「ジ-プ」っていうと
「ジムニー」っていう。
「うるさい」っていうと
「うるさい」っていう。
「もう乗らない」っていうと
「もう乗せない」っていう。
そうして、あとで
荷物が運びたくなって、
「載せて」っていうと
「乗せる」っていう。
幌車でしょうか。
いいえ、ボロ車です。
♪AC~
(エアコン羨ましいなあ)
写真をお見せできるレベルにまでレストア完了。 破れかけたホロは新品に買換え、ますます絶好調です!最近ちょっとエンジンが疲れてきたかな・・・
以下、初心を忘れないようここに残します
子供の頃、先生が変な自動車に乗っていた。
なんか普通と違う。
うるさいし、煙い。
四角くてへんなクルマ。
でも毎日見ているうちになんとなく忘れられなくなってた。
角ばっているのに、なんとなく可愛い。
似た形の車もない。普通とちょっと違う。
やっぱり変なクルマ。
数年が経ち、少しだけ大人に近づいた、そんなつもりでいる微妙な年頃。
仲間と徹夜で遊ぶようになる。
近所の友人の家に集まり、深夜疲れるといつの間にか寝て、適当に目が覚めると歩いて帰宅、そんな夏休みだった。
自宅まで徒歩15分。
あの日の朝も、いつもと同じ様にのんびり(フラフラとも言う)帰る所だった。
うっすらと朝靄が続く明け方の国道はどこまでもまっすぐで、一番遠い所で一つの点になる。
夏とはいえ、明け方は少し寒い。
路上には一台の車もなく、まるで静寂な世界に一人だけ取り残されたような不安な気持ち。
朝の空気の凛々しさ。
夜露の雫を湛える草葉。
冷たい空気。
虚空に指示を出す信号。
いつもより耳に届く鳥の声。
ふと、足を止めた。
何かが聞こえたような気がして振り返る。
聞こえる。
エンジンの音だ。あの音が聞こえる。
久しく聞いていなかった、あの音。
姿は見えなくとも確信している。アイツだ。
朝靄がその姿を隠しているが、甲高い音は近づいてくる。
少しずつ声量を上げ、待ち望む自分を焦らす様に霞から現れたその車は、
見せ付けるかの様にその咆哮をドップラーさせて過ぎ去った。
存在感を強烈に誇示したその車は、背伸びしていた自分をを子供の心に戻した。
姿が見えなくなるまでずっと目に焼き付け、耳で記憶した。
決して忘れる事の出来ない情景。
思いが心を駆け抜けた。
それは予感だったのか、願いだったのか。
決めつける必要もなかったが、ふわふわとした、それでいて強い道しるべを感じた。
そしてこの時、全てが決まった。
俺、いつかアレに乗るんだ。
兄貴が免許を取り、暫くして車を買った。
驚いた。あの車だった。嬉しかった。
…けれども、何かが違う。
綺麗で、音も静か。
形は同じなのに。
モデルチェンジによって新しくなり、エンジンが変わってしまっていた。
俺が気になっていたのは、もう販売されていない旧型だったのだ。
それから数年が経ち18になるとすぐに運転免許を取った。
しばらくは兄貴の車を借りていたが、所詮兄貴の車。俺のじゃない。
だから自分の車が欲しかった。
バイトしてお金を貯めた。
そして中古の車を買った。
もちろんあの車だ。
2世代落ちの旧モデル。所々錆びて穴もあいてる。あちこち漏れてる。それでも俺は満足だった。
そうだよ、俺が乗りたかったのはこっちなんだよ。
独特のエンジンフィーリング。古いが故に軽い。軽いが故の走行感。そして兄弟そろって同じ車種。
兄貴は評価してくれた。
だが、自分がどんなにその車が好きでも、周囲には全く理解されない。
「古くてボロイ車」
そしてその評価はこの後もずっと続く。
それでも楽しかった。嬉しかった。
自分で買った、自分の好きな車を思いのままに操る喜び。
壊れるたびに、直すたびに、この車との絆は深まる。
月日が巡るほど、一緒に過ごす想い出は、まるでアルバムの写真のように折り重なってゆく。
5年程経ったある日、兄貴から電話があった。
「車、替える事にした。俺の方が年式も新しいし、お前が乗ってるのと交換するか?」
正直動揺した。兄貴のは燃費がいい。加速も速い。雨漏りも無い。壊れている所も無い。
静かだし、クーラーもカセットデッキも付いている。錆びてもいない。
もう、どうやっても交換しない理由が見つからない。
けれども自分の車もボロくともまだまだ走れる。何より気に入ってる。
どっちと決める事もできず、うやむやな返事を繰り返すまま2週間が過ぎた。
しかし、悩んでも考えてもどうしても決めることが出来ない。
兄貴から「どうする?」という連絡が毎日来るようになった。
明日決めると伝えた。
次の日、明け方に家を出た。
5年連れ添った俺の車。
最期を飾るに相応しい、よく晴れた最高のドライブ日和。
悩みがあるとき、俺はいつもきまって山に行く。
もう何度も行きつくしたいつもの山。
楽しい思い出も悩み事も、この車とこの山はセットだったな。
車ははいつもと変わらない。エンジンも調子良い。
いつもなら気分よく走れるのだが、今日はとてもそんな気分にはなれない。
乗り味、振動、エンジンの音、風切り音。鉄の匂い。車の匂い。
もう、こいつとこの山に来ることも無い。
全てを脳裏に焼きつけようとした。
今日の全てを覚えていたい。
いつまでもこのままでいたい。
このままずっと走っていたい。
どこまでも。
どこまでも 。
忘れたくない、今、この瞬間。
そして写真を撮る。
記念写真だ。
他人が見ても何の面白味もないただの車の写真。
とても大事な、最期の写真。
一緒に写ってる俺は笑わない。
ひとりで運転していてもひとりじゃない。
ひとりと1台。いつもそう思って走っていた。
けれども、これからはひとりで走らなければならない、そんな淋しさを感じながら来た道を戻る事しか出来なかった。
自宅に近づくにつれ、速度が遅くなるような錯覚を覚える。
最後の瞬間まで、あと少しと言う所で、思い留まり車を止めた。
十字路で切り返してUターンし、近くの河原へ向かう。
エンジンを止め、ウッドハンドルに頭を預ける。
アナログ時計の秒針が刻む小さな音だけが聞こえる。
どれ程の時間が経ったのだろう。
頭を挙げると周囲は少しだけ夕日に染まっていた。
そしてエンジンをかけた。
アクセルを床まで踏んで河原を滅茶苦茶に走った。
ハンドルを目一杯切ってスピンさせる。
バック全開からハンドルを切り、ブレーキ。
切り返して180度ターン。
床が凹むのではないかと言うほどアクセルを踏む。土手を駆け上り、滑り降りる。
自分でも何をやっているのか分からない。
初めて車を労わらない運転をした。
「何で壊れねぇんだよ!畜生!」
思いっきりダッシュボードを叩きつけた。
車は何も悪くない。悪いのは俺だ。分かってるさ。
怒りの車は惰性で進み、力を使い果たしたかのように停車した。
夕陽を受けた土煙りに包まれて、辺りは何も見えなかった。
トトン、トトトンと、車は何事もなかったかのようにアイドリングを続けている。
泣いた。
運転席に座ったまま、はばからず泣いた。
大好きだった、俺の車。
納車された日、嬉しくて車の中で一泊したっけ。
さすがに次の日は部屋で寝たが、夜中に3度見に行ったな。
いまどきチョーク引く車なんて無いだろ。だがソコが良いんだよ。
夜中の始動は厳禁。近所から家の電話に苦情が来るんだよ。うるさいって。
なんかいいんだよね、この車は俺の弟みたいなもんだ。他人にそう説明してたな。
やっと取り付けたカーステは雨漏りのせいで一週間で壊れたっけ。
狭い車内、男四人で明け方まで語り明かしたな。
暖房つけてるのに暖房付けろよと言われたし。うるせーよ、これでも0123の3だ。
クーラーなんて無いから、夏はウチワで扇いでいたら隣の車に笑われたな。
周囲の反対を押し切って缶スプレーで全塗装。辞めときゃよかった。
冬の寒い日、エンジンが掛からなくて遅刻したな。
子どもは正直だ。
「あの車、ボロイね」
見ず知らずの車を指差すんじゃねぇ。こういう『仕様』なんだよ。
子供の親も「エンジン止まりそうだね」とか返すんじゃねぇ。こういう『アイドリング』なんだよ。
先頭で踏切待ち。そしてガス欠。燃料計が壊れてた。遮断機が上がっても発進出来ない。
後ろからクラクションの嵐。
煽られても怒鳴られてもガソリンの無い車は絶対に動かない。
付き合い始めたばかりの彼女を乗せて今日と同じ山に行ったっけ。
普段は調子良いのにそういう時に限ってエンジンが止まる。
憎らしく、かわいい奴め。
日曜の修理工場はどこも閉まっていた。
深夜、雪の降るなかを滑らせながらスキー場に行ったな。
朝になると、氷点下車中泊は結露した車内が凍って冷凍庫のように霜だらけ。車中泊と言っても寒すぎて眠れなかったが。
この車でやってはいけないと知った。凍死寸前だ。
懲りてないのか、2月の赤城山、小沼駐車場でも一泊したな。吐く息が凍り、車の中がキラキラする。まさかのダイアモンドダスト。
朝になると車内を何度も覗かれ、聞かれたっけ。
「 ココで寝たの⁉ コレで寝たの?‼‼ 」
自殺じゃねぇよ。
帰ったらうどん食べるんだ(死亡フラグ)。
違反してる訳でもないのに警官に停止命令喰らう。「この車、コレ、いいの?」
黙れ小僧、意外にもちゃんと車検適合だぞ。
・・・よく考えたら適合どころかフルノーマルだ。
色違いの同じ車、会った事も無い運転手同士がすれ違いざまに手を上げる。言葉はいらない。文字通りの一期一会。
狭いけど、後ろで対角線に斜めになれば寝られるぞと彼女を騙し、二人で無理やり北海道一周車中泊。
出発日、いきなりエキパイが折れてその後は北海道一周爆音旅行だったな。
旅館でチェックアウトするとき従業員が「お客様の車、動かせないんですが・・・」だと。
あ~、無理無理、こいつは俺しかエンジン掛けられないのさ。
俺しか、 な 。
…そうだ。あの時から全て決まっていたんだ。
昔、思い描いた自分は今ここにいるんだ、と。
家に帰り、親に覚悟を話した。
「バカだよ、お前は」と言われた。
兄貴に電話した。兄貴は「そうか」とだけ返事をした。
それ以上は何も言わなかった。
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時々、「なんで乗り換えないの?」と聞かれるが、そのたびに
「ん、金無いからさぁ」と答えている。
彼女はいつしか俺と同じ苗字になり、北海道旅行のホームビデオを見て娘が言う。
「車、同じなんだね」 と。
ダッシュボードの凹みを触ると、数々の思い出がよみがえる。
あの時の情景は、今でも鮮明に脳裏に焼きついている。
もう悩む事はない。
これからもずっと一緒だ。
俺の相棒、スズキジムニー SJ30
最期の写真は
まだ撮らない