『最後の晩餐(前編)』
~これは僕が菅田先生の愛機を僕が譲ってもらった頃の話です~
菅田先生が愛機を僕に譲ったのには実は訳があった。あれだけ好んで乗っていたE38A RSを簡単と行かないまでも手放したのだから何かしらの理由はあって、当然とも言えた。
ただ、この時の僕には全く想像できるものではなかった・・・
ある日、菅田先生から僕のPHSに連絡が入り、いつもお世話になっている三菱のディーラーに来てくれとのことだった。そう、ここは僕自身もお世話になっているディーラーなのだ。菅田先生が三菱と言うメーカーに興味を持ったときからの付き合いである中島さんという方が今はここの店長である。僕も少なからずお世話になっているお方なのだ。
・・・余談ではあるが、この中島さんは菅田先生が知り合った当時、ディーラーメカニックをしており、少なくともメカニックとして将来展望があったと聞いたことがあるが、営業に入った結果、ご本人の意思はどうなのか解らないが店長になったのだ。・・・
そんな関係の中、菅田先生と僕は新小岩駅で待ち合わせをし、菅田先生の愛機で三菱のディーラーへと向かった。中島さんがいつものように僕らをテーブルに案内し、僕らもいつもどおりそこに座った。
中島「コーヒーでいいかな? ちょっと待っててね。」
そう言うと、中島さんは奥に引っ込み、女性の方がコーヒーを用意してくれた。
中島さんが1枚の紙を持って奥から戻ってきた。
テーブルに置いたその紙をよく見てみるとそれは商談後の契約用紙だった。
「先生、車買うんですか!?」
菅田「実はね・・・(笑)
予算的に厳しく新車なんて考えられないと言った菅田先生が、ギャランをメンテナンスして長く乗るんだといったあの菅田先生が新車を今ココで買おうとしているのだ。
僕はなんとまぁ、あっさりとその場に連れて来られてしまったことにぐうの音も出なかった。
「なんてことだ・・・」
ようやく事態が飲み込めた。車を全く買う気ないと言っていたことを素直に信じていた僕が馬鹿だったのか!? ・・・いや、そんなハズもない。きっと菅田先生が愛機を受け渡すだけ心を動かす何かがあったに違いない。僕はそう思った。
驚きの気持ちを隠せず、ドキドキしながら契約書を遠めに盗み読みしてみた。
「ラン・・・?」
「先生、ランエボ買うんですか!? えッ! マジで!!??」
流石にこれは驚いた。なんとGroupA最終型の通称エボ6.5と言われる車で、当時のワークスチャンピオンドライバーのトミーマキネンの名前が冠になっているターマックスペシャル仕様の車だった。
僕がただただ驚いたのには実は他にも裏づけ的な理由がもうひとつあった。
以前、僕が車に興味を持ち始めた頃、ランエボ5がデビューすることがキッカケで初めて『ベストカー』という雑誌を買った。
ランエボは文字通りの進化系マシン。常に進化を続けるマシンなのだ。そんな中にあって、今回のエボ5はニューボディになってからの第2弾。おまけにこの時代では古風とも言えるボクシーなオーバーフェンダーに3ナンバー。ダンデライオンイエローと言われる眩しい黄色をイメージカラーとして鮮烈なデビューをした。
僕はメカに全く興味を示さず(多少は覚え出したが基本的にそれは今も変わらず。)ただただその勇ましいスタイリングに惚れ込み、それこそ馬鹿みたいにアイドルの写真集を見るかのごとく読み返して、もうその雑誌はボロボロになりかけていた。
当然、僕はそれを菅田先生に言わないわけもなく、例によって職員室に行き、話を聞きに言った。
「菅田先生、知ってます? 間も無くエボ5がデビューするんですよ。」
菅田「いやぁ、流石に今回のエボには心が動いたよ。でもあめーナ、もう既に見積もり出してもらっているよ。」
ちなみに「あめーナ」は菅田先生の口癖で、生徒に自慢し返す時などに良く使っていた。
「えッ!? もう見積もりしたって? 買うの??」
菅田「いや、まだ買うなんて決まってないよ。かみさんに相談してみないとな。買いてーけどな。」
・・・そんなやり取りがあり、結局この当時、菅田先生は色々と諸問題もあってか買うのを諦めたらしい。
な・の・に! TMエディションのエボの契約を今、それも僕の目の前でやっているのだ。ありえね~と思った。僕は菅田先生にやはり質問してみたくなった。
「あれだけ新車は買わない。・・・っていうか、買えないと言っていたのに、どうして買えるようになったの?」
今にして思うといかにも生徒らしい、超ド級の失礼な質問なのだが、菅田先生は普通に答えてくれた。
「そりゃ、説得するのは大変だったさ。まずはな、かみさんに向こう10年車を維持するのにギャランだとこの先、色々金がかかることを話し、今回新車を買うことによって10年間車をまた維持出来るじゃない。あとね、こんなランサーはこの先もう二度と出ないと思う、最後の『ランサー』なんだ。そう言って説得しきったよ。」
僕はそれを聞いて心の中で実にウケた。何故なら、きっと、理由は後者の方が菅田先生本人にとって遥かに重要であって、買うことへのプロセスに『説得』があったに過ぎないのだな。と思えたからだ。
しかも、契約したその車は三菱ディーラーにあるストック最後の1台。しかも『RS』。
これだけでもマニアな菅田先生らしいのだが、更に予算の都合もあってか?ルーフが薄板仕様になっていたり、リアスポがなかったり、サイドスポイラーがなかったり、エアロというものが全くなかった。リアから見たソレは一見すると商用車っぽくも見え、ド太い重低音のマフラーからソレと判断できるような怪しい仕様だった。実際確かに『RS』にすることによって『GSR』より100kg近く違うと聞くし、値段も簡素な分安かった。
なるほど、菅田先生らしい合理性と言えた。
数日が過ぎ、納車の日となった。納車の日は僕が同時に菅田先生の愛機、E38A RSの2代目オーナーとなる日でもあった・・・
Posted at 2006/11/12 03:38:19 | |
トラックバック(0) |
菅田伝説 | 日記