
トヨタレンタカーから車をピックアップして、まず立ち寄ったのがガソリンスタンド。レンタカーですから、最初は燃料が満タンになってはいるのですが、今回の試乗では燃費計による計測とあわせて、満タン法でも燃費を計ってみようと考えています。ですので、なるべく誤差を少なくするため、出発前に口切りいっぱいまで燃料を入れておくことにしたのです。
なお、この時の給油量は1.5リットルほどでした。
給油を終えると、すぐにトリップメーターと燃費計をリセットします。プリウスには、A、Bふたつのトリップデータを表示できるようになっているので、Aのほうで全体のデータを、Bのほうで区間データを取ってみることにしました。
セクション・1~「自宅→熊谷市内」
22時過ぎ、自宅近所のスタンドからスタートします。金曜日ということもあって、平日の同時間帯よりも多少クルマが多い印象です。それでも、すでに22時を過ぎているため、渋滞といえるような箇所は全くありませんでした。ルートは、府中街道を西に進み八王子に抜け、国道16号~国道407号と北上し熊谷へと入る、オール一般道コース。この区間では、プリウスらしく、なるべくエコドライブを心がけました。
普通のガソリンエンジン車で燃費走行をしようとするなら、「できる限りペダルを踏まない」というのがセオリーです。つまり、ひとつは無駄にアクセルを踏むことをせず、余計な燃料の消費を抑えること。そしてもうひとつが、獲得した運動エネルギーを無駄にしないよう、なるべくブレーキを踏まないようにすること。この二点を押さえておけば、ある程度の燃費が稼げるはずです。
ところがプリウスに限っては、どうもこのセオリーが当てはまらないように思えました。それは、プリウスには、エンジンを止めて電気モーターの力だけで走る、いわゆる「EVモード」があるからです。
信号待ちなどで停止しているときは、基本的にエンジンはストップしています。そして走り始めようとしてアクセルを踏むと、まずはモーターだけが作動してクルマが動き始めます。そしてしばらくするとエンジンがかかって、そこからはモーターとエンジンの力で加速していくようになります。また、走行中でもアクセルを抜いてやると即座にエンジンが停止、あまり負荷のかからない巡航程度だとモーターだけで走ろうとします。
という特徴を踏まえてプリウスで燃費走行をしようとする場合、重要になってくるのが、「いかにエンジンを作動させないようにするか(いかにエンジンが停止している時間をなるべく長く取るか)」ということです。
具体的には、まずスタート時にはアクセルを軽く踏んで、なるべくモーターだけで加速させます。じんわりとアクセルを踏んでいくと、モーターだけでも40km/h~50km/h程度まで加速することが可能です。ただ、モーターの力だけだとかなりのんびりした加速になってしまうので、後続の車両にとっては迷惑千万。交通の流れを乱さないように走るためには、出足せいぜい20km/hぐらいまでをモーターに頼るというのが現実的なところでしょう。
そこで私が実際に試してみた走り方としては、次のようなやり方です。
20km/hまではアクセルを軽く踏んでモーターだけで加速。そして20km/hを過ぎたら、すかさずアクセルを踏み込んでエンジンを始動させます。エンジンが動き始めたらさらにアクセルをグーッと開け、一気に巡航速度に達するようにします(決してベタ踏みするわけではありません。流れを少しリードするぐらいの感じです)。
そして目標の巡航速度に達したら今度はアクセルをサッと戻してエンジンを停止させます。この時、アクセルの戻し方が中途半端だとエンジンが停止しないので注意が必要です。エンジンが止まったら、あとはバッテリーの残量が許す限り、なるべくモーターの力だけで巡航するようにします。
また、信号待ちなどで停止する時ですが、こちらもハイブリッドならではの特徴があります。
プリウスには「回生ブレーキ」なるものがついています。これは停止する際にモーターを発電機として利用することで、運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリーに蓄える、というシステムです。つまり、通常はブレーキをかけると、運動エネルギーは単に熱として放出されてしまうだけになりますが、プリウスの場合、ただ捨ててしまうだけの運動エネルギーを電気に変換してバッテリーに蓄えることができるのです。
この機能を活用するため、運転中は先の道路状況や信号の変わり目などによく注意します。そしてクルマが停止しそうになったら、なるべく早めにフットブレーキをかけ始めます。するとメーターパネル内のハイブリッドシステムインジケーターが「CHG(チャージ・充電中の意)」を表示します。このインジケーターがCHGの範囲にある時は、回生機能が作動してバッテリーに電気を充電してくれています。なるべく多くの運動エネルギーを回収するためには、インジケーターがCHGを示す時間を長く取るようにします。
この時注意しなければならないのは、ブレーキを強めに踏んでしまうと、回生ブレーキの容量を超えてしまうということです。そうなると、あとは通常のクルマと同じように、ブレーキローターとパッドにより、せっかくの運動エネルギーが熱として放出されてしまいます。
ですので、停止する場合はなるべく手前から軽くブレーキを当てるようにして回生ブレーキの容量を超えないようにしながら、うまく調節して停止するようにします。
というように、私なりに走り方を考えて実践してみたわけですが、どうやらプリウスで燃費を伸ばそうと思ったら、これだけでは不十分なようでした。今回の旅を終えてからネットをあれこれ調べてみると、「プリウス・エコドライブ・マイスター」の方々によるエコドライブテクニックが色々と紹介されていました。ハイブリッドカーも、なかなか奥が深いものがありますね。
最後になりましたが、気になるその燃費です。
なんと、いきなりの30km/lオーバー。私の所有する125ccのオートバイ(TDR125)でもなかなか出ないような数値です。始まったばかりの旅ですが、いきなりプリウスの燃費性能の凄まじさを見せ付けられた気がしました。
【セクション1 結果】
走行距離~87.6km
燃費~31.0km/l
セクション・2~「熊谷市内→道の駅おのこ(群馬県渋川市)」
次のステージは、熊谷市内から上武道路を北上、国道353号へと入って本日の休憩地点となる「道の駅おのこ」までの道のりです。
こちらもオール一般道ですが、日付も変わったこの時間帯になると、流れもだいぶ速くなっていて、70~80km/h程度での巡航となります。以前は信号機もほとんどなく快適に走れていた上武道路ですが、近年は信号機のある交差点がだいぶ増えており、割と頻繁にゴー&ストップを強いられます。これがさらに前橋市内などに入ってくると、赤信号で止められる回数はさらに増えてきます。
この区間では、今度はエコドライブを全く意識せず、周囲の流れに合わせるまま、踏みたいだけアクセルを踏み、また信号機の先読みなども特に意識しないような走り方をしてみました。
そうした走り方で得られた燃費は、27.5km/lというもの。エコドライブを意識していた時よりも1割ほど落ちてしまいました(もちろん、道路状況の違いは大きいですが)。
しかし、特にエコドライブを意識しなくてもここまでの数値を出せるというのは、大したものだと思います。
【セクション2 結果】
走行距離~62.8km
燃費~27.5km/l
セクション・3~「道の駅おのこ(渋川市)→野反ダム(群馬県吾妻郡中之条町)」
車中での仮眠から目を覚ますと、あたりはすでに少し明るくなりはじめていました。スポーツドリンクを一口飲んでから車外に出て軽く体を動かすと、ようやく頭も冴え始めてきます。
再び、プリウスのメインスイッチを入れて、走行開始です。今回の区間は道の駅から野反ダムのある野反湖を目指すルートです。
今回のドライブの目的地は八ツ場ダムだと書きましたが、野反湖まで行ってしまうと完全に行き過ぎです。しかし、その日の朝は予定よりも早く目が覚めてしまったので、「八ツ場ダム周辺を見学する前に、少し先にある尻焼温泉に寄って、どうせなら温泉に入った後に、行ったことのない野反湖まで足を伸ばしてみよう」と思ったわけであります。
道の駅から中之条、長野原と経由し、国道292号、405号を北上して尻焼温泉、野反湖まで、多少の寄り道をしながら向かいます。ルートは全線に渡って上り基調となります。特に長野原を過ぎて国道292号に入ると、本格的な山岳地帯に入り、上り勾配が相当にきつくなってきます。
山登りを多く強いられるこの区間は、当然、燃費もガタンと落ちてしまいます。しかしそれでも、燃費は16.7km/lという数値。この数字は、我が家のVWポロTSIで遠乗りに出かけた時に出るような値です。それをこの厳しい山間部の上り坂区間で、プリウスは達成してしまったのです。・・・もはや驚きの声も出ません。
【セクション3 結果】
走行距離~88.4km
燃費~16.7km/l
セクション・4~「野反ダム~川原湯温泉(八ツ場ダム建設予定地)~関越道渋川伊香保IC」
尻焼温泉で朝風呂を堪能し、野反湖で新鮮な空気をたっぷりと吸い込んだ私は、ルートを逆にたどり、今度は川原湯温泉近くの八ツ場ダム建設予定地周辺を目指します。
この区間はセクション3とはうって変わって、下り基調のルートとなります。特に野反湖から長野原まではきつい下り勾配がつづくので、プリウスのエンジンはほとんど出番ナシとなりました。そのため、燃費計は下の写真のような恐るべき数値に・・・。
まあこれは、ほとんどインチキに近いようなものですが、それでもこの30km弱の区間を、プリウスはほとんどガソリンを使うことなく移動してきたというわけであります。
その後、写真撮影や見学のため川原湯温泉付近をあちこち移動、坂道を上ったり下りたりしました。そしてそれが終わると今度は帰り道です。土曜の日中でしたが、関越同・渋川伊香保ICまでの区間は目立った混雑・渋滞はありませんでした。
野反湖から渋川伊香保ICまで、ほぼ全線下りとなるルートですが、途中、寄り道をしたりしているので、オール下りというわけではありません。全体のうち、おそらく7割ぐらいが下りという条件で出たのが下の数字。もはやこんな数字を出せるのは、トヨタのハイブリッド車以外にないのではないでしょうか?
【セクション4 結果】
走行距離~91.7km
燃費~52.8km/l
セクション・5「渋川伊香保IC~自宅」
この区間は高速道路が中心です。本来なら関越でひたすら練馬まで行くところですが、練馬出口付近がかなり渋滞していたことと、土曜の夕方は環八が混んでいる可能性が高かったことから、今回は圏央道で八王子方面に抜けるルートを取りました(結局、圏央道ルートも、中央道に接続した先が混んでいたので、途中で一般道に下りてしまいましたが・・・)。
この区間を走ってみて気づいたのが、プリウスは高速道路ではあまり燃費が伸びないということです。走行車線の流れに乗って90~100km/hの間ぐらいで走るような乗り方だと、燃費計はだいたい25~26km/lぐらいを示しています。
この速度域になるとさすがに、平坦な場所であっても巡航するのにエンジンの力が必要となってきます。もちろん、アクセルを戻せばエンジンは即座に停止するのですが、そこでEV走行しようとしてもみるみる失速してしまうので、結局はアクセルを踏み足してエンジンを作動させざるを得ないのです。つまり、エンジンが作動している時間が長い分、それほど燃費は伸びていかないという状態に陥ってしまうわけです。
とはいえ、それでも25km/l以上は走ってくれるわけですから、他のクルマと比べたら抜群に良い燃費です。よく、「プリウスは高速道路の燃費が悪い」と言われるので、プリウスは高速道路だと普通のガソリン車よりも燃費が悪くなると思っている人もいるようですが、それは間違いです。一般道のほうが電気エネルギー(モーター)を効率よく使って走ることができるので、結果として(プリウス同士の比較では)一般道のほうが燃費が伸びてくれる、というのが正解と言えるでしょう。
ちなみに今回、渋滞を避けるべく圏央道あきる野ICで一般道に降りましたが、一般道に下りた途端、燃費計の数値がじわじわと上がっていきました。高速道路を下りる直前までは26.1km/lだった燃費計の数値が、自宅に着いた時には最終的に28.3km/lまで上昇していました。
【セクション5 結果】
走行距離~162.6km
燃費~28.3km/l
【試乗を終えて】
今回のドライブではトータル500km弱ほど走りました。全区間でエコドライブを実践したわけではなく、燃費にとっては悪い条件となるような場所もかなり走り回りました。それでも、27.5km/l(満タン法では27.8km/l)という、普通のガソリン車では考えられないような数字を叩き出してくれました。おそらく、プリウスの特性をよく理解したうえでエコドライブを心がければ、使い方によっては日常的に30km/lを越えることも十分可能なのではないかと思います。
一度プリウスに乗ってしまうと、もう普通のガソリンエンジン車などは、燃費が悪すぎて馬鹿らしく思えてしまうかもしれません。それほどまでに、プリウスの燃費性能は圧倒的と言えるでしょう。今回の試乗を通じて、プリウスがここまで爆発的にヒットしている理由が、よく分かりました。
では私自身、プリウスのオーナーになりたくなったかというと・・・、正直なところ、そこまでは思いませんでした。
確かに、財布にやさしい燃費性能は非常に魅力的ですし、ハイブリッドシステムをうまく活用してエコランするのも、思いのほか「楽しい」と感じました。でも、残念ながらプリウスの魅力は、その点にしかないのです。
クルマの最も基本である「走る・曲がる・止まる」という面では、それほど光るものを感じませんでしたし、これだけ街中で多く見かけてしまうと「所有する歓び」というのも半減してしまいます。また、私がクルマに対して求めている内容にもあまり合致せず、実際の使い方とも合っていないように思いました。
【総合結果】
総走行距離~493.3km
トータル燃費~27.5km/l
【※満タン方による計測】
給油量~17.76リットル
燃費~27.78km/l