
敵を知ること。
それは敵の動きの全てを予測し尽くすことである。
突き詰めて言えば、一瞬でその人間の全てを把握し尽くすことを意味する。
もちろん、ファイターとしてはそういう境地を目指すわけだが、そこまで悟りを開くのには、まだもう少しかかりそうである。
だが、「奴」の進路は確実に予測出来ている。
井荻トンネル内の分岐を右に。
そのまま連続した練馬トンネルに入る。
ここまでは確定事項だ。
まだ自分は、
一瞬でその人間の全てを把握し尽くす境地にまでは達していない。
とはいえ、現状、ファイターとしての俺に必要となるのは、その人間の「弱点」である。
だが、まだ、それを読み見切るまでの境地にも至っていない。
自分の現状は、「奴」の「高速走行用機械としての弱点」を見切っているに過ぎない。
我々は、競泳選手とは違う。
「走るのは僕だ」
などと言う連中はこの業界にはいない。
走るのはマシンだ。
我々は、マシンにムチを当てる存在に他ならない。
だから、「剣士」「格闘家」「スポーツ選手」としては、
相手を読みきる能力が不十分だとしても、
「クルマという機械を用いた」、
「ファイターとしての走り屋」としてなら、
「奴」の機械的弱点を読めば、
その程度の読みで、
勝つ可能性の七割以上を手にすることが出来るのだ。
「奴」はここで加速力と最高速を見せつけるつもりでいるらしい。
もちろん、このコースで重要となるのは加速力と高高速走行力なのだが、
実のところ、練馬トンネルは完全な直線ではない。
まず、分岐路のところで大きく右に曲がっているし、その後も、ゆるやかにS字に曲がっている。
実は、このトンネルの最強の攻略法は、これらのカーブを如何にして高高速でコーナリングするかということであるのだ。
このコーナリングが、ストレートでの立ち上がりに大きな差となって、顕著にあらわれる。
しかも、実のところ、「奴」のクルマには、このコーナリングを高高速化するためのメカニズムが付いていなかった。
何せ奴のクルマの設計思想の主軸は、カーブのRを徹底的に駆逐した、アウトバーンなのだから。
もちろん、ニュルブルも攻めてはいたが、それはあくまで、ブレーキングポイントをギリギリまで奥にとった、ドライバーの究極のブレーキング技術を頼りにしたものである。
つまり、ニュルブルへのマッチングを、ドライバーとセッティングとに任せている。
ニュルブルのコースは、あくまでサーキット。
アウトインアウトの走行ラインが可能だ。
ストリート・・・、
特にこの環八「練馬トンネル」は、
道路、しかも管の中をその形状に沿って走らなければならないことが、
ニュルブルとも違う。
その上、ここで高高速を狙うなら、カーブを、全力加速状態で走る必要性がある。
「奴」は、構造的・本質的に、それが苦手だ。
練馬トンネルがカーブを帯びたコースであることが、
間違いなく、奴にとって、敗因となる。
Posted at 2009/11/06 00:01:03 | |
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環八(環状) | 日記