信州紀行 その1
投稿日 : 2011年05月07日
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『日本ふしぎ絶景ベスト50』(河出書房新社)という、日本全国の実に美しい風景を集めた写真集がある。
自然美・人工美の極限が集約されており、思わず感嘆の声を挙げたくなるような風景がページを繰るごとに現れてくる。
とりわけ、「天空の理想郷」と題された写真に、私は特に強く魅かれていた。長野県南東部に位置する僻遠の山里なのだが、その山里のさらに山奥ともいうべき箇所に、下栗という集落がある。
最大傾斜角度38度という驚くほどの土地傾斜に、人々が営み、集落を形成している。その有り様に興味を魅かれていて、是非とも見てみたいと考えていた。
彼の地は「日本のチロル」とも称されており、その風致は写真等から想像する限り、非常に類似している。
なお、チロル地方とはオーストリア南部及びイタリア北部にある大山岳地帯であり、アルプス山脈の東部に位置する。
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本家チロル地方に関しては、その画像を紹介すると共に、もう少し説明を要するかもしれない。
http://www.wallpaperlink.com/bin/0606/02312.html(チロル(オーストリア) 壁紙 )
にて記載されてあるチロル地方についての説明文を抜粋しよう。
「オーストリア部分はチロル州(北チロルと東チロル)、イタリア部分はトレンティーノ=アルト・アディジェ州のボルツァーノ自治県(南チロル)となります。そのボルツァーノ県にはチロル(イタリア語でティローロ)というコムーネがありますが、チロルの地名はここが発祥です。」
地図で見る限り、その地理は南信(信州南部)にある下栗の里やその周囲の光景と類似している。ともに、標高は平均しておそらくは千メートルを優に超える高地であり、両者は風致のみならず、人文地理(文化・習慣)においても共通点があるのではないかという気もする。
なお、本画像は、上記サイト画像の拡大版を利用している。
http://www.kabegamilink.com/act/0606/02312.html
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今回、この「日本のチロル」に行こうと思い立つにあたり、私は僻遠の地という印象を強く脳内に刻み込み、増幅させつつ、実際の風景を望みたかった。
現実問題として、下栗の里に一番近い幹線道路(国道152号線)も地盤の脆弱さ等により、二箇所も分断されており、舗装状況の良好とはいえない。また、鉄道もなく、僻遠たることは間違えないが、幸いにも中央道を経由すれば、比較的容易に当地に辿り着けるように、道路状況が改善されてはいる。
ただし、気分の問題として、あくまで山を縫って縫ってようやく辿り着いたという感情を演出したくもあり、遠州(静岡県西部)の袋井からひたすら北上する形で、当地入りを試みた。
なお、遠州は穏やかな海浜の地というイメージが強いが、中部から北部にかけては山ばかりの土地である。
この点、信州との共通性が高い。
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この山間部を縫っているのが、JR飯田線であり、道路環境が万全でない地に、しっかりと鉄道路線が据わっているのは感動的ですらある。
ただし、飯田線はあくまで天竜川沿いに北上するために、下栗の里からは遥かに隔たってしまう。
画像は、遠州にある水窪の駅付近である。
水窪の集落は遠州北部の山間いではやや大きいために、天竜川からやや離れているが、天竜川沿いに忠実な飯田線も多少の蛇行をしているのである。
さて、この飯田線は、総延長195.7キロにも及び、愛知県の豊橋と長野県中南部の辰野とを結んでいる。気の遠くなるようなスケールである。在来線で両地点を走破するのに六時間かかるという。
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北上の際に主に利用していた国道152号線は既述したとおり、二箇所ほど分断されている。
その一つが静岡と長野の県境であり、県境を越える林道があるため、補っている。その林道を越えると信州に入り、再び国道152号線が現れる。
しかしながら、道路整備の状況は良好とは言い難いようだ。
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ただし、高地に位置するためか、花桃や桜などがようやく満開という状況であり、おそらく一年のうちで一番美しい季節に、訪問した僥倖を得たものと思われる。
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遠山郷にある道の駅で車中泊をしたのち、国道152号線を北上し、旧上村の集落を目指す。
その途上、春爛漫の気分が濃厚に漂っている空間を切り取りたかったので、写真撮影をしてみた。
国道152号線沿いだが、驚くほどにのんびりとした雰囲気である。
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旧上村集落の何の変哲もない細い道にクルマを進めると、やがて高度がどんどん高くなり、視界が広くなる。
そして、気づくと驚くほどの斜面に根強く人間の営みがなされている日本のチロルである下栗の里に到着する。
それにしても、何たる斜面であろうか。
人間にはどのような場所にでも、住み適応できる能力があるのだろう。縄文時代の遺跡もあるという。
逆に言えば、平坦部・都市部に住む人間も、下栗の人々から見れば奇異に移るのかもしれない。
人間とはかくも多様な空間で呼吸をすることのできる存在なのである。
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