今年もそろそろ『土用の丑の日』がやってくる。
丑の日といえば、食材の『ウナギ(鰻)』だ。
日本では万葉の時代から珍重され、江戸時代には庶民も口にできたウナギだが、近頃の漁獲量減少と価格高騰はニュースにもなっていて世間の知るところである。
供給量が減れば価格も高騰するのは当然だが、TVなどを代表とするマスメディアの記事は「漁獲量が減った」、「価格が上がった」、「食べられなくなるのか?」などといったことが多い。
また、小売業にしても書入れ時とばかりに大々的に広告を打って消費行動を促す。
毎年春先になるとシラスウナギ漁の記事が出るのものだが、今年は3月に開かれた『ワシントン条約締約国会議』でニホンウナギが規制対象にすることが検討された。
幸い、今回は規制対象を見送られたが、今年7月からIUCN(国際自然保護連合)ではニホンウナギを含めた19種と亜種のウナギについて絶滅の恐れがあるかどうかを検討をし、秋頃までに評価をまとめるという。
IUCNの絶滅危惧種の指定に法的な拘束力はないが、ワシントン条約に強い影響力を持っているとされている。
今後の日本の行動次第では、3年後(2016年)の次回会議では対象となる可能性も高い。
もう、「不漁だ」とか「高いの安いの」などとは言っていられないのだから、マスメディアはもっと「資源の枯渇」ということに対しての問題定義を行ってほしいものだ。
現在、世界のウナギの約70%以上を消費しているの国がある。
ウナギ食文化は他国にもあるが、なんと言っても食文化としての最大消費国が日本だ。
日本でのシラスウナギの漁獲量は1963年に232トンのピークを境に年々減り続け、今年は5.2トンとも言われて毎年のように最低漁獲量を記録している。
また、天然の親ウナギは1961年の3387トンがピークで、2012年が230トンという減少だ。
ウナギの生態について、海からの回遊魚で川で成長し海に戻って産卵することは知られていても、近年になって産卵場所の一つが特定されただけで、今もって謎多き生物だ。
昭和初期から始まる稚魚であるシラスウナギを捕獲しての養殖は、1960年代に配合飼料が普及したことで生産・流通量を増やすも、それは卵からの完全養殖ではなく単に太らせるだけの”肥育”にしか過ぎない。
卵の孵化からの完全養殖も成功はしているが、非効率・高コストで商業ベースに乗せられる見込みは全く無く、研究者からも偶然の一致が幾つか重ならないと不可能とも言われるような現状。
シラスウナギを肥育して供給量を増やせても、稚魚も成魚も天然に頼っていることに違いは無く、稚魚も産卵可能な親ウナギも採ってしまえば減るのは明らかだ。
更に、台湾や中国、韓国にもシラスウナギの溯上があることから、20年ほど前から台湾に養殖技術を伝授。
それが近隣諸国にも伝わったことで、日本のみならず最初はまず台湾で、現在は中国での養殖が最も盛んになった。
シラスウナギの回遊ルート上の国々でも漁獲すれば、減少は更に急加速する。
しかし、台湾や中国ではウナギの食文化は無いため、生きたシラスウナギや成魚及び加工製品はお得意様である日本に流れることになった。
台湾、中国の養殖業者にとっては良い儲け口であり、日本の輸入業者(商社)は流通が増えて儲けを手にし、日本の消費者は安価に食べることができて利害関係は一致する。
昨今では夏場に限らずスーパーや安い外食チェーン店にコンビ弁当と、どこでも普通に売られている。
しかし、天然でしか頼れず、持続性の無い漁獲により「資源の減少」という警鐘があるにもかかわらず、日本中で薄利多売が続行されているのが問題だ。
国内のシラスウナギの漁獲量が減るということは、台湾・中国での漁獲量も同様であり、それを埋め合わせるためにターゲットをニホンウナギだけではなく欧米のヨーロッパウナギやアメリカウナギに目を付けた。
日本ではヨーロッパウナギの養殖で失敗(流通上という意味合いも含めて)するも、中国でヨーロッパウナギの養殖に成功したことから、中国がヨーロッパウナギの稚魚を買い付けるようになった。
1990年代半ばから、欧米に降って湧いたウナギブームにシラスウナギ漁師は降って湧いたように熱狂したという。
確かに、2000年前後は小売価格が非常に安かった記憶がある。
もちろん、ヨーロッパでもウナギの食文化はあるが、減り続けるニホンウナギの分をヨーロッパウナギが支え続けていたからだ。
結果、ヨーロッパウナギの乱獲となって個体数が減少し、2007年のワシントン条約の締約国会議で国際取引の規制が決定し、2010年にIUCNの絶滅危惧種リストで「近い将来の絶滅の危険が極めて高い種」に指定されてしまった。
次いでアメリカウナギについても同様に、ほとんどの州でウナギ漁が禁止されることになった。
ちなみに、スペインのバスク地方にはシラスウナギの伝統料理を食べる風習があったが、規制のためにこの伝統料理が食べられなくなってしまったという。
非常に高価となり、その代替品としてスケトウダラを原料にしたすり身でつくった偽シラスウナギを食べているという。
これは、日本のウナギ食文化が間接的にスペインのウナギ食文化を破壊したとも言える。
欧州では、ウナギ資源の減少が指摘されはじめたた80年代から、データの収集と研究を進め「どれだけの対策を取れば、いつごろ、どのレベルまで回復するか」といったシミュレーションまで行われ、
科学的な根拠に基づいてから2007年以降のウナギの資源保護対策のベースとなったという。
ウナギの最大消費国である日本の水産庁は、「詳しいデータが無い」という理由から特に規制をしてこなかった。
もちろんウナギの研究をしていない訳ではないが、国は資源保護よりも業界保護に熱心であり、資源保護の取り組みは遅々として進まず欧州との違いは明らか。
一応、鹿児島県や愛知県など一部の県では漁獲に対する自主規制もあるが、高値で取引されるとなれば密漁もかなり多いらしい。
肥育された個体の一部を放流して回復しようという試みもされているが、外来種(ヨーロッパウナギなど)も混ざっていることからニホンウナギとの交配も問題視されている。
減少原因には自然(海洋)環境の変化もあるだろうし、人為的に生息し難いような河川にしてしまったことも原因の一つであって乱獲だけが原因ではないが、原因の一番は、やはり『乱獲』であろう。
親も子も捕る現状であれば、乱獲と言わざるおえない。
今後更に『日本人がウナギを食い尽くしている』と言われないためにも早急にも保護対策が必要だ。
稚魚が成長して産卵できるようになるのには6~7年を要するというからには、最低でも5年、~10年は完全にシラスウナギと親ウナギの消費を絶つのが望ましいように思う。
しかし、ウナギ食文化の保存、業界保護の点からは完全に絶つことは不可能であるといえる。
特にウナギ食文化を絶やすわけにはいかないだろうし。
(欧州のウナギ食文化に影響を与えてしまってはいるが)
ウナギ資源の回復と保全には、我が国だけではなく、台湾や中国といった関連諸国とも連携は必要であり、実際に台湾とは協議もしているが現状はテーブルが用意されているだけで成果は出ていないのが現状。
日本での消費が極端に多いことを考えれば、行政のみならず日本国民が「No More Anguilla」として総消費量を減らすしかないと思う。
1.、シラスウナギ及び親ウナギの漁獲量を全面規制する。
2、養殖(肥育)業者は指定登録制。(新規参入を認めない)
3、シラスウナギ及び親ウナギの生体輸入は全面禁止。
4、ウナギの加工品は国内のみとし、加工品の輸入も禁止。
この位のことはしないと無理だと思われる。
こうなると、スーパーやコンビニなどには殆んど流通せずうなぎ専門店のみの扱いとなり、今以上に高価な食材となってしまうが、薄利多売な消費を抑えることができるのではないか。
これなら、ウナギ食文化とウナギ業界の壊滅だけはかろうじて避けられると思う。
うなぎ専門店ではウナギの枯渇は死活問題だが、商社やスーパーなどの小売店にウナギが無くとも死活問題では無いのだから、今まで大量に消費して絶滅危惧に向かわせていることからも、これくらいは必要だろう。
そして、行政の取り組みだけではなく、国民も意識を変えないといけないのではないか。
「質より量を、安いウナギを」という、薄利多売の消費者行動を助長するようなメディアのあり方も問題視する必要があるのではないか。
「中国が乱獲して…」などという意見も出そうだが、結局は回り回って最終的には日本で消費されているのだから、需要が縮小すればアジアでの漁獲や養殖も減るハズだ。
現在の中国との関係悪化などを考慮すれば、需要縮小はかなり効果を発揮すると思う。
とにかく、ウナギの全面規制は一刻も早く対応してもらいたい。
減ったニホンウナギと規制された欧州のウナギによる不足分を補うかのごとく、数年前からオーストラリアやマダカスカル、タスマニアなどの東南アジアからも輸入され始めている。
しかも、今年の4月にはジャワ産のウナギにも手を伸ばし始めているという記事も。
http://www.jakartashimbun.com/free/detail/10643.html
>日本のコンビニや流通業者から「早く届けてほしい」との要望が日に日に強くなっているという。<
このままでは、自国と欧州のウナギを絶滅危惧に追い込んでおいて、更に別の種類をも絶滅に追い込む可能性が非常に高い。
記事で紹介された方には申し訳無いが、商社やコンビニにはウナギが無くとも死活問題にならないから止めるべきであろう。
生態が把握できずに、持続性の限界も分からない資源を『乱獲のヒット・エンド・ラン』(下記参照)でウナギの全てを日本人が食い尽くすことになったら世界中の非難は免れないどころか、日本はおろか世界のウナギ食文化を破壊することになってしまう。
2005年にワシントン条約での規制が叫ばれ始めた頃、欧州のウナギ研究者からは「欧州のウナギのためにできることは殆んど無くなってしまったが、日本のウナギは、今、頑張ればまだ間に合うかもしれない」と述べていたという。
それから8年も経過して当時より更に悪化しているのだから一刻も早く対策し、種の保存というだけではなく、ウナギ食文化を持続させて、未来の日本人にもウナギの味を味わってもらいものだ。
【参考Link】
★井田 徹治 氏:共同通信社 編集委員
ウナギが食べられなくなる日
http://nationalgeographic.jp/nng/article/20120710/315512/
※『乱獲のヒット・エンド・ラン』は第三章に記載されている
★勝川 俊雄 氏 :三重大学 生物資源学部 准教授
http://katukawa.com/
http://twilog.org/katukawa
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★Apes! Not Monkeys! 本館
http://d.hatena.ne.jp/apesnotmonkeys/
※特に”ウナギ報道のあり方”について興味深い
【日本の漁業の問題点】
日本の漁業制度は、漁業そのものを自滅させている。
日本の近海から水産資源が減少しているのは、”早いもの勝ち、採った者勝ち”の「大漁=善」という図式に他ならない。
一部の魚種については漁獲規制はあるものの、それは「漁獲規制ごっこ」でしかない。
世界で初めて科学的な根拠を基にした漁獲個別割当て制を施行したことで持続可能な水産資源を得ることができ、且つ、儲かる漁業になっているニュージーランドとノルウェーを見習うべきであろう。
特に、EEZ(排他的経済水域)制定の頃はノルウェーも漁業に対する補助金の支出は日本同様だったが、現在のノルウェーは補助金どころか逆に4%の税金を徴収するという日本とは全くの逆である。
★片野 歩 氏 :水産会社 海外買付け担当者
シリーズ『日本の漁業は崖っぷち』
http://wedge.ismedia.jp/category/gyogyou
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