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2020年02月22日

物語A204:「リベンジ戦」

しかし、必死に丘を這い登るゴメリー中尉の足首が力強く握り締められた。
その痛みを伴う握力を足首に感じとる間もなく、乱暴に下へ引っ張られて、ゴメリー中尉は雪の斜面に虚しい爪跡を幾筋も残しながら一気に引きずり下ろされた。
目の前の崖の縁が瞬く間に遠のいてゆく。
急ぎ振り返ればそこにはトラウマの主要因であるろう長官の無表情な厚顔が迫っていた。
意識を取り戻したろう長官もゴメリー中尉の後を追って丘の斜面を這い登って来たのだ。
その迫ってくる厚顔を見るなり、ゴメリー中尉の胸中に分厚い胸の壁が淡々とした陣太鼓の音と共に押し迫ってくる恐怖体験が鮮明に蘇る。
幻聴と判っていながらも耳の奥で陣太鼓が単調に鳴り始めた。

足首の次に脛を握られ、膝を掴まれ、太腿にろう長官の手が伸びてくる。
ろう長官の巨漢の下にじわりじわりと体が手繰り寄せられて消えていく光景を前に、抗う事を忘れたかのようにゴメリー中尉は体を硬直して茫然とその先行きを眺めていた。
ふと、ごつくて重いハト胸に足先からゆっくりと体も骨も無残に押し潰されていく光景を思い起こして恐怖し、体が痙攣した。伸びてきた手に太腿を掴まれる。
ぐいとさらに引き寄せられ、鳩胸式プレス機に体が吸い込まれた。
ろう長官の厚顔に埋もれている二つの目に笑いの光が見えた。
こうやって、長い時間をかけて弱者をいびる事に快感を覚えるサディスティックな顔であった。
その快感に口の端から涎を垂れ流していた。

傾いて沈みかけた船上で、顎にずらりと並んだ白く鋭い歯を持つ巨大鮫の大口に滑り落ちるシーン、プレス機の中で潰されるロボット骸骨の冷たい真っ赤なガラスの目が睨みつけるシーン、垂直になった船の甲板という壁を滑り落ちるシーンなどなど、数々の映像を思い出して、脳内を横切っていく。
軽く起こした恐怖の痙攣でゴメリー中尉の理性が完全に飛んでしまった。

「おん×にょぉ☆?れめぇ~!♪×☆ぅ◇?」とゴメリー中尉は奇声を絶叫するなり、両足を激しく振り回してなんとか片足を強引に振りほどく。
振り解いたその足でろう長官の無表情な厚顔を激しく何度も蹴りつける。
悪夢の中に居るかのように、何度蹴りつけても消えない厚顔をゴメリー中尉は闇雲に夢中で激しく蹴り続けた。
厚顔が歪んだ時、足首を掴む力が緩むのを感じとれた。
ゴメリー中尉はその隙に掴まれたもう一方の片足をろう長官の束縛から振りほどく。

その片足を振り解く事で注意を逸らした隙にろう長官の厚顔の口がパックリと開くと、蹴りがほんの僅かに止まった隙にその足を足首までバクリと咥え込んでしまった。
ゴメリー中尉は泣き顔で今度はその足を振り解こうとするが、がっぷりと喰いついた口からはなかなかに振り解けない。
口中に一度取り込んだ獲物は絶対に吐き出さないという鮫のような執念深さだった。

「くぉのや★ろう!こんちくしょう!は♪なせ!はなせ!」。
ゴメリー中尉は解放されたもう一方の足でろう長官の厚顔を蹴りつける。
先ほどまで力強く掴まれていたので、足が少し痺れていたので蹴る力が若干弱まっていた。
だが、俊足の蹴りは衰えていない。
蹴り続けてやっとの思いで厚顔を蹴り飛ばして、ろう長官が積雪の上をずり落ちていくのを確認すると、ゴメリー中尉はワンワンセブン高地の頂上に向かって必死に這い上がった。

そして、高地の頂上がゴメリー中尉の目の前にあった。
だが、またもや足を、それも両足を掴まれて引きずり下ろされる。
「くぉ☆わぉ~!!」意味のない叫びがゴメリー中尉の口から迸り出る。

体を回転させて足元を覗くと、そこにはまたしてもろう長官の無表情な厚顔があった。
厚顔が少し歪んでいる。
目の周辺、特にまぶたあたりは不気味に腫れあがっていた。
その為、厚顔の顔の不気味さが前以上に増していた。
ゴメリー中尉はその顔に思わず悲鳴を洩らすところであったが、かろうじてそれを口中に押え込み胃の腑に呑み込んだ。

ろう長官の顔を再び執拗に蹴りつける。
そして、足を掴む力が緩むと振りほどき、頂上へ向かって必死に這い上がって行く。
雪に阻まれ、雪の下の濡れた下草に手足を滑らせながらも必死に這い上がる。
頂上まで後少しだった。
だが、悪夢を見ているように前に進まない。
しかし、追いすがって来る悪夢はもっと執拗であった。
後少しで高地の縁に手が届くところで来たと思った時、またもや後ろに引っ張られてしまうのだった。

ずるりと体が滑り落ち、またもや高地の縁がみるみると遠のく。
振り返ってみるとそこにいるのはやはりろう長官の厚顔であった。
顔の目の上の瘤は先程より一層腫れあがり、目の半分を圧し潰している。
紫というより、血の色に近い斑点上の紫斑がその青黒い瘤を覆っている。
「ヒィッ」。
その顔を目の当たりにしたゴメリー中尉も今度ばかりは悲鳴が呑み込めなかった。
醜く歪んだろう長官の口の端が耳にまで届くように裂けており、その口中では真っ赤な舌がぬめるように蠢き、隙間からは白く長い鋭利な永久歯が剥き出ていた。

ゴメリー中尉は恐怖のあまり、ついに手中にあった折れて柄だけになっている愛扇をろう長官に思い切り投げつける。
手から離れた愛扇は宙を勢いよくくるくると回転しながらろう長官に向かって飛んでいく。

張扇の柄の部分、それも角の鋭角な部分がろう長官の額に直撃した。回転力が更にその衝撃を増している。
ゴツッと鈍い音がすると、能面の様なろう長官の額が割れて、血がブッチャーと飛散し、顔に幾筋もの血の跡を残していく。
柄の当たった所はみるみると腫れあがり、幽霊の始祖、その業界の頂点を極める「お岩」様を凌ぐほどの不気味な顔でろう長官はゴメリー中尉をぐるりと突き出た目玉を一回転するかのように白目を見せて回し、下から睨み上げてくる。

その禍々しい視線にゴメリー中尉は狂喜の一歩手前まで引き込まれてしまうが、作戦遂行の使命感のみで持ちこたえ、顔を無理に逸らして必死に這い登った。
後ろから不気味な音を立てて這いずりながら迫ってくるろう長官の血まみれの顔が瞼の裏側にはっきりと見える。
もし仮に、ここに服部貞子と猿鳶伽椰子が居て、そのろう長官の姿を見れば躊躇わずに弟子入りをしていたろうと思われる。
さらに、その業界に君臨するお岩も一段下の畳で三つ指を突いて平伏すであろうとも考えられた。

(ちょっとまて!お岩さんを下手に肴にすると後々までこってりと祟られてしまう。
これ、この業界の統一見解。という事で、紙上参拝である。
「お岩さん!あんたは・・・エライ!」)

しかし、ゴメリー中尉のその恐怖は空回りであった。
ろう長官は額から飛び散った血が雪原を染めているのを見て意識が遠くなり、その場にフリーズしていた。
自らの血で失神したのである。
降り続ける雪片がその動かなくなった体に貼り付いてゆき、真の雪だるまとなって凍りつくのも時間の問題であった。

ゴメリー中尉にそのろう長官の雪だるま状況を知るすべはない。
恐怖のあまりに目線は真一文字に真正面にしか向いておらず、後ろを振り向いてITを見るなどとは思う事すらできなかった。
弱々しく手を伸ばし、前方の雪を掴み、重い体をずり上げる。
単調な動作を繰り返す機械仕掛けのパワーセルロボットのように高地の斜面をズルリズルリ這い上がって行く。
時折、崩れた雪の塊が顔に向かって転がり落ちてきてゴメリー中尉の邪魔をする。
それを意に介さずに上に向かって腕を伸ばすゴメリー中尉。
その腕に救いの手はどこからも差し伸べられない。
寒さと直に掴む雪の冷たさで手がかじかんでしまい、感覚もほとんど失くなっていた。
それでも、背後のITに恐怖しながらも必死に這い上がり続けて、ついにゴメリー中尉はワンワンセブン高地の縁に手を掛けた。
そして、持ち上げた片目で縁から高地を望んだ時、IT′s、二つのアニマルな影を見て、目の端がピクリと吊り上がった。
ゴメリー中尉の惨苦は尽きる事なく続いていた。

-- 灰色猫の大劇場 その12 ----------------
灰色猫が玉座に座っている。
リンゴを持った蛇が柱の影から玉座を狙っている。
玉座を前に通りすがりの神様が居た。

通りすがりの神様は王様である灰色猫に「・・・・・」と願?・・・無言であった。

柱の影でリンゴを持った蛇が何故自分にリンゴが持てるのかと悩み始めた。
灰色猫は玉座から通りすがりの神様の言動を期待していた。
だが、通りすがりの神様は無言だった。

掌のリンゴを見つめる蛇が柱の影に居る。
短気な灰色猫が通りすがりの神様を睨む。
でも、通りすがりの神様は無言であった。

手のある自分は蛇なのかと疑問を持つ蛇が居る。
玉座の肘掛けに爪を立てて軋ませる灰色猫が居る。
やはり、通りすがりの神様は無言であった。

自らの存在を疑い始め、苦悩する蛇が居る。
頭に血が上り、真っ赤な目をぎらつかせる、爆発寸前の灰色猫が居る。
それでも、通りすがりの神様は無言であった。

自分の体を首に巻いて、首吊り自殺をしようとする蛇が居る。
血が脳に充満させたあげく、失神してしまう灰色猫がいる。
つまり、通りすがりの神様は無言であった。

「あ」と一言を上げ、顔を真っ赤にしてそのまま無言で退場する通りすがりの神様が居た。
アドリブが言えない神様であった。

蛇は実は龍であった。
そして、救急車で灰色猫と共に運ばれて行く。

--続く
この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。
この物語の著作権はFreedog(ブロガーネーム)にあります。
Copywright 2020 Freedog(blugger-Name)
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Posted at 2020/02/22 22:07:10

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