す州がある一方、そうでない州もある。
交通事故に関しても、
強制保険の制度を設けている州もあれば、
任意保険に委せているにすぎない州もある、といった具合である。
・・・
会社法もその例外ではない。
取締役の権限を強化して会社企業の経営に大幅な自由を与えているデラウェア州法によって設立された株式会社は、全上場会社の約3分の1を占め、
株主や債権者の保護を目的とした規制法的傾向を有するニュー・ヨーク集事業会社法によって設立された株式会社の2倍にも達している。
異常の
以上の事例は、アメリカ型連邦制度に内在する制度的条件に起因するところが大きいといえよい。
このことから、アメリカ法の中で一般法の位置を占めているのは州法であることが理解されえよう。
Posted at 2013/06/23 22:36:46 | |
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