前回のブログで書いたように、S54エンジンが壊れた事象は...
タイミングチェーンによって駆動される“インテークVANOSギアユニット”を、カムシャフトに接続する為の6本のボルトが破損し、インテークカムシャフトが回らなくなった。エンジン内部には、VANOS部の飛散した破損部品の破片や、鉄粉なども多く確認。VANOS部の破損による二次的な影響として、インテークカムシャフトが回転出来ない事で、インテークバルブがピストンに衝突し、インテークバルブの曲がりや、それに伴う部位が損傷。
と言うものでした。
その破損を見るとまさに剪断(せん断:挟み切るように、物体や流体の内部の任意の面に関して面に平行方向に力が作用すること)されたように見えます。実際海外ではしばしばこのボルトのせん断が起こっていて強度不足が指摘されているようです。
この原因となった6本のボルトは下図の5になります。(画像クリックでReal.oemのサイトが開きます。
下図によれば、5 PN:07119919965 フィリスター ヘッド スクリューは2006年4月で生産中止、PN:07129905536に置き換えられています。
PN:07129905536は強度不足の対策品と言われていますが、実はBMWのいろんなモデルで使われている(モータサイクルでも同じネジが使われています)汎用部品への変更のようです。
この2006年4月と言うのが、Z4Mにとっては非常に微妙な時期なんです。
この2006年4月まで使われたこのボルトですが、ボクのZ4Mの生産月は2006年7月。S54を本国ドイツで生産してアメリカの工場へ運ぶのですが、S54の生産月とZ4Mの生産月にどれくらいのタイムラグがあるかが問題です。
ボクのZ4Mに使われたボルトは、旧部品PN:07119919965でした。新型部品のPN:07129905536はトルクス(ヘクスローブ)なので、明らかにボクの破損したボルトとは頭部が違います。下写真左が新型部品PN:07129905536、右が旧部品PN:07119919965です。画像クリックでリンク先へ。
S54は同時期作られていた量産車向けのM型やN型エンジンに比べて生産数はかなり少ないスペシャルなエンジンです。生産する以上はまとめて作らないとコストも下がらない品質も一定しないので、ある程度の数をまとめて作っていると考えられます。2006年度に作られたZ4MのS54は全てこの旧型のボルトを使っている可能性が高いのではないかと考えます。
ここで注意ですが、BMWの場合登録日と生産日は1年くらいは平気で違いますので、調べるなら、RealOEM.comでBMWのシリアルナンバー(車台番号)を入力することで生産月が確認できます。下記URL、です。
http://www.realoem.com/bmw/select.do
新しいボルトの詳細はよくわかりません。単にネジのグレードが上がっているのか?
http://www.turnermotorsport.com/p-12310-fillister-head-screw-updated-s54-vanos-mounting-bolt-07129905536.aspx
このボルトの件を話し合っているフォーラムを見てみると、12.9とか8.8とか言う数字が出てきますが、これはボルトの耐力を示しています。この数字は例えば12.9ですと、左の「12」が120キロまで切れないという強さを表します。これを「最小引張荷重」といいます。右の「9」が120キロの9割→108キロまでは伸びても元に戻るという強さを表しています(108キロを超えると伸びきって元には戻りません)。「8.8」だと80キロまで切れずに8割の64キロまで元に戻るという意味です。(フォーラムでは締付けトルクアップ出来るだけの話になっちゃってますが)
もし旧ボルトが8.8のグレードで対策品新ボルトが12.9になっているなら相当強化されていることになります。この辺はボクが調べてもわかりませんでした。
Official Loose Camshaft Bolt Survey Thread
http://www.zpost.com/forums/showthread.php?t=393391
このボルトの使い方は、ネジに要求される引張荷重(軸線に沿って互いに反対方向に作用し、その材料に引張りを与える荷重)だけでなく、靭性(粘り強さ。金属材料に打撃のような急激な力が掛かる場合に、その力に対して抵抗する強さの事)も要求されます。強く締めれたって、せん断に強くなるかどうかは別ですね。
このカムシャフトとVANOSを固定するボルトのせん断は全体数としては少ないです。なのでほとんどの方は心配する必要は無いのかもしれません。走行距離が多いほど出やすいとフォーラムでは言われています。
ボクの推測ですが、2006年生産のZ4Mには全てこの旧型のボルトが使われている可能性が高いのではないかと思います。距離が5万キロを越えているなら、このボルトの状態確認と新型ボルトへの変更を行ったほうが無難かもしれません。ただしシリンダヘッドを外す作業になるので工賃はかなり取られるでしょう。DIYで出来る方はぜひトライしてみてはいかがでしょうか?ギリギリで助かることもあるかもしれません。
ボクからZ4MまたはS54エンジンのオーナーへの提言。
まずは、オイル交換時のオイルの状態を確認して下さい。切りくず、切粉でキラキラしていたらこのボルトのチェックをしたほうがいいでしょう。ボクのS54は壊れましたが、切りくずほど大きいものは確認できず、まさに切粉がオイル中に漂っているだけでした。
エンジンを開けてみる以外には、オイル状態のチェックが出来る唯一の確認方法だと思います。(ヘッドカバー開けてこの箇所の打音検査って方法もあるかも?打音検査自体がノウハウが必要なので素人にはムリかも)ボクの場合は直前にオイル交換しても切粉が出ておらず全くわからなかったですが、それ以外の確認方法は事実上無いのでぜひチェックをオススメします。
せん断寸前で取り外した写真が下記です。どのようにせん断されるかよくわかりますよね。ボルトの締付けトルク、ゆるみの問題では無いのです。
Fix your lose VANOS bolts! LOTS O' PICS!
http://www.m3forum.net/m3forum/showthread.php?t=321494
このフィリスターヘッドスクリューには軸に大きな荷重がかかります。通常,ねじには軸と垂直方向の強いせん断荷重や曲げ荷重がかからないようにするのが機械設計の原則なのです。
実際には,せん断荷重や曲げ荷重がかかる場所に,ボルトなどを使わなくてはならない状況も多く、まさにVANOSとクランクシャフトの接合部はその状況ではありますが、もう少しマシな設計は出来なかったのでしょうか?最新型のVANOSではクランクシャフトとの接続部はどのような構造になっているのか非常に興味があります。
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S54B32 エンジンブローまとめ | クルマ
Posted at
2013/09/01 15:32:06