
Prologue
台風18号の対応に追われていた連休のさなか、男は被災現場で風雨にさらされながらじっと考えていた。
「ぜったい行ったる!! 今度こそ、行ったる!!」
そうつぶやく男のカッパのフードから覗く目は、強風で倒れた巨木の下に無残にその姿を晒すクルマを捉えながらも、赤く光っていたのは誰も知らない。
以前から考えていた彼の地へ向かったのは、台風18号の対応で追われた連休を過ぎ、事後処理を完了し落ち着きを取り戻した彼岸の三連休の中日~9月22日の未明早朝でありました。
最寄りのコンビニの駐車場での暖気の間、紙コップのコーヒーとタバコで一服。
日頃から考えていたルートを思い浮かべる。
ドアを開けシートに滑り込んだ瞬間から、至福のひと時が始まっている。
日常生活の規則正しいリズムに裏打ちされた時間とは違う、これからの数時間になんとも言えぬ・・・いつものことだけど久しぶりの期待感、高揚感。
Chapter 1
国道沿いのGSで給油し西へ走り出す。連休中にもかかわらず走る多くの大型貨物の車列を縫いながら、もう一度これからの走行ルートを考えた。
岐阜県から北上するか、富山県から南下するか・・・到着までの走行時間と開門時刻を考え、富山ルートとし、先ずは長野市を目指す。23+177=200km
夜明け前に長野市街地を通り抜け、そのまま一気に国道406号で白馬へ向かう。
気分が乗ってきた!!
白馬へ繋ぐ別名=鬼無里(キナサ)街道と呼ばれるこのルート、以前から気になっていた。裾花ダムを過ぎる頃夜明けを迎えた。気温は14℃、思わず上着を着込む。
ここから戸隠バードラインを走って、飯綱~黒姫~妙高高原へ走り回りたいところだが、今回はスル-し西へ白馬への快走を続ける。
幅員狭小区間や、荒れ気味の路面状況が鬼無里の集落辺りまであったものの、集落を過ぎ、峠を越えると道路状況は一変する。
対向車も後続車もなく快適な走行が楽しめ、午前6時過ぎに白馬村に入る。
正面に後立山連峰を捉えた交差点を右折し国道148号へ。ここからはJR大糸線と姫川沿いに糸魚川を目指し北上する。200+49km=249km
国道148号~「千国街道」は、古くは信濃の国へ塩を運ぶ街道であったことより「塩の道」、江戸時代には越後では松本街道、信州では糸魚川街道とも呼ばれ、日本海からは塩や海産物が、信州からは農作物が運ばれ、険しい地形を越える山国信州の人々にとっては、かけがえのない道であり日本の道100選にも選ばれたそうな・・・。
そんな歴史を背負った道路を走っていたのか・・・っと後でわかり今更ながら感慨に耽る。
長野から先、早朝で交通量極小、徐々に気温が上がり大気が緩むのを実感しながらのオープン・ドライブ。なんと爽快!!
日常の重力から魂が解き放たれて、風に遊ぶ・・・やっぱり、ホンダS2000はいいクルマだ、と改めて思う。
トンネルを幾つか抜け白馬から19km、道の駅・小谷(おたり)で休憩。
ここでやっと腹ごしらえ。立ち食い蕎麦屋で500円で天ぷらそばを食し温まる。249+19=268km
初めて走る道、特に関東圏外の道は新鮮でイイ!!
思わず止まりたくなるような姫川沿いの景色や、圧巻は6kmほど続く洞門群!! それぞれに番号と名前が付されており、また、国道なのに歩道や路肩も狭い。歩行者や自転車はどうするのだろう!?
また、進行方向右側の支柱越しに姫川を挟んだ山側にはJR線が見えるのだが、よくぞまぁ~この様な地形に鉄道を!!??っと、思うほど。
小谷(おたり)から28km午前7時半、国道8号に合流。いよいよ北陸にはいった。268+28=296km
Chapter 2
北陸自動車道は経験済みだったが国道8号、初めて走って分かったのは、親知不から富山県境まで左手から迫り来る急峻な山斜面が海側に落ち込む地形に道路が張り付くように走っており、ここでも橋梁や洞門が多い。
なるほど、古来北陸街道最大の難所と言われる所以、分かったような気がした。

またここは、親不知・子不知の地名で呼ばれ、由来は断崖絶壁と荒波が旅人の行く手を阻み、波打ち際を駆け抜ける際に親は子を忘れ、子は親を顧みる暇がなかったことから親知らず・子知らずと呼ばれるようになった・・・そうな。
親不知海岸高架橋を潜ると「親不知ピア・パーク」の表示に目が止まり休憩。潮風に深呼吸しながら日本海見渡しながら旅情に浸る。
遠くまで来たなぁ~ 296+10=306km
JR北陸本線と北陸自動車道に挟まれた国道をひた走り滑川から県道3号へ左折
しかし、途中「新川(にいかわ)スーパー農道」、「県道13号朝日宇奈月線」などの表示を見る度、単独行の気楽さから何度もそちらへハンドル切ろうかと疼いたが、あの風雨のなかで決めた想いを優先させ立山へ向かう。46+306=352km
立山町から県道6号~立山街道へ。
・・・っと云うもののつい、常願寺川の左右岸の道を走り廻ってしまう。心を冷やすためにブレイク。
そして、いよいよ「有峰」の表示が見えてきた。
午前10時少し前。有峰林道小見口に到着。
正面に見えるのは北陸電力常願寺電力部の建物。352+30=382km
Chapter 3

富山県富山市と岐阜県飛騨市を繋ぐ複数の林道で構成され、全線70kmほどの有料道路。標高1100m付近には有峰湖がある。
さて、前回は荒天のため途中で引き返したが、やっと2年越しの想いを遂げる時が来た。


小見口から料金ゲートで普通車の通行料1800円を払う際に係員に「気をつけてどうぞ。」と声をかけられた。
初めての道、ましてや林道・・・っとなれば一般道とは違い、線形もRや縦断勾配がきつい個所があるはず。周辺の景色を見ながらゆったり上がる。
走り出し前半には、途中工事個所が数か所あったものの、午前10時過ぎ、通行に苦慮することなく有峰湖展望台にたどり着けた。382+16=398km

湖中央に見える島が有峰神社が祀られている「宝来島」
有峰ダムの人造湖である有峰湖。上空から見るとアルファベットの「K」に似ているとか・・・!?
初めて見たS字カーブを描くダム天端。
戦前富山県による県営発電事業として始まったダム事業が、戦後北陸電力に引き継がれ1956年に着工、完成1960年とダム建設だけで4年の月日が費やされた、当時の一大事業であった・・・とダム便欄にあった。
静かな湖面と遥か望む深山の景色にしばし見入る。ここからですぐの所には有峰ハウスと有峰記念館。
その先が折立線となっているが、接続する真川線と湖東岸線が途中で通行止めとなっているため、ダム方向へ戻ることにした。
午前11時小口川線との分岐を過ぎ西岸線へ。快晴ならば北アルプスの薬師岳辺りが見えたはずだが、雲で見えず。残念。
さて、ここから西岸線~南岸線~東谷線を走り富山県と岐阜県の県境にある東谷ゲートへ駆け抜ける。途中はブナの原生林の様相を呈した快走路。
一気に飛越トンネルへ。よく見ると木製の引き戸が付いていた。405+22=427km
双六川沿いに高山大山大規模林道を南下する。
しかし、この山吹峠を超える30kmのこの林道、ストレート有り高速コーナ有りの走り放題!! 全くのノーマーク!! へぇ~こんなお店にこんな美人が・・・みたいな感じ。白樺の牧場の脇を抜けながら、ハイカムの音に聞き惚れながらの「ひゃぁ~ひゃぁ~!!」 思わずおかわりした。30+427=457km
正午前、下り車線~高山方面へ向かうバイクや車の群れを見送りながら、国道471号経由で帰路につく。 緩慢な移動速度に退屈を噛み殺しながら、今朝からの道行きを思い出す。

やはり、ナビがあったほうがイイ!! 地図を使うのにくたびれる。
有峰林道の景色は秘境レベルで、深山に大きな人造湖と周回する林道は比較的路面状況も良く、ブナ林を抜けながら気持ち良い走行と、素敵な景色を楽しむことができました。
また、走った時間帯もあるのでしょうが、そこへ至るルートも初めて見る風景もとても素敵でした。
いずれも楽しいカントリー&ワインディング・ロード!!
秋の風景の中を気持ち良く走り続けることができ、閉鎖前、紅葉の時期に再訪したいと強く思いました。 いやぁ~楽しかった!!
駄文にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。