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2024年01月11日 イイね!

プリウスミサイルというが・・・

プリウスミサイルという言葉が流行ってはやOO年。
一般道100キロオーバーで衝突する車は高音速ミサイル?
スマホながら運転で衝突する車・バイク・自転車は若害?
なんという言葉で流行るのだろうか。
終始していよう。(実は流行っていて、気が付いていないだけかも)
Posted at 2024/01/11 12:41:01 | ぼーや木 | 日記
2023年09月20日 イイね!

物語A223:「ラン カスター!」

一夜陣の中にじりじりと手繰り寄せられてゆくロープに縋って一緒に引き込まれてしまった第1高歌猟犬兵軍の北方蛮族が居た。引っ張る事に夢中で自分の立ち位置を失念していたのである。引き込まれると同時に敵陣の内である事を知り、我が一番手だと自らの境地を考えずに勝ち誇ったように拳を振り上げて遠吠えを上げてしまう。立ち位置のみでならず現況も失念している。ランカスター中尉はその北方蛮族の胸元から顎の先端にかけて掬い上げる様に張扇を叩きつけていた。長打を狙ったゴルフスウィングの要領である。

クラブを振り切って、飛んで行く白球を見定めようと宙を見上げた時にネム少尉の華咲く騒々しい合図を見上げる事とになってしまった。陣地の既に名ばかりとなった防護壁を飛び越えて面白い様に丘を転げ落ちる北方蛮族の姿を目で追っていたとしても自然にその視界に入ってしまう程の天空を覆う豪勢な合図である。中尉はその空を覆うその合図の余りにも豪華さに驚きを覚えると共に、合図を視認する事で寸の間だけネム少尉の生存が確認できた事に喜ばしく思った。

しかし、その喜びは直ぐに消し飛んでしまう。そもそもその合図は絶体絶命の時に始めて使う最終合図であって、アイント・メー・ネム少尉と率いる物資輸送隊が全滅も考える程の重大なピンチに落ちているという事に他ならないからである。ネム少尉の大袈裟振りは日頃からは良く知っていたが、この合図の豪勢さはネム少尉と物資輸送隊が真に非常に危険な状態であると示唆していると中尉は悟った。

憶測よりは先に行動を起こすランカスター中尉である。行動しながら考えるタイプが中尉なのである。中尉は急ぎ、一夜陣の物見台であった瓦礫の山の上に駆け上がり、上空に上がった各種合図の発射地点とおぼしき場所を目を凝らして探る。物資輸送隊と敵との戦闘状況を中尉自身の目で確認する為であり、物資輸送隊の損害、特に物資の損失の状況を確かめようとしているのだ。

これらの情報が無い事には適切な次の一手が打てないのである。中尉のその希望をあざ笑うかの様に、信号弾を発射した場所のみならずその戦場すらも小さな高地の影に隠れて観測する事が出来なかった。見えない戦場の状況を観測する事は出来ないが高地の輪郭から地煙が微かに噴き上がっているように見えるところから、かなりの規模の戦いであると思われた。直ぐに中尉は偵察を出すべく、その任に当たる偵察兵を守備兵から選抜しようと陣内を振り返ったその時、小さな高地の輪郭でさらなる動きがあった。

ふいに高地の影から銀色に輝く大きな球が飛び出し、一度軽く地面でバウンドしてから転がって行く。その球を追い掛けて北方蛮族と新米村民兵の姿がゾロゾロと群れをなして高地の影から互いに争いながら走り出て来る。先頭を走る新米村民兵の襟首を掴んだ北方蛮族はその体を後ろへ軽々とそれも片腕だけで投げ捨てるが、すぐに真後ろに迫っていた新米村民兵に足を絡めとられて地面に勢いよく転んでしこたま顔面を打ちつけてしまった。それを、後続の北方蛮族と新米村民兵達が無頓着にも、またわざとらしく踏み躙って球を追い掛けてゆく。

新米村民兵が球に飛びついて確保したかに見えた。すかさず、北方蛮族がその体の上にのしかかる。その後は次々と他の選手が飛びついていく。ランカスター中尉の見ている目前で球に追いついた両軍がその球を巡っての壮烈な奪い合いを始めた。

そんな競技者の間を球が彷徨う。ついに、頑健な北方蛮族が彷徨う球を独占するなり両足で器用に蹴り始めて球をサッカー選手の如く操り、向きを反転させて高地の影へと球の進行方向を変える。新米村民兵達が左右前後からその北方蛮族の体にタックルするが北方蛮族は足で球を押さえると軽くその攻撃を両腕で振り払う。振り払われても次から次にと新米村民兵が北方蛮族にしがみ付こうとしてタックルしてゆき仲間と同じように振り払われてゆき、北方蛮族は単独で球をキープしドリブルで進んでゆく。

何度目かのタックルに成功した新米村民兵が北方蛮族にしがみ付き、北方蛮族のドリブルがその分遅くなりディフェンスも僅かに緩んだ。この隙に乗じて次々と新米村民兵達がその北方蛮族に取り付いてゆき、各個体の合成質量と重力との力場で蛮族を地面に押し潰してしまった。調子づいた北方蛮族が楽し気にその山に全体重をかけて飛び乗ってゆき、面白そ気にお山を潰そうとする。

新米村民兵がその山の中で押し潰された北方蛮族がついに手放した球を奪い取って蹴り飛ばしながら走る。これもまた見事な足捌きであった。だが、その新米村民兵の行く手で待ち構えていた別の北方蛮族による強烈なアックスボンバーの一撃で新米村民兵の姿は球を残してどこへともなく消し飛んでしまった。

再び北方蛮族の手に球は渡る。球を奪いとったこの北方蛮族は巧妙な足技を繰り出す事が自分の足の長さでは不適である事を自己認識していたので、素早く球を背中に軽々と担ぎ上げて高地の影内に向かって走る。足が短いだけあって安定した走りではあるが、コンパスが短い分だけ少し遅い。それでも球を担ぐ姿が高地の影に消えて行き、その後を新米村民兵達と北方蛮族達が気炎を上げて先を争いながら追い掛けて影内に消えていった。

ほんのわずかの間見えていたその銀色の球からは数本の腕が生えており、それが意味もなく振り回されているのをランカスター中尉は目にとめておりその動きが滑稽に思えていた。ランカスター中尉もその面白そうなゲームに参加するべく一緒にその影内に吸い込まれそうになって、無意識に踏み出した足が瓦礫の山から滑り落ちそうになって正気付く。

両軍が奪い合っている銀の球はネム少尉の最終防御体系であるトランスフォーアーマードスーツである事が直ぐに識別できた。球から突き出て滑稽な動きをする枯れ枝はアーマードスーツのオプションであるマシンシナジーエフェクター・マスタスレーブシステム・マニピュレーターの残骸であろうと推測できた。

後日、このマシンシナジーエフェクター・マスタスレーブシステム・マニピュレーターの有様に関して、大仰な名ばかりの見掛け倒しであったという世間の評価を設計者は認めようとしなかったという。いつものように「使用者責任」であると断じて、聞く耳を持たなかった。不都合の指摘を受けても不都合としては認めずに、新たな設計に盛り込んで向上するという設計思想を忘れてしまったシリーズ設計魂の設計者であった。頼るはお客様であるが、規模が大きくなると設計者とお客様との壁は厚い。

トランスフォーアーマードスーツの銀ピカの無事な姿、外装オプションを除いてだがその姿を確認できたところでランカスター中尉はネム少尉の無事を確信した。このトランスフォーアーマードスーツを装備して使えるのはネム少尉自身だけで他には誰も使えない事をランカスター中尉は知っているからだ。従って、このネム少尉自慢のこの完璧な防御システムであるスーツ内にネム少尉自身が入って居る事は間違いなく、微々たる損傷があるもののそのほとんどは外殻に取り付けたオプション類であり基本構造は破壊されていない。
ゆえにネム少尉は無事であると確信できるのだ。この事実から、ネム少尉救出の優先度は格段に下げる事が出来た。最悪は無視しても良かった。ランカスター中尉は自分の身を守る事に関しては上官にすらも頼らないというこの自己責任感の強いネム少尉を自慢に思った。今後の作戦遂行においてネム少尉の安否に気を紛らわせないで済むからだ。

日光を反射して銀色に輝いている球のどこまでも闇黒の中で、目をまわしながら船酔いに耐え「暗いよ~。恐いよ~。気持悪い~。う~。」と、抱えた膝に頭を埋めて呻く悲愴な声はランカスター中尉には届いていない。もし仮に届いていたとしたら。ランカスター中尉は取る物も取り敢えずに、というよりは・・・見ざる聞かざる言わざるであろうと推定する。
概ね。
多分。
ほぼ確定。

ともかく、少尉救出の優先度が下がった反面、物資輸送隊の救出にに重きを置く事が出来た。ネム少尉が最終自己防衛秘密兵器を起動している間は風前の灯火である物資輸送隊が待ったなしの即応案件である事は誰でも判別できる。一目で事態の状況把握を行ったランカスター中尉は虹色の脳細胞を戦況偵察から実力行使へと素早くシフトした。それと同時にどのチームが勝利のゴールを決めたのかを知りたいと思った。もちろん、自らの力強いシュートの一発逆転で勝利の栄光を奪い取る為にこのゲームへの参加に意欲満々であった。

一夜陣のアーネム第7騎兵隊の体力消耗戦は今この時でも間断なく続いており、闘う熟練の兵士達の体力残存量が危ぶまれる状況である。彼らの戦闘意欲を支える他の各種パラメーターの数値も同様に低下し続け、底までは後僅かであった。中でも満腹度は釜の底にこびり付いている米粒一粒の状態である。物資輸送隊が輸送する物資が補給されないままにこの消耗戦が続いてしまえば、兵士の体力は確実に底をついてしまう。そして、一夜陣はその役目も果たせずにアーネム第七騎兵の総玉砕に終わってしまう。

それは避けたかった。中尉にとってアーネム第七騎兵の総玉砕など考える事も出来ない事であった。さらに、このような遠方の地で、それも前人未踏の北方地帯で、共に戦ってきた兵士達を路頭に迷わせてしまう事は言語道断であった。
地獄に置き去りにするようなものだと感じていた。

また、ランカスター中尉にとって必要な物資は一夜陣を維持する物資だけではない。ランカスター中尉は第二拠点であるアラモフヶ丘が補給拠点としての本来の役目を果たす為に、丸太上陸部隊への補充兵や補給物資をここに確保していなければならないのである。それが中尉に課せられた任務であり使命である。

「マルケットベルト作戦」立案時に本隊「丸太上陸部隊」が未踏の北方地帯を縦断して進軍するという事をする必要があった。南部地帯の密林地帯を進軍した「マルビ大密林強行突破作戦」の経験とその反省会がこの作戦立案に役に立った。作戦参謀は重箱の隅を突く様に、作戦立案したF村シャル・トットコ代表を参加させたうえで、徹底的にその作戦の欠点を洗い出したのである。この時の会議をF村シャル・トットコ代表は針の筵に座っている心地であったと未完の回想録にある。その中で未踏の地を行軍する事は兵の疲労に加え思わぬ事態で生じる兵員の損失があり、当然の事だが物資の消耗が必ずあると想定された。物資などは軍隊が行軍するだけでも消化されてゆく。そこで、その行軍によって生じる兵士や物資の損失を補給する必要があると考えられた。進軍する本隊の兵士の為に安全な休憩場所を提供し、様々な理由で戦闘不能に陥った兵士の交代や補充、失われた物資の補給をしなければならないと意見が一致した。その任務を担うのが第1拠点のバーナモン・ゴメリー中尉と第2拠点のフロスト・ランカスター中尉なのである。

従って、この第2拠点アラモフヶ丘一夜陣は未踏の地を行軍し疲れ果てた「丸太上陸部隊」の安息の地であり、兵員の補充と物資の補給という役目があるのだ。だが、それとは別に第1拠点には無い役目が第2拠点にはあった。その役目とは「マルケットベルト作戦」の目的である独裁者アフェト・ラ将軍を退治するべくD村へ奇襲攻撃の攻撃拠点としての役目である。つまりは「マルケットベルト作戦」の成否の鍵がこのアラモフヶ丘一夜陣にあるのだ。

ところが、現実は補充兵となる新兵達は高地の向こう側で謎の集団に叩かれおり、準備してきた物資も同じように手の届かない見えない所で強奪されていると推測される。さらに第二拠点を確保するアラモフヶ丘守備隊も多数の北方蛮族に包囲されたうえ間断なく叩かれ続け、拠点確保を必死に堪えている有様であった。この状況においては第二拠点の役目がほとんど終わったも同然であり、「マルケットベルト作戦」が失敗への道を歩んでいるという苛酷な運命をランカスター中尉に突き付けていた。この暗い運命に一筋の光明は無いものかとランカスター中尉は、一夜陣の麓に張られている包囲網を突き抜け、新たな敵の待つ丘の影の戦場に飛び込んで物資輸送隊の物資を奪い返し、一夜陣に取って返すという一連の流れを頭に思い浮かべてみる。もしかすると物資輸送隊は善戦をしているかもしれないとほんの僅かに思った。だが、中尉は銀の玉が蹴り転がって行く光景を思い出すとその僅かな反撃の希望は霧散していった。

それでなくともアラモフヶ丘の一夜陣の悲惨さ、夜通し闘う守備兵達の悲壮感溢れる姿が見なくとも見えてしまう。高地の影に潜む敵の実力を正確には計れないが、チラリ見したその筋肉の塊のような兵士達の姿形からはかなりの強敵であると推測できる。その敵を相手にして疲れ切ったこの部下達が物資を奪い返し、物資輸送隊を引き連れて一夜陣に逃げ帰って来られるかは解の無い大問題である。
現状の残存する力量であれば第7騎兵隊は目前のアラモフヶ丘麓の包囲網を突破できるに違いない。兵数は未知数だが、その後に高地の影に潜むそれ相応の実力を持つであろうと推定される敵勢力との間で物資争奪戦を行い、奪取した物資を一夜陣へ引き上げる。この一夜陣に帰還する為には穴を開けた麓の包囲網を再度突破しなければならない。そして、再び包囲網を突破しなければならないのである。その時には、開けられた穴は塞がれているに違いないし、さらに強固に万全の用意をして待っているに違いないのである。不可能であった。不撓不屈のランカスター中尉であってもそう断言するしかなかった。もし仮に、万が一にも運良く、戦いの全ての戦神が手を貸してくれたとして、その物資を持ち帰る事が出来たからといって、本隊である「丸太上陸部隊」の到着までこの一夜陣を守り通す自信はランカスター中尉には無かった。「一夜陣総玉砕」の報告書がA村リー・ハーマン第33代大統領の机上に置かれている光景をフロスト・ランカスター中尉は目に浮かぶのである。

戦力に余力のある今だからこそ我らに出来る事を即実行しなければならない。物資奪還が不可能であれば、潔くアラモフヶ丘一夜陣を捨て去り、物資補給隊を救出し、この地域から撤退するしかないとランカスター中尉の考えるのである。そう行動すれば、その間でネム少尉の救出も少しは可能性が出て来る。今までも負け戦は度々あったが、唯で負けた事は一度も無いと自負する中尉は、今回は反撃へのチャンスを狙っての地盤固めの戦略的撤退であると完全な負けを認めない中尉であった。物資輸送隊を救い、ネム少尉を救い、一丸となって退避する事が当面の勝利だとして、最後の特攻を行って華々しく戦場に取ろうとする自分自身の闘争心を押さえつける。難しいのはこの負け方であるとネム少尉は厳しい顔付で自問自答した。唯の撤退では敵に塩を送る事になってしまい、激しい追撃を受けて兵力を極端に失いかねない。再起不可能な負け戦は絶対に避けるべきなのだ。

撤退を包囲する敵に気取られないよう、窮鼠の総力戦と猫共に思わせて丘の麓の包囲網を一気に突貫するのである。その後、高地の影で行われている戦場に向かって全騎兵一体となって一直線に突き進むのだ。不意の攻撃に包囲網の敵は寸の間だけ戸惑うと思われるが、包囲網を突き抜けた後、高地の戦場に向かっていく騎兵達におのずと気が付くだろう。さすれば、直ぐに追撃しなくても高地の影に居る敵軍と連携して、逃走する騎兵達を挟み撃ちにしてしまえばよいと考えるに違いない。故に、美食を賞味しながら平らげる饗宴の様にゆっくりと蹂躙できると判断し、楽な戦いを選択すると思われる。従って、窮鼠の手厳しい反撃に合う中を追撃してむざむざと兵力を失うよりは、楽な挟撃を想定しての進撃を行う方がいかに理に適っていると敵軍は思うに違いないと中尉は予想するのである。
つまり、執拗な追撃は無いとランカスター中尉は考えた。

しかし、ランカスター中尉はネム少尉同様に包囲する第1高歌猟犬兵軍のワシタ・ブラックケトル酋長と高地の影で闘うBB歩兵私団のゲルフォン・ルント中佐とが密な連携作戦をしているのだという思い違いをしていた。さらに、北方蛮族のディナーがどのような様相を呈すかなどは想像する事すら出来ないランカスター中尉であった。彼らのディナーは獲物を味方同士で力づくで奪い合う事から始まるのである。

その事情を知らないランカスター中尉は高地の影で繰り広げられている闘いに夢中な敵軍が背後を油断している内にその闘いの場に殴り込みをかけるのだと考えていた。高地に登って転がる岩石と共に敵に襲い掛かる岩石落としが、後世に武勇を残して面白いかもしれないのではと中尉は夢想したりした。関ケ原の合戦の如く、敵本陣に向かって撤退を敢行した猛者の薩摩武者の気分である。それを考えるだけで中尉の心はゾクゾクとし弾け舞い上がるのであった。

騎兵の突然のこの攻撃で敵は大混乱するに違いないとランカスター中尉は現実的に考える。その隙に出来るだけ多くの物資輸送隊兵士と物資を奪還するのだ。そして、慌てる敵兵を尻目に物資輸送隊の兵士をできるだけ多く引き連れて敵を嘲笑いながら河の方へ撤退するのである。チャンスがあればネム少尉の銀魂も転がしてゆけば良い。その時には絶妙な足さばきを見せてやると中尉は思った。またまた中尉の心がまたまた弾ける。

もしかするとその銀球を旨く利用すれば苦労せずに戦場に突破口を作ってくれるかもしれないと考えた。新兵器も用意しているとは「さすがなネム少尉」であるとランカスター中尉が思ったかは不明である。また、その内部ではネム少尉が泣きじゃくっていたという事実は誰にも知られる事はなかった。

救出と奪還をした後は再び河に向かって全速で走り抜いて敵の追撃を振り切るのである。その撤退の途中で地の利の良い新しい拠点を探して陣を構築し、「マルケットベルト作戦」の主力本隊の丸太上陸部隊を待つのだ。陣が無ければ、丸太上陸部隊に合流するのも良い。ランカスター中尉はそこまでの行動指針を素早く立てた。

本隊への合流後は潔くアイゼン・ブル・マクレン大佐に第2拠点放棄の報告を行い、その後の判断を全て委ねるしかないと中尉は決意している。「マルケットベルト作戦」そのものを失敗、良く言ってもて危うくしてしまったのである。その責任は重大でどのような怒りと裁きがあるかもしれなかった。全ての責任は自分に有り、部下には無いと真摯に訴えてその裁きを中尉は受けるつもりであった。だが、出来ればマクレン大佐の元でどのような辛い戦いにも参戦しその先発を仕りたいとも思った。D村奇襲の為の危険で無謀な囮役でも自ら進んで出陣するつもりであった。

そんな事を思い描いている間もアーネム第7騎兵隊の消耗は無慈悲にも待ったなしで続いている。時間が過ぎれば事を起こすチャンスが失われてしまう。早急に決断をしなければならない。そして、第2飛行隊隊長でありアーネム第7騎兵隊隊長であるフロスト・ランカスター中尉はここにアラモフヶ丘一夜陣の瓦礫の頂上で一大決心をした。苦渋の決断はもちろんの事、この一夜陣を放棄する事である。決断してしまうと、青い空のもとで肩の荷が下りたような清々しい感じがするランカスター中尉であった。顔を風が撫ぜて行く。

瓦礫の頂上でランカスター中尉はアーネム第7騎兵隊の皆の前で陣を払う決断を伝える。それを聞いて悔しがるアーネム第7騎兵隊に対して、中尉は個々の兵士が十分納得するようにコツコツとした説得はしなかった。鶴の一声で反論は許さない厳しい口調での軍の命令であった。中尉はこの苦渋の決断を思うと涙が出そうになるが、必死にこらえながら目を吊り上げて語る。これは撤退に非ず。足止めされている物資輸送隊と合流して部隊の再構築を行う予定である。これから麓の包囲網を全力で突破する。その後、あの高地の影の戦場に殴り込み、そこで戦っている物資輸送部隊の兵士をできるだけ多く救出する。その時、物資が得られるならばそれも奪取する。そして、上陸地点の河に向かって死に物狂いで走れ。敵の追撃が終われば、部隊を構築し反撃の準備をするのだ。もしその途中で進軍中の丸太上陸部隊に遭遇したならばその軍門に速やかに下りマクレン大佐の指揮に従え。ランカスター中尉は命令した。かの、関ケ原の戦いのおり、あろうことか東軍の徳川家康の陣に向かって撤退を敢行した薩摩軍を思い出す中尉であった。ランカスター中尉の断固としたこの態度に気圧されたアラモフヶ丘守備達は涙を呑み込みんで反撃する準備であると気合の喚声を一斉に上げてそのランカスター中尉に答える。

引き続き、中尉は七本槍には特命を与える。自らが先陣を切って包囲網を突破し血路を開き、高地の影の戦闘に突入して物資輸送隊を救いながらも、敵全部を引き付けておく。それ故に包囲網を突破するまでは我らの後に続き、突破後は戦闘に巻き込まれない様に直ぐに二手に分かれて進み、本隊へこの状況を知らせるという伝令の役目を命じた。何も知らないで進軍して来る丸太渡河部隊がこの戦闘に巻き込まれ、戦力を無駄に失わなう事を防ぐ為であった。高地の影の敵の垣間見えた姿形から、仮に相当数の敵が居れば全滅も考えられた。これは絶対に避けねばならなかった。猿飛伽椰子が率いる「毬高雅忍び隊」が後方攪乱や索敵の他にこういった部隊間の連絡も北方地帯全域で活動しているのだが、それだけには頼らないランカスター中尉であった。さらに、彼らの存在をいまだに確認できていないうえに、「毬高雅忍び隊」の支援が得られないまま酷い夜間着陸をした事を根に思っている。それ故にランカスター中尉のこの判断も当たり前であると考えて良い。余談であるが、この時点では服部貞子率いる「井戸端皿番長隊」がマクレン大佐の元で暗躍している事をランカスター中尉は知らなかった。

この重要な伝令に対して七本槍の新参物である一本槍は応じようとしなかった。最後まで第七騎兵と共に戦闘に立ち、中尉に付き従ってこれを守るのだとして一歩も譲らなかった。
「おらあ、(始めて皆に)贔屓にされただ。それにすんごく期待された。なんもかも(中尉さんの)おかげだ。じゃけん、(最後まで)お供するだ。」
涙ながらに話す言葉には多少の注釈が必要である。新参者は汗まみれで畑に邪魔な木の切り株と闘っていた時に農道を走り去る銀色の半重力スーパーカーから当たり前の様に投げ捨てられるジュース缶が足元に転がって来た事を思い出していた。
「んだから、わりゃ(最後まで)中尉さんを守る(事に決めとる)だ。」
酔っ払いが闊歩する華やかな繁華街の脇道でファーストフード店のごみ箱を漁っていたみすぼらしい姿を思い出しもした。
「連れていってくれ(や)!(お願いだす。)」
そんな事を涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにして必死に訴え続けた。一言一言を結ぶ度にその酷さは増してゆく

今回初めて戦場に立った新参者ではこの伝令の使命の重要さを知るには無理で致し方がないかとランカスター中尉は苦笑する。他の七本槍達も新参者と同様な心持であったが任務の重要性を良く知っているので奥歯を噛み締めて言いたい事を呑み込み黙っていた。昔の自分なら、同じ事をしたかもしれないとは中尉を皆の憶いであった。
「勝手に晒せ!」
中尉の一言であった。

やおら、ランカスター中尉は部下達の面前でボロボロとなった張扇を真一文字に宙に突き立てると、
「一夜の陣も今朝限り、生まれ故郷の泣く妻を振り切り、縋りつく子を捨て、群がる生命保険勧誘員を打ちのめし、幾多の戦いを共にした貴様らとも別れ別れになる首途(かどで)」
と声高らかに宣い、一呼吸を入れると皆が涙した。
そして、そのボロボロの張扇を見つめて、
「俺にゃあ生涯、手前という強い味方があったのだ。」
と続けて宣い始めたが、それは完結する事が出来なかった。

「なんじゃ!ありゃ?!」
突然であった。見張りが陣内の隅々にまで響き渡る素っ頓狂な叫び声をあげたのだ。戦場には思いがけない異変が生じていた。

見張りの叫びに続き、喚声、悲鳴、嬌声、大喝、怒号、狂言、叫び声、咆哮が一気に一夜陣に押し寄せてきた。ランカスター中尉は張扇を腰に収める事も忘れて慌てて陣外に目を向ける。第7騎兵達の面々も、つい今しがたの苦悶も悲観も全て忘れて陣外へ目をやる。今度は何の奇策で攻めようというのだと憶測していた。だが、攻められているのは包囲網の方であった。包囲網が一隊の、一隊に見えてしまうほどの舞い上がる砂と小石と雪と岩を後に残して一体の戦車が包囲網の外縁から切り裂き始めており、そこからあらゆる種類の大音声が喚き散らされている。その声と同時にそこから北方蛮族の体も次々と宙に舞い上がり周囲に飛散して行った。兵士や武器、岩が面白いくらいに飛んでゆき、包囲網が左右に切り裂かれていく。モーゼの再来かとランカスター中尉はその様相を見いってしまった。違いは見えざる力によってが切り開かれるのではなくそこを驀進する何者かが切り開いている事だ。

ここで、この異変が起きる少し前に時を巻き戻す。場所もまたアラモフヶ丘から高地の影の戦場に移動する。格好よく書けば「いわゆる時空転移を行うのである」。ちなみに、どこかのSFで云う「転送っ!」ではない。戦記を執筆する上で、複雑な戦いの流れとなってしまった場合に前後の関係を明確にする為に一旦過去の事実を少し書き足しておくのだ。この為の余分な部分を取り、物語の中断をする事は2次元の一方通行の書物では致し方が無いのだ。尚、巷のSFでは日本語訳の「転送」を「Beam」と言うらしい。なんだか、黄金銃を所有している殺し屋が持っている高出力レーザーを思い浮かべてしまう。

余談はさておき、時空転移先では北方地帯の積雪すらも溶かす勢いでナイナイメー辺地から荒れ地を駆け抜けてきた王者コナンが物資輸送隊とBB歩兵私団との真っ向勝負の場に到達した時分である。戦場の熱い風が汗一つない王者コナンの顔に吹雪く。コナンはその闘いを、侵入者つまり物資輸送隊が数で圧してはいるもののBB歩兵私団の一方的な戦いと見切った。だが、コナンは同じ仲間のこの優勢には全く満足していない。むしろこの戦場を見て強く不満を覚えていた。

戦場は不確定要素が高く、思わぬ進展に走ってしまう事はよく承知している王者コナンではあった。これが王者コナンの知る元祖北方蛮族であればこの有様も致し方がないと納得できる。例え始祖北方蛮族でも同じだと納得できる。本家北方蛮族であろうと源流北方蛮族でも北方蛮族オリジンですら同じ穴の狢だと王者コナンは思っている。

だが、ここで戦っているのはその北方蛮族ではなくBB歩兵私団である。コナンに追従してD村を出奔してきた近代戦の精鋭であるBB歩兵私団が彼の絶対的命令に背いてのこの戦闘行為である。言いかえれば、戦上手のBB歩兵私団がこのように弱小・・・弱大集団の部隊との間でこのように交戦ししてしまう事は一体どういう指揮をしていたのだとゲルフォン・ルント中佐を一喝したくなるのである。敵に発見される事無く影に潜んで監視する事などはBB歩兵私団にとっては非常に簡単で児戯に等しい任務であると王者コナンは思っている。それが、この有様である。

戦場を眺めているうちに数で押す物資輸送隊の圧し饅頭でBB歩兵私団兵がまた倒された。憤然とした王者コナンの口からは自然と「不甲斐ない!」と言葉が出る。ナイナイメー辺地で期待していた猛者との一騎打ちの肩すかしを味わって不満が溜まっている王者コナンは怒った。戦場を眺めているうちに超不満となり、超々苛立って怒り心頭となっていった。

そうした怒りの中でも、冷静にざっくりと戦況を見切った王者コナンはその足を止める事無く、ベンとハーに鞭を激しく入れて戦車の速度を上げ、荒れ地で車輪を激しく跳ね上げる戦車を上手に操ってその戦場へと突進してゆく。眼がらんらんと輝いていうる。雪混じりの岩塊や土煙が背後へ舞い上がり一筋の線が戦場に向かって荒野に伸びていった。

ネム少尉の物資輸送隊とBB歩兵師団が死闘を演じている戦場の兵士達の背中の壁に王者コナンがベンとハーが曳く戦車で突入した。その最初の一撃で物資輸送隊かBB歩兵師団かの見分けがつかない兵士が弾き飛ばされ、ベンとハーの肉球に踏み潰され、悲鳴と歓喜の声を上がった。その声が戦場に轟き渡り、闘う兵士達が何事かと声のする方を振り向いた。王者コナンの張扇の一振りで所属未定の兵が次々と噴水の様に宙に舞いあがっていく。「銀」の玉の芝狸もその中に混ざっていたかもしれないが、やはりその判別はつけられなかった。

王者コナンは戦車の前進を阻む兵士を敵も味方関係なく張扇で左右に張り飛ばし、首元を掴んでは投げ捨て、齧っては振り回し、逃げる兵士を車輪で踏みつぶして、戦場を圧し進んで行く。戦車を力強く曳くベンとハーの戦いぶりもまた王者コナンには負けていない激しさである。足に咬みついて引き摺り倒し、肉球でその体をフミフミし、尻尾で頬が赤くなる程の連打を浴びせ、股座に咬みついて卒倒させ、懐をまさぐって土産物を奪い取っていくのであった。それはそれは容赦のない闘い方であった。今また猛者との一騎打ちというチャンスを逃したうえ、雑魚を相手にせざるおえない身を恥て狂王と化したコナンの戦いぶりは凄惨なものである。戦車の通った後では、お鍋が地面を転がり、薪が狂王コナンの燃える闘魂に燻り、微振動以外に身動きする兵は無く、スッポンポンの狸が宙を泳いでゆくのだった。

BB歩兵私団のゲルフォン・ルント中佐が無謀にもその疾走する狂王コナンの前に立ちはだかった。中佐はこの戦の状況を報告し、図らずも戦闘に至ってしまい結果的に元帥の命に背いてしまった理由と詫びを上訴するべく棒の先端の割いた部分に挟んで差し出していた。自分はD村を出奔までして元帥コナンの後を追ってきた部下でその中でもひときわ忠実であるとルント中佐は自負している。出奔後も北方蛮族との争いでは元帥コナンを命がけで守り、戦の戦法を賜って果敢に蛮族を攻め立てて来たのである。当然の様に元帥コナンが戦車を停めて上訴状兼詫び状を受け取るのが当たり前であろうとルント中佐は考えていた。それが忠実な部下に対する当然な神対応なのだと信じて疑わない中佐である。だが、躊躇いもなく突進してくる狂王コナンの凄絶な姿に中佐の足は細かく震えていた。狂王コナンは、そんなルント中佐をあっさりと張扇の横薙ぎの一撃を加えて進路からはじき出した。暫くしてから、狂王コナンは戦車上で「はて?知った顔であったような?」と思いつつも、脳の記録帳を破り捨て、湧き上がる記憶を圧し戻し、突進の手を全く緩める事無く戦場を突き進む。ベンとハーの引く狂王コナンの乗った戦車が戦場を突っ切る後に出来あがる舗装道路にはルント中佐の姿を見る事は無かった。一般兵も管理職も、さらには敵も味方も、「銀」の玉の芝狸も判別不可能な状況であるこの中での発見ができないのは仕方の無い事かもしれない。中佐ウィ弁護するわけではないが敗因は中佐の忠義が薄いわけではなかった。「訴状にしたためた字が汚くて読めない」「コナンは文武両道では無い」「狂人の視野に他の選択肢はない」などなどという理由が後世の歴史家の主だった認識である。

狂王コナンはその勢いで戦場を両断したにも拘らず戦車を停めて、いつものルーティンワークの様に敵軍の徹底した殲滅を始めようとはしなかった。戦場を突き抜けて高地の影から飛び出した時、前方にアラモフヶ丘での一夜陣と第1高歌猟犬兵軍の攻城戦らしき戦場を狂王コナンは発見したのである。その面白い戦場を発見した狂王コナンの眼が怪しく輝いて微笑む。寸の間だけ前後どちらの獲物を狩るかで「進むか戻るか」の迷いが生じたが、既に凶暴化し理性の欠片も無いベンとハーには狂王コナンと同じような迷いがない。容赦なく戦車を引き摺ってアラモフヶ丘の戦場に向かって走り出し、闘争に有頂天になっている狂王コナンも攻城戦に向かって走るベンとハーを敢えて制する事はしなかった。攻城戦に参加するのもこれはこれでなかなかに面白いものだと狂王コナンは考えている。野戦と攻城戦という2種類の戦場を一度で同時に味わう事が出来るのもまた一興であると狂王コナンは喜び、両方の戦場を完全制覇する気持ちに高揚してしまった。この時の王者コナンの心情はこんな風であったと思われると戦後の歴史家は語っているが理性の無い状態を憶測するのは困難である。

一線を超えてしまった王者改め狂王コナンとベンとハーを止める事はもはや何であろうと出来ない。「第三次全村大戦」開戦時にコナン元帥がF村を突き抜けI村までも突っ込んで行ったうえ、そのI村の最高位である酋長ムウト・ソムリチネを捕獲してしまい、後に同盟を結んでいたD村独裁者アフェト・ラ将軍様のその後の凶事の元となった事件を引き起こした「パシリ大戦車作戦」が思い起こされる。積雪の始まる原野を疾駆するベンとハーは瞬く間にと言ってよい程にアラモフヶ丘を包囲する第1高歌猟犬兵軍に突入した。背後からの突然のこの強力な奇襲攻撃に驚いた第1高歌猟犬兵軍は何が起きているのかも分らずに仲間が宙を飛び散るのを見ても何も出来ないままに只々右往左往してしまう。ここにおいて、王者コナンの時間軸が包囲網のこの混乱を驚愕の目で見入るランカスター中尉の時間軸と合致した。時空転移の完了である。

ただ、その時空歪みの影響で暫くの間は文節毎に時空間の揺らぎが生じてしまい、マルチバース(多元宇宙論)の個々のバブルワールド(並行世界もしくはパラレルワールドともいう)が周縁部で重なってしまうかもしれない事を先に記す。つまり、書き間違いや構成の未熟から来るものではないと記しておく。

通り一遍等の奇襲攻撃にも耐え抜き、蟻の入る隙間も無い鉄壁の第1高歌猟犬兵軍の包囲網であったが、背後からの奇襲攻撃という事もあったが狂王コナンを阻む障害にすらならなかった。トールハンマーの一撃に加えて超重量級のブルドーザーで道を作る様に、何の抵抗もなく包囲網に兵士の舗装道路が仕上げられる。包囲網を突き抜けた後は、アラモフヶ丘頂上の一夜陣までこれまた瞬く間に駆け上がり、その疾駆の勢いが止まらないままに一夜陣のこれもまた鉄壁の城壁に穴を穿って陣中に飛び込む狂王コナンとベンとハーであった。一夜陣守備兵、つまり第七騎兵達と新米村民兵達が陣中に飛び込んで来たその脅威の存在に身動きできず唖然と佇んでしまっていた。見張りが「なんじゃ!ありゃ?!」と素っ頓狂な叫び声をあげたのがほんの僅か前の事である。

ここでもしも仮にランカスター中尉を含め一夜陣守備兵の誰かが少しでも反抗していれば、一夜陣はその瞬間に狂王コナンによって蹂躙され壊滅していたであろう。しかし、運良くランカスター中尉を含め一夜陣守備兵達は恐怖の「カペンタ科目THING種」異形未確認生物に遭遇したかのように驚きと恐怖から全身が凍り付いてしまっており、抵抗するどころか身動きする事すら出来ないでいたのだ。さらに、守備兵達のその姿も壊滅を免れた決め手となった。兵士達は疲労感が全身から色濃く出ており、それがダークパールのオーラの粘液物体となって全身から湧き出ており、その滴り落ちる音がボタリと聞こえてくるような哀れな姿であった。出陣時に支給された新品の戦闘服も長く続く戦闘で今はボロ布同様となって体に引っ掛かっている程度であり、これでどうやって身を守る事が出来るのかと思う程に脆弱で貧相な体裁となっている。これら守備兵の姿が一夜陣を狂王コナンの狂気とベンとハーの悪の手から救った。

目を白黒させながら一夜陣の騎兵達が見ている目前で陣中に土煙と雪煙を巻き上げてベンとハーと戦車とコナンは激しくUターンをする。飛んだ小石が周囲の兵士達の顔をパラパラと打つが、兵士達はその事すらにも気が付かずにUターンする戦車を茫然と凝視していた。開けた口にハーの後ろ脚で弾かれた岩塊を打ち込まれて卒倒した守備兵は除く。Uターンする間に、狂王コナンは一夜陣の中を隅々まで油断なく見切った。「戦闘能力ゼロ」「只の敗者」「ゾンビ集団」「ちんちくりん」などと兵士達を評価する心の声が続き、最後には「我、彼らとここで闘うは生涯の恥なり」とあくまでも強者を求め続ける武士としての最終判断を狂王コナンは出していた。次の瞬間には城壁に二つ目の穴を穿って一夜陣の外へ飛び出し、包囲網目掛けてアラモフヶ丘を勢いよく駆け降りる。最初の一撃から体勢すらも立て直す暇もなかった第1高歌猟犬兵軍の北方蛮族が再び噴水の様に次々と宙に舞い上がり、包囲網内に2本目の舗装道路が敷かれてゆくのである。

守備兵達が放心状態から抜け出たのは狂王コナンが城壁の穴に消えて、包囲網から再び悲鳴や絶叫・咆哮・嬌声が聞こえ始めた時であった。ランカスター中尉は口パク状態で再び陣外を見た時、狂王コナンはアラモフヶ丘一夜陣の包囲網を再び突破する寸前であった。見守る中尉の前で包囲網に2本の道を仕上げた狂王コナンは戦車上で狂喜の雄叫びを発しながら物資輸送隊の戦場へと走り去って行く。

「ヒー!ハー!」と狂王コナンの叫び声が辺り一帯の荒野に木霊する。その叫びにハーが優越感を持ち、ベンが妬んだ。再び高地の影で繰り広げられている物資輸送隊とBB歩兵私団のガチンコ戦場を突き抜けて遥か遠くまで行き過ぎた辺りで、狂王コナンは戦車の方向転換をする。そして、再び攻撃すべく狂王コナンはベンとハーを鞭打とうとするのだったが、ここでベンとハーが懐から出した「おにぎり」という強い光のフォースに王者コナンはベンとハーと共に一時の休憩を得るのであった。

一夜陣の包囲網には2つの大きな通路が出来ていた。それをランカスター中尉は見た。「労せずに得たチャンスだ!」と中尉が思う前に、天からの声なのか、内なる声か、はたまた声の主が戦神なのか軍神なのか、何もわからないまま低くはっきりした声か響いた。
「ラン カスター」。
ランカスター中尉は声の主を探ろうとしたが、それを押し止める様に再び響く。
「ラン カスター」。
言葉の真意も、その正体についても、何か別の事を考える事も、一切許さずに盲従だけを求める重々しい声が中尉の頭の中に響き渡る。同時に中尉の闘争心に蹴りを入れて煽り奮い立たせる。声の正体が何であろうとこの絶好の機会を逃せば後には何も残らないのは当たり前の事実であった。

内から突き上げられたかのようにランカスター中尉は「万歳!野郎ども、奴らを片付けて不細工な将軍をぶちのめそうぜ!」と叫んでいた。この号令の最後の「将軍」の部分をこの時に中尉が言ったどうかは、後日の証言に様々なパターンがあり正確ではない。これら複数の証言については「後世の読者の受け」を狙ったセリフで、知名度欲しさと発行部数を伸ばす為に歴史家が創作したのではないかとも噂されている。証言の中にはただ単に「突撃!」と言った証言もあった。歴史書の読者に受けない為か、発行部数に伸びが見られない為か、その証言を引用する歴史書は少ない。当歴史書では中尉の性格からしてこの一句だけが正しいのではと推定しているが世事には弱い。尚、受け狙いのセリフを書きつつも事実を書くこの記法を模倣する事は当歴史書の著作権侵害に当たるので注意されたい。

ともかく、アーネム第7騎兵隊と七本の槍を含めるアラモフヶ丘一夜陣の守備兵の残存兵はランカスター中尉のこの号令に答えて一斉に鬨の声を高らかに上げた。狂王コナンの穿った城壁の穴から仲間の鬨の声を背にして中尉が飛び出していく。後れを取るまいとアラモフヶ丘一夜陣の守備兵が一丸となって我先にと次々と穴を潜って行く。その姿には狂王コナンが見極めた「戦闘能力ゼロ」「只の敗者」「ゾンビ集団」「ちんちくりん」「ただのアホ」「金魚の糞」「木偶」といった姿はどこにも見られない。その他の見識については本人達の名誉を思い内緒とする。また、前回見極めた狂王コナンの見解より単語が多いのは先にも述べたように「時空歪み」があったとして解釈して良い。

こうして、アラモフヶ丘一夜陣の守備兵は第七騎兵のたなびく旗の元、包囲網の2つの大きな通路に向かって最後で最大の突撃を決行したのである。ブラックケトル酋長は一夜陣の敵のこの総攻撃を迎え撃つべく包囲網に開いた2本の舗装路を塞ぐように兵を動かそうとする指図するのだが、恐怖に悲鳴と鳴き声を上げて混乱し逃げ回る第1高歌猟犬兵軍の反応は鈍い。それでも、狂王コナンの恐怖に捕らわれていない敵の一群に第1高歌猟犬兵軍が果敢に群がっていく。群がる兵士のほとんどが酋長の命令はあくまでも方針で個々の闘争本能から行動しているという事も特徴である。それゆえに統率された動きには成っていない。そもそも、北方蛮族に統率を求めるのは困難であるのだが。この事はこの戦闘ではブラックケトル酋長にとっては不利であったが、アラモフヶ丘守備隊にとっては有利な戦いであった。アラモフヶ丘守備隊は第1高歌猟犬兵軍を圧してゆく。

ブラックケトル酋長はそういった不利な闘いの中であってもランカスター中尉の前に毅然と昂然と立ち塞がった。北方地方で多数の北方蛮族を従える程にのしあがってきた実力派のブラックケトル酋長であった。眼中では凄まじい炎をが燃えていた。記録ではここでブラックケトル酋長が眼鬘を付けていたという言い伝えもある。その眼鬘は忍び隊「月光チーム」のリーダーである赤い眼鬘仮面から奪い取ったと言われている。あるいは、マルケットベルト作戦開始時の渡河作戦中にD村のエリート(花形)将校、判満(はん みつる)の放った打球によって新・天の川を背景に打ち取られたF村村民の乾火馬(ほしひ うま)の物が流れに流れて酋長の手に渡ったとの噂もある。どちらに真意があるかは明確な証拠が無いし、付けていたとされる目鬘も行方不明なので、不明確であるが前者の方が可能性は高いと筆者は考えている。

それぞれの意地を通す為に、そして長い戦いに決着をつける為に、ここに両軍の長であるフロスト・ランカスター中尉とワシタ・ブラックケトル酋長が始めて相まみえた。それぞれの背後霊も先の戦いでの恨みつらみで激しく火花を散らしながら無言で入歯や紙おむつを投げ合っている。

中尉の前で仁王立ちする酋長は突然、足を揃えて直立、両手も揃えて大きく高々と天に向かって真直ぐに振り上げて中尉に覆い被さる様に背伸びをした。だが何もその体勢からの攻撃はしない。顔は凶悪な相貌にしかめて、涎を垂らす赤い舌を長くだらりと垂れ出して中尉を侮辱する。動物が頬を異常に膨らませたり、襟巻を大きく広げたり、イタチが尻を向けたりして自分の強さを誇示しながら威嚇する行動と同じである。中尉は突然に初めて見せるその酋長に怒りが爆発しそうであったが、南の天国の島々の住民を思い出すと直ぐに唯の威嚇と見切わめて張扇を正眼に構えて静かに酋長に対峙した。ブラックケトル酋長の隙だらけの異様な構えと酋長の発する気の中に何か奥深い隠された秘技があると本能的に中尉は感じ取っているのだ。酋長の次の動きを読み取ろうとして、中尉の耳からはノイズキャンセラーを装着したが如くに周囲の雑音がきれいさっぱりと消え去り、代わりに指向性帯域可変増幅装置によって酋長の発する血脈の脈動音や、体や筋肉の力の入れ具合で筋肉繊維の軋む音だけになった。瞼を瞬く音が微かに聞こえた。力んで軋んでいた筋肉音が突然に消えた。筋肉を弛緩させたのだ。中尉は戦闘中に体の力を抜くという、つまり攻撃行為とは真逆の動きをする酋長に緊張した。それは、酋長の必殺の秘技が襲い掛かって来る前触れではないかと中尉の本能が激しく感じたのだ。時が過ぎるにつれて、実は目にも留まらぬ俊足の攻撃で既に攻撃を受けているのではないのかと自問すしてしまう中尉であった。「こやつは只者ではない」と内なる声が響いてくる。

酋長は突然両手を水平に真横に広げて地面にペタリと張り付くようにその体を落として地面に腰を上げたまま平たく伸びる姿勢を取った。中尉は先の読めないこの意表を突く動きに警戒して一歩だけするりと引き下がり、張扇を上段に構えて下から飛び掛かって懐に入り込むという攻撃に備えて、酋長との間合いを少し余計に取った。だが、酋長は地を這うような姿勢のままで再び静止していた。酋長は三白眼の上目使いで中尉を小馬鹿にしたように見上げている。先の読めない中尉は張扇を斜め後ろ下に構え直して低位置に居る敵を掬い上げるような攻撃姿勢に入るが酋長の誘いに乗って直ぐには攻撃を仕掛けない。飛び掛かる時の足の筋肉の軋む音が酋長から発してこないのである。つまり、酋長は静かな体勢であり、中尉からの攻撃を誘っているとしか思えなかった。だが、中尉はその誘いに乗らない。酋長の次の行動が全く予想できない状況が続く。

酋長の脚の筋肉が軋む。「来る!」中尉は思った。酋長は緊張が走った中尉の構える張扇の向きとは反対方向にその姿勢のままでカニのようにゆっくりと横這い移動する。攻撃を受ける緊張を少し緩めて中尉はその動きに合わせて体を回転させながらホールインワンを狙ってティーインググラウンドにクラブを持って立つゴルファーの体勢に入る。張扇はテークバックまでで、バックスイングのステップはまだとっていない。中尉の目は今までに経験した事が無い酋長のその奇怪な横這い運動、今は左右に乱雑に横這い移動を注意深く観察しながら体の向きを変えて追いかけた。その為に中尉は自分自身の酋長以外の周囲の警戒が怠ってしまった。

ランカスター中尉にその隙が出来た時、中尉と酋長をこっそりと幾重にも取り囲んでいた北方蛮族がその隙を待っていたかのように中尉に襲い掛かる。予め決められていた3方向からの同時攻撃であった。中尉は殺到する空気の動きを感じると手首を捻り、張扇を横薙ぎにしたその一振りで、他から少し先走ってしまっていた右側の第一の蛮族を弾き返した。弾き返された蛮族は後ろで襲い掛かろうと構えて待機していた蛮族達を巻き添えにして地面に倒れた。僅かに遅れてしまった第二第三の北方蛮族の攻撃が中尉の背後と左から襲い掛かる。振り切りかけた張扇を返して右の蛮族を打ち、背後の蛮族の攻撃を右の蛮族の懐に飛び込むようにしてさらり体を右に避ける。懐に飛び込まれ顎を丸出しにした右の蛮族のその顎の下を張扇の柄頭で突き上げ、たたら足となってしまっている背後から攻撃する蛮族の顔面を横から足蹴りして倒した。その後の間を開けずに次々と襲って来る蛮族を右に左にと張扇で張り飛ばし、拳や足蹴り、頭突きや?みつきで痛打を与えて行く。奇妙な格好をする酋長はこの攻撃の為の囮であったと中尉は知った。通常であれば最初の蛮族の3方向同時攻撃でほぼほぼ罠に嵌まった敵は倒されるはずであったが中尉は別格である。「ちょこざいな!」とまた蛮族を中尉は打ちのめす。だが、いつまで攻撃を防げるかは危ぶまれた。

痛烈な戦闘を行っている最中に中尉はふと、足首にむず痒い不快感を感じた。蛮族を張扇の柄頭で小突いて押し返した時に自分の足元を目の片隅でちらりと見下ろす。いつのまにか、地面をカニのように足元に這いよっていた酋長がカニ鋏の如くに菜箸を使ってチマチマと中尉の足の肉を摘まむという秘技「肉つみれ」攻撃をしていた。この攻撃に痛みは伴わなかったが極めて不快であった。不快で煩わしかったが、北方蛮族の連続した攻撃に阻まれて酋長を排除する事ができなかった。

中尉のこの危機に新参者の一本鎗が捨て身で中尉の元に飛び込み、自慢の長槍を振り回して蛮族の相手を始める。その後を追って、数騎の第七騎兵も参戦してきたので、酋長の罠は自ずと崩れ去ってしまう。中尉を捕らえていた罠が崩れ始めるのを悟った酋長ガニは慌ててすぐ脇の竪穴に逃げ込もうとするのだが、体半分が潜った所で積年の恨みを晴らすが如くの中尉に情け容赦無く踏み潰されてしまった。こうして新参者と第七騎兵達の活躍で中尉を取り囲む蛮族を蹴散らしてしランカスター中尉を罠から解放したのである。直ぐにランカスター中尉は新参者と騎兵を伴って王者コナンが往復して切り開いた新道で遮ろうとする北方蛮族を打倒しながら再び走った。

騎兵が中尉の周囲で中尉を守り、新参者が先端にマルケットベルト作戦開始から締めていた褌を先端に付けた槍を振り回してそのしんがりを務める。その闘いの間に褌を締めた新参者は凶悪な北方蛮族に睨まれて失禁した事が幾度もあった。グライダーで夜間着陸を強行した時などは涙と鼻水と悲鳴がそれに伴っていた。戦闘中に徳川家康の伝承と同じ様に死を目前にしての恐怖に糞尿を垂らしながら逃げ惑う事もあった。そういった、今では懐かしい時を共にしてきた褌であった。尚、追記すると槍の先端には北方蛮族の物とも思われる褌も幾枚か追加されていたという。よって、後方ではあられもないフリチン姿で仁王立ちになって戦う北方蛮族の姿が度々見られる。逆に考えると、この新参者はどうかというとになるが・・・特に記載はしないでおく。

北方蛮族にBB歩兵私団のように上官の命令に対する使命感は無い。「きつい」「厳しい」「汚い」「危険」「給金無し」の5ケイ職場のような戦闘に参加する気などが全くない北方蛮族達は新参者の一本鎗の追撃から次々と我先に離脱していった。さらに、アラモフヶ丘麓では第1高歌猟犬兵軍の間ではワシタ・ブラックケトル酋長が半ば地面に半ば埋められて倒されてしまった事から、次期酋長の座を狙っての争いが必然的に勃発していた。北方蛮族にとってその争いに名乗りを上げねば「北方蛮族にして北方蛮族たらん」なのであるから、「去る者追わず」となってしまい、逃げる者を追撃するなどは二の次となるのである。それが5ケイ職場なら尚の事であった。

酋長の戦没地はランカスター中尉が酋長を倒した時の状況とは全く違っており、酋長の上には幾つもの岩塊が積み上げられたえそこには墓碑銘すら作られていた。立派な、というよりはその下から這いずり出られない様に効果的に作られた墓である。そういった北方蛮族達の努力の賜物である墓であるが不撓不屈の精神力によるものか、積み上がった下の方の岩が極僅かに動いていた。刺が酋長の座を得ただけの事はあるが、もちろん北方蛮族達はそれを見て見ぬふりを貫き通してお山の大将巡っての戦いに没していった。この酋長の座を巡っての争いのおかげでアラモフヶ丘守備隊への第1高歌猟犬兵軍の追撃が無くなってアラモフヶ丘の包囲網を難なく突き抜けたのである。

ランカスター中尉と七本の槍達とアーネム第7騎兵隊と、そして新米村民兵達は物資輸送隊の救援に向かう。だが、目前の物資輸送隊は超人的で狂人的な王者コナンに2度も蹂躙されてほぼ壊滅状態となっていた。BB歩兵師団もまた物資輸送隊ほどに酷くはないが似たような状態である。ついでに記録すると「銀」の玉の芝狸達は勝ち組ではあるがほぼ単独行動の王者コナンの側に付く事が出来ないでいた。むしろ、その凄まじさに気圧されて傍に立った時は茫然として何もできなかった。ベンとハーの狂犬的睨み付けは決定的で、「銀」の玉の芝狸達は思わず死んだ振りをするのであった。蹂躙され混沌と化した戦場で散り散りとなっている「銀」の玉の芝狸達は生き残りをかけた一族の集会も開けずに、単独では一体どうしたら良いのか分からず、戦場を右往左往して走り回った。なかには地面で丸くなって自分の世界に引き籠る芝狸も居た。それを岩の下を覗き込むように持ち上げたら、薄ら笑いをしている芝狸の顔を拝めるかもしれない。

ここに、もう一つの番外な集団が呆けていた。本編外野で主役の筈が出番の無い灰色猫とその一座である。この乱戦に乗じて、本編に混ざり込もうとしたのだが、余りの壮絶な有様にただただ呆然と立ち尽くしてしまったのである。灰色猫一座は灰色猫を置いて徐々に後じさっていた。

王者コナンの異常な強さを身に染みて知っているBB歩兵師団兵達はこの戦場からいち早く離脱を考えるのだが、悲しいかな兵士の性で上官の命令に背けない。巻き添えにならないようにと逃げ回りはするものの物資輸送隊と共に束ねられて倒されていったのである。だがBB歩兵師団兵達は戦場で上官のゲルフォン・ルント中佐の亡骸、もとい大の字で倒れる失神状態の姿を発見すると、誰が始めるという事も無く墓標を建立しようとするのであった。しかし、このBB歩兵私団兵達は狂王コナンの嵐の衝撃から正常な思考が保てずに混乱していた為に単純なミスを犯してしまった。この状況であれば失神したゲルフォン・ルント中佐を手つかずにしてBB歩兵私団兵達は闇雲に戦場を離脱すればよかったし、そうした師団兵も居た。それなのに逃げ帰った際の軍上層部への報告の言い訳を連ねる為にも、ご丁寧にルント中佐の墓標を作ろうとしたのである。上官の死で、やむなく撤退したという理由を取り繕う為であった。しかし、北方地帯にあって、さらにD村軍部からOOOOしている筈なのにその報告を何処にするつもりかは不明だが、師団兵の「兵士の性」がこの報告の義務という責務に惑わされているだった。とにかく、BB歩兵私団兵達は雪で中佐の墓を作ろうとしたのである。この雪がミスの元であった。ワシタ・ブラックケトル酋長への第1高歌猟犬兵軍の対応と同じく、岩塊を積み上げれば良かったのであるが、慌てている為かゲルフォン・ルント中佐にこの冷たい雪をかけて丁重に盛り付けようとしたのである。当然の如く冷たい雪は中佐の顔にも押し付けられ、その冷たさでゲルフォン・ルント中佐が息を吹き返してしまい、墓を作ろうとして逃げ損ねたBB歩兵私団兵の前に昂然と立ち上がったのである。BB歩兵私団兵達は悔やんだ。

ルント中佐の整列命令でBB歩兵私団兵達は列を正しながら整列しつつ、責任の擦り合いで互いの足を踏みつけ合う。そんなBB歩兵私団を他所に王者コナンの武勇を知らない哀れな物資輸送隊の新米村民兵達はまだ動ける兵士達で互いに助け合いながら負傷兵を連れだって渡河した河へと三々五々逃げ帰っていく。種の絶滅を防ぐ、「銀」の玉の狸達は物資輸送隊の新米村民兵達を追う一団と、BB歩兵私団兵の影で狸寝入りという死んだ振りをする一団と、引き籠りに徹する一団とに分かれていた。引き籠っている狸達は戦場のそこここに点々と存在しており、その顔に薄ら笑いを浮かべたままである。灰色猫の一座を追って灰色猫は場外へ逃げかえって行く。

外野の諸事情はさておき、超人的で狂人的なコナンに蹂躙された物資輸送隊はこのように全滅状態となっていた。ランカスター中尉はその壊滅への道をたゆまなく進む資輸送隊を見て、この物資輸送隊を取り込んで再軍備を計っての第二拠点の再奪取に期待する事はできないと痛感した。ランカスター中尉はこの厚切りの細切れ戦況では今まで喉から手が出るほど期待していた補給物資もアラモフヶ丘一夜陣には絶対に運び込む事は出来ないとも確信した。チャンス無しの打つ手なしの状況である事が確定し、覚悟はしていたがマルケットベルト作戦の第二拠点確保は完全に失敗であると中尉はここに至ってついにその事実を受け入れた。そして、マルケットベルト作戦のその行方はアイゼン・ブル・マクレン大佐の行動次第となったのである。中尉は挽回不可能と見極めると既に命令していた事、つまり大佐の指揮する本隊に命を懸けてでも伝える伝令の命令を直ちに実行するように七本槍に命じる。

この覚悟を決めて最後の行動に出るランカスター中尉とアラモフヶ丘守備隊の行く手をゲルフォン・ルント中佐率いるBB歩兵私団の逃げ損ねた兵達と王者コナンを追い掛けて疲労困憊しやむなくルント中佐に従う北方蛮族達が遮る。狂王コナンに震えるBB歩兵私団兵達は戦場を逃げ損ねた事で不満たらたらであり、隙あらばルント中佐の目を盗んで逃げようと考えているのでかなり及び腰であった。王者コナン率いる蛮族達は狂王コナンに追いつけないままに足を引き摺っていたところをルント中佐に捕まり、しぶしぶと言わるがままにこの場所で戦闘の群れを整えたが、近代戦になれていないので不安の面持ちでいた。中尉達の行く手を遮りどの兵士もその戦闘力を疑ってしまう程の体裁ではあったが、そういった事情で弱さが滲み出ている。それでも、ランカスター中尉達を全滅させる事が出来るとルント中佐は目論んでいた。BB歩兵私団兵達には的確な命令を与えれば良く戦うだろうし、北方蛮族達の底力は計り知れず敵に相対すると激しくぶつかり合うであろうとルント中佐は予想している。つまり爆裂弾の様な北方蛮族をBB歩兵私団兵達が的へと誘導して闘うのだと考えていた。刻一刻とあ互いの距離が狭まって行く。

そのころ王者コナンはベンとハーと共に少し離れた草地でおにぎりの魔力に取り付かれていた。この新たに出来上がる決戦の場へは片時も目をやる事は無い。ベンとハーは柔らかい草地の上を満腹な腹を上にしたへそ天でコロコロしている。この草地だけ、まるで春が来ているようにぽかぽか陽気であった。王者コナンは権力を笠に着て取り上げた最後の二つのおにぎりのうち、「鮭」を先に食べるか「梅」を食べるかで悩んでいた。何故ここに「ツナマヨ」が無いのかという疑問もあった。もしかしたら、ベンかハーが隠しポケットからうっかりと「ツナマヨ」を落とすのではないかとも期待している。なので、当分の間は王者コナンがこの陽気な草地の外界に気を止める事は無い。おにぎりの魔法の場のフォースはクォークすらも捕捉する程に強い力なのであった。

ランカスター中尉とアラモフヶ丘守備隊がゲルフォン・ルント中佐率いる混成兵団の中央に向かって真一文字に突撃する。七本槍のうち一本槍である元新米村民兵はその中尉を最後まで守る為に中尉の後を槍を振り回して追っていった。

敵中横断百里の進撃なみに猛進するランカスター中尉に次々とコナンの部下やBB歩兵私団兵が襲い掛かりその足止めを図る。すかさずに一本槍は体ごとその敵にぶつかってゆき、中尉から敵を無理矢理に引き剥がした。そして、更なる攻撃を防ぐ為に自慢の一本鎗を振り回して集まって来る敵を遠ざける。ランカスター中尉が前方の敵を打倒し、その加勢に入ろうとする北方蛮族やBB歩兵私団兵を一本鎗が追い払うという戦いが続いた。追い払われて怯んだ敵を、モロに顔で一本鎗を受けてしまい朦朧とする敵を、アラモフヶ丘守備隊がさらに袋叩きにして掃討する。そうしているうちにルント中佐の混成兵団が次第に分断されていった。

とはいえ、BB歩兵私団兵も北方蛮族も只者ではなかった。北方蛮族はコナンとの駆け足で疲労して動きは鈍いものの、一旦戦場に座り込むとそれはトーチカの如く強力な防御壁となってランカスター中尉を追うアラモフヶ丘守備兵を足止めにした。爆裂弾の代わりとして敵に放とうとしたルント中佐であったが、思いのほかトーチカとして使えると考えを改めた。ランカスター中尉を孤立させようとして中尉とアラモフヶ丘守備隊の間に北方蛮族のトーチカが幾つもでき上がる。それを盾にしてBB歩兵私団兵達はアラモフヶ丘守備兵達を撃破もしくは足止めして孤立させていった。孤立したアラモフヶ丘守備兵が全周囲から襲われて袋叩きにされる。アラモフヶ丘守備兵達の勢いと勢力が徐々にではあるが散らされていった。

仲間と切り離されてゆくランカスター中尉の後を満身創痍の元新米村民兵の一本鎗が必死に走る。中尉を守るのは自分だけであるという執念が一本鎗を走らせていた。何度も張扇を打ち込まれても駄々をこねる子供の様に両手両足はバタつかせて敵を追い払い、ランカスター中尉を追っていった。幾つもの瘤やあざを作り、鼻血と鼻水を流し、さらに大粒の涙を流し、口を食いしばって我慢しながら一本鎗は走った。ランカスター中尉はその姿の裏の気合を見て自分自身が奮い立つのを感じた。自ずと、この勢いでもってここの敵を滅ぼしてくれようぞと気合が入る。

しかし、BB歩兵私団兵達はこの一本鎗の攻撃に次第に馴れて対抗策を実行した。やはり歴戦の兵士達である。一本鎗が槍を振り回すと孫の手を使って、その先端に付いている褌を含めた数々の不快物質を一つ一つ、根気よく引っ掛けては取り除いた。故に槍の先端に付いている毒に匹敵する不快物質は槍の一振りごとに取り除かれていった。槍の最後の最悪の最恐の猛毒性不快物質である新米村民兵の褌がついに取り除かれた時、一本鎗の新米村民兵は難なくBB歩兵私団兵に打倒されて地面に這いつくばってしまった。BB歩兵私団兵に袋にされる中、北方蛮族がその体の上にどっしりと座り込み、生贄付属の強力なトーチカが出来上がる。何もできなくなった一本鎗の慟哭がそのトーチカの下から聞こえてきた。

その慟哭に背中を押されるかのように単身となったランカスター中尉は北方蛮族やBB歩兵私団兵の群れに向かって勇まし突進する。群がる敵兵を右に左に打倒すランカスター中尉をついにゲルフォン・ルント中佐が遮った。中尉の足が止まり、群がる敵は後ろに引いて行った。戦場にこの一騎打ちの為の小さな空間が自然と発生した。

ランカスター中尉達の活躍によって手すきとなってしまった敵陣の両端を六本槍達が中尉に与えられた伝令という使命を果たす為に涙しながらも突破を試みている。その六本槍を敵から守るために選抜されたアラモフヶ丘守備隊が彼らを囲むようにして戦っている。見てくれと違ってかなりの力量を相手の内に読み取った六本槍達はこの突破にはかなり厳しいと判断した。六本槍の中からも犠牲が出る事を覚悟をしなければならなかった。

突破寸前では六本槍を守っていたアラモフヶ丘守備隊のほぼ全員が敵と相まみえており他へ力を貸すなどという余裕がなくなっていた。最後の突破は六本槍自身で行わなければならない状況に陥っている。この突破にかなり困難であると見込んだ六本槍の数本が見方を行かせる為に先頭に立って最後の壁を無理矢理に圧し開き、抜けた六本槍に追い縋ろうとする敵に襲い掛かる。そして、囮の四本槍の最後の一本が蛮族の群れの中に消えた時、敵陣の両サイドから一本づつ、計二本の槍が伝令の使命を帯びて丸太上陸部隊のアイゼン・ブル・マクレン大佐の元へと走り去った。

王者コナンは指に付いた最後のおにぎりのご飯粒をしゃぶりながら始めてこの戦場を眺めた。指を舐める動作がいったん止まり、しばらく時が経つ。目の前で、一騎を先頭にして自分の部下の陣を、唯の群集のように切り裂いていく光景が広がっている。王者コナンの目はその一騎に釘付けにされてしまった。強者があそこに居る。待ちに待った本物の強者があそこに居る。王者コナンは慌ててベンとハーを叩き起こそうとした。仰向けの成ってへそ天で食後の居眠りをしているベンとハーは柔らかい草の上をゴロゴロと転がって王者コナンの手を逃れる。抵抗するベンとハーを起こしたうえ戦車に結び付ける手間暇に、そして戦場の急激な変化に堪えられず、焦った王者コナンは戦場へと自分の足で走り出した。

そのころ、アーネム第7騎兵のフロスト・ランカスター中尉とBB歩兵私団のゲルフォン・ルント中佐が相手の力量を探るように睨み合っていた。戦場にはその決闘の為の小さな空間が出来上がってている。
「その勝負!待て待て~!」と走りながら叫ぶ王者コナンの声は届かなし、決闘に興奮した兵達の耳にすら入らない。
「儂が相手じゃ~!」と叫ぼうとするがおにぎりがむせ返って声が詰まってしまう。
これはおにぎりの怨念であろうか、はたまたベンとハーの奸計であろうか。謎である。王者コナンは足を止める事無く「走れ、コナン」であった。

決闘が始まろうとする頃にはランカスター中尉以外のアラモフヶ丘守備隊は壊滅していた。だが、ランカスター中尉の目には2本の槍が北と南を西に向かって走る姿が垣間見えた。伝令を差し向ける使命を果たせたと中尉は思った。これで心置きなく目の前の対峙する敵に最後の力を振り絞って全力で戦う事が出来ると考えた。心残りはもう何もないのだ。対するルント中佐は腰を屈めて、腰に差した張扇の柄を手前に出し、その柄に手を添えて構える。足指でじりじりと間合いを詰める。「居合か?」とランカスター中尉は思った。張扇を正眼に構えるが、ランカスター中尉の持つその張扇は形を成さない程にボロボロであった。これでは真新しい張扇の攻撃を受ける止める事が出来るか甚だ疑問であった。それは一瞬の出来事であった。

ルント中佐の手が一瞬の間だけぼやけた。画像のその部分に薄灰色の霞が懸ったかのように見えた。ランカスター中尉は動く事すら出来なかった。疲労で心と体が別々になってしまっていた。ランカスター中尉は激しく打ち込まれた腹を押さえて地面に膝をつく。
「?!」何が起きたのか寸の間理解できなかった。
「もはや、これまで。」
走り去る伝令の姿を再び敵の合間に見ると微笑みながら地面に倒れる。一本槍の新米の姿を探したが見つける事が出来なかった。暗い帳が中尉の視界にかかるり、意識が遠のいてしまう。

調子づいたBB歩兵私団兵が円陣から飛び出してきて倒れた中尉に馬乗りになる。自分が倒したかのようにこれ見よがしに最後の一撃を加えようとして張扇を高々に振り上げる。だが、その足に痒みのような不快感を感じて、BB歩兵私団兵はその一撃を中断し、足元を振り返って見た。その足にトーチカから必死に這いずり出てきてここまで追って来た一本鎗の新参者が縋りついており、弱々しく足に歯を立てていたのだ。

その後ろではトーチカであった北方蛮族がその新参者の行為を食い入るように見ていた。トーチカの北方蛮族は慟哭と共にじりじりとその身が動かされる事に気持ちが耐えられず、ついには新参者を解き放ってしまったのだ。そして、必死に這っていく新参者の邪魔する者を打ち倒しながら、その行く末を見届ける為に後を付いてきたのである。

中尉に跨ったBB歩兵私団兵は舌打ちと共に足の一振りで新参者を蹴り飛ばした。新参者の体はトーチカ北方蛮族の足元に転がって行き動かなくなった。トーチカの北方蛮族にはその姿がそれでもなお力を振り絞って地面を藻掻いているように見えていた。手助けしたいと思ったが、その姿はきっぱりとそれを断っている風に見えていて身動きできない。北方蛮族の心が震えていた。

中尉に馬乗りになって再び最後の一打を張扇を振り上げたBB歩兵私団兵が掻き消すかの様に宙を飛んでいった。王者コナンの横薙ぎの一振りがその原因であった。この時になってやっと王者コナンがランカスター中尉を取り囲んでいる兵士達を押し退けて中尉の横に立つ事が出来たのだ。中尉を見下ろし、今では北方蛮族の足元で一ミリとも動かなくなった新参者に目をやる。

「あっぱれ。」
王者コナンの口から自然と零れる。戦えなかった事は残念無念であったが、敵ながらにしてあっぱれであったと王者コナンは思った。そして、これはランカスター中尉のみでなく新参者やアラモフヶ丘守備隊を含め、ここに倒れている全兵に対しての賞賛でもあった。「良い部下を持っている」と我知れずに涙が浮かぶ王者コナンであった。こういった強者達と是非とも手合わせしたかったと王者コナンは思う。いつかまた、機会があれば手合わせしたいと念じている。

王者コナンは部下にランカスター中尉を英雄の客人としての扱いをするように指示し治療するように命じる。その後は、丁重に河の方に居る味方の元へ送って行けと命じた。体を十分に養生した後に真剣勝負を申し込むと動かない中尉に囁く事を忘れない王者コナンであった。こうしてフロスト・ランカスター中尉率いる第2飛行隊(アーネム第7騎兵隊・新米村民兵の混成部隊)は壊滅し、第2拠点の確保は失敗した。

後にこの激戦の地であったアラモフヶ丘を昔の橋の戦いにちなんで、誰もが「遠い丘(A Hill Too Far)」と称することとなった。

-- 灰色猫の大劇場 その30 ----------------
灰色猫が玉座に座っている。
野良猫オッドアームズが柱の影から玉座を狙っている。
玉座を前に猫の撤退を懇願するハムスターが居た。

ハムスターは王様である灰色猫に「僕らのユートピアを建設したいのです。」と願い出ていた。
なので、猫の大将である灰色猫にオッドアームズ率いる野良猫達の排除を願っているのだ。
オッドアームズは灰色猫が請願を効けば右腕で灰色猫を、却下されれば左腕でハムスターを捌いて始末するつもりであった。
ハムスターが両手を合わせ、後ろ足で立って居る姿を想像して欲しい。
それはそれは「かわいい」である。
灰色猫はその姿におっとりとし、ハムスターに何度も願わせた。
いつでも始末できるようにと両腕を構えている為に、両脚だけで柱にしがみ付くオッドアームズである。だが、ハムスターの請願が長引くにつれ両足が痺れ始め、柱にしがみ付くのもやっとであった。
灰色猫の鈍感な脳細胞がやっと「飽きる」という機能を叩いた。
灰色猫は王座の肘掛を激しく叩いた。もちろん、却下する為にハムスターの演説を中止させる為である。肘掛を叩くと同時に柱の影で音が響く。両足を引き攣らせたオッドアームズがその音に驚いて泡を吹くなり倒れて・・・落ちていった。
灰色猫はおもむろに床で引き攣っているオッドアームズを指さし、ハムスターの請願に答えた事を伝える。ハムスターはいつまでも頭を下げてお礼をする。
刻々と灰色猫のお昼ごはんが近づくのも気づかずに、次第にお昼ご飯化するハムスターのお礼は続く。

--続く
この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。
この物語の著作権はFreedog(ブロガーネーム)にあります。
Copywright 2023 Freedog(blugger-Name)
Posted at 2023/09/20 22:34:47 | 物語A | 日記
2023年08月23日 イイね!

何だか似たような・・・気のせいか

TVを見ていたら、
話題の某有名な車屋さんで、
エアコン修理を依頼していないのに勝手に修理して修理費を払えと。
それを聞くと、
見積もり依頼をして請求書を寄こしてきた、
某ディーラーを思い出し、何だか似ているなと思った。

自分が車に詳しいのでオーナーはみんな〇〇!
なのでオーナー無視の身勝手全開。

なんだか、車業界のこの関係全部が怪しく思えてきたのは俺だけか。
Posted at 2023/08/23 15:42:15 | ぼーや木 | 日記
2023年05月07日 イイね!

物語A222:「ネム少尉の運命」

錦上地区と多魔地区との平成の合戦を生き抜いてきた芝を背負った多魔地区の、さらにその従属村である「金」の玉の芝狸達だけが、先の平成の合戦を生き抜いてきたわけではない。
多魔地区と争った錦上地区の片隅にひっそりと生息する「銀」の玉の芝狸達もこの平成の合戦を逞しく生き抜いてきたのである。
「銀」の玉の芝狸達も「金」の玉の芝狸と同様に「平成の合戦」の時に行われた敵を打ち負かす為の厳しい化け術の修練に落ちこぼれてしまった狸達であった。
そして、同じように様々な衣装を纏い、声音を変え、仲間の芝狸達との連係プレーで相手を化かすという化け術を会得していたのである。
平成の合戦の終わった後、「金」「銀」の玉の芝狸達が合い揃えば同じ境遇で同じ弱者の生き残り組として、さらには特異な術の共通性から力強い協力関係を結んで結束を深めたかもしれない種であった。
だが、結局は両方の地区という面子とプライドに縛られて手を握り合う事は叶わない望みだったのである。
むしろ磁石の同極のように反発してしまった。
錦上地区の「銀」の玉の芝狸達は多魔地区の「金」の玉の芝狸達が潜入したナイナイメー辺地に対抗して、ここ第2拠点を潜入する場所として選択したのである。
錦上地区としてのプライドが「金」の玉の芝狸達に負けたくなかったのだ。

「銀」の玉の芝狸達はアイント・メー・ネム少尉率いる後続の物資輸送隊に易々と化けて紛れ込み行軍を共にした。
物資輸送体の誰からも芝狸達の変装を疑われる事が無く、また簡単に紛れ込めた。
さらに大群の中に居るという安心感があった。
それらの効果で「銀」の玉の芝狸達の気持ちは晴々としていた。
お天道様から生き残りが約束されたと言われている気分である。
そして、物資輸送隊が運ぶ大量の荷物に囲まれていると、大黒様からも荷物の横流しという漁夫の利を約束されているような気がしていた。
「銀」の玉の芝狸達の帰りの鞄にはまだたくさんの空きがありますという風である。
しかし、幸運は長くは続かない。

早々に「銀」の玉の芝狸はアイント・メー・ネム少尉率いる物資輸送隊を静かに追跡する完全武装の謎の一団を発見したのだ。
迷彩服姿で顔にもどぎつい迷彩化粧を施した集団が静かに滑らかに後を付いて来るのである。
下草の合い間の暗い影の中にどぎつい迷彩化粧の顔が現れる。
迷彩化粧の効果もあって、異様に白く光る光る眼が獲物に狙いを定めようとギョロギョロしていた。
下草の合い間に現れるその恐ろしい顔はほんの僅かの間で、ゆっくりと下草の影に消えて行く。
姿形も俊敏な動作も恐いが草葉の蔭から覗くその目は特に恐く、いつまでも目の中に刻み付けられてしまった。
トナカイを狙っている肉食獣の灰色狼を思わせた。
ワニを狙うジャガーか、インパラを狙うハイエナか、それとも河に迷い込んだたまちゃんを狙う高精度な音波探知機を備えるオルカのようでもあった。
その異様な集団が物の見事に草一本すら揺らす事無く、カサリとも音を立てずに、不気味な静寂を保って下草の合間を縫いながら影の中を毒蛇が滑るように移動しながら追跡してくるのである。
平成の合戦を生き抜いてきたとはいえ、戦闘ではまだまだずぶの素人集団である。
「銀」の玉の芝狸達はこのキラーマシーンの群れに恐怖した。
この集団こそ、元D村軍のゲルフォン・ルント中佐率いるBB歩兵私団である。

「銀」の玉の芝狸達の生存本能がけたたましくベルを鳴らした。当然の反応であった。
ベルは共振しながら芝狸達の間に広がっていった。
直ぐさまに「銀」の玉の芝狸の主だったメンバーが集合し頭を突き合わせての民主的で平和な談合が始まる。
しかし、参集してお互いに頭と頭を突き合わせるその瞬間に恒例の非公式行事が行われた。
巷のプライベートルームに貼られている注意書き「1歩前に」を思い描きながら、意図的に頭を下げて激しく1歩前に出る主力メンバー達であった。
この一歩前で当然の様に発生する狸同士の頭と頭が激しく衝突する。
この行事は古来より相撲の立ち合いで行われる頭突きで「ガチンコ」の由来でもある。
昭和の初期、戦前であるがこれが決め技となって勝利したお相撲さんも居るらしい。
また、お相撲さんのおでこが固いのはこれが為と思われる。
もちろん、わざと立ち合いでこれを避けるお相撲さんも居る。
この頭突きで意見を異にするであろうと疑われる狸の発言を事前に封じて込めるという行事が行われるのである。
不覚にも意識を遠くへ飛ばしてしまった反抗期の狸数体がその円座の中に倒れてしまい、スィーパー(お掃除当番)に寄って円座の外に放り出された。これで意見集約も採決も容易くなり、早くに談合成立という結論が出るのである。
芝狸達はこの非公式行事が民主主義に反する行為である事を知っていたが暗黙の理としてこれを受け入れ、積極的に実行していた。
必要悪なのである。

円座での談合の結果は「銀」の玉の芝狸達がBB歩兵私団に化ける事となった。
弱者よりも強者に付く。
これが「銀」の玉の芝狸達の共通した鉄則なのだ。
しかし、異なる意見を排除したつもりの狸達であったが、この決定にはしばしの迷い、つまり小規模な取っ組み合いがあった事も事実であった。
意見の合わない少数の反抗期の狸が頭突きで相手を逆に倒してしまっていた。
いつもの事ながら時折起こる出来事ではあったが、今まではその度に多数決に持ち込み数で押さえつけていたのである。
当然の様にこの生き残りの狸達のこれまた当然のような主要論に対する反論が談合の場に挙げられた。
ここで、この談合においてもその反論を多数決という形をとって数で抑え込む事も出来た。
だが、多数派の狸達の一部がその反論をある意味では正論であろうと受け止めてしまったのだ。
その元となる要因は両勢力、つまり物資輸送隊とBB歩兵私団の兵力数のあまりにも大きな差が原因である。
少数だが腕力のある側に付く芝狸と、弱いが兵力数に勝る側に付く芝狸との間で激論と取っ組み合いが交わされてしまったのである。
予定外の盛り上がりで長くなった談合が終わった後、最終結論に至ったのはやはり強弱の見た目の姿であった。

虫取り網、釣り竿、バケツ、テント、寝袋、蚊取り線香、達磨競走に使う達磨、鍋にスプーンやフォークを持ってケラケラと談笑しながらも軽い足取りで、時にはリズムに乗ってスキップしたりと楽しい遠足風な新米村民兵の姿。そ
の服も華やかなで思い思いな物を着込でいるので全く統率感に欠けている新米村民兵の物資輸送隊の姿。
明るい笑みが溢れんばかりのお気楽天国の新米村民兵の面々が列をなして続いていくのが芝狸の目に映る物資輸送隊の姿である。
百鬼夜行ならぬ百喜遠足である。

それらに対して、BB歩兵私団は統率された迷彩戦闘服に身を包んでおり、鍛え上げられた筋肉の盛り上がりがその戦闘服を通して良く見える。
そのうえ戦闘服の下には独自に工夫した正体不明の武器を隠し持っているのでに部分的に怪しく膨らんでいた。
通常携帯武器には光を安易に反射しないように真っ黒に染められた小振りの張扇があり、いつ何時でも素早く引き抜けるように腰に差している。
頭の鉢巻きの端には手投げ弾を差し込み、反対の端には夜間攻撃用の暗視蝋燭を差していた。
それがまるで鬼の角の様に見える。
全身には敵への威圧と周囲の景観に溶け込む為に毒々しい迷彩柄を施し、光の強度で瞬時にその透過量を変化する偏向サングラス付きゴーグルを顔に付けている。
引き締まった口の無口なその姿の背後に揺らぐ強烈なオーラは一騎当千の如く光輝いていた。
その姿を下草の合間に数舜見せながら後を静かに付いて行くのである。

この状況から「銀」の玉の芝狸達は数で勝るが貧弱で行楽気分としか思えない物資輸送隊から、戦闘のプロ集団を誇示するように鍛え上げられたBB歩兵私団に目移りしてしまうのは仕方がなかった。
「銀」の玉の芝狸達は行進する物資輸送隊から新米村民兵の体を要領良く盾として使って隠れ、不気味なBB歩兵私団の監視する鋭い視線をも上手く躱しながら次々と行進する列の脇へと逸れて行き、そのまま茂みの中に滑り込むように隠れていく。
熟れ(こなれ)た身の動きである。
そして、草葉の中で迷彩塗料を顔に塗りたくってBB歩兵私団に化けた。
この時の迷彩用顔料はBB歩兵私団の兵士から借りた。
BB歩兵私団兵もまた芝狸達に巧妙に煽てられると気安く自前の顔料を貸すのであった。
土産のスルメを差し出すと顔料以外の物、黒塗りの張扇すらも借りる事が出来た。
芝狸達の中には迷彩用顔料の塗り方も指導してもらっていた。

BB歩兵私団の最後尾が目前を通り過ぎると、その最後尾に回り込んで部隊の中へそろりと変装した芝狸達は紛れ込んでいった。
「銀」の玉の芝狸達はこの巧妙な変装と部隊への浸透という持ち前の能力にほくそ笑んだ。
生き残り戦術に世の中で右に出る者なしの自慢の種である。

しかし、所詮芝狸達は付け焼き刃の偽物である。
姿形はBB歩兵私団でもその兵士達のように幼い頃からの厳しい訓練の賜物であるその動作の一挙手一投足や、戦闘経験で積もられた周囲に醸し出す脅威感は全く別物であった。
その動きの全てを真似る事は出来ても、BB歩兵私団兵に成る事は「銀」の玉の芝狸達にとっては到底「不可能」なのである。
ましてや、BB歩兵私団という強力な部隊に溶け込む事で安息の地を得たという嬉しさから「銀」の玉の芝狸達は腹鼓まで打ったりしている。
そこに、修羅場を潜り抜けて来た経験豊富なBB歩兵私団の一騎当千のオーラなどはほんの僅かも発していなかった。

こうして草原の中にその存在すらも掻き消していたBB歩兵私団の隠密行動は、「銀」の玉の芝狸達の潜入で一転して騒がしいものとなった。
この事態を察したゲルフォン・ルント中佐はBB歩兵私団兵の訓練がまだまだ不足であると指導力の無さを嘆いた。
偽物が入り込んでいる事に気が付いていないのだ。
素早く床几が置かれた。
中佐はおもむろに腰掛ける。
頭の中では日常の訓練を更なる厳しい訓練にする必要があるとルント中佐は考えていた。
おもむろに持ち上げた右手にティーカップが渡され、濃い緑茶が注がれる。
中佐はそれを少し啜る。
濃厚な茶の味が口中に広がり、その茶の高級感を舌で味わった。
この時のゲルフォン・ルント中佐は既に「銀」の玉の芝狸達の巧妙な「おもてなし」と「袖の下」と「ゴマすり太鼓持ち」の波状攻撃で「茹でガエル」と化していたのである。
「銀」の玉の芝狸達はこの点に関しても手抜かりがなかった。
カステーラを厳かに摘まむルント中佐に兵士強化訓練の計画書草稿がBB歩兵私団兵に化けた「銀」の芝狸によって手渡される。

アイント・メー・ネム少尉率いる物資輸送隊は、ミーアキャットを凌駕する程の用心深さで行軍していた。
焼サンマを咥えた野良に生まれて5代目の野良猫が、6代の間名家にご奉公したが、この代であらぬうたがいをかけられてお家お取り潰しにされたあげく、浪々の身になるものも執拗に追いかけてくる剣豪を警戒するかのようでもある。
物資輸送隊の見張りは交代で、遥か遠方まで視線を投げられるように草原の中をミーアキャット同様にスックと背筋を伸ばして爪先立ちして周囲をくまなく見張っていた。
そして、見張りはついに追跡してくるBB歩兵私団、もとい「銀」の玉の芝狸が化けた偽BB歩兵私団を容易く発見するのである。

見張り役がスックと立ちあがって草原の原野の中から身をさらした時、鼻と鼻が「E~T~」する程の近くに大きなどんぐり目が合った。
「銀」の玉の芝狸、もとい偽BB歩兵私団兵が見張りの目前であろうことか立ちションをしていたのである。
芝狸は恍惚とした表情の放心状態で目が遠くを飛んでいた。
驚きのあまりに中央に目の寄る見張りの足が生暖かくなる。
今の状況を認識しようと目まぐるしく頭を回転させながら茫然と足元を眺めてみるミーアキャットこと新米村民兵であった。
これが5代目野良猫であれば、すでに爪が下から上へ跳ね上がり、偽BB歩兵私団兵はその場に倒されていたと思われる。
だが、爪という武器を持たない平和という安息の世に漬かり切っていた新米村民兵は何が起きているのかを理解しようとするだけ精一杯であった。
棒のように立ちつくす新米村民兵を前に、やっぱり電柱でないと「雰囲気が出ないぜよ。」と思う偽BB歩兵私団兵の立ちションは続く。
互いに一瞬の間だけ時が止まって自己の世界に逃避していた。
鼻先と鼻先がETする時、互いは現実に戻った。

「銀」の玉の芝狸が先に動いた。
一方、見張りの新米村民兵は眼前に立つ敵と太腿を濡らす暖かい小水との2重の衝撃的出来事に注意が散ってしまい、その分だけリアクションが遅れてしまった。
それに対して、芝狸は目の前に敵が現れたという衝撃だけであったので、そのリアクションはその分だけ速かった。
手土産を懐から出そうとして、懐深くに素早く手を差し入れたのである。
リアクションは速かったが、芝狸はミスを犯してしまった。
この懐に手を入れるという行為は相手が新米村民兵だったから不幸な結末を迎える事は無かった。
これが仮に相手が古参兵もしくは戦闘プロ集団の本物のBB歩兵私団兵であったならばその懐に手を入れた時点で確実に葬られてしまう。
非常に危険な行為であった。
芝狸はこの相手から見えない所に手を隠すという行為が武器を取り出す行為に繋がったしまうと気が付いた。
そのうえ急な動作が戦闘プロ集団の攻撃行為への即応力に反応してしまうので、どれだけ危険な行為であるかを思い出すのだが、既に動いてしまっており後戻りは出来ないという後の祭りであった。
この生き残りに長けた「銀」の玉の芝狸もその鼻先ETにはかなり慌てていたのである。
芝狸は相手の反応が遅い事から、敵に激しく打倒される覚悟を決めて、それを回避する為にはこの行動を素早く完結するしかないと決断した。
リアクションが一拍遅れた見張りはその芝狸の動きに危険動物フクロウと直面したフクロウネズミの様にその運命を悟ったかのように体を硬直させてしまっていた。
BB歩兵私団兵ではありえない戸惑いであり、芝狸はこの面においてかなり強運であった。

「銀」の玉の芝狸は懐から菓子折りを取り出して、恭しく頭を下げつつ両手でサッと見張りに差し出す。
慌てた勢いで小水を飛び散らせてしまい、その弾みの飛沫で濡れた手が菓子折りにシミを作る。
生き残るために「銀」の玉の芝狸達は様々な土産を一つ以上は常時携帯しているのだ。
これは生存への欲求を満たす為の必需品である。
誰もが認め、誰もが手を出したくなる高級菓子店の包装紙に包まれた菓子折りである。
中身は神のみぞ知るであった。
だが、この芝狸にとっては相手が戦闘未経験ではあるが百戦錬磨の世渡り上手な遊び人の新米村民兵であったが事が敗因であった。
さらに、足への阻喪がトッピングされて祟ってくる。

見張りの新米村民兵は両手で差し出された土産を見るなり、硬直から瞬間解凍して思わず反射的に菓子折りを受け取ってしまった。
この行動は見張りの敗因である。
現在置かれた状況下ではどの角度から見ても差し出されたその土産は賄賂以外の何物でも無い事は自明の理だった。
故に「銀」の玉の芝狸は賄賂を差し出す事で弱みを見せてしまっているのだ。
その様な意味合いの土産を何も考えずに反射的に見張りは手にしてしまったのである。
つまり、全ての行為を黙認する事を容認したことになる。
新米村民兵は釣られて手を出したうえに、しっかりと受け取ってしまった自分に後悔する。
このままでは、「すんなりと要求を受け入れた」事になってしまうと見張りは考え、芝狸が何か言う前に直ぐに対処方法をとる必要が生じた。

相手が下手に出ているこの機会に、この強弱関係に付け込んで更なる賄賂の要求をしなければならないと固く思う見張りであった。
見張りは受け取った貢物を懐に入れそうになるのを押し止めて、そのまま両手で菓子折りを宙に高々と差し上げてその底から覗き見る様に陽の光に透かした。
受け取ったのではなく、物を吟味する為に受け取ったという風に見せつける欺瞞行為である。
その後もゆっくりといろいろな角度から土産を陽にかざして吟味する。
片手で支えて重さを計ってみたりもした。
中身を推し量る様に軽く振って菓子折りに耳を当てて中の音を聞く。
相手をじっくりと観測する時間を稼いでいた。
どこまで搾り取れるかと目の片隅で低頭する芝狸を捕らえ、土産を吟味している振りを続けている見張りであった。
一通りの仕草を終えると、口端で技とらしく笑う見張りであった。
顔を少し顰めて賄賂の菓子折りをどうでも良い物という風に取り扱う。

こうして芝狸は見張りを取り込むつもりであったが見張りの正体である遊び人に逆に取り込まれてしまい、更なる貢物を要求されてしまったのである。
「銀」の玉の芝狸は俯いてしまった。
時間をほんの少しでも巻き戻したいと思った。
化け術に天賦の才がある優秀な化け狸でも使いこなせない秘術中の秘術「時回し」の術で戻す事も可能だが、落ち零れのこの芝狸に天賦の才など有ろう筈がない。
芝狸は渋々、後でじっくりと味わいながら密かに食べるつもりであった手持ちの、それも大好物であるポテトフライスの小袋を差してしまうのである。
だが、見張りはそれを受け取っても、冷ややかに「不足」の一言であしらい、更なる土産を持って出直して来るようにと要求した。
何もかも奪われた芝狸はこの事をリーダーの芝狸に報告し、追加の貢物を頂こうと願い出るしかないと気鬱となってしまった。
肩を落としてトボトボと歩み去る芝狸の背が悲しみのあまりに小刻みに震え始めていた。

この新米村民兵の遊び人は見張りの役にも拘わらずにネム少尉にはこの件を報告しなかった。
もちろん芝狸の持ってくる賄賂全てを私物化する為である。
当然の行動であった。
新米村民兵は奪ったポテトフライを咥え乍ら菓子折りを小脇に抱えて仲間にそれを見せびらかしながら隊内を歩き回った。
それを見て羨んだ他の新米村民兵達が偽BB歩兵私団(「銀」の玉の芝狸達)の元へと走った。
だが、この賄賂目当てに群がってくる新米村民兵に対し「銀」の玉の芝狸達も負けてはいなかった。
劇場型詐欺に限りなく近い連係プレーで相手を化かす術の奥義を取得している「銀」の玉の芝狸達である。
賄賂を毟り取られるのは化かす術を持つプライドが良しとしなかった。
仮装したBB歩兵私団の恐ろしい姿を最大限に生かして、攻撃の時は見逃してやる事を条件にして新米村民兵達を脅して賄賂を逆に要求した。
そして、この賄賂の交換という些細な交流から始まった裏取引は次第に大きな商いへと発展してゆき、ここに市が建つ事で密貿易が始まったのである。

見張り任務の明けた遊び人がポテトフライの臭いを周囲にまき散らし仲間からの羨望の眼差しを心ゆくまで享受しながら至福の時間を過ごしていた。
天下一になった気分である。
その香りをネム少尉の鼻が嗅ぎつけるのは当然であった。
ネム少尉は権威を嵩にしてポテトフライも賄賂も、ついでに新米村民兵の所持している遠征おやつ(携帯を公式に許された1000円以内のおやつ)も、全ての持ち物を奪い取ってしまう。
そして、裏切り新米村民兵と称して足蹴にして入手場所を知ろうと尋問を加える。
少なくとも遊び人が敵に遭遇した事を報告しなかったという事は軍隊にとっては裏切りに等しい。

見張りの携帯していた1000円以内のおやつの中のスルメ足を口の端に咥えたネム中尉が怪しげな眼を光らせて闇の中にいる。
広い部屋の中にぽつねんとおかれた椅子に縛られ、首を項垂れている見張りの当直明け及び遊び人の新米村民がスポットライトの強い光の中に居た。
目つきが完全に飛んでしまっているネム中尉が闇の中から湧き出てくるように光の中へ顔からゆっくりと現れる。
恐ろしげなその顔の口の端でスルメ足がそれを咬むたびに上下していた。
そして、ポテトフライの出何処を探る執拗で過剰な尋問が新米村民が始まったのである。
その行為は文章に書けない、言葉にも言い現せない程のおぞましい行為であって、それに耐えられない新米村民の悲鳴が部屋の中をいつ果てる事無く轟いていたと証言者は震えながら語った。
この激しい尋問の最中に密貿易の「出市場」の存在がついに軍上層部に露見するのである。
すぐさまネム中尉は虚無僧姿で密貿易の巣窟である「出市場」へと物色しに、もとい偵察しに向かった。

数刻後には無情な風砂が舞う市場街道を虚無僧が歩む。
その街道の両側には屋台の車列がずらりと並んでいた。
物資輸送隊の歩みに付いて行けるように移動機構の付いた屋台であった。
これが「出市場」である。
屋台の中には目だけが異様に光る黒い影が無数にある。
ネギを背負ったカモか、唯の冷やかしか、あるいは奉行所の隠密か、税務署のエージェントかと、値踏みする鋭い視線が幾つも虚無僧に注がれていた。
虚無僧姿のネム中尉が屋台に並ぶ土産の品々を値踏みしながら風砂の舞うこの「出市場」街道を歩いた。
この時にルント中佐と第一種接近遭遇してしまったのである。
互いの目的は掘り出し物である。

「出市場」に並ぶ中の一つの屋台の中でぐつぐつ煮えるおでんの釜にちくわが一本だけ泳いでいた。
そのお店の主人は屋台裏の路地に居て、おでんねたを巡って蛸ボスと対峙して闘っていた。

「その腕、いただいた。」包丁を頭上にかざす主人。
陽光の光を受けて刃先が輝く。
切れ味抜群の包丁と見て取れる。
この包丁の鍛冶師は世界ギネスに載っているかもしれないと思わせる程の身の縮む美しさである。

「ちょこざいな」と主人に生体兵器「墨」を大量に吐きつける蛸ボス。
それも、吐き出す墨は砲丸状に固めらており、真面に当たると死すら禁じ得ない威力である。
一進一退の攻防だ。

闘いは熾烈であり、既に数刻の時が経っている。
そのおかげで屋台は無人となり全くの無防備となっていた。
偵察中のネム少尉はその隙を狙って「今だ!貰った!」とばかりに箸を懐から鍋に向かって突き出す。
出汁がコッテリと染みて旨そうなちくわをその箸で素早く挟み取ろうとしたその刹那、ヒュルルと風を切る小さな音が首の後ろで起こった。
ネム少尉はそれが空中にある内に振り返りざまに返し箸で挟み取る。

「何奴!」

長楊枝が一本、箸に挟み取られている。
だが、二本目の長楊枝がネム少尉の目前でちくわを刺し貫いた。
一本目は囮で、音が重なって一本のように思えた。

「ぬかったわ!」

ちくわに長楊枝が突き立ったと見えたその途端に鍋からちくわが消え去るかのように貫いている長楊枝がちくわと共に飛んで来た方向へ飛び去る。
目にもとまらぬ速さであったが、ネム少尉はなんとか目で捕らえてはいた。
だが、動作がその速さに追いつけないで、囮の長楊枝を挟んだままである。

長楊枝の根に付いた糸が操られて、少し離れたルント中佐の口中にちくわは収まる。
煮え汁の中を数刻泳いでいたちくわは非常に熱かった。
三度笠に藁マント姿でその火傷するような熱いちくわを口に咥えて、慌ててハフハフモグモグさせながら、顔が見えない様に再び三度笠を深く被る股旅姿のルント中佐であった。
主人がいったん身を引いて屋台に戻ってくる。
半身が真っ黒な哀れな姿であった。
ネム少尉は素早く主人に見つからない様に箸を収め、ルント中佐もまた口元のちくわを見られない様に三度笠をさらさらにに深く被る。
最後のちくわの運命に興味を示さず、また釜の中をも見る事のしない主人は二本目の研ぎ澄まされた包丁を手にして、二刀流の構えで屋台裏の路地へと用心深く引き返す。
ネム少尉もルント中佐も主人の命運を見定めずに別々の方向へと歩み去るのであった。

負けたネム少尉はこの状況と食い物の恨みから「戦闘もやむなし」と見た。
ルント中佐もBB歩兵私団の存在がすでにを知れたこの状況では戦闘もやむなしと考えた。
王者コナンの命に背く事になるが、互いの存在を認識してしまった今は戦闘開始の秒読み状態となっていた。
王者コナンの命に背いてもやむおえないのだとルント中佐は考えた。
そして、中佐は大部隊を相手にするには先手必勝こそがわがBB歩兵私団の勝利へと導く道であると決断したのである。
ネム少尉も戦闘開始の考えは同様であったが、命令に忠実に守備を固めての戦闘しか考えていなかった。

ちくわを目の前で奪われ忘却の中で戦闘を決意する虚無僧姿のネム少尉。
王者コナンの仕打ちを恐れつつも、戦闘を決断して苦悩するルント中佐。
互いに「あっしには関わりあいござんせん。」「ぶふぉ~~」と風砂の中を静かに立ち去って行く。
ルント中佐の旅がらすの後姿とネム少尉の尺八が部隊長の苦悩を空っ風で描き出すので

その中で、屋台の主人と蛸ボスの壮絶な戦いが繰り広げられていくのであった。

この両部隊の指揮官の思惑とは別に事件が発生した。
「出市場」での交渉中にお互いの繰り出した詐欺がばれてしまった。
取引の饅頭の数を誤魔化しである。
物資輸送隊の兵士かBB歩兵私団兵か、あるいは偽BB歩兵私団兵がこの誤魔化しを犯したのかは史実の資料には残っていない。
この誤魔化しがばれてしまい、当然の如く交渉決裂となり、睨み合い、罵倒し合い、ついには静かなる掴み合いが始まった。
このような小さな案件は「出市場」の筆頭頭が動いて直ちに収めてしまう。
「出市場」の存在は「無」出なければならないのだ。
だが、その詐欺に関係するのがお互いの筆頭頭であった。
つまり、収める立場の者が居なかったのだ。
それでも関係する筆頭頭だけで争えば、他の筆頭頭が出てきて次第に収束へと向かう筈であった。
だが、勢力内の他の筆頭頭に応援を依頼したうえ、それを受けて加勢に参加してしまった。
その為に小競り合いは、両勢力の争いへと発展してしまい、物資輸送隊バーサスBB歩兵私団の引き金となってしまったのである。

ネム少尉は防戦隊形を整えている間、その動きをブラックケトル酋長に気取られない様にランカスター中尉が酋長の関心を一手に引き付けておく事を願っていた。
かなり自己中的な願いであり、世の中は、特に戦場ではそんなに甘くはない。
その時のランカスター中尉は一夜陣からの何度目かの出陣を終えた後であった。
もちろんその出陣の目的はネム少尉がこの戦況を理解して中尉の出陣に呼応して背後からの参戦を期待しての事である。
ランカスター中尉はネム少尉が第1高歌猟犬兵軍の背後を強襲する事でこの中尉に不利な包囲戦の打開する事が出来ると考えていた。
もしくはアイゼン・ブル・マクレン大佐率いる「マルケットベルト作戦」の主力である「丸太上陸部隊」が、第1飛行隊のバーナモン・ゴメリー中尉を率いて到着するまでの持久戦に耐えられると堅く信じ、ネム少尉の応援を中尉は願っているのである。

今回の出陣でもネム少尉の反応は無く、ひと通り暴れた後に撤退していた。
出陣の間隔が次第に空き、戦闘時間が短くなってくるのも仕方ない事だった。
一夜陣周囲を駆け巡りながら戦い疲弊しきった出陣部隊の兵士を次の攻撃まで間、中尉は一夜陣の奥でゆっくりと休ませていた。
疲労の色濃いい兵士は交代させた。
攻撃部隊を労い諸々の指図をした後、次の出陣の機会を得るまでランカスター中尉はアラモフヶ丘一夜陣の防戦を陣頭に立って指図していた。
戦闘の度に嬉々として喜ぶ疲れを知らないランカスター中尉である。

つまり、この時のランカスター中尉とネム少尉の願いは完全にすれ違っていたのである。

ランカスター中尉の出陣を心底から願っているネム少尉が切実に眺めているそのアラモフヶ丘の一夜陣では全く動く気配が無かった。
内と外でロープを引き合い、応援団がこれを応援している。ランカスター中尉が嬉々としてその間を飛び回る姿も見える。一
夜陣の戦況に変化はなかった。
少尉にとって都合が良い事に一夜陣を囲む北方蛮族の中には他所へ目を向ける蛮族は居なかった。
味方も敵も闘いに夢中で、その戦いを遠目に眺めるネム少尉は取り残された部外者の感でもあった。
この疎外感があるからこそ物資輸送隊の安全は保障されているのだが、無視されたかのようなネム少尉の心には暗い陰を差し、不安が入道雲のように湧き上がってくる。
いや、旅先で遭遇した見上げ入道が見上げれば見上げるほどに大きく伸びあがってゆく姿に身も心も縮み上がって恐れる旅人の心境である。
取り残され、放置されたと感じるネム少尉の頭にはこの戦闘やむなしの状況である緊急時の対応方法の具体策はまだ出てきていない。
この危機を目前にして上官からの心強い命令が欲しかった。
この点においてはまだまだネム少尉は指揮官としては新米同然である。

しかし、アラモフヶ丘からの助勢も、上官の命令も頭から振り切るしかなかった。
ここに指揮官は居ないのだと自身に何度も言い聞かせる。
自分自身がこの部隊の最高位であり最高責任者で、あくまでも自身が指揮する立場なのだと腹を括る。
上官に頼らずに士官学校の座学で学んだ知識を総動員して自分自身でこの危機に立ち向かうのだと決意を固めた。
この知識に応用や実績が一切付いていない事実には物足りないが、どこまでも新米ではなかったネム少尉である。
ネム少尉は教科書の通りに全方向守備の円陣という防戦態勢を組むべく部下に命じた。
遠足を楽しんでいた新米村民兵が性格が変わったようなネム少尉の力強い命令に渋々と動き始める。
追跡するBB歩兵私団と目的地を包囲する第一高歌猟犬兵軍との間に自軍が挟まれていると想定するならばネム中尉の円陣の選択は正しいかもしれない。
しかし、この戦いでは両軍の動きをよく観察すれば、背後から迫ってくるBB歩兵私団と一夜陣を襲う第一高歌猟犬兵軍との間では全く関係ない行動をしている事実が判るはずである。
どこから見ても互いに連携した動きは両軍には全く見られないのだ。
第一高歌猟犬兵軍はアラモフヶ丘の一夜陣攻略に夢中であり、ネム少尉の物資輸送隊の存在やそれだけにとどまらずBB歩兵私団の存在にも気が付いていないのが見て取れる筈であった。
従って、この第一高歌猟犬兵軍の動きは僅かな監視で済ませ、物資輸送隊の主力全部を使ってネム少尉はBB歩兵私団だけを相手に全力で戦えばよかったのである。
だが、ネム少尉はそのような戦況を把握する能力が養われていなかった。
両部隊は有能な同じ司令官によって完璧に指揮され、互いに完全同期の連携で行動を起こしているとネム少尉は固く信じて疑わなかった。
それ故にネム少尉は学んだ教科書通りに全方向守備の円陣という防戦態勢を選択してしまったのである。
この選択はこの戦況では失敗であったがネム少尉の胸中を察すれば致し方がなかったのかもしれない。
ネム少尉の第一線で戦ってきた経験の無さが悔やまれるところである。
このように少尉が育ってしまったのもランカスター中尉が闘いになると後輩にその戦を任せる事なく自らがその先頭に立ってしまう戦闘馬鹿に起因するのかもしれなかった。

ネム少尉はBB歩兵私団の兵士個々の適格で全く無駄の無い素早い動作を見ている限りではこの部隊の戦闘能力は尋常なものではないと想像していた。
同じフィルターを通して眺めると、アラモフヶ丘で綱引き合戦に興じている第一高歌猟犬兵軍も同様に尋常なものではないと見えてしまうのである。
その実態は統率力の有無や、職業兵士か自由兵士かという要因から、互いにかけ離れている異質な部隊ではある。
ただ、各兵士の構造遺伝子の奥底に潜む闘争本能は共に尋常でないという共通性だけはあった。
ネム少尉が思い込んでいるこれら統率された特1級の戦闘部隊に襲われたら、そのほとんどが戦闘経験の無い新米村民兵で構成される物資輸送隊はひとたまりもな壊滅への道を進むであろうとネム少尉は不吉な予測をしてしまうのである。

戦場では自分の身を守る大切な武器である張扇を気安く背中に回したうえで適当に吊り下げている新米村民兵が多数居る。
談笑するのに邪魔なのだ。
この恰好では敵の攻撃にあった時に素早く手に取って身構えるなどとはとてつもなく困難である事がネム少尉でも一目で判る。
鍋や貝杓子、バーベキュー用焼網等を大事に担いで、まるで遠足の集合場所に漫然と集まるようにぶらぶらと歩きながら円陣を組み始めている新米村民兵の姿がある。
そこは能天気なほどに明るい笑顔で一杯だった。
防戦体制の持ち場に着くなり、鍋を狙うかのように意味もなく箸を構える新米兵。
剣士になった気分でネギを正眼に構える兵士も中には居る。
戦闘がまだ始まってもいないのに鍋の下に身を隠す兵士が居た。
防戦体勢という言葉を履違えて捉えたのかもしれない。
そのような新米村民兵の姿を見ているだけで戦闘開始と共にあたふたと慌てる新米村民兵の姿がネム少尉の頭の中に思い描かれる。ネム少尉の避けられない苦悩の種であった。

質より数だ。
ネム少尉の苦悩の中に咲く一抹の希望である。
ネム少尉の全方向守備の円陣は次第に組みあがり、防戦体勢が整えられつつあった。
この布陣ではBB歩兵私団に全軍で当たる事は出来ないが、両面の敵に対する為には止む負えないと思うネム少尉であったが、この状況では希望「数」だけを頼るしかなかった。
ところが防御隊形を整えてからの戦闘開始というアイント・メー・ネム少尉の教科書通りの順を踏んだ戦いの手順に反し、目まぐるしく変化する実戦の場はそのようには甘くはなかった。
ネム少尉の防戦隊形の選択はその体勢が整わぬ前に崩れ去ってしまうのである。

ネム少尉率いる物資輸送隊とルント中佐率いるBB歩兵私団はどちらが先からという事もなしに突然に激突してしまったのである。
これは密貿易の「出市場」における裏取引のちょっとした行き違いから起こった諍いが引き金になったのだと、後日の歴史学者達は推測しネム少尉の不運を嘆いた。
そして、非公式記録にこの時の諍いの経緯が詳細に記録されているという噂が学者の間で広まり、その文書の探索で機密文書公開の訴訟騒ぎ今でもが続いた。
この騒ぎの謎に終止符を打つ為にカンカン議員が役所に土足で踏み込み、文書ロッカーの底で機密文書のメモを発見したという噂があったが、発表寸前に選挙活動における議員の不正を暴かれ、それを苦に自殺したのでその真意は闇の中となってしまった。
従って、諍いのあった出店に灰色猫の祖父がかかわっていたという噂は以前謎のままなのである。

それはさておき、物資輸送隊は円陣を組むだけでも混乱する状況であった。
新米村民兵の大半が持ち場を求めて彷徨っているからだ。
防戦体勢を整えようと必死に叫び恫喝して指示するネム少尉の目の前で両軍が闘いが突然始まったのである。
当初その諍いは防戦体勢をとる時に発生した小競り合いではないかと思ったネム少尉であったが、BB歩兵私団との戦闘であるとやっとの事で気が付いた。
この目まぐるしい戦場の変化に対応できねネム少尉は瞬く間にパニックに陥り統率力を放棄してしまった。
対するルント中佐はこの変化に困惑しながらも素早く命令を発し、BB歩兵私団兵は物資輸送隊に全軍で襲い掛かった。
この騒ぎの中ですら第一高歌猟犬兵軍は一夜陣から片時も注意を逸らす事は無い。
ネム少尉にとっては一抹の幸運であったかもしれない。

谷間を宇宙金属製骨格恐竜の巨大な口から吐く咆哮が響き渡り、周囲を震撼させ谷全体が揺動する。
その咆哮の音波で崖の一部が崩れ落ち、闘う物資輸送隊とBB歩兵私団兵の上に降り注ぎ、武器として土塊を加わえて戦いをさらに煽った。
数に勝るネム少尉は無我夢中で物資輸送隊の新米村民兵を鼓舞させて、BB歩兵私団を押し包んでその壊滅の試みを計った。
だが、その新米村民兵達は円陣隊形を求める命令とその真逆の攻撃命令で混乱の更なる極致を迎えていたのだ。
新米村民兵達は訓練不足と戦闘経験皆無からネム少尉の命令変更に即応できないのである。
円陣を組もうとする新米村民兵と攻撃しようとする新米村民兵の間でも騒乱が起こってしまっていた。

その様な不利な中でも、限りなく戦闘経験レベルポイントがゼロに近い新米村民兵達は勇を鼓してBB歩兵私団を押し包もうと果敢に戦っていた。
数に物を言わせて後から後からとBB歩兵私団を包み込もうとするのだが、まるで砂漠に水が浸み込むかのように新米村民兵達の群れは次々と大地に吸収されるかの如く倒されていくのである。
一方的な戦いと言っても過言ではなかった。
武器すら碌に扱えない新米村民兵と自身の体すらも武器の一つである実践兵士との間の大きなレベル差である。
ネム少尉にとっては自軍がここまで弱いとは思ってもいなかった。
もう少しは粘って戦ってくれるものと思っていたが、目の前の戦場にはその新米村民兵達の横たわる道が長く長く繋がって出来上がっていくのだった。
BB歩兵私団がその新米村民兵達の悪路を四苦八苦しながら前進し、ネム少尉の元へと肉迫して来る。

こんな酷い負け戦の中であっても新米村民兵達は儚い反撃をBB歩兵私団へしていた。
倒れた新米村民兵が横を通り過ぎようとするBB歩兵私団兵へおもむろに足を突き出してその兵士の足を絡め取っ手、転倒させていたのだ。
ただ、それに気が付かれてしまうと、逆に突き出した足を思いっきり踏まれて手痛い思いをしていた。
だが、これはかなりの確率で成功していた。
ここに猪突猛進型のBB歩兵私団の特性が仇になっているのである。

倒れたBB歩兵私団兵に新米村民兵達がカメムシの群れの如くにザワザワと這い寄り、倒れた兵士の上に皆で折り重なるように乗り上がってその動きを封じる。
強敵のスズメバチを皆で取り囲んで倒すミツバチの群れの様に圧殺していくのである。
ミツバチのこの時の武器は体温という熱だが、新米村民兵達は臭いだった。
この犠牲者は消えない臭いに普通の明日は無かった。
少なくとも1年間は。
私力を尽くす新米村民兵達の攻撃もBB歩兵私団全体への影響は微々たるものであったが、倒れてもなおBB歩兵私団に立ち向かう新米村民兵達の勇敢な姿であった。
戦の神様が、オリンポスのアレスが、日本の天照大御神が、インドのカーリーが、北欧のトールが、世界中の軍神が、その姿に感涙した。

ネム少尉はその負け戦の有様を見ながら、数に頼った物資輸送隊によるBB歩兵私団の壊滅は全くの夢物語であったと深く痛感するのである。
BB歩兵私団兵が次々と湧いてくる新米村民兵を刈り取りながらジリジリとネム少尉に接近して来る。
その粘っこい恐怖にネム少尉は伝令役の新米村民兵達をカタパルトで次々と中空高く打ち上げた。
最初に打ち上げられた伝令は空中で紅白の旗を両手でパタパタと振った。
次に打ち上げられた伝令はラッパを吹き鳴らし、戦場の空を覆った。
その後は、変形学生服袴や柔道着、チームカラーまたはスクールカラーを基調とした法被や鉢巻をした伝令が次々と宙に舞った。
襷を着用し白手袋を嵌めて三々七拍子で空を手刀で切る伝令も居る。
メガホンを使って「讃美歌」を歌う伝令が宙を舞い上がりもした。
こうした伝令打ち上げの締めは物資輸送隊の大きな団旗を掲げる旗手(親衛隊長)であった。
これらすべての合図は予めランカスター中尉との間で取り決めていた緊急信号「我窮地なり!」とか「お父ちゃん!助けて~」とか「死ぬ~」とか、敗北と救援を求める類の合図である。

ネム少尉は持てる全ての緊急事態信号の全てを打ち上げたのである。
合図を打ち上げた後、ネム中尉は硬質超合金のペン先で胸のバッチを突く。
同時に「ビ~ックXyじ~ッ(z)」と尻すぼみの自信のない小声を洩らす中尉であった。
硬質超合金のペン先で強く突かれたバッチの前面強化プラスチックの小窓が割れて四散し、露出した中の赤い非常ボタンが勢いのままペン先で押される。
ネム中尉の背中でカチリと音がすると背中のバックパックが大きく展開した。
ボタンと背中のパックパックの展開の差はほんの数μSecの差である。
全展開したそれは背中に銀色に輝く美しい翼を広げたかのようであった。
八岐のキングギドラが地上に降臨し、翼を思いっきり広げて「牛頭ら」を相手に威嚇、猛々しい雄叫びを上げる感じである。
その翼が一度展開して開ききった所で、次にネム少尉の全身を覆う様に折りたたまれてゆく。
この開閉は日本の伝統的な折り紙技術によるものである。

緊急防御支援システム・トランスフォーアーマードスーツである。
ネム少尉専用の新発明アーマードスーツで、今回がその初出動であった。
閉じていく時、特に自身の体を覆い周囲が暗黒に変わる時に一抹の不安を齧ざる負えないネム少尉であった。
その能力は全ての打撃を限りなく小さくする事で攻撃を防ぎ、筋力を135ポイント3パーセントまで引き上げるというものだ。
デメリットは防御性を中心に開発した為に、素早さが29ポイント55パーセントまで下げられてしまう欠点があった。
トータルの防戦能力は数倍に跳ね上がるも、対戦能力はなんだかんだを考慮しても35パーセントと大きく激減している。
スーツで身を包んだネム少尉の動ぎがぎくしゃくしてしまう。
その原因の一つは、球体の一部から短い脚部が出ているのだが、設計ミスで両方の脚部が同時に地面を踏めない程に離れていた。
さらに、内部の照明が取り付けられておらず外部モニターも無かった。
スーツ内部の暗黒の中でネム少尉が次第とヒッキーへと変貌していく可能性が充分にあると考えられる。
さらに、日頃のメンテナンスを怠っていたので、油が切れかかっており、スーツを動かすたびに金属製の嫌な音を発していた。
ただ、この黒板をチョークで引っ掻くような嫌なその音は逆に敵の攻撃を防ぎもした。
敵が耳を押さえて逃げるのだ。
これは想定外の思わぬ効果である。

トランスフォーアーマードスーツの振るう腕の一撃で、群がってきたBB歩兵私団が不快な軋み音で耳を塞いで立ち止まった所を一挙に薙ぎ倒した。
アーマードスーツのマシンシナジーエフェクター・マスタスレーブシステム・マニピュレーター(腕)をネム少尉は振り回しているのである。
この威力に関しては設計者が胸を張れる部分であった。
ただ、困った事にネム中尉は全てのBB歩兵私団兵が指揮官である自分だけを攻撃してくると思い込んでいた。
後日の言い訳のような屁理屈な言い分ではあるが激しい打撃音が続く闇黒の中で、次第に追い詰められてゆくような恐怖からパニックに陥ってしまっていた。
ネム少尉はアーマードスーツの外殻を打つ音が響くたびに無我夢中でスーツの腕、マシンシナジーエフェクター・マスタスレーブシステム・マニピュレーター(MSEMSSM)を闇雲に振るった。
合金製の高硬度のマニピュレーターが薙ぎ倒す敵の中に味方の新米村民兵が混ざっている事を中尉は当然の如く気が付いていなかった。
MSEMSSMを振り回すその姿はまるで子供が駄々をこねて両腕を振り回し、おもちゃを投げ散らかしているようでもあった。
だが、所詮その動きは遅い。

戦闘レベルの高い耳栓をしたBB歩兵私団兵は動きの緩慢なトランスフォーアーマードスーツのランダムに振られるMSEMSSMの攻撃を軽く身を躱し、アーマードスーツの表面に取り付いてゆく。
トランスフォーアーマードスーツにBB歩兵私団兵の体重が加わって次第に重量級となり、ネム少尉の倍加した力であっても動きが遅くなってしまい、ついにはその動きが止まってしまう。
そのうえでさらにさらに身動きできない様にBB歩兵私団兵と新米村民兵によって固く縄で縛られてしまった。
闇黒の恐怖がネム少尉の奥深くまで侵入する中でスーツが動けなくなった事を知ったネム少尉はパワーアクチュエーターの動力性能をもっと上げておけばよかったと悔やむのである。
これから来る未知の攻撃の恐怖にネム少尉は「暗いの恐い~」と口から涎と共に漏らし初めていた。

この戦野に巨大なサッカーボールが出来上がった。
BB歩兵私団はそれに体当たりしたり、足蹴にしたりして楽し気に戦野を転がし回す。
そこに物資輸送隊の新米村民兵が加わり、両部隊のボールの奪い合いが始まった。
新米村民兵によってゴールポストが直ちに作られる。
この程度の建造物に必要な資材はいくらでも物資輸送\隊の新米村民兵達は携帯しているのだ。
フットボールでもあり、アメリカンフットボールでもあり、さらにテニスやゴルフ・羽根つきのような様々な球技が融合したTB決勝戦「BB歩兵私団バーサス物資輸送隊」が開始された。
この時ばかりはBB歩兵私団兵を恐れる事も無く元気よくグラウンドを走り回る姿を見せている物資輸送隊の新米村民兵達であった。
BB歩兵私団のゴールに新米村民兵がボールを蹴り込んだ。
得点を知ってとんぼ返りのパフォーマンスを繰り広げる新米村民兵。
フィールド中央に集まって声を上げて次の試合に向けて気合を入れるBB歩兵私団兵。
こうして、一進一退のTB決勝戦「BB歩兵私団バーサス物資輸送隊」は続くのである。

-- 灰色猫の大劇場 その29 ----------------
灰色猫が玉座に座っている。
犬のおまわりさんが柱の影から玉座を狙っている。
玉座を前に野良猫オッドアームズが居た。
野良猫オッドアームズはフグの刺身にデザートのネズミさんの荒紐巻きを大皿に盛って捧げ持っている。
灰色猫がすっくと立ち上がる。

灰色猫の半開きの口からダムの堰を切ったように盛大に涎が溢れあがっている。
野良猫オッドアームズの目が光る。
フグ刺しは自らが捌いたので、フグ独特の効果はてき面であると信じて疑わない。
犬のおまわりさんが腰の手錠に手を添える。
積年の恨みをこの逮捕に賭けている鋭い目をしている。
灰色猫がその重い体に似合わないほどの俊敏な動きで宙に舞い上がる。
犬のおまわりさんが手錠を抜き取りながら駆け寄る。
「速過ぎ!」
オッドアームズはこの先走った犬のおまわりさんに悪態をつく。
そして、不測の事態を収拾すべくフグ刺しを鷲掴みにするなり、灰色猫の口に目掛けて投げつけた。
灰色猫はやはり自らの重みに耐えられなかった。
俊敏な動作で宙を舞おうとしたが、重力にかなり負けてしまっていた。
想定した場所に居ない灰色猫に犬のおまわりさんが「アッ!」と声を上げる。
手錠が何もない空間を切る。
オッドアームズが投げたフグ刺しの行方を追う。
灰色猫へまっしぐらの筈のフグ刺しが犬のおまわりさんの驚いた口の中へと消えた。
オッドアームズの隙をついて荒紐巻きのネズミさんが、皿から飛び出して、ゴロゴロと転がりながら巣穴に逃げ込んだ。
巣穴の外が静かになったところで、そっと外をネズミさんがうかがう。
ネズミさんは見た!
灰色猫に殴られてたん瘤を作った野良猫オッドアームズが床に横たわっている。
フグ毒に当たった犬のおまわりさんの高く上げた後ろ足が激しく痙攣している。
床に散ったフグ刺しを前に涎を垂らす灰色猫が欲望と危険の間で葛藤している。

--続く
この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。
この物語の著作権はFreedog(ブロガーネーム)にあります。
Copywright 2023 Freedog(blugger-Name)
Posted at 2023/05/07 19:31:51 | 物語A | 日記
2022年11月27日 イイね!

物語A221:「アラモフヶ丘の攻防」

第2拠点:アラモフヶ丘の頂上でフロスト・ランカスター中尉はアーネム第7騎兵部隊を陣頭指揮して強豪の北方蛮族、つまりワシタ・ブラックケトル酋長が率いる第1高歌猟犬兵軍を相手に奮戦力闘、死闘に次ぐ死闘をしていた。(ランカスター中尉の報告書から)
アラモフヶ丘登頂後すぐに丘の天辺にランカスター中尉は自軍の陣を張ったのだが、その陣地が完成した明け方にはブラックケトル酋長に包囲され、とっても凄い襲撃を受けてしまったのである。
ランカスター中尉自身、こんなにも早く敵の襲撃を受けるとは思っていなかった。
当然部下の騎兵達も同じで全員がかなりの油断をしていた。

アーネム第7騎兵達は非常に疲れ切っていた。
グライダーの機体にしがみついての過酷な夜間飛行と過激な強行着陸を行った後、間髪も入れずにアラモフヶ丘頂上まで駆け足の進撃を行ったうえ、その頂上に達するや否や足の筋肉痛の回復も待たずににその痛みを我慢して慌ただしく陣の設営を行ったのである。
騎兵達はその間、一度も休む事が出来なかった。
筋肉痛は騎兵達の全身を犯していた。
その騎兵達が陣の完成でやっと休憩にありつけたのである。
その天国を貪るのは当たり前であった。

活動している間中は一睡も、一休みすらも出来ていなかった騎兵達はそのまま運んでいた荷物に寄りかかるなり、足を投げ出して座りこみ居眠りを始めた。
中にはその場で地面に倒れ込む騎兵も居た。
倒れるなり大の字になったり、横になったりと思い思いの格好で天国を貪る。
騎兵達は直ぐに熟睡してしまい、瞬く間に陣内での鼾の合唱が始まったのである。

従って、ブラックケトル酋長の針の落ちる音もしない襲撃は言葉の言葉の綾の通りに「寝耳に水」であった。
ランカスター中尉も部下の騎兵達もすっかり油断していたその時に陣の四方の外側から突然に次々と投げ縄が投げ込まれてきたのである。
それがいったい何を意味するのかも理解できないままに、むしろ宙を舞うその投げ縄を見る事も無しに味方の兵士や物資などに投げ先端の縄の輪が掛かってゆく。
投げ縄の輪に捕らわれた騎兵も物資もそのまま陣の外へと掻き消す様に瞬時に引きずり出されてしまった。
外へ引き摺り出されるまで、騎兵は投げ縄に捕らえられている事にすら気が付いていなかった。
側から見るとそれはまるで目の前で起こる神隠しの様であった。
この襲撃は投げ縄で敵を一本釣りするという、ブラックケトル酋長の「一本釣りだべ。大魚だ!大漁だよ。」作戦であった。

陣中のどこからともなく「敵襲!」と幾つもの火の付いたような警戒警報の叫び声が上がり、アーネム第7騎兵部隊は慌てずにでも大急ぎで攻撃に備え始めるのだが、その間にも次々と投げ縄が投げ込まれ、輪に捕らわれた騎兵や物資が次々と瞬く間に目の前からその姿を消していった。

アーネム第7騎兵部隊は歴戦の強者集団である。
状況判断も早く対応も早かった。
無意識に体が動くのである。
それ故にアーネム第7騎兵のその反撃も素早かった。
それは無意識の反撃と言っても良かった。
ただ、警戒警報の声に驚いて横に居た味方を敵と勘違いして張扇で引っ叩くという事故は多少あった。
それを無視しても、警報が陣内の隅々までに轟く頃には、投げ縄の輪に絡め捕られた騎兵達自らも反撃していた。
自身の体に巻き付いた輪に繋がる縄を握り締めて逆に力一杯引き返して抵抗したのである。
すでに投げ縄を手繰り寄せてしまった騎兵も居た。
抵抗されるとは思っていなかった投げ手が驚いた拍子に手を放してしまったのだ。
抵抗するも引き出されてしまいそうな騎兵には近くにいた味方の騎兵達がワラワラと駆け寄って来て縄を取るなり力を貸して引き、投げ縄を投げ込んだ敵を陣内に引きずり込もうした。

抵抗できない物資に巻き付いた投げ縄には騎兵達が包丁やディナーナイフを使い、それら道具が手元に無い場合は自らの歯で投げ縄を喰い千切り始めた。
ランカスター中尉は十徳ナイフでロープを次々と切った。
第7騎兵部隊の馬達も騎兵達と共にロープを歯で噛み切って行く。
戦場で敵方への咬みつき攻撃を効果的にする為に馬たちの歯は常に鑢で鋭く研いでいるのだ。
しかし、騎兵達は全ての歯を研ぐ事は出来なかった。
草食動物である馬が飼葉を食べる為には臼状の歯が必要不可欠であると「馬民権」運動を起こした過去の経緯があるのだ。
こうして逆に奪い取ったロープは破壊された陣の修復に利用された。
そして、アーネム第7騎兵部隊の戦闘が本格的に開始されていくのである。

抵抗が予想以上に早かった事に加え、思わぶ強力な抵抗に、投げ縄を投げ込む第1高歌猟犬兵軍はその辺での油断があった。
楽勝だぜと思っていた第1高歌猟犬兵軍が力強い引きにあって、陣内に逆に引きずり込まれてしまった。
まるで神隠しのように仲間の前から消えた。
陣内に引き摺り込まれた蛮族は「あれっ?」と不都合な真実に小首を傾げる中、騎兵達に取り囲まれて張扇や足蹴、さらに拳骨で袋叩にあった。

騎兵が陣内に投げ込まれる投げ縄の事ことごとくを掴まえて仲間と共に力を合わせて綱を強く引っ張り、その引きに大物を釣ったと勘違いした北方蛮族達もまた仲間を募って力を合わせて投げ縄を引き返す。
陣の内と外、つまり「アーネム第7騎兵部隊バーサス第1高歌猟犬兵軍の大綱引き合戦」がここに始まったのである。

アラモフヶ丘の全方位あらゆるところで綱引きが行われている。
負けて陣内に引き摺り込まれた蛮族は瞬く間に騎兵達に取り囲まれて張扇や足蹴に拳骨であったがエスカレートしてこれらに馬の咬みつきまで加わり、2度と戦意が起きない様に袋叩にされた。
袋叩きされた後は身ぐるみを剥がされて、蛮族達は陣外へとゴミ屑の様に放り出された。中には馬の後ろ足蹴りを喰らって放り出された蛮族もいた。逆に陣外へ引き摺り出された騎兵は、同じように袋叩きで、身ぐるみ剥がされたうえに2度と戻って来れない様に北方の彼方へ追いやられてしまった。彼方へ追いやられたアーネム第7騎兵はアラモフヶ丘へ戻る事が叶わず、A村の方に向かって北方地帯を彷徨い歩くだけであった。

このように陣地内に引きずり込まれた第1高歌猟犬兵軍の兵士は第7騎兵達に袋叩きにされて陣外に放り出されてしまうが、放り出された先、つまり陣外は味方である第1高歌猟犬兵軍の中である。
打たれ強いうえにそれなりに闘争本能が高い蛮族は、回復アイテムに回復祈祷や回復魔法で素早く回復してアラモフヶ丘への再攻撃に加わる事が可能であった。
北方蛮族側にはこのような回復アイテムも回復祈祷や回復魔法のポイントがふんだんにあった。
そして、北方蛮族達の大半が戦う事に生甲斐を求めている闘争本能の塊といえるので闘争心は超高く、回復アイテムや回復祈祷・回復魔法で回復するなり直ぐにほぼほぼ全員の蛮族が攻撃に再び参加した。

それでも、蛮族は陣地からの反撃で味方の蛮族が引き擦り込まれてしまう事態を防ぐ為に長い棒を用意してきた。
その先端にはトゲトゲ草や糞尿、不快感を催す悪臭を放つ物体などが付いている。
それを陣地内に差し込んで引っ張り手の騎兵達の顔や脇の下を強く突いたのである。
手からロープを離さざる負えなくなり、綱引きは劣勢となった。
これに「卑怯なり」と第7騎兵は相手を罵るもその棒を奪い取った第7騎兵はこれはこれで案外面白いのではと真似を始めた。
伝説の「アラモフヶ丘7本槍」の誕生への瞬間であった。

フロスト・ランカスター中尉にはこの闘いに悩みがあった。

第7騎兵が北方蛮族によって陣から引っ張り出されると、陣内に引きずり込まれた蛮族と同様に袋叩きにあい、身包みを剥がされてしまう。
ここまでは同じだった。
だが、第7騎兵は昏迷状態でアラモフヶ丘から北方の彼方へ追い立てられてしまうのである。
陣内に放り込む北方蛮族はまづ居なかった。
居るとすれば王者コナンに傾倒しすぎているワシタ・ブラックケトル酋長ぐらいである。
「回復し、さらに剛の者となって我に掛かってきなさい。」という訳からである。
その酋長はこの闘いにおいては後方で声を上げるだけであった。
従って、引き釣り出された第7騎兵のほとんどは再び陣地内に戻ってくる事はなかった。

なので、陣地内の味方は時間と共に減っていくだけで、アラモフヶ丘で戦うランカスター中尉にとっては兵の数に限りあるので非常に分の悪い戦いなのであった。
ランカスター中尉は残存兵力でどれだけ長く陣地を保てるかを考えていた。
丸太上陸部隊が来るまではなんとかアラモフヶ丘を守り抜かねばならないと思っていた。
これは絶対的な使命である。
もし、本隊である丸太上陸部隊が間に合わなければ、本体への補給が出来ないままD村へ万歳攻撃をするだけである。
武器が無いのでお手上げという訳だ。
そして、「マルケットベルト作戦」はほぼ間違いなく失敗するのである。
この最悪な第3次全村大戦を終わらせる為にはありえない事なのだ。

ちなみに、丸太上陸部隊がアイゼン・ブル・マクレン大佐の「ロン」部隊と、黒田大和猫ノ信大尉の「ヒホンコー」部隊に分離している事をこの時点ではランカスター中尉は知らなかった。

陣地から騎兵が次々と引き釣り出されてゆき、そして誰も居なくなってしまう前に、まだ味方部隊が到着していなければ、残存部隊を中尉自ら率いてD村へ進撃する事をしばし考えた。
勇敢に戦う事を選ぶのであった。
北方蛮族の包囲網も、中尉にとっては唯の寄せ集め集団にしか見えないので、この最強の少数部隊で突破する事にランカスター中尉はさほどの難しさを感じていなかった。
難しいのはおびただしい敵から身を守る術である。

だがD村進撃は最後の手段である。
陣内では第7騎兵達が北方蛮族相手に果敢に綱引き合戦をして勝利を得ているのだ。
負けていても、引き摺り出されるその前にロープから手を放していた。
深追いをしない兵力を温存する為の判断である。
騎兵達も本能的に中尉の悩みを共有していたのである。
この騎兵達のこの逞しい戦いぶりを心で感じ、まだまだ望みはあるとランカスター中尉は自信満々に確信した。

むしろ、ランカスター中尉にとっての最大の関心事はまだ来ぬ丸太上陸部隊や陣地内の戦闘よりも後続して残してきたアイント・メー・ネム少尉とその部隊である。
ネム少尉率いる残存部隊の規模は包囲する北方蛮族よりその数で勝っているし、物資もまた豊富にあるのだ。
つまり、この不合理な戦いを打開するのはネム少尉だけである。
さらにこの部隊が持つ物資が無い限り、本隊「丸太部隊」への補給を任務とするアーネム第7騎兵部隊がこの補給地であるアラモフヶ丘を死守しても意味がないのだ。

ネム少尉がアラモフヶ丘のこの危急を察知して、敵の背後を突けば赤子を捻るかの如く簡単にこの不利な闘いを打開できるのである。
そのネム少尉が敵の背後をつくという絶好のこの機会に行動を起こさない事にランカスター中尉は焦りと不安を覚えていた。
戦略も無しにただ数で背後襲い掛かれば良いだけである。
そうすれば陣地からそれに呼応して北方蛮族に襲い掛かり挟撃できる。
さすれば、この陣地周辺から北方蛮族を尽く蹴散らす事が出来るのである。
追い討ちすらかけても良い絶好のタイミングなのである。
ランカスター中尉にはそれが分かり過ぎるほどに見えていた。
だが、そのネム少尉の行動が無い。
気配すらない。
それが焦りと怒りにつながりランカスター中尉を啄んだ。

ランカスター中尉はネム少尉となんとかして連絡を、むしろ命令を伝えたかったが、そのネム少尉が一体どこに居るのかがわからないランカスター中尉であった。
敵に見つからない様に静かに深く潜んだうえ、位置を特定できない様に常に動き、アラモフヶ丘を周回しているので、尚更ランカスター中尉は居場所がつかめなかった。

やむなく、北方蛮族の気絶体と共に第7騎兵部隊員を陣地外へ放り出した。
放り出されたのは北方蛮族に化け、ランカスター中尉に特命を与えられた第7騎兵部隊員の伝令であった。
伝令達は放り出されると北方蛮族の中に紛れ込み、ランカスター中尉の命令を伝える為にネム少尉を探して北方の地に方々に散っていった。

しかし、伝令達は巧妙に北方蛮族に化け過ぎた。
それが用心深さで他に類を見ないネム少尉の前で仇となったのである。
伝令達がどんなに訴えようが泣こうが叫ぼうが、ネム少尉は伝令の言葉に一切耳を傾けず、その変装した伝令達を北方蛮族と決めつけた。
作戦も何も無く無闇に総攻撃をかける命令など、安全な物資運搬をランカスター中尉から直々に命じられてネム少尉にとっては到底信じられない事であった。
ランカスター中尉が「マルケットベルト作戦」の命運を左右する重要な物資を手放してしまうような命令を発する筈は絶対に無いと固く信じていた。
無傷で物資を届けねばならないという強迫観念もそれを支持していた。
故に彼らは見かけ通りの北方蛮族であると決め付けて、言葉巧みに罠にはめようとする策謀であると断じ、伝令達を捕まえて簀巻きにしその辺に捨て去ってしまっていた。
ランカスター中尉の命運が切れた瞬間であった。

アラモフヶ丘がブラックケトル酋長に攻め込まれているこの時、アイント・メー・ネム少尉率いる後続隊は既にアラモフヶ丘に到着していたのである。
そして、ネム少尉はアラモフヶ丘を包囲し攻撃を計る第1高歌猟犬兵軍も現視していた。
ランカスター中尉に与えられたネム少尉への命令は「無事に後続部隊と共に全ての補給物資をアラモフヶ丘に到着させよ」である。
ネム少尉は異常な程に命令に忠実であった。

補給物資を守り、戦闘を避けてアラモフヶ丘のランカスター中尉に確実に届ける命令を完璧に実行する為、ネム少尉は包囲網の隙を探りながらアラモフヶ丘を密かに周回するのであった。
物資も部隊も傷一つ付けずにこの包囲網を掻い潜る隙はどこにも無いのだが、ネム少尉はそれを認めていなかった。
ネム少尉の考えていた。
戦闘が長引けば必ずやこの水も漏らさない包囲網にも必ず隙が出来ると信じ、周回を止めなかった。

もし、ネム少尉にこの戦闘の全体をそしてアラモフヶ丘の現状を俯瞰して把握する力があれば、物資を送り届ける為には多少の戦闘も回避する事は不可能である事に気が付く筈であった。
そして直ぐに部隊で全力を挙げて包囲網を突破しアラモフヶ丘に到着できたるのである。
しかし、慎重なネム少尉の重要課題は妥協が許されない「無事に後続部隊と共に全ての補給物資をアラモフヶ丘に到着させよ」であり、その信念に微塵の揺らぎはない。
従って、その物資の一部でも見捨てなければならない戦闘は言語道断であり、そいいった事態が付随する選択肢は頭の中に無い。
用心深く、命令に忠実な、ともすれば忠実過ぎて周囲の状況変化に対応できないのがネム少尉であった。
これが元で伝令達が葬られ、その命令は敵の浅はかな策謀と断定されてしまった。

物資を無事に送り込みたいそのネム少尉率いる後続部隊の後を、迷彩を施した姿で自然の中にその身を溶け込ませ、密かに追尾しているのがゲルフォン・ルント中佐率いるBB歩兵私団であった。
ルント中尉は追尾する後続部隊と自軍との間の戦力に大きく差がある事から攻撃をためらっていた。
ルント中佐がもし生粋の北方蛮族であったならば即攻撃するところであるが、ルント中佐には攻撃の決断は出来なかった。
北方蛮族から新参者と卑しまれるルント中佐である。
迷うルント中佐は追跡を続けながらも上官であるコナン元帥、今は王者ケンメル・コナンに指示を仰ぐために伝令を出したのである。
これは王者コナンに幸をもたらせた。

新たな強敵の出現に舌なめずりする王者コナンはその伝令に「我が到着するまで攻撃を待て」という命令を持たせてBB歩兵私団へと戻す。
もちろん王者コナンが到着するまでにその正体不明の部隊がブラックケトル酋長の背後から攻撃を開始しても、また、それでブラックケトル酋長が敗れても、絶対に手を出すなという但し書きがされていた。
強者を相手にする事が出来るのは王者ケンメル・コナンだけなのである。
根拠はないが新たな敵の一群に強者が必ずいると固く信じる王者コナンである。
自分以外が相手にする事は絶対に許せなかった。

ワンワンセブン高地では肩透かしを食らってしまった事が王者コナンの心の中で尾を引いていたのである。
その希望が真実となって形に成りつつ目の前にあるのだ。
アラモフヶ丘では強者達を相手に自らが中心となって攻略戦を行い、最後には敵の将である猛者と一対一の決闘をしたいという思いが次第に募ってくる王者コナンである。
そこで、ブラックケトル酋長にも攻撃に手心を加えて我が来るまで待てと伝令を送りたかった。
だが、BB歩兵私団のルント中尉ならばともかく、相手が生粋の北方蛮族であるブラックケトル酋長である。
生粋の北方蛮族がそもそも闘いに手を緩めるなど、荒唐無稽な芸当などできる筈がないと読み取ってその命令を諦めていた。
アラモフヶ丘が酋長に潰される前に着かねばならないと王者コナンはベンとハーを激しく鞭打つ。

兵の補充も武器の補給も無いランカスター中尉は耐え忍んでいた。
既に半数の兵士がロープに手繰り寄せられてアラモフヶ丘から毟り取られている。
だが、ランカスター中尉はこの不利な状況の中で手を拱いての防戦ばかりをしている訳では無かった。
時折、アーネム第7騎兵部隊の中でも接近戦を最も得意とする兵士を従えて、ブラックケトル酋長の包囲網を粉砕しようと攻撃を仕掛けていた。
この時のランカスター中尉の戦いは見方も恐れるほどに激しかった。
突撃するごとに包囲網を分断した。
勢い余って包囲網を突き抜けて行くこともあった。
ランカスター中尉が包囲網に一時だけでも穴を穿つ理由は、どこかに居るであろうネム少尉を誘い入れる為である。
ひと時暴れ回ったランカスター中尉がアラモフヶ丘に引き揚げると穿った包囲網の穴はすぐに埋められてしまった。
その後もランカスター中尉は何度も包囲網を攻撃しては分断し、分断された綻びは中尉達が引き返すのとほぼ同時に埋められた。
そこにはネム少尉に期待するが動きは無かった。

アイント・メー・ネム少尉はアラモフヶ丘を巡る闘いの全てを一部始終観察していたのだが、ランカスター中尉のこの誘いに乗らなかった。
我に託された補給物資の一個でも、更には種粒一つ・粉一つでも失う事は許されないのだという信念に固執するネム少尉である。
直ぐに敵に取り囲まれてしまうような危険を冒してでも、中尉の思惑どうりに包囲網に穿った穴をネム少尉が強行突破をするはずがない。
これはランカスター中尉の任命ミスであり、命令ミスでもある。
優秀な軍人ならば臨機応変の戦いも必要なのだ。
反撃のチャンスを黙って見過ごすのはなのである。

第1高歌猟犬兵軍が始めた汚い戦略、棒による綱引きの引き手に対する直接的な妨害は、それを「卑怯なり」と断じたアーネム第7騎兵隊に受け入れられた挙句にさらに卑劣と効率が進化した。
棒より、槍の穂先に付ける方が良いとされたが、直ぐに槍より刺股の方が得物を取り付けやすい事が分かった。
刺股が広まる中、槍・棒も以前として使われ、騎兵達はそれらを器用に効果的に使い、北方蛮族の綱引きの邪魔だけに止まらず、攻撃にも転用していくのである。
そして、武器の種類とその巧みな使い方から次第に流派が発生し、その師匠が生まれた。
一夜陣の内部で奇跡が生まれた瞬間である。
今後の歴史に名を残す「伝説の七本槍」の出現であった。

穂先に排泄物をしみこませた濡れ雑巾を先端に巻き付けた刺股槍で第1高歌猟犬兵軍の綱を引く蛮族や綱引きの先鋒となって皆を鼓舞している中心的蛮族を高速で突いたり顔を撫で上げたりした。
一の槍、高速一点突き。

刺股先端の二つに分かれた穂先それぞれに生体流出不快性液状物質を浸み込ませた雑巾を取り付けてロープを引く為に集まっている蛮族達の中で刺股先端を高速回転させるという行為が行われた。
二の槍、焔月殺法。

刺股で蛮族の顔を挟み込むと、その中央根元にある粘液質の生体物体が仄かな臭いを立てながら顔に迫る恐怖に蛮族は後ろに跳ねる様に逃げるしかなかった。
三の槍、四魂固め

槍や刺股の穂先に胡椒瓶を結わえ付けて振り回し中の危険物を散布した。
胡椒瓶の中は胡椒だけとは限らなかった。
危ない物質から汚い物質まで嫌がられる物ならば何でも入れてあった。
四の槍、茶壷回し

刺股の先に黄色いケロケロちゃんバケツを取り付けて、トゲトゲで毒々しい毛虫を北方蛮族の背中に大量に放り込んだ。
五の槍、クレーンサンダーボルト。

気に入らない仲間の一人を刺股の先に付けた輩も出た。
もともとは強者が敵の中奥深くに切り込むために槍にぶら下がって攻撃する技であったが、時と共に内容が変わってしまったのである。
六の槍、肉切骨裁。

七の槍、一点穴付き。
説明は省く。

このように槍と刺股を使ってありとあらゆる汚い事を北方蛮族に仕掛けていった。
一時はこうした槍や刺股も10数本位に増えたが、弱肉強食の中で自然淘汰されて僅か7本が最後に残った。
そして、実際は刺股が主であるのだが、陣内では七本槍と称され敬われてしまうのである。

実に、七本槍の中には新米村民兵が開眼して師匠として加わる者も居た。
元わんこそば職人である。
北方蛮族がわんこ蕎麦(偽物)の食べ過ぎで、蕎麦魔人の悪夢にうなされながら累々と痙攣を起こす肉塊となって散らばっている。
すでにこの新米村民兵は新米とは言えない存在となり、古強者と並んでいた。
先程説明を省いた七の槍、「一点穴付き」、その辺にあるものを次々に掬い上げて敵の口の中に押し込むのだ。
ちなみに先の「説明は省く。」の文字を見て18禁の小説家への道が待っていると考えるが如何に?

ランカスター中尉と七本槍達を中心に闘いはいっそう激化していき、第1高歌猟犬兵軍から脱落していく者が次第に増えていった。
第1高歌猟犬兵軍の回復アイテムも魔法も酋長が考えていた以上に尽き始めたのである。
背水の陣のアーネム第7騎兵の壮絶な戦いに包囲した第1高歌猟犬兵軍が押され始めたのである。
総崩れも考えられる程であった。
朝飯前のつもりであった酋長にとって正に予想外である。

それでも、後続部隊隊長のネム少尉は丘でのこの壮絶な戦いを横目にして戦場を周回するだけで一向に第1高歌猟犬兵軍の背後からの攻撃を仕掛けなかった。
その周回はすでに・・・数えていなかった。

ブラックケトル酋長は必殺の隠し技を持っていた。

今朝方の自軍の優勢から始まり、一進一退の攻防へと戦局が徐々に変化し、そして、今になって自軍に劣勢の兆しが見え始めている。
この戦場の僅かな変化を酋長は心体で感じとっており、自軍の中でも特に際立つ自慢の強者達がその気勢を凹ませてしまうのではないかと恐れた。
それは自軍の崩壊に等しいのである。
酋長率いる第1高歌猟犬兵軍の強さを保証するのは個々の蛮族の腕力にある。
それ故にその主だった強者が疲労や喪失感で戦場に嫌気がさして背中を向けてしまうと、それに伴って小物の兵も強者に従って背を向けてしまうので自軍はあっという間に自然崩壊してしまう。
最悪、第1高歌猟犬兵軍の解散となる。
その事を酋長はよく知っていた。
それで、ブラックケトル酋長はこの必殺技を披露する事にしたのである。

「儂。とっておきの技。披露する。見せるの。お前達だけ。強者。儂。感服した。」と賞賛しながらも自信あり気に宣った。

敵を褒める余裕を持ちつつ強気の笑みを浮かばせながら、「覚悟するあるよろし。」とそれに付け足した。

酋長の合図で長く太いロープがボタ山のような形をしたアラモフヶ丘の半分を囲むようにその麓に半円状に敷かれた。
第1高歌猟犬兵軍によって敷かれたそのロープは1本ではなく数本あった。
どれもが太いロープで普通に切り付けても簡単には切れそうにない頑強でごっついロープである。
無限一刀流無双乃介の、一般に「兜割り」と言われる技の上を行く必殺必中の剣技「鉄骨縦割り!(ほれ、割りばしでござるよ)」でも立ち切る事は叶わない。

太いメインロープにワラワラと取り付いていった第1高歌猟犬兵軍はそれらロープの間を一定間隔で長目の少し細い紐で結わえてゆき、ロープ同士を繋げ始めた。
さらに、その結わえた細紐同士もさらに短い紐でもって一定間隔で繋げられる。
ここに、第1高歌猟犬兵軍はブラックケトル酋長の差配で大きな網を作り上げたのである。

メインロープの両端には第1高歌猟犬兵軍の蛮族兵が、特に剛腕で鳴らす蛮族を中心に配置される。
配置されたそれぞれの蛮族は持ち場の太いメインロープをこれまた太い腕で抱きかかえる。
こうして、酋長の合図があればいつでもロープを引いて走る準備が整えられた。
蛮族の引く準備が整うと、ロープで形作られた半円形の内部でアラモフヶ丘一夜陣から巨大網を隠す様にその視線を遮って包囲していた北方蛮族達が慌てて網の外へと走り出していく。
逃げ損ねたら網に捕らわれてしまうからだ。

ここに至って初めてランカスター中尉はその麓の異様な光景と異物体の全貌を見渡す事が出来た。
戸惑いもあったが丘の麓を囲むその巨大な長い物体を見定めると背筋に冷たい悪寒が走ってしまう中尉であった。
あれは一体何なのだと中尉は訝しんだ。
正体は分からないが、少なくとも味方にとって途轍もない程にろくでもない事が起きるだろうと中尉は予感し、闘争本能から自然と拳に力が入る。

ブラックケトル酋長の既に勝利をその両手に掴んだような破顔した顔の大口からの大音声の合図でロープ両端の蛮族が腕の筋肉がキリキリと金属音を奏でる程に力を篭めてロープを引き摺り、麓を勢いよく同じ方向に向かって駆ける。
蛮族兵に両端を引っ張られたロープはその中央で大きな網状に広がり、一夜陣に向かって何もかも根こそぎしながら滑る様にアラモフヶ丘を駆けあがった。
脇目も振らずまっしぐらに一夜陣を目指したのである。
ランカスター中尉がその意味をくみ取って自軍に突き付けられた鋭く冷たいナイフのような危機を認知した時、驚きのあまり顎が外れるほどに下顎が地に落ちて口をポッカリと開ける。
付近を周回していた特攻蠅がその口を目指し、草葉の蔭から高射蛙の長い舌が特攻蝿向かって空に線を描く。

中尉を驚かせたその光景は2艘のトロール船でもって獲物を根こそぎする底引網漁業の光景そのものであった。
これこそがブラックケトル酋長の裏技「何でもかんでも底から根こそぎだよ!えっさほいさ、よよいのよい作戦。儂。偉い。」である。
屈強な北方蛮族が地面に埃を立てながら麓を駆け走り、底引き網と化した中央のロープ網がアラモフヶ丘目掛けて滑り上がる。
それは、一夜陣共々丘の上の全てを攫ってしまおうとする悪意あるモンスターで、その凶悪な牙を剥いてランカスター中尉の一夜陣に襲い掛かっていった。
ブラックケトル酋長がその光景を見ながら指差し高笑いする。
無念の特攻蝿が蛙の大口の中に消え去る。

底引き網モンスターは一夜陣に飛びつくなり激しく咬み付いた。
その最初の強力な一撃で一夜陣を作っていた構造物の破片と共にアーネム第7騎兵が陣の外へ弾き飛ばされた。
メキメキと不気味な破砕音が一夜陣の中に響き渡り、破壊された破片が次々と飛散してゆく。
一夜陣は必死に抵抗をしつつも陣の網モンスターの破壊は情け容赦なく続き、麓へと徐々に滑り落ち始めて行く。
その中で轟く破壊音は一夜陣が最後まで足掻く悲鳴であった。

ランカスター中尉は崩壊してゆく一夜陣の中でこの光景にただ唖然と驚いているだけではなかった。
多くの戦場を潜り抜けて来た中尉である。
全滅を免れない風前の灯といった様々な危険を何度も経験してきていた。
それ程に経験豊富なだけあって、その僅かな間での中尉の反撃も早かった。
それは一夜陣の崩壊で運命を共にする事になるアーネム第7騎兵達も同じであった。
中尉に負けずに彼らの反撃も早かった。

中尉は近くのロープに齧りつき、十徳ナイフを振り回して太いロープにその刃を突き立て切り刻もうとした。
しかし、メインの太いロープには僅かな傷しか付けられずにいた。
無限一刀流無双乃介の必殺必中の剣技「鉄筋縦割り!(ほれ、割りばしでござるよ)」でも切れないのだから、中尉の十徳ナイフ技「ハチドリ」では尚更である。
だが、中尉は僅かな希望に縋り諦めない。
地味でもできる事から始めるのであった。

その攻撃の間も一夜陣は破壊が続き、徐々にその位置を変えていた。
「ハチドリ」を繰り出しつつ中尉は胸元から取り出したジョーズ入歯を上手に使ってもみたが、ロープは上手に咬み切れずかすり傷しか入らなかった。
噛みつき切断は困難であった。
だが中尉は諦めていない。
ここで諦めたら負けだと考えていた。

その中尉に呼応するかのように七本槍も本業の槍を捨て置いて網の切断に加わった。
ここに七本槍の中の元新米村民兵は得意にしていた槍を捨てる事に躊躇った。
まるで戦場の真っただ中でそれも敵に相対している最中に武器も防具も捨てて裸になるような気分だからだ。
他の七本槍達がロープを切断するべく飛びついたのを見て初めて、元新米村民兵も今はこの邪悪なロープを何とかしなければならないと感じ、始めて先輩を真似て槍を投げ捨てて無我夢中でロープに飛びついた。
時間差に新旧の経験の差があった。

残った第7騎兵達もそれぞれが爪切りやディナーナイフを振り回して、それぞれが網を切り裂こうと、またロープを切断しようとして襲い掛かった。
第7騎兵の馬達も同様に彼らの持つ凶悪な歯を存分に振るった。
彼らの行動力を掻き立てるかのように、歯が欠けて切れ味の衰えた十徳ナイフを中尉は鬼の形相で振りかざしてはロープに激しく突き立てる。
ロープと闘う第7騎兵達にはそれが後光が差している戦神に見えた。

元新米村民兵の七本槍は、成す統べなくロープにしがみ付いて振舞わされているだけであった。
ロープを断ち切る得物を持っていなかったのだ。
そこで、よくよしがみ付いているロープ全体を見てとると、2本のメインロープを蛮族達が引いているのが見て取れた。
新米の七本槍は今まで同様に唯の「綱引き」ではないかと気が付いた。
ならば、今までの綱引き合戦の要領で対抗できると新米の七本槍は考えたのである。
そこで、仲間に声を掛けてロープや網の一部、特にメインロープを掴むなり、仲間と共に思いっきりそれを引き戻そうと引っ張り始めた。
それに呼応し、もう一旦のロープにも騎兵達が集まり引き始めた。
リーダへの道を歩み始めた元新間村民兵の七本槍がそこに居た。

巨大な網の重さ。
一夜陣の思った以上の骨格の頑強さ。
第七騎兵達や騎馬によるロープの切断。
その上さらにロープを引き戻そうとする抵抗が始まって、ロープを引いていた数では勝る北方蛮族の足を鈍らせる。
底引き網モンスターも一夜陣の全てを引っ掛けてアラモフヶ丘から一掃しようと引き摺り落とす勢いがここで鈍る。

だが、こういういった事態に備えてブラックケトル酋長の作戦には一つのオプションがあった。
敵の抵抗が激しく自軍が負けそうになった時に使うオプションである。
酋長はそのオプションを迷う事なしに繰り出した。
それは底引き網の威力の総仕上げとして残った兵を使って網を背後から押す、つまり追い討ちの追い押し「これが最後だよ。押して、圧して、推しまくれ。」作戦であった。
ブラックケトル酋長の教養が見え隠れするオプション名ではあるが、ここではそれを追求することなく無視する。
むしろ、酋長の期待の通りにこのオプションが虚しく遂行されなかった事が重要であった。

一夜陣と網との間に割り込み、体を張って一夜陣からの視線を遮って網を隠すことに従事していた北方蛮族が居た。
そして、「何でもかんでも底・・(以下略)」作戦開始と共に網に巻き込まれない様にとその場から網の外へと慌てて逃げ去った。
逃げ去ったはずであった。

ここに、運悪く逃げ遅れた北方蛮族が居た。
蛮族は当然の様に底引き網モンスターに絡み取られて悲鳴を上げながらも網から逃れ出ようと必死に藻掻いた。
無事に避難した蛮族達が胸に手を当ててその命運を祈りつつも、胃や腹に手を当て苦しそうに笑いを必死に堪えながら逃げ遅れた犠牲者を眺めている。
しかし、この不埒な笑いもたったの一コマで恐怖へと変わるのである。

蛮族は絡み取られた網と一夜陣の残骸の山の間に挟みつけられて残骸表面に固定されている。
挟んで離さないのは屈強な北方蛮族が網をグイグイと引く力であった。
残骸の壁に練り込めと言わんばかりに押し付けられるので、その拘束を免れた片腕を除いてほぼ全身の動きが取れなかった。
さらに、屈強な北方蛮族はアラモフヶ丘を引き釣り落とそうとして力一杯に網を引き続けるのである。
強く押さえつけてくる網目が体にめり込んで喰い込みが際立つ程に蛮族の体をぐいぐい押さえている。
一介の、それも平均値でほぼほぼの普通の力ではその屈強な北方蛮族達の合力に抗える筈などど無い。
骨の折れるような軋み音を体中から立てながら、悲運な蛮族の意識は次第に遠のいていく。
悲劇の北方蛮族の自由な片腕が網目から真一文字に突き出され、助けを求めるかの様に何も無い空間を掻きむしって最後の足掻きをしていた。
そしてついに、その網の圧に堪りかねた蛮族は辺り一面に鼻血の雨を降らせながら意識を失ってしまうのである。

意識が完全に失った後も、突き出された蛮族の腕はまるでそれ自体が意識のあるかの如く網の揺れと共にゆっくりと上下し、手首もそれに合わせて上下する。
まるで仲間を手招いているようにゆっくりと上下に揺れているのだ。
蛮族達にとってその姿は白鯨の巨体に貼り付いたエイハブ船長が捕鯨船ピークォド号の船員を手招きするかのようであった。
北方蛮族達にとっては、船長がゾンビと入れ替わっており、生きた血まみれの脳みそ(鼻から鼻血と共に流れ落ちた鼻糞の塊であるが)を啜りながらも新鮮な脳みそを求めて仲間を呼ぶ姿という風に見えていた。

「これが最後だ・・(以下略)」作戦で待機していた第1高歌猟犬兵軍の蛮族兵はこの怖ろしい光景に二の足を踏みその場から身動きできない。
アラモフヶ丘一夜陣の残骸の揺れに応じてゾンビの灰色がかった白目が不気味に蛮族兵を睨ら見回してゆく。
ゾンビの呼ぶ腕のゆっくりした手招きに蛮族兵は心底から震えあがってその場を動けないのだ。
その場から前に出ない代わりに蛮族同士で一番乗りを静かに体で押し合い一番乗りの名誉を押し付け合っていた。
ブラックケトル酋長ですら巨体の蛮族兵の影に隠れ、「行け~、行け~。行くのだ。」と小声で第1高歌猟犬兵軍に指図をしているだけであった。

アラモフヶ丘でモンスター網と奮戦するランカスター中尉にとってはこのゾンビ出現は幸運であった。
ここで、酋長の思惑通りに「これが最後だ・・(以下略)」作戦が始まっていたら、ほぼ確実に一夜陣の最後になっていたに違いなかったのだ。
その為に「マルケットベルト作戦」も風前の灯となり、最終的には第3次全村大戦は終わらないのである。

「これが最後だ・・(以下略)」作戦が使えないと知ったブラックケトル酋長はこれで決着をつけるとばかりに次のオプションを繰り出した。
一部隊を統率するだけの事はあって、ブラックケトル酋長はメインとする作戦に様々なオプションを準備しているのだ。
「儂、偉い。」というだけの実力派なのである。

ブラックケトル酋長は網を引く北方蛮族に熱い応援する為の準備を始めた。
チアガール(実はチアボーイ)を第1高歌猟犬兵軍から選抜収集して、チアガールに仮想したうえ化粧までして盛大な応援に当たらせたのである。
チアガールに扮した北方蛮族が剥き足でドスドスドスっと地を響かせながら踊りを始め、だみ声の黄色い声援を揚げる。
真っ赤に塗りたくった唇を窄めて綱を引く仲間に熱いウィンクを送る姿はある意味で壮観であった。

しかし、これは逆効果であった。
小刻みに震える顔面蒼白の北方蛮族が身を硬直してメインロープに掴まったままアラモフヶ丘に引き戻されていく。
引き摺られた後には震えだけでは済まされなかった無意識体が点々と転がっていた。
本能的にメインロープを手放して逃げ去って行く北方蛮族も多数出た。
北方蛮族側の戦意喪失と戦力激減、加えて第7騎兵達の粘り勝ちで何本かのメインロープが引き戻されてゆく。
意識の無い巨体の後ろに隠れ、酋長は何とか意識を保つ事が出来ていた。
気を取り直すにはかなりの時間を要してしまい、「即刻、中止」命令は出せずにいた。

ブラックケトル酋長の不幸は続き、ランカスター中尉の幸運が続く結果となった。
嵐が吹き荒れたかのような「これが最後だ・・(以下略)」作戦が終わったのである。

作戦終了後、嵐が過ぎ去った後、破壊された一夜陣は残されたロープで補強された。
そして、歪な形となってはしまったがアラモフヶ丘には一夜陣が残ったのである。
アーネム第7騎兵隊も半分以上は戦力を失ったが、ランカスター中尉ともどもまだ健在であった。
対する第1高歌猟犬兵軍も回復アイテムでは回復不可能となった蛮族兵が累々とアラモフヶ丘麓に転がり、その戦力は半分となっていた。

アラモフヶ丘のアーネム第7騎兵隊の熾烈な戦いは続くのである。

-- 灰色猫の大劇場 その28 ----------------
灰色猫が玉座に座っている。
再び参上した金色の長い鎖が付いた黒縁の片眼鏡を付けた狐が柱の影から玉座を狙っている。
玉座を前に放火兎が居た。

放火兎は高級ライター「イム・コロナ」の炎を点けたり消したりしている。
目が虚ろで尋常でない。口端から溢れた涎が尾を引いて床に向かって垂れている。
かなり「やばい奴」と心の中で舌打ちする灰色猫。
放火兎がおもむろに前進し、「イム・コロナ」の炎を点けた。
灰色猫も「ジッポー」の炎を灯して対抗する。
炎と炎が重なり合い、炎上する。
狐が葉巻にその炎を使って灯し、うまそうに一服する。
「いや~。君たち、ご苦労であった。」
そう宣って満足げに立ち去る狐。

その揺れるふさふさの尻尾に二つの火炎が滑るように追っていく。

--続く
この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。
この物語の著作権はFreedog(ブロガーネーム)にあります。
Copywright 2022 Freedog(blugger-Name)
Posted at 2022/11/27 11:37:33 | 物語A | 日記

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