『聲の形』は聴覚障害をもつ少女と、その少女を虐めていた少年(石田)が、人と人のコミュニケーションを通して成長していく物語です。
以下、ネタバレを含みます。ご注意下さい。
▼現実社会では。。。
原作を読み、あらためて映画を見たときに、ふと昔の事を思い出しました。
それは、私が中学1年の時だから、小学6年生の物語とは1学年年違いますが、私のクラスには白い補聴器を着けた女の子がいました。席順は教卓の前、一番前です。
その事について、当時の学級新聞に『娘の指定席』という母親からクラスへ宛てたメッセージが乗せられたのです。内容は聴覚障害をもつ娘に対する親の気持ちと、気遣っている周囲に対する感謝というものでした。
その子はいつもニコニコ笑顔を絶やさず、教卓を拭いたり、黒板消しを叩いたり、花瓶の手入れをするなど、ものすごく細やかな気遣いのできる人でした。
学力もクラスで上位ですし、部活は私と同じ吹奏楽部でフルートを吹いていました。
そんな彼女に好意を持った私は、ある土曜日に部活が終わってから告白し、見事に玉砕したのを今でも覚えています。
~あの子は幸せになれだのだろうか~
『聲の形』は、私にとってはそんな過去の記憶とオーバーラップする作品であり、他の作品とは違いちょっと特別な作品です。
まぁこういう上手く行く例もありますが、現実には聾学校があっても、健常者と学力に差が出ることや、また将来を悲観した親は、なるべく普通学校に通わせたいという流れが根強く、程度の違いはあるにせよ、本作のようにギクシャクした人間関係も少なからず起こりえると思います。
どちらにせよ、リアルな話しだと改めて感じています。
▼アニメ化の是非
さて、映画の評価としては原作の方が良い…という意見も聞かれるなか、私は結果的に、アニメ化して良かったのではないかと感じてます。いつも書いてることですが、音や映像…特に動きはやはり、アニメーションの世界でしか表現出来ないことなので、そこを巧みに駆使した製作陣を評したいです。
物語には1本の線があるにせよ登場人物も多く、結果、焦点を絞りづらくなり物語の『核』となる部分を絞り込むのに苦心したと聞いています。確かに、1回目の鑑賞の時は物語は淡々と進み、もう少し演出面で見ている側を高揚させていく手法もあるんじゃないか?と感じ納得がいかなかったのです。
加えて、尺の関係から、物語をひとつの軸に乗せる為、毒々しい部分…例えば、小学時代の石田に全てをおしつける担任とか、梢子の母親の傲慢さや石田に対する嫌悪感など、嫌な大人の部分はだいぶライトな表現になっていたからです。でもこれば私の頭が切り替わっていなかったからそう感じたのかも…
▼『表情芝居』と『言葉にならない聲』
先日買ったパンフレットを読み直し、一旦今頭の中にある別の作品に蓋をして、もう一度鑑賞してみたこころ、鑑賞中に自然と涙があふれとまらなくなっていました。
アニメ化で良かったところを纏めると、石田が虐められる側にまわり人間不信になった時、耳に蓋をして人とのコミュニケーションを断絶するシーンと、ラストのシーンでは反対に耳に当てている手を放すカットがあります。
このラストシーンでは
『世界はもっと広いんだ』
と言わんばかりに、ガヤの数が増えていき、拾われる音の数が増えてきます。やがて顔の『×』は剥がれ落ち
『生きる事、自分を受け入れ、他人と関わる事の大切さ』
に気付きます。
このシーンは漫画での表現が難しく、アニメでなければ表現できないシーンの一例です。付け加えれば、このシーンこそ物語の『核』であると確信しています。
梢子については、前半ではあまり聲を発する機会がなく、逆に表情芝居で自分の感情を表現しています。
原作から梢子についてはモノローグは一切なく、そこがまた見ている側にリアルさを与え、物語へぐっと引き込む一因になっています。
橋の上で石田と再会するシーンなど多彩に表情を変える様は、作画も頑張っているなと感じます。
後半は何と言っても、梢子役の早見沙織さんの演技が光ります。
ターニングポイントは、梢子が石田へ『好き』という気持ちを、手話やメールではなく、何とか自分の聲で石田に伝えようとするシーンですが(私の大好きなシーン)、彼女の演技は、梢子が精いっぱい声にならない聲に気持ちを乗せて、見ている側にしっかり
心の聲を…
思いを…
届けようとしている事が伝わってきます。
クライマックスでは、梢子が石田が自ら命を絶つ選択をする夢を見て、石田を探すが見つからず、いつもの橋で泣き叫ぶシーンでの言葉にならない嗚咽は感動以外ありえません。
これは、演技指導にろうあ協会など、本業の方がついていたという事もありますが、彼女にしか出来ないまさに珠玉の演技です。今までは何となく好印象だった彼女に対し、本作品に臨む姿勢を垣間見た時、役者としてはもとより、人としてとても素晴らしく一気にファンになってしまいました。
▼まとめ
あまり音楽、とかく劇伴についてあまり触れてきませんでしたが、映像に寄り添う音としては、シーンを過大に主張する様な事もなく、むしろ映像を補完する様なものです。
それでもシーンの彩り方として、ピアノの旋律をメインとした楽曲たちは、それだけでも素晴らしい出来栄えで『a shape of light』というサウンドトラック、ぜひ買ってみようと思います。
主題歌『恋をしたのは』は、作詞作曲をaikoさんが担当しています。この曲は歌詞を見てみると、梢子から石田へ宛てたラブソングになっています。とくに
『伝えたかった事は、今も昔もずっと同じままだよ』
というフレーズに思わず涙してしまいます。本編でもモノローグなど一切ない役柄だけに、改めてそういう目線で聴くとちょっとシビレます。
VIDEO
総じて、こういう難しいテーマに取り組み、作品をここまで昇華した京都アニメーション。。。
キャラを可愛く見せるだけでは無い事を証明した事は称賛に値すると思います。
という訳で、そろそろ本格的なオリジナル作品を見てみたいのだが。。。
追伸…
我が娘は心理学を専攻していますが、時には学校のカウンセラーとしても働くため、本作品を観るように薦めました。
aikoについては、デビューから応援しているアーティストであり、ここに書ききれないほどの想いがあります。また機会があれば体験を通じて想いを書き綴ってみたいです。
引用画像はすべて『聲の形製作委員会』に帰属します
Posted at 2016/10/03 17:34:42 | |
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