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2021年02月05日

物語A213:「突貫」

「第32装甲私団」と「45独立特化組」の1対1の過激で醜悪な戦いは、森に隠れてこの戦いの行く末を見守っている黒田大尉にとっては、全く先行きの見えない不毛で気長な「終わりなき戦い」として見ていた。
大尉はこの状況に焦れていた。
かといって、目的の第一拠点にはまだ程遠いいこの場所で進軍の邪魔な蛮族を蹴散らす為だけの小競り合いならばともかくも、蛮族の群れ、それも二つの大きな群れを蹴散らす為にここで大規模な戦闘を行いたくないと黒田大尉は考えていた。

これから先に多くの障害があろうと推測できる行軍路の出発点に近いこの場所で、戦力の多くを失ってしまえば、さらにこの先遭遇するであろう同規模の敵をの事を考えてしまうと、確かに今の部隊が戦力豊富な大部隊であるとはいえ、手持ちの残存戦力が直ぐにでも乏しくなってしまうのではと心細くなるのだ。
この行軍路の最終目的であるD村襲撃の暁には数少ない部隊になってしまい、かなりの苦戦を強いられるのではないかと不安を覚えてしまうのである。
この戦力の僅差で返り討ちに会う事も考えられた。
そういった事態を避けるためにも、出来うるだけの戦力を温存する為に無用な戦いは避けたいのである。
黒田大尉にとって先はまだまだ長い

黒田大尉の願望はこの場を小競り合いも無しに静かに無難にやり過ごしたかった。
だが、広場の戦いを迂回するにしてもその広場自体があまりにも広すぎるのである。
見つからずに森の中をこの広すぎる広場の縁に沿って迂回するにはかなりの時間を無駄にする事になってしまう。
そして、この遠回りの回避行動を行っている合間にマクレン大佐が追い付いてきてしまう恐れが十分過ぎる程にあった。

次の手として、戦いの場から少し離れた広場を隠れて横切る方法も考えられた。
だが、身を隠せる様な遮蔽物は見渡す限りこの広場には皆無である。
足元に生える背の低い下草が広大な広場を覆っているだけであった。
その下草の中に四葉のクローバーを見つけようと新米村民兵が虎視眈々と狙っている。

敵の目から隠す為の遮蔽物として各村民兵が草木を背中に担いで進む事も考えられる。
しかし、この大きな大部隊の各村民兵が背中に背負って動く姿は傍から見れば大海原を甲羅に森林を背負った強大な海亀がワッシャワッシャとバタフライで泳いでいる事と同じに目立つ事である。
自分らの戦いに夢中になっているとはいえ、そのような巨大な海亀が横をかすめて動くのである。
どんな低俗の蛮族にも見つかってしまう事はあまりに簡単に予測できた。

とにもかくにも、このだだっ広い広場をこの大部隊で進むという事は蛮族に見つけてもらう事を前提にしている事と同じであった。

最後の儚い手、全く期待できない手として、この二大勢力の戦力がこの戦いで目減りして、小規模になった時を見計らって攻撃を仕掛けて蹴散らす事も一つの戦法として考えられる。
だが、この蛮族の戦い方ではこちらの都合のよい程の戦力までに目減りするのを待つという事と戦いの勝敗が決する事を待つということとはほぼ同義語であってあまり大差がない。
共に時間がかかるという事だった。
マクレン大佐の追尾を気にかけなければ勝敗を待って蹴散らしてから通過する事も真剣に考えるが、この様子では幾日もかかり、賢明な手ではない。
蛮族の勝敗はどうあれ、蛮族のこの戦いにいつまでも付き合う事はマクレン大佐に追いつかれるどころか追い抜かれる事が考えられるので問題外であった。
黒田大尉には悠長な時間が無いのだ。

このままここに居てはマクレン大佐に追いつかれてしまうと思うと、マクレン大佐の発するオーラに絡めとられている感じがして、大尉はいよいよ焦れた上に困り果ててしまった。
マクレン大佐ならばこの場でどう判断するだろうかと、ふと思ってしまった自分に大尉は苦笑してしまう。
自らが決断しなければならない。

大佐に追いつかれた時、大尉の指揮権はいとも容易く奪われてしまう。
軍という組織である以上、現場での最高位が覇権を持つのだ。
それが普通なのだ。
戦闘時であれば、尚更の事である。
そうなると、大尉には今までの様に大佐に顎で使われる日々だけが待っているのである。
せっかく手にした大尉にとっての栄光と自立のチャンスは手から零れ落ち霧散霧消してしまうのだ。
頂点に立ち自由な身となっている今の大尉にとってその事態は絶対にあってはならない事であった。
そして、この優位性を維持しなければならない。

こうやって思い悩み考えている時間も惜しかった。
黒田大尉の時間は刻々と消化されてゆく。
待機も回避も不可能だと大尉は悔しいが結論づける。
だとすれば、残る選択肢は多少の損失はあっても攻撃以外に手が無い。
戦力の温存を前提にして考えるならば奇襲攻撃を行い、慌てふためく蛮族の群れを素早く突貫するしかないのだと大尉は心中で叫んだ。
そして、まだ敵方に存在を気取られていない今のこの瞬間が奇襲攻撃に千載一遇のチャンスである。

四葉のクローバーを狙った新米村民兵が広場に体を半身乗り出して腕を伸ばしている。
その四つ葉のクローバーは「45独立特化組」チアリーダー達の軽快に響きを立ててステップする太い足元にあった。
新米村民兵の手先のみならず腕そのものを踏み潰されてもおかしくない状況である。

奇襲で敵が浮足立って混乱している間に素早く突破するのである。
その後、追い打ちを掛けけてくる敵兵に対し殿軍を残してゆくのである。
殿軍とは撤退時に背後から襲い掛かってくる敵を迎え撃ち、背を向けて逃げる味方を安全に撤退させる部隊である。
織田信長撤退のおり、この殿軍の主将として豊臣秀吉・徳川家康という両雄が立って敵に相対したといわれている。
それ程に残る殿軍の将は有能でなければ成しえないのである。
また、この任を承る事は戦国時代の武将にとってはこのうえない名誉なのである。

四葉のクローバーに後僅かで届きそうな腕がチアリーダーの足に踏み潰されそうでもあった。
危うし、新米村民兵である。
黒田大尉にとっては敵に気取られる危機が迫って来る。

奇襲で敵兵が混乱すればする程に残すこの殿軍も僅で済み、戦力の目減りを押さえる事が出来てこの大部隊を維持できる。
信長を逃がす為に、秀吉と家康の両雄を残すのでなく、どちらか一方で良い事と同じである。
黒田大尉は奇襲による突貫攻撃を決心すると、次に蛮族の群れのどこを責めるかが最も効果的なのかを考えた。
その黒田大尉の腕の中で四葉のクローバーの新米村民兵の息がか細くなっている。

広場にたむろす北方蛮族「第32装甲私団」と「45独立特化組」の陣容は、互いの代表の列が向き合う部分を蝶の体に例えると、大きく広げて花に止まる蝶の羽が有象無象の蛮族の集団であった。
この陣の外殻を辿れば鳥雲の陣と鶴翼の陣を合わせた形の陣にも見える。
成程の陣容であると大尉は勝手に解釈して感心するが、欠点はこの両翼の翼が覇権を巡っていがみ合いをしている最中であるという事だ。
つまり、陣の中央に突撃してくる敵を、この両翼が連携して動き、タイミングよく敵を覆う事が出来ないという事であった。

中央で戦う2列の行列には先ほどのデスニードルの強者兵が居るという事実がある。
覇権を掛けての両軍の代表者が中央でどつき合い、1対1で闘うのだから当然のこと両軍それぞれ強者が列の中に選出されるのが当たり前なのだ。
つまり中央の列にはかなりの強者が揃っていると見て取れる。
だが、その反面、その数は少ない。

それぞれの列の後方で興奮して応援している有象無象の蛮族兵は個々のアタック値は中央列内の強者兵よりも低いだろうが、その群れを突貫するにはあまりにも密であり厚みがある。
「第32装甲私団」側の兵士は整然と整列しており、頭から足先まで統一した突撃服に身を包む兵達である。
見る限り、反撃は組織的に整然と行われるであろうと考えられた。
その反撃行動も素早いに違いない。
そうなるとこちらの突貫攻撃が手間をとるかもしれない。
仮に突貫攻撃に時間がかかると中央の強者兵らが参戦してくる。
それも側面からである。
悪く見積もって後方からだ。
味方兵が押し潰される可能性は高い。

相対する「45独立特化組」側の後方部隊は整列とは程遠く離れており、ほとんど勝手気ままに群らがっている。
突撃服も揃った物は無く、各々まちまちで気に入った戦闘服を身に着けている有様だ。
この蛮族兵達の様子からだと組織的反撃はないと推測できる。
だが、どの戦士を見ても代表としては選ばれてもおかしくない程に肉弾戦には喜んで自ら飛び込んで行く強者としか思えない程の粒揃いであった。
組織立った反撃は無いが、個々の蛮族の抵抗は「第32装甲私団」よりも強力である思われる。
組織性が無いだけに勝手気ままに行動されて、瞬く間に収集できない乱戦状態を起こしてしまう事が考えられた。
そうなると、「ヒホンコー部隊」も乱戦状態になって乱れてしまい、足踏み状態になってしまう。
中央の強者兵が動いて同じ結果が待つことになる。
どちらの蝶の羽の群れに攻撃を仕掛けても、そこで手間取ってしまう結果となり、中央の強者に反撃するチャンスを与えてしまう。
大尉はそう読み切った。

3カ所択一だった。1カ所は超強固だ。鉄の壁である。
残り2カ所は生垣だが挟み撃ちが待っている。
どこを狙って攻撃すれば良いのか、大尉の悩みは深くなっていく。
そう悩みながら、マクレン大佐ならどこを選ぶかと考えてしまう大尉であった。
大尉は大佐の影から一歩も踏み出せないようだ。

そして、大尉はついに鉄壁である中央突破を決心した。
鉄壁だが、鉄の塊ではなく暑さ1mmの亜鉛メッキ鋼製波板だ。
台風の強風でよく空を駆け巡っているあれだ。
壁を破る必要はなく、押し倒せばよいのだった。

中央部分の蛮族達は両軍から選抜された強者である。
しかし、その数は少ないうえに、目の前の戦闘に闘気の全てを向けている。
奇襲攻撃で不意を突けば慌てふためき混乱するに違いない。
正常な判断をする前に、この大軍で押せば小さな穴ぐらいは切り開ける可能性が高い。
さらに、運良く敵部隊の分断が叶い中央に自軍が溢れれば、それぞれの後ろに控える有象無象の敵は自軍が大きく減ったと錯覚して恐怖するかもしれない。
混乱が混乱を招き、結果的に追撃する部隊も少なくなるし、僅かな殿軍で蹴散らして追い返す事が可能かもしれないのだ。
そういった都合の良い副産物も考えながら、列同士の決闘の合間の僅かな隙を突いて素早く攻撃し突き抜けて反対の森へ逃げ込むのだと黒田大尉は決意した。

それを叶う為に、黒田大尉は中央の薄い部分を蜂矢の陣で突貫する事に決めた。
矢の先端で隊列を深くえぐり、矢じりの両翼で押し広げ、柄の部分に連なる部隊の圧で一気に突貫させるのである。
これはまさに鳥雲の陣と鶴翼の陣の翼で囲んでください誘っている陣でもあった。
だが、蛮族の両翼の軍が互いに争っており、連携した動きが出来ないと思われる。
この連携の無さが黒田大尉にとってはとても優位な事であり、この陣形を選んだ理由でもあった。

それでもかなり危険な賭けである。
中央突破に手間取ると、その隙に体勢を立て直した鶴翼の陣が閉じて簡単に包囲されてしまう。
包囲されてしまえば袋の中の蛸だ。
蛸殴りの運命しか待っていない。

大尉は強く念じていた。
これから先は素早い動きだけが勝敗を決めるのだと。
大尉は自らを奮起させる。
すべての攻撃がスピードだけでその良し悪しが決まってしまう。
争っている蛮族同士が共闘する前に素早く突貫するしか道は残っていない。

黒田大尉は広場の北方蛮族の果て無き闘いを慎重に観察しながら、この時以外に無いという程最高の奇襲突貫攻撃のチャンスを伺った。

ドッコオ~ン~~。
突如、衝撃音が森の中を鞘走った。
敵の代表が、中央で互いに激しくぶつかりあったのだ。
サイのような巨体の両雄が共に列を離れるなり猛突進してタックルをかけるという激しい肉弾戦であった。
筋肉の塊のような巨大なマッチョな二つの肉体が中央で激突し、がっしりと組み合う。
激突の衝撃波が下草を揺らし、逃げる蝸牛の家族の頭上に降り注ぐ。
激突したまま、動かざること山の如しの様に肉の塊が一時停止した。
厳つい顔同士が今にもくっつきそうに向き合っている。
発禁書にも成りそうな程に二つの唇が危ない状況だったが、その前におでこ同士がぶつかり合っている。
お互いの額から一筋二筋と血が滴り落ちる。
相撲の「ぶちかまし」が、肉同士のぶつかり合いと同時に行われていたのだ。
時の静止状態が続いた後、スローモーション映像を見るかのように片方が押しに負けて片膝をゆっくりと地につけてしまう。
その後、「ぶちかまし」の衝撃で割られた額から血を噴き上げながら、一つの巨体の上半身が地面に向かって沈みこんでいった。
この勝利の瞬間に勝ち組の歓声が森を揺るがすかのように沸き上がった。

今だ。黒田大尉の目が光る。

攻撃のタイミングを見計らっていた大尉は森に潜む「ヒホンコー部隊」全員に広場で湧き上がった歓声に負けずに突撃の命令を大声で発した。
命令と同時に黒田大尉は長柄刺股を振りかざして中央の列に向かって突っ込んでいった。
その後を追って「ヒホンコー部隊」が続く。
部隊の標準兵器である長柄ピコピコハンマーが、「第32装甲私団」と「45独立特化組」の頭上に情け容赦なく炸裂する。

ピコピコピコピコぼこピコぼこゴチピコ。
ピコ。

広場一帯がその音で埋まった。時折、不良品が混ざっていたらしく、先端のハンマー部分が外れて木の柄が直接、頭を殴ってしまう不協和音が混ざっていた。

ピコピコピコピコぼこピコピコゴチッボカッピコピコ。

新米村民兵の中には面白がってわざと先端のハンマーを外すという外道が居るようであった。

地下の住処を散々に荒らされ、引越しを余儀なくされていたモグラ達がこの機会を利用して一挙に攻勢に出た。
逃げる北方蛮族の足や首だけに留まらず尻や腹、頭や顔に噛みついた。
だが、頭に齧りついたモグラは不運であった。
長柄ピコピコハンマーの餌食になったのである。

黒田大尉が標準装備として準備した長柄ピコピコハンマー。
一見すれば冗談のような武器であるが、実に稀にみる程の強力な武器なのである。

長い柄の先に付いているだけあって、普通に振り下ろしただけでも先端の速度はその柄の長さに二乗比例して異常に速くなる。
移動距離は半径の二乗Xπ(3.14)という円の全周360度に対し振る時の変位角度分なのである。
そして、頭蓋に衝突した時のその衝突エネルギーは当然、重量X速度X速度÷2となる。
速度の2倍でなく、自乗倍なのである。

例えて言えば、昔々の戦国時代の長槍は雑兵が振っただけで、どんな武将の兜をも叩き割る程の威力があり、戦には絶対に欠かせない武器、むしろ大活躍する強力な武器だった。
比較して短い刀やどうたぬきといった類の刃物の比ではないのである。
それらは乱戦時の接近戦で活用されるが、戦場での接近戦はあまり無く出番は少ない。
乱戦ともなればその刀を唯闇雲に振り回すだけに使われるので切れ味などどうでも良い。
故にこん棒のような芯の強力などうたぬきが使われるのだ。
かの織田信長も、鉄砲とは別に三間半(約6.4m徳川秀吉は三間)槍という長い槍を雑兵に装備させて敵を圧倒したと言われているのである。
鉄砲の目新しさの影に隠れていた、実に強力な武器なのである。

長柄ピコピコハンマーは一見ピコピコハンマーであるものの強烈な武器であった。
その先端のハンマーを外すという事は冗談とはいえ、言葉に言い表せない程に過激で危険な行為である。
良い子は絶対に真似をしてはいけない。
そのハンマーの嵐は広場を覆いつくす。
モグラ達も負けてはいなかった。

ピコピコピコピコぼこピコゴチピコがぶっピコ。
ピコピコ。
ピコ。
ガリッ、ピコ、ボコ。
延々と続くのである。

このピコピコハンマーの嵐の中で、黒田大尉だけは長柄の刺股で次々と敵を引っ掛けては吊り上げて、「うぉっせい!」と気合を入れては遠くへ投げ飛ばしていた。
その都度、ヒホンコー部隊の新米村民兵から喝さいが沸き上がり、破顔した大尉はさらに得意気になる。
所謂、大尉は「調子に乗っていた」のである。

ピコピコガブピコピコバコッピコピコうぉっせいピコやんややんやピコゴチッピコピコガリッボフピコピコ。

「第32装甲私団」と「45独立特化組」の荒くれ集団の頭上で多少の不協和音が混ざるものの無情に鳴り響いていた。
絶え間ないこの連続攻撃にバルター・モデル中佐とジンケス・カン親分は溜らず、頭を押さえて逃げ出した。
どの蛮族よりも真っ先に、それも互いに先を競いながらであった。
もしかしたら攻撃のあったその瞬間から逃げ出していたと言っても過言でないかもしれない逃げっぷりである。
指揮官と親分が争う様に逃げ出すその姿を見て、「第32装甲私団」「45独立特化組」の蛮族も反撃する事すら忘れて頭を押さえ、泣きながら一斉に逃げ出すのである。

北方蛮族のこの一斉の逃避行動は黒田大尉の思い描いていた動きとは全く違う予想外の動きであった。
想定外というものだ。
マクレン大佐に言わせれば想像力が無いの一言である。
突貫攻撃を阻止すべく押し寄せる敵を薙ぎ倒して、逃がすものかと追いすがる敵を打倒すつもりでいたが、相手の部隊がこちらの部隊の動きに合わせて一斉に森へと逃げ出したのだ。
突貫どころか汚れた床をモップで綺麗に拭きとるように敵部隊を押していく掃討戦になってしまった。
現に蜂矢の陣の先端の矢じり部分は大きく開き、陣形はモップの形に成していた。

見た目に恐ろし気だった敵が慌てふためいて頭を抱えて逃げ出すこの状況にヒホンコー部隊の新米村民兵の面々は「哀」から「喜」へと気分が反転し調子に乗った。
逃げる敵を追いかけるのは、自分の身に痛みが無いだけにやはり楽しいのだ。

モデル中佐とカン親分を先頭に「第32装甲私団」と「45独立特化組」の兵士は、広場の反対の森の中へ逃げ込んでいった。
黒田大尉は森に次々と逃げ込んで行くその敵の姿を見て、「成程。敵ながらにあっぱれである。」と敵の指揮官を褒めていた。
大尉は敵の指揮官が長柄ピコピコハンマーを見るなり素早く弱点を察して、主戦場を森に移したと即断したに違いないと思った。

戦術的に森で戦うという事は長柄ピコピコハンマーの柄が森の中を覆う木の幹や枝に当たって邪魔になり思う存分に振り回せなくなるのである。
従って、その威力は充分に発揮されない。
むしろ戦いの邪魔物となって逆にそれを操る兵士達の足を引っ張ることになるのだ。
敵方は武器が使えなくなるようにしておいて、辛辣な反撃に出るのだと大尉は予測した。
しかし、大尉は更なる秘策を持っていた。
好きなだけ森に逃げ込むが良いという気持であった。

長柄ピコピコハンマーの柄は伸縮自在であった。
柄を短くすると威力は半減するが森の中でも自在に扱え戦えるようになるのである。
長柄ピコピコハンマーの柄を短くし、短槍ピコピコハンマーに切り替えた「ヒホンコー部隊」の欲望を満喫させる嗜好の遊びを得た笑顔の絶えない新米村民兵が逃げる敵の背を追って走る。
その笑顔に気圧されて追従してしまう古参兵達が「第32装甲私団」と「45独立特化組」を追って、森の中へと無警戒で飛び込んでゆく。

黒田大尉は刺股の先を外して背に負い、柄を二つに分離して出来た棍を両手に持ち、森の中を暫く進んで足場のしっかりした場所で立ち止まった。
敵が有利な森の中に充分に引き込んだと考えて反撃してくるのを両腕の棍を構えて待つ。
その大尉の横を飛ぶように「ヒホンコー部隊」の面々が森の奥へと入って行く。
「お調子者めらが。」と思いつつも、判断能力の差を自負する前に指揮官として兵を踏みとどまらせるべきではないかとと思った。
まだまだ未熟だと自責の念を持ちつつも、今更に止める事は出来ないと大尉は身構えて反撃を待った。

追いかける味方の兵士のピコピコハンマーが偶然にも後頭部に当たった。
天罰だろうか。
こうしてここで反撃を信じて待つ自信が調子に乗っているのはないか。
そんな事を大尉は痛みと共に感じた。
それを境にピコピコハンマーが次々と後頭部に当たって行く。新米村民兵の間で、偶然は作為に変わっていた。

森に逃げ込んだ「第32装甲私団」と「45独立特化組」は大尉の推測に反して反撃をしてこなかった。
追撃を振り返る事すらなく森の中を奥へ奥へと蛮族は駆け続けるのである。
そして、調子に乗った「ヒホンコー部隊」が短槍ピコピコハンマーを振り回しながらその後を追ってゆく。

何度目かの次第に強くなる後頭部への短槍ピコピコハンマーの直撃を受けた後、大尉は構えを解いて突然立ち上がのり、「ヒホンコー部隊」を追って駆けだした。
大尉が走り出す直前に背後に居た新米村民兵が大尉の去り行く背を見ながら特製ピコピコハンマーで地面を打ち付けながら悔し涙を流している。
ハンマー内部に柔らかくした石鹸を流し込み、充満したところで石鹸を固めてこしらえた特注の特製ピコピコハンマーである。
新米村民兵にとって精魂込めて作った新作であった。
ピコピコハンマーの一叩き毎に地面が心地よく抉れていた。
ちなみに、ソックスに手洗い所の固形石鹸を押し込んで棒状にして看守に襲いかかるという事件が刑務所であったとかないとか。そんな噂のある製法である。

黒田大尉は先頭を行くべきであった。
だが、相手の策を深読みして立ち止まってしまった為に部隊の最後尾に着くことになってしまった。
この事は取り返しのつかない大きな過ちとなって大尉に振り返ってくるのである。

大尉の先を行く「ヒホンコー部隊」が森から飛び出した。
目の前のそこには混戦と化しているナイナイメー辺地がある。
調子づいた新米村民兵は得物を得意の長柄ピコピコハンマーに切り替えながらその混戦へと向かっていった。

勢いの止められない「ヒホンコー部隊」はナイナイメー辺地の闘いに参戦する事になり、混戦がさらに拡大する事になる事に間違いはなかった。
だから、黒田大尉は先頭に居るべきであった。
そして、「ヒホンコー部隊」が混戦に巻き込まれないようにしなければならなかったのだ。
だが、黒田大尉は最後尾から追いかけているのである。
森から出た黒田大尉が見た光景は長柄ピコピコハンマーを振りかざす喜々とした「ヒホンコー部隊」がナイナイメー辺地の乱戦を取り囲む「第QSS戦車私団」と「SS(スペシャルソード)親衛隊」の後方から襲い掛かる寸前の光景であった。

-- 灰色猫の大劇場 その20 ----------------
灰色猫が玉座に座っている。
陸亀が柱の影から玉座を狙っている。
玉座を前にネズミさんが居た。
ネズミさんは小さな口をしきりに動かしながらチーズを無我夢中で齧っている。
口の動きに合わせて可愛くふっくらと膨らんだ頬を揺らすネズミさんを見ながら灰色猫は涎を流している。
チーズに夢中なネズミさんは丸々と肥えていた。
灰色猫は我慢できずにネズミさんに襲い掛かり、ネズミさんは素早く逃げる。
太っているので動きが遅いのが玉に瑕であった。
そして、追う灰色猫も似たり寄ったりである。
猫とネズミの果て無き追いかけっこが始まる。
玉座に誰もいない。
「今だ!」と陸亀さんが柱から離れて玉座へ。
そして、いつものパターン。
陸亀が玉座に辿り着く前に追いかけっこに負けた灰色猫が戻ってくる。
玉座まで半ばにした陸亀を足で踏みつける。
陸亀は甲羅の中に引っ込み、居ないふりをするも灰色猫に蹴り飛ばされる。
ラグビーボールのように陸亀があっちに転んだりこっちに跳ね返ったりしながら遠ざかって行った。

--続く
この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。
この物語の著作権はFreedog(ブロガーネーム)にあります。
Copywright 2021 Freedog(blugger-Name)
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Posted at 2021/02/05 16:29:21

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