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　先日、行きつけのディーラーの営業さんから「新型デリカの試乗車が入ったので、乗りにきませんか」とのお誘いの連絡があり、早速、試乗に行ってまいりました。

　用意されていた試乗車は白い標準車。だいぶ見慣れてきたとはいえ、やはりそのルックスにはまだまだ違和感を覚えます。
　グリルまわりのデザインもそうですが、バンパー下端の「えぐり」がなくなってアプローチアングルが大きく減ってしまったデザインとなったのは、オフロードミニバンを標榜するデリカにとっては致命的です。これで河原や林道を走ったら、バンパーの下を当ててしまわないかと、相当に気を揉むことになりそうです。
　営業氏の話によると、歩行者と接触した際にクルマの下に巻き込まないように定めた安全上の法規に合致させるため、とのことでした。確かに、従来型のD:5のように、アプローチアングルを稼ぐためにバンパー下側を切り込んでいると、人を巻き込みやすい形状であるのは間違いないでしょう。ただ、そんな事故にめぐり合うことは、多くの人にとって一生のうちに一度も経験することはありません。安全性を高めることは確かに重要なことであるとは思いますが、起きる可能性が極めて低い事態のために、日ごろの使い勝手が圧倒的に悪くなる(オフロード走行をしない人には関係ないでしょうが)のもどうかと思います。
　一案として、歩行者との接触を検知した際に、バンパー裏からバタンとフラップが瞬時に降りてくることで巻き込みを防ぐような装置で対応できないものでしょうか?　事故の際にボンネットが浮き上がって歩行者に加わる衝撃を緩和するようなシステムがすでにありますが、あれの応用のような形で実現できそうに思うのですが、どうでしょうか。あるいは、バンパー下にエアバッグを展開して巻き込みを防止することも可能なように思います。

　というように、エクステリア面だけを見ていると、やはりデザイン・機能ともにあまり良い評価をつけられないなというのが正直な感想でした。

　ところが、乗ってみると評価は一変します。
　
　インテリアが格段に洗練されたというのも印象的ですが、エンジンをかけた瞬間、これまでのD:5とは全くの別物であることに驚かされました。とにかく静かで、低振動なのです。従来型D:5のディーゼルエンジンは、スペースギア時代の4M40型エンジンと比べれば圧倒的に静かで乗用車的でしたが、マツダのスカイアクティブDや輸入車勢の最新ディーゼル車と比べると、相当にうるさく、前時代的な印象があったことは否めません。
　しかし、新型D:5のディーゼルエンジンはようやく、他メーカーのディーゼル車と比べても、遜色ないレベルの静粛性を手に入れたように感じました。エンジンの音質自体もさらに角がとれてマイルドになり、「ディーゼル・ノイズ」から心地よい「ディーゼル・サウンド」へと進化していました。これは単に遮音性を上げただけではなく、音の発生源であるエンジンそのものにも、相当の改良が加えられていることが伺えます。
　
　走り出してみると、すぐに低・中回転域でのトルクが一回り太くなっていることに気づきます。従来型よりも明らかに少ないアクセル開度で、軽快にスルスルと加速していきます。
　このあたりは、新たに搭載された8速ATも効いているのでしょう。旧型のATは割とスリップを許容するところがありましたが、新型はロックアップ領域も拡大しているようで、アクセルオンオフでのダイレクト感がかなり向上しています。個人的には、スリップロスを感じさせないトルコンATは好みですので、これはかなり魅力的なポイントです。
　8速という多段式ですが、街中では8速に入ることはまずありません。高速道路に特化したギア比のようで、試乗中も、周囲の流れが80キロ程度になった幹線道路に出てはじめて、8速ギアに入るのを確認することができました。
　
　また、走行中の静粛性もかなり向上していました。エンジンの騒音が相当に抑えられているため、従来型ではエンジンの音にかき消されて気にならなかったロードノイズのほうが、逆に耳についてしまうほどでした。

　乗り心地も上質になっていました。旧型ではわりとドタバタしてしまうような路面のうねり・ギャップも、新型ではしっとりと落ち着きがあり、これまでよりもワンランク上の高級モデルに乗っているような印象を受けました。


　乗っていると本当に良いクルマで、中身の進化の度合いも著しく、現行オーナーの私自身、試乗車のステアリングを握りながら真剣に買い換えを検討しようかと思わされたほどでした。
　しかし、試乗を終えてクルマを降りて、改めてそのエクステリアを目にすると、「ローンも残っていることだし、やっぱり今乗っているデリカでもいいか」と、盛り上がった気分を少し冷静に引き戻してくれたのは、営業氏には内緒にしておきました。