• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+
イイね!
2023年09月20日

物語A223:「ラン カスター!」

一夜陣の中にじりじりと手繰り寄せられてゆくロープに縋って一緒に引き込まれてしまった第1高歌猟犬兵軍の北方蛮族が居た。引っ張る事に夢中で自分の立ち位置を失念していたのである。引き込まれると同時に敵陣の内である事を知り、我が一番手だと自らの境地を考えずに勝ち誇ったように拳を振り上げて遠吠えを上げてしまう。立ち位置のみでならず現況も失念している。ランカスター中尉はその北方蛮族の胸元から顎の先端にかけて掬い上げる様に張扇を叩きつけていた。長打を狙ったゴルフスウィングの要領である。

クラブを振り切って、飛んで行く白球を見定めようと宙を見上げた時にネム少尉の華咲く騒々しい合図を見上げる事とになってしまった。陣地の既に名ばかりとなった防護壁を飛び越えて面白い様に丘を転げ落ちる北方蛮族の姿を目で追っていたとしても自然にその視界に入ってしまう程の天空を覆う豪勢な合図である。中尉はその空を覆うその合図の余りにも豪華さに驚きを覚えると共に、合図を視認する事で寸の間だけネム少尉の生存が確認できた事に喜ばしく思った。

しかし、その喜びは直ぐに消し飛んでしまう。そもそもその合図は絶体絶命の時に始めて使う最終合図であって、アイント・メー・ネム少尉と率いる物資輸送隊が全滅も考える程の重大なピンチに落ちているという事に他ならないからである。ネム少尉の大袈裟振りは日頃からは良く知っていたが、この合図の豪勢さはネム少尉と物資輸送隊が真に非常に危険な状態であると示唆していると中尉は悟った。

憶測よりは先に行動を起こすランカスター中尉である。行動しながら考えるタイプが中尉なのである。中尉は急ぎ、一夜陣の物見台であった瓦礫の山の上に駆け上がり、上空に上がった各種合図の発射地点とおぼしき場所を目を凝らして探る。物資輸送隊と敵との戦闘状況を中尉自身の目で確認する為であり、物資輸送隊の損害、特に物資の損失の状況を確かめようとしているのだ。

これらの情報が無い事には適切な次の一手が打てないのである。中尉のその希望をあざ笑うかの様に、信号弾を発射した場所のみならずその戦場すらも小さな高地の影に隠れて観測する事が出来なかった。見えない戦場の状況を観測する事は出来ないが高地の輪郭から地煙が微かに噴き上がっているように見えるところから、かなりの規模の戦いであると思われた。直ぐに中尉は偵察を出すべく、その任に当たる偵察兵を守備兵から選抜しようと陣内を振り返ったその時、小さな高地の輪郭でさらなる動きがあった。

ふいに高地の影から銀色に輝く大きな球が飛び出し、一度軽く地面でバウンドしてから転がって行く。その球を追い掛けて北方蛮族と新米村民兵の姿がゾロゾロと群れをなして高地の影から互いに争いながら走り出て来る。先頭を走る新米村民兵の襟首を掴んだ北方蛮族はその体を後ろへ軽々とそれも片腕だけで投げ捨てるが、すぐに真後ろに迫っていた新米村民兵に足を絡めとられて地面に勢いよく転んでしこたま顔面を打ちつけてしまった。それを、後続の北方蛮族と新米村民兵達が無頓着にも、またわざとらしく踏み躙って球を追い掛けてゆく。

新米村民兵が球に飛びついて確保したかに見えた。すかさず、北方蛮族がその体の上にのしかかる。その後は次々と他の選手が飛びついていく。ランカスター中尉の見ている目前で球に追いついた両軍がその球を巡っての壮烈な奪い合いを始めた。

そんな競技者の間を球が彷徨う。ついに、頑健な北方蛮族が彷徨う球を独占するなり両足で器用に蹴り始めて球をサッカー選手の如く操り、向きを反転させて高地の影へと球の進行方向を変える。新米村民兵達が左右前後からその北方蛮族の体にタックルするが北方蛮族は足で球を押さえると軽くその攻撃を両腕で振り払う。振り払われても次から次にと新米村民兵が北方蛮族にしがみ付こうとしてタックルしてゆき仲間と同じように振り払われてゆき、北方蛮族は単独で球をキープしドリブルで進んでゆく。

何度目かのタックルに成功した新米村民兵が北方蛮族にしがみ付き、北方蛮族のドリブルがその分遅くなりディフェンスも僅かに緩んだ。この隙に乗じて次々と新米村民兵達がその北方蛮族に取り付いてゆき、各個体の合成質量と重力との力場で蛮族を地面に押し潰してしまった。調子づいた北方蛮族が楽し気にその山に全体重をかけて飛び乗ってゆき、面白そ気にお山を潰そうとする。

新米村民兵がその山の中で押し潰された北方蛮族がついに手放した球を奪い取って蹴り飛ばしながら走る。これもまた見事な足捌きであった。だが、その新米村民兵の行く手で待ち構えていた別の北方蛮族による強烈なアックスボンバーの一撃で新米村民兵の姿は球を残してどこへともなく消し飛んでしまった。

再び北方蛮族の手に球は渡る。球を奪いとったこの北方蛮族は巧妙な足技を繰り出す事が自分の足の長さでは不適である事を自己認識していたので、素早く球を背中に軽々と担ぎ上げて高地の影内に向かって走る。足が短いだけあって安定した走りではあるが、コンパスが短い分だけ少し遅い。それでも球を担ぐ姿が高地の影に消えて行き、その後を新米村民兵達と北方蛮族達が気炎を上げて先を争いながら追い掛けて影内に消えていった。

ほんのわずかの間見えていたその銀色の球からは数本の腕が生えており、それが意味もなく振り回されているのをランカスター中尉は目にとめておりその動きが滑稽に思えていた。ランカスター中尉もその面白そうなゲームに参加するべく一緒にその影内に吸い込まれそうになって、無意識に踏み出した足が瓦礫の山から滑り落ちそうになって正気付く。

両軍が奪い合っている銀の球はネム少尉の最終防御体系であるトランスフォーアーマードスーツである事が直ぐに識別できた。球から突き出て滑稽な動きをする枯れ枝はアーマードスーツのオプションであるマシンシナジーエフェクター・マスタスレーブシステム・マニピュレーターの残骸であろうと推測できた。

後日、このマシンシナジーエフェクター・マスタスレーブシステム・マニピュレーターの有様に関して、大仰な名ばかりの見掛け倒しであったという世間の評価を設計者は認めようとしなかったという。いつものように「使用者責任」であると断じて、聞く耳を持たなかった。不都合の指摘を受けても不都合としては認めずに、新たな設計に盛り込んで向上するという設計思想を忘れてしまったシリーズ設計魂の設計者であった。頼るはお客様であるが、規模が大きくなると設計者とお客様との壁は厚い。

トランスフォーアーマードスーツの銀ピカの無事な姿、外装オプションを除いてだがその姿を確認できたところでランカスター中尉はネム少尉の無事を確信した。このトランスフォーアーマードスーツを装備して使えるのはネム少尉自身だけで他には誰も使えない事をランカスター中尉は知っているからだ。従って、このネム少尉自慢のこの完璧な防御システムであるスーツ内にネム少尉自身が入って居る事は間違いなく、微々たる損傷があるもののそのほとんどは外殻に取り付けたオプション類であり基本構造は破壊されていない。
ゆえにネム少尉は無事であると確信できるのだ。この事実から、ネム少尉救出の優先度は格段に下げる事が出来た。最悪は無視しても良かった。ランカスター中尉は自分の身を守る事に関しては上官にすらも頼らないというこの自己責任感の強いネム少尉を自慢に思った。今後の作戦遂行においてネム少尉の安否に気を紛らわせないで済むからだ。

日光を反射して銀色に輝いている球のどこまでも闇黒の中で、目をまわしながら船酔いに耐え「暗いよ~。恐いよ~。気持悪い~。う~。」と、抱えた膝に頭を埋めて呻く悲愴な声はランカスター中尉には届いていない。もし仮に届いていたとしたら。ランカスター中尉は取る物も取り敢えずに、というよりは・・・見ざる聞かざる言わざるであろうと推定する。
概ね。
多分。
ほぼ確定。

ともかく、少尉救出の優先度が下がった反面、物資輸送隊の救出にに重きを置く事が出来た。ネム少尉が最終自己防衛秘密兵器を起動している間は風前の灯火である物資輸送隊が待ったなしの即応案件である事は誰でも判別できる。一目で事態の状況把握を行ったランカスター中尉は虹色の脳細胞を戦況偵察から実力行使へと素早くシフトした。それと同時にどのチームが勝利のゴールを決めたのかを知りたいと思った。もちろん、自らの力強いシュートの一発逆転で勝利の栄光を奪い取る為にこのゲームへの参加に意欲満々であった。

一夜陣のアーネム第7騎兵隊の体力消耗戦は今この時でも間断なく続いており、闘う熟練の兵士達の体力残存量が危ぶまれる状況である。彼らの戦闘意欲を支える他の各種パラメーターの数値も同様に低下し続け、底までは後僅かであった。中でも満腹度は釜の底にこびり付いている米粒一粒の状態である。物資輸送隊が輸送する物資が補給されないままにこの消耗戦が続いてしまえば、兵士の体力は確実に底をついてしまう。そして、一夜陣はその役目も果たせずにアーネム第七騎兵の総玉砕に終わってしまう。

それは避けたかった。中尉にとってアーネム第七騎兵の総玉砕など考える事も出来ない事であった。さらに、このような遠方の地で、それも前人未踏の北方地帯で、共に戦ってきた兵士達を路頭に迷わせてしまう事は言語道断であった。
地獄に置き去りにするようなものだと感じていた。

また、ランカスター中尉にとって必要な物資は一夜陣を維持する物資だけではない。ランカスター中尉は第二拠点であるアラモフヶ丘が補給拠点としての本来の役目を果たす為に、丸太上陸部隊への補充兵や補給物資をここに確保していなければならないのである。それが中尉に課せられた任務であり使命である。

「マルケットベルト作戦」立案時に本隊「丸太上陸部隊」が未踏の北方地帯を縦断して進軍するという事をする必要があった。南部地帯の密林地帯を進軍した「マルビ大密林強行突破作戦」の経験とその反省会がこの作戦立案に役に立った。作戦参謀は重箱の隅を突く様に、作戦立案したF村シャル・トットコ代表を参加させたうえで、徹底的にその作戦の欠点を洗い出したのである。この時の会議をF村シャル・トットコ代表は針の筵に座っている心地であったと未完の回想録にある。その中で未踏の地を行軍する事は兵の疲労に加え思わぬ事態で生じる兵員の損失があり、当然の事だが物資の消耗が必ずあると想定された。物資などは軍隊が行軍するだけでも消化されてゆく。そこで、その行軍によって生じる兵士や物資の損失を補給する必要があると考えられた。進軍する本隊の兵士の為に安全な休憩場所を提供し、様々な理由で戦闘不能に陥った兵士の交代や補充、失われた物資の補給をしなければならないと意見が一致した。その任務を担うのが第1拠点のバーナモン・ゴメリー中尉と第2拠点のフロスト・ランカスター中尉なのである。

従って、この第2拠点アラモフヶ丘一夜陣は未踏の地を行軍し疲れ果てた「丸太上陸部隊」の安息の地であり、兵員の補充と物資の補給という役目があるのだ。だが、それとは別に第1拠点には無い役目が第2拠点にはあった。その役目とは「マルケットベルト作戦」の目的である独裁者アフェト・ラ将軍を退治するべくD村へ奇襲攻撃の攻撃拠点としての役目である。つまりは「マルケットベルト作戦」の成否の鍵がこのアラモフヶ丘一夜陣にあるのだ。

ところが、現実は補充兵となる新兵達は高地の向こう側で謎の集団に叩かれおり、準備してきた物資も同じように手の届かない見えない所で強奪されていると推測される。さらに第二拠点を確保するアラモフヶ丘守備隊も多数の北方蛮族に包囲されたうえ間断なく叩かれ続け、拠点確保を必死に堪えている有様であった。この状況においては第二拠点の役目がほとんど終わったも同然であり、「マルケットベルト作戦」が失敗への道を歩んでいるという苛酷な運命をランカスター中尉に突き付けていた。この暗い運命に一筋の光明は無いものかとランカスター中尉は、一夜陣の麓に張られている包囲網を突き抜け、新たな敵の待つ丘の影の戦場に飛び込んで物資輸送隊の物資を奪い返し、一夜陣に取って返すという一連の流れを頭に思い浮かべてみる。もしかすると物資輸送隊は善戦をしているかもしれないとほんの僅かに思った。だが、中尉は銀の玉が蹴り転がって行く光景を思い出すとその僅かな反撃の希望は霧散していった。

それでなくともアラモフヶ丘の一夜陣の悲惨さ、夜通し闘う守備兵達の悲壮感溢れる姿が見なくとも見えてしまう。高地の影に潜む敵の実力を正確には計れないが、チラリ見したその筋肉の塊のような兵士達の姿形からはかなりの強敵であると推測できる。その敵を相手にして疲れ切ったこの部下達が物資を奪い返し、物資輸送隊を引き連れて一夜陣に逃げ帰って来られるかは解の無い大問題である。
現状の残存する力量であれば第7騎兵隊は目前のアラモフヶ丘麓の包囲網を突破できるに違いない。兵数は未知数だが、その後に高地の影に潜むそれ相応の実力を持つであろうと推定される敵勢力との間で物資争奪戦を行い、奪取した物資を一夜陣へ引き上げる。この一夜陣に帰還する為には穴を開けた麓の包囲網を再度突破しなければならない。そして、再び包囲網を突破しなければならないのである。その時には、開けられた穴は塞がれているに違いないし、さらに強固に万全の用意をして待っているに違いないのである。不可能であった。不撓不屈のランカスター中尉であってもそう断言するしかなかった。もし仮に、万が一にも運良く、戦いの全ての戦神が手を貸してくれたとして、その物資を持ち帰る事が出来たからといって、本隊である「丸太上陸部隊」の到着までこの一夜陣を守り通す自信はランカスター中尉には無かった。「一夜陣総玉砕」の報告書がA村リー・ハーマン第33代大統領の机上に置かれている光景をフロスト・ランカスター中尉は目に浮かぶのである。

戦力に余力のある今だからこそ我らに出来る事を即実行しなければならない。物資奪還が不可能であれば、潔くアラモフヶ丘一夜陣を捨て去り、物資補給隊を救出し、この地域から撤退するしかないとランカスター中尉の考えるのである。そう行動すれば、その間でネム少尉の救出も少しは可能性が出て来る。今までも負け戦は度々あったが、唯で負けた事は一度も無いと自負する中尉は、今回は反撃へのチャンスを狙っての地盤固めの戦略的撤退であると完全な負けを認めない中尉であった。物資輸送隊を救い、ネム少尉を救い、一丸となって退避する事が当面の勝利だとして、最後の特攻を行って華々しく戦場に取ろうとする自分自身の闘争心を押さえつける。難しいのはこの負け方であるとネム少尉は厳しい顔付で自問自答した。唯の撤退では敵に塩を送る事になってしまい、激しい追撃を受けて兵力を極端に失いかねない。再起不可能な負け戦は絶対に避けるべきなのだ。

撤退を包囲する敵に気取られないよう、窮鼠の総力戦と猫共に思わせて丘の麓の包囲網を一気に突貫するのである。その後、高地の影で行われている戦場に向かって全騎兵一体となって一直線に突き進むのだ。不意の攻撃に包囲網の敵は寸の間だけ戸惑うと思われるが、包囲網を突き抜けた後、高地の戦場に向かっていく騎兵達におのずと気が付くだろう。さすれば、直ぐに追撃しなくても高地の影に居る敵軍と連携して、逃走する騎兵達を挟み撃ちにしてしまえばよいと考えるに違いない。故に、美食を賞味しながら平らげる饗宴の様にゆっくりと蹂躙できると判断し、楽な戦いを選択すると思われる。従って、窮鼠の手厳しい反撃に合う中を追撃してむざむざと兵力を失うよりは、楽な挟撃を想定しての進撃を行う方がいかに理に適っていると敵軍は思うに違いないと中尉は予想するのである。
つまり、執拗な追撃は無いとランカスター中尉は考えた。

しかし、ランカスター中尉はネム少尉同様に包囲する第1高歌猟犬兵軍のワシタ・ブラックケトル酋長と高地の影で闘うBB歩兵私団のゲルフォン・ルント中佐とが密な連携作戦をしているのだという思い違いをしていた。さらに、北方蛮族のディナーがどのような様相を呈すかなどは想像する事すら出来ないランカスター中尉であった。彼らのディナーは獲物を味方同士で力づくで奪い合う事から始まるのである。

その事情を知らないランカスター中尉は高地の影で繰り広げられている闘いに夢中な敵軍が背後を油断している内にその闘いの場に殴り込みをかけるのだと考えていた。高地に登って転がる岩石と共に敵に襲い掛かる岩石落としが、後世に武勇を残して面白いかもしれないのではと中尉は夢想したりした。関ケ原の合戦の如く、敵本陣に向かって撤退を敢行した猛者の薩摩武者の気分である。それを考えるだけで中尉の心はゾクゾクとし弾け舞い上がるのであった。

騎兵の突然のこの攻撃で敵は大混乱するに違いないとランカスター中尉は現実的に考える。その隙に出来るだけ多くの物資輸送隊兵士と物資を奪還するのだ。そして、慌てる敵兵を尻目に物資輸送隊の兵士をできるだけ多く引き連れて敵を嘲笑いながら河の方へ撤退するのである。チャンスがあればネム少尉の銀魂も転がしてゆけば良い。その時には絶妙な足さばきを見せてやると中尉は思った。またまた中尉の心がまたまた弾ける。

もしかするとその銀球を旨く利用すれば苦労せずに戦場に突破口を作ってくれるかもしれないと考えた。新兵器も用意しているとは「さすがなネム少尉」であるとランカスター中尉が思ったかは不明である。また、その内部ではネム少尉が泣きじゃくっていたという事実は誰にも知られる事はなかった。

救出と奪還をした後は再び河に向かって全速で走り抜いて敵の追撃を振り切るのである。その撤退の途中で地の利の良い新しい拠点を探して陣を構築し、「マルケットベルト作戦」の主力本隊の丸太上陸部隊を待つのだ。陣が無ければ、丸太上陸部隊に合流するのも良い。ランカスター中尉はそこまでの行動指針を素早く立てた。

本隊への合流後は潔くアイゼン・ブル・マクレン大佐に第2拠点放棄の報告を行い、その後の判断を全て委ねるしかないと中尉は決意している。「マルケットベルト作戦」そのものを失敗、良く言ってもて危うくしてしまったのである。その責任は重大でどのような怒りと裁きがあるかもしれなかった。全ての責任は自分に有り、部下には無いと真摯に訴えてその裁きを中尉は受けるつもりであった。だが、出来ればマクレン大佐の元でどのような辛い戦いにも参戦しその先発を仕りたいとも思った。D村奇襲の為の危険で無謀な囮役でも自ら進んで出陣するつもりであった。

そんな事を思い描いている間もアーネム第7騎兵隊の消耗は無慈悲にも待ったなしで続いている。時間が過ぎれば事を起こすチャンスが失われてしまう。早急に決断をしなければならない。そして、第2飛行隊隊長でありアーネム第7騎兵隊隊長であるフロスト・ランカスター中尉はここにアラモフヶ丘一夜陣の瓦礫の頂上で一大決心をした。苦渋の決断はもちろんの事、この一夜陣を放棄する事である。決断してしまうと、青い空のもとで肩の荷が下りたような清々しい感じがするランカスター中尉であった。顔を風が撫ぜて行く。

瓦礫の頂上でランカスター中尉はアーネム第7騎兵隊の皆の前で陣を払う決断を伝える。それを聞いて悔しがるアーネム第7騎兵隊に対して、中尉は個々の兵士が十分納得するようにコツコツとした説得はしなかった。鶴の一声で反論は許さない厳しい口調での軍の命令であった。中尉はこの苦渋の決断を思うと涙が出そうになるが、必死にこらえながら目を吊り上げて語る。これは撤退に非ず。足止めされている物資輸送隊と合流して部隊の再構築を行う予定である。これから麓の包囲網を全力で突破する。その後、あの高地の影の戦場に殴り込み、そこで戦っている物資輸送部隊の兵士をできるだけ多く救出する。その時、物資が得られるならばそれも奪取する。そして、上陸地点の河に向かって死に物狂いで走れ。敵の追撃が終われば、部隊を構築し反撃の準備をするのだ。もしその途中で進軍中の丸太上陸部隊に遭遇したならばその軍門に速やかに下りマクレン大佐の指揮に従え。ランカスター中尉は命令した。かの、関ケ原の戦いのおり、あろうことか東軍の徳川家康の陣に向かって撤退を敢行した薩摩軍を思い出す中尉であった。ランカスター中尉の断固としたこの態度に気圧されたアラモフヶ丘守備達は涙を呑み込みんで反撃する準備であると気合の喚声を一斉に上げてそのランカスター中尉に答える。

引き続き、中尉は七本槍には特命を与える。自らが先陣を切って包囲網を突破し血路を開き、高地の影の戦闘に突入して物資輸送隊を救いながらも、敵全部を引き付けておく。それ故に包囲網を突破するまでは我らの後に続き、突破後は戦闘に巻き込まれない様に直ぐに二手に分かれて進み、本隊へこの状況を知らせるという伝令の役目を命じた。何も知らないで進軍して来る丸太渡河部隊がこの戦闘に巻き込まれ、戦力を無駄に失わなう事を防ぐ為であった。高地の影の敵の垣間見えた姿形から、仮に相当数の敵が居れば全滅も考えられた。これは絶対に避けねばならなかった。猿飛伽椰子が率いる「毬高雅忍び隊」が後方攪乱や索敵の他にこういった部隊間の連絡も北方地帯全域で活動しているのだが、それだけには頼らないランカスター中尉であった。さらに、彼らの存在をいまだに確認できていないうえに、「毬高雅忍び隊」の支援が得られないまま酷い夜間着陸をした事を根に思っている。それ故にランカスター中尉のこの判断も当たり前であると考えて良い。余談であるが、この時点では服部貞子率いる「井戸端皿番長隊」がマクレン大佐の元で暗躍している事をランカスター中尉は知らなかった。

この重要な伝令に対して七本槍の新参物である一本槍は応じようとしなかった。最後まで第七騎兵と共に戦闘に立ち、中尉に付き従ってこれを守るのだとして一歩も譲らなかった。
「おらあ、(始めて皆に)贔屓にされただ。それにすんごく期待された。なんもかも(中尉さんの)おかげだ。じゃけん、(最後まで)お供するだ。」
涙ながらに話す言葉には多少の注釈が必要である。新参者は汗まみれで畑に邪魔な木の切り株と闘っていた時に農道を走り去る銀色の半重力スーパーカーから当たり前の様に投げ捨てられるジュース缶が足元に転がって来た事を思い出していた。
「んだから、わりゃ(最後まで)中尉さんを守る(事に決めとる)だ。」
酔っ払いが闊歩する華やかな繁華街の脇道でファーストフード店のごみ箱を漁っていたみすぼらしい姿を思い出しもした。
「連れていってくれ(や)!(お願いだす。)」
そんな事を涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにして必死に訴え続けた。一言一言を結ぶ度にその酷さは増してゆく

今回初めて戦場に立った新参者ではこの伝令の使命の重要さを知るには無理で致し方がないかとランカスター中尉は苦笑する。他の七本槍達も新参者と同様な心持であったが任務の重要性を良く知っているので奥歯を噛み締めて言いたい事を呑み込み黙っていた。昔の自分なら、同じ事をしたかもしれないとは中尉を皆の憶いであった。
「勝手に晒せ!」
中尉の一言であった。

やおら、ランカスター中尉は部下達の面前でボロボロとなった張扇を真一文字に宙に突き立てると、
「一夜の陣も今朝限り、生まれ故郷の泣く妻を振り切り、縋りつく子を捨て、群がる生命保険勧誘員を打ちのめし、幾多の戦いを共にした貴様らとも別れ別れになる首途(かどで)」
と声高らかに宣い、一呼吸を入れると皆が涙した。
そして、そのボロボロの張扇を見つめて、
「俺にゃあ生涯、手前という強い味方があったのだ。」
と続けて宣い始めたが、それは完結する事が出来なかった。

「なんじゃ!ありゃ?!」
突然であった。見張りが陣内の隅々にまで響き渡る素っ頓狂な叫び声をあげたのだ。戦場には思いがけない異変が生じていた。

見張りの叫びに続き、喚声、悲鳴、嬌声、大喝、怒号、狂言、叫び声、咆哮が一気に一夜陣に押し寄せてきた。ランカスター中尉は張扇を腰に収める事も忘れて慌てて陣外に目を向ける。第7騎兵達の面々も、つい今しがたの苦悶も悲観も全て忘れて陣外へ目をやる。今度は何の奇策で攻めようというのだと憶測していた。だが、攻められているのは包囲網の方であった。包囲網が一隊の、一隊に見えてしまうほどの舞い上がる砂と小石と雪と岩を後に残して一体の戦車が包囲網の外縁から切り裂き始めており、そこからあらゆる種類の大音声が喚き散らされている。その声と同時にそこから北方蛮族の体も次々と宙に舞い上がり周囲に飛散して行った。兵士や武器、岩が面白いくらいに飛んでゆき、包囲網が左右に切り裂かれていく。モーゼの再来かとランカスター中尉はその様相を見いってしまった。違いは見えざる力によってが切り開かれるのではなくそこを驀進する何者かが切り開いている事だ。

ここで、この異変が起きる少し前に時を巻き戻す。場所もまたアラモフヶ丘から高地の影の戦場に移動する。格好よく書けば「いわゆる時空転移を行うのである」。ちなみに、どこかのSFで云う「転送っ!」ではない。戦記を執筆する上で、複雑な戦いの流れとなってしまった場合に前後の関係を明確にする為に一旦過去の事実を少し書き足しておくのだ。この為の余分な部分を取り、物語の中断をする事は2次元の一方通行の書物では致し方が無いのだ。尚、巷のSFでは日本語訳の「転送」を「Beam」と言うらしい。なんだか、黄金銃を所有している殺し屋が持っている高出力レーザーを思い浮かべてしまう。

余談はさておき、時空転移先では北方地帯の積雪すらも溶かす勢いでナイナイメー辺地から荒れ地を駆け抜けてきた王者コナンが物資輸送隊とBB歩兵私団との真っ向勝負の場に到達した時分である。戦場の熱い風が汗一つない王者コナンの顔に吹雪く。コナンはその闘いを、侵入者つまり物資輸送隊が数で圧してはいるもののBB歩兵私団の一方的な戦いと見切った。だが、コナンは同じ仲間のこの優勢には全く満足していない。むしろこの戦場を見て強く不満を覚えていた。

戦場は不確定要素が高く、思わぬ進展に走ってしまう事はよく承知している王者コナンではあった。これが王者コナンの知る元祖北方蛮族であればこの有様も致し方がないと納得できる。例え始祖北方蛮族でも同じだと納得できる。本家北方蛮族であろうと源流北方蛮族でも北方蛮族オリジンですら同じ穴の狢だと王者コナンは思っている。

だが、ここで戦っているのはその北方蛮族ではなくBB歩兵私団である。コナンに追従してD村を出奔してきた近代戦の精鋭であるBB歩兵私団が彼の絶対的命令に背いてのこの戦闘行為である。言いかえれば、戦上手のBB歩兵私団がこのように弱小・・・弱大集団の部隊との間でこのように交戦ししてしまう事は一体どういう指揮をしていたのだとゲルフォン・ルント中佐を一喝したくなるのである。敵に発見される事無く影に潜んで監視する事などはBB歩兵私団にとっては非常に簡単で児戯に等しい任務であると王者コナンは思っている。それが、この有様である。

戦場を眺めているうちに数で押す物資輸送隊の圧し饅頭でBB歩兵私団兵がまた倒された。憤然とした王者コナンの口からは自然と「不甲斐ない!」と言葉が出る。ナイナイメー辺地で期待していた猛者との一騎打ちの肩すかしを味わって不満が溜まっている王者コナンは怒った。戦場を眺めているうちに超不満となり、超々苛立って怒り心頭となっていった。

そうした怒りの中でも、冷静にざっくりと戦況を見切った王者コナンはその足を止める事無く、ベンとハーに鞭を激しく入れて戦車の速度を上げ、荒れ地で車輪を激しく跳ね上げる戦車を上手に操ってその戦場へと突進してゆく。眼がらんらんと輝いていうる。雪混じりの岩塊や土煙が背後へ舞い上がり一筋の線が戦場に向かって荒野に伸びていった。

ネム少尉の物資輸送隊とBB歩兵師団が死闘を演じている戦場の兵士達の背中の壁に王者コナンがベンとハーが曳く戦車で突入した。その最初の一撃で物資輸送隊かBB歩兵師団かの見分けがつかない兵士が弾き飛ばされ、ベンとハーの肉球に踏み潰され、悲鳴と歓喜の声を上がった。その声が戦場に轟き渡り、闘う兵士達が何事かと声のする方を振り向いた。王者コナンの張扇の一振りで所属未定の兵が次々と噴水の様に宙に舞いあがっていく。「銀」の玉の芝狸もその中に混ざっていたかもしれないが、やはりその判別はつけられなかった。

王者コナンは戦車の前進を阻む兵士を敵も味方関係なく張扇で左右に張り飛ばし、首元を掴んでは投げ捨て、齧っては振り回し、逃げる兵士を車輪で踏みつぶして、戦場を圧し進んで行く。戦車を力強く曳くベンとハーの戦いぶりもまた王者コナンには負けていない激しさである。足に咬みついて引き摺り倒し、肉球でその体をフミフミし、尻尾で頬が赤くなる程の連打を浴びせ、股座に咬みついて卒倒させ、懐をまさぐって土産物を奪い取っていくのであった。それはそれは容赦のない闘い方であった。今また猛者との一騎打ちというチャンスを逃したうえ、雑魚を相手にせざるおえない身を恥て狂王と化したコナンの戦いぶりは凄惨なものである。戦車の通った後では、お鍋が地面を転がり、薪が狂王コナンの燃える闘魂に燻り、微振動以外に身動きする兵は無く、スッポンポンの狸が宙を泳いでゆくのだった。

BB歩兵私団のゲルフォン・ルント中佐が無謀にもその疾走する狂王コナンの前に立ちはだかった。中佐はこの戦の状況を報告し、図らずも戦闘に至ってしまい結果的に元帥の命に背いてしまった理由と詫びを上訴するべく棒の先端の割いた部分に挟んで差し出していた。自分はD村を出奔までして元帥コナンの後を追ってきた部下でその中でもひときわ忠実であるとルント中佐は自負している。出奔後も北方蛮族との争いでは元帥コナンを命がけで守り、戦の戦法を賜って果敢に蛮族を攻め立てて来たのである。当然の様に元帥コナンが戦車を停めて上訴状兼詫び状を受け取るのが当たり前であろうとルント中佐は考えていた。それが忠実な部下に対する当然な神対応なのだと信じて疑わない中佐である。だが、躊躇いもなく突進してくる狂王コナンの凄絶な姿に中佐の足は細かく震えていた。狂王コナンは、そんなルント中佐をあっさりと張扇の横薙ぎの一撃を加えて進路からはじき出した。暫くしてから、狂王コナンは戦車上で「はて?知った顔であったような?」と思いつつも、脳の記録帳を破り捨て、湧き上がる記憶を圧し戻し、突進の手を全く緩める事無く戦場を突き進む。ベンとハーの引く狂王コナンの乗った戦車が戦場を突っ切る後に出来あがる舗装道路にはルント中佐の姿を見る事は無かった。一般兵も管理職も、さらには敵も味方も、「銀」の玉の芝狸も判別不可能な状況であるこの中での発見ができないのは仕方の無い事かもしれない。中佐ウィ弁護するわけではないが敗因は中佐の忠義が薄いわけではなかった。「訴状にしたためた字が汚くて読めない」「コナンは文武両道では無い」「狂人の視野に他の選択肢はない」などなどという理由が後世の歴史家の主だった認識である。

狂王コナンはその勢いで戦場を両断したにも拘らず戦車を停めて、いつものルーティンワークの様に敵軍の徹底した殲滅を始めようとはしなかった。戦場を突き抜けて高地の影から飛び出した時、前方にアラモフヶ丘での一夜陣と第1高歌猟犬兵軍の攻城戦らしき戦場を狂王コナンは発見したのである。その面白い戦場を発見した狂王コナンの眼が怪しく輝いて微笑む。寸の間だけ前後どちらの獲物を狩るかで「進むか戻るか」の迷いが生じたが、既に凶暴化し理性の欠片も無いベンとハーには狂王コナンと同じような迷いがない。容赦なく戦車を引き摺ってアラモフヶ丘の戦場に向かって走り出し、闘争に有頂天になっている狂王コナンも攻城戦に向かって走るベンとハーを敢えて制する事はしなかった。攻城戦に参加するのもこれはこれでなかなかに面白いものだと狂王コナンは考えている。野戦と攻城戦という2種類の戦場を一度で同時に味わう事が出来るのもまた一興であると狂王コナンは喜び、両方の戦場を完全制覇する気持ちに高揚してしまった。この時の王者コナンの心情はこんな風であったと思われると戦後の歴史家は語っているが理性の無い状態を憶測するのは困難である。

一線を超えてしまった王者改め狂王コナンとベンとハーを止める事はもはや何であろうと出来ない。「第三次全村大戦」開戦時にコナン元帥がF村を突き抜けI村までも突っ込んで行ったうえ、そのI村の最高位である酋長ムウト・ソムリチネを捕獲してしまい、後に同盟を結んでいたD村独裁者アフェト・ラ将軍様のその後の凶事の元となった事件を引き起こした「パシリ大戦車作戦」が思い起こされる。積雪の始まる原野を疾駆するベンとハーは瞬く間にと言ってよい程にアラモフヶ丘を包囲する第1高歌猟犬兵軍に突入した。背後からの突然のこの強力な奇襲攻撃に驚いた第1高歌猟犬兵軍は何が起きているのかも分らずに仲間が宙を飛び散るのを見ても何も出来ないままに只々右往左往してしまう。ここにおいて、王者コナンの時間軸が包囲網のこの混乱を驚愕の目で見入るランカスター中尉の時間軸と合致した。時空転移の完了である。

ただ、その時空歪みの影響で暫くの間は文節毎に時空間の揺らぎが生じてしまい、マルチバース(多元宇宙論)の個々のバブルワールド(並行世界もしくはパラレルワールドともいう)が周縁部で重なってしまうかもしれない事を先に記す。つまり、書き間違いや構成の未熟から来るものではないと記しておく。

通り一遍等の奇襲攻撃にも耐え抜き、蟻の入る隙間も無い鉄壁の第1高歌猟犬兵軍の包囲網であったが、背後からの奇襲攻撃という事もあったが狂王コナンを阻む障害にすらならなかった。トールハンマーの一撃に加えて超重量級のブルドーザーで道を作る様に、何の抵抗もなく包囲網に兵士の舗装道路が仕上げられる。包囲網を突き抜けた後は、アラモフヶ丘頂上の一夜陣までこれまた瞬く間に駆け上がり、その疾駆の勢いが止まらないままに一夜陣のこれもまた鉄壁の城壁に穴を穿って陣中に飛び込む狂王コナンとベンとハーであった。一夜陣守備兵、つまり第七騎兵達と新米村民兵達が陣中に飛び込んで来たその脅威の存在に身動きできず唖然と佇んでしまっていた。見張りが「なんじゃ!ありゃ?!」と素っ頓狂な叫び声をあげたのがほんの僅か前の事である。

ここでもしも仮にランカスター中尉を含め一夜陣守備兵の誰かが少しでも反抗していれば、一夜陣はその瞬間に狂王コナンによって蹂躙され壊滅していたであろう。しかし、運良くランカスター中尉を含め一夜陣守備兵達は恐怖の「カペンタ科目THING種」異形未確認生物に遭遇したかのように驚きと恐怖から全身が凍り付いてしまっており、抵抗するどころか身動きする事すら出来ないでいたのだ。さらに、守備兵達のその姿も壊滅を免れた決め手となった。兵士達は疲労感が全身から色濃く出ており、それがダークパールのオーラの粘液物体となって全身から湧き出ており、その滴り落ちる音がボタリと聞こえてくるような哀れな姿であった。出陣時に支給された新品の戦闘服も長く続く戦闘で今はボロ布同様となって体に引っ掛かっている程度であり、これでどうやって身を守る事が出来るのかと思う程に脆弱で貧相な体裁となっている。これら守備兵の姿が一夜陣を狂王コナンの狂気とベンとハーの悪の手から救った。

目を白黒させながら一夜陣の騎兵達が見ている目前で陣中に土煙と雪煙を巻き上げてベンとハーと戦車とコナンは激しくUターンをする。飛んだ小石が周囲の兵士達の顔をパラパラと打つが、兵士達はその事すらにも気が付かずにUターンする戦車を茫然と凝視していた。開けた口にハーの後ろ脚で弾かれた岩塊を打ち込まれて卒倒した守備兵は除く。Uターンする間に、狂王コナンは一夜陣の中を隅々まで油断なく見切った。「戦闘能力ゼロ」「只の敗者」「ゾンビ集団」「ちんちくりん」などと兵士達を評価する心の声が続き、最後には「我、彼らとここで闘うは生涯の恥なり」とあくまでも強者を求め続ける武士としての最終判断を狂王コナンは出していた。次の瞬間には城壁に二つ目の穴を穿って一夜陣の外へ飛び出し、包囲網目掛けてアラモフヶ丘を勢いよく駆け降りる。最初の一撃から体勢すらも立て直す暇もなかった第1高歌猟犬兵軍の北方蛮族が再び噴水の様に次々と宙に舞い上がり、包囲網内に2本目の舗装道路が敷かれてゆくのである。

守備兵達が放心状態から抜け出たのは狂王コナンが城壁の穴に消えて、包囲網から再び悲鳴や絶叫・咆哮・嬌声が聞こえ始めた時であった。ランカスター中尉は口パク状態で再び陣外を見た時、狂王コナンはアラモフヶ丘一夜陣の包囲網を再び突破する寸前であった。見守る中尉の前で包囲網に2本の道を仕上げた狂王コナンは戦車上で狂喜の雄叫びを発しながら物資輸送隊の戦場へと走り去って行く。

「ヒー!ハー!」と狂王コナンの叫び声が辺り一帯の荒野に木霊する。その叫びにハーが優越感を持ち、ベンが妬んだ。再び高地の影で繰り広げられている物資輸送隊とBB歩兵私団のガチンコ戦場を突き抜けて遥か遠くまで行き過ぎた辺りで、狂王コナンは戦車の方向転換をする。そして、再び攻撃すべく狂王コナンはベンとハーを鞭打とうとするのだったが、ここでベンとハーが懐から出した「おにぎり」という強い光のフォースに王者コナンはベンとハーと共に一時の休憩を得るのであった。

一夜陣の包囲網には2つの大きな通路が出来ていた。それをランカスター中尉は見た。「労せずに得たチャンスだ!」と中尉が思う前に、天からの声なのか、内なる声か、はたまた声の主が戦神なのか軍神なのか、何もわからないまま低くはっきりした声か響いた。
「ラン カスター」。
ランカスター中尉は声の主を探ろうとしたが、それを押し止める様に再び響く。
「ラン カスター」。
言葉の真意も、その正体についても、何か別の事を考える事も、一切許さずに盲従だけを求める重々しい声が中尉の頭の中に響き渡る。同時に中尉の闘争心に蹴りを入れて煽り奮い立たせる。声の正体が何であろうとこの絶好の機会を逃せば後には何も残らないのは当たり前の事実であった。

内から突き上げられたかのようにランカスター中尉は「万歳!野郎ども、奴らを片付けて不細工な将軍をぶちのめそうぜ!」と叫んでいた。この号令の最後の「将軍」の部分をこの時に中尉が言ったどうかは、後日の証言に様々なパターンがあり正確ではない。これら複数の証言については「後世の読者の受け」を狙ったセリフで、知名度欲しさと発行部数を伸ばす為に歴史家が創作したのではないかとも噂されている。証言の中にはただ単に「突撃!」と言った証言もあった。歴史書の読者に受けない為か、発行部数に伸びが見られない為か、その証言を引用する歴史書は少ない。当歴史書では中尉の性格からしてこの一句だけが正しいのではと推定しているが世事には弱い。尚、受け狙いのセリフを書きつつも事実を書くこの記法を模倣する事は当歴史書の著作権侵害に当たるので注意されたい。

ともかく、アーネム第7騎兵隊と七本の槍を含めるアラモフヶ丘一夜陣の守備兵の残存兵はランカスター中尉のこの号令に答えて一斉に鬨の声を高らかに上げた。狂王コナンの穿った城壁の穴から仲間の鬨の声を背にして中尉が飛び出していく。後れを取るまいとアラモフヶ丘一夜陣の守備兵が一丸となって我先にと次々と穴を潜って行く。その姿には狂王コナンが見極めた「戦闘能力ゼロ」「只の敗者」「ゾンビ集団」「ちんちくりん」「ただのアホ」「金魚の糞」「木偶」といった姿はどこにも見られない。その他の見識については本人達の名誉を思い内緒とする。また、前回見極めた狂王コナンの見解より単語が多いのは先にも述べたように「時空歪み」があったとして解釈して良い。

こうして、アラモフヶ丘一夜陣の守備兵は第七騎兵のたなびく旗の元、包囲網の2つの大きな通路に向かって最後で最大の突撃を決行したのである。ブラックケトル酋長は一夜陣の敵のこの総攻撃を迎え撃つべく包囲網に開いた2本の舗装路を塞ぐように兵を動かそうとする指図するのだが、恐怖に悲鳴と鳴き声を上げて混乱し逃げ回る第1高歌猟犬兵軍の反応は鈍い。それでも、狂王コナンの恐怖に捕らわれていない敵の一群に第1高歌猟犬兵軍が果敢に群がっていく。群がる兵士のほとんどが酋長の命令はあくまでも方針で個々の闘争本能から行動しているという事も特徴である。それゆえに統率された動きには成っていない。そもそも、北方蛮族に統率を求めるのは困難であるのだが。この事はこの戦闘ではブラックケトル酋長にとっては不利であったが、アラモフヶ丘守備隊にとっては有利な戦いであった。アラモフヶ丘守備隊は第1高歌猟犬兵軍を圧してゆく。

ブラックケトル酋長はそういった不利な闘いの中であってもランカスター中尉の前に毅然と昂然と立ち塞がった。北方地方で多数の北方蛮族を従える程にのしあがってきた実力派のブラックケトル酋長であった。眼中では凄まじい炎をが燃えていた。記録ではここでブラックケトル酋長が眼鬘を付けていたという言い伝えもある。その眼鬘は忍び隊「月光チーム」のリーダーである赤い眼鬘仮面から奪い取ったと言われている。あるいは、マルケットベルト作戦開始時の渡河作戦中にD村のエリート(花形)将校、判満(はん みつる)の放った打球によって新・天の川を背景に打ち取られたF村村民の乾火馬(ほしひ うま)の物が流れに流れて酋長の手に渡ったとの噂もある。どちらに真意があるかは明確な証拠が無いし、付けていたとされる目鬘も行方不明なので、不明確であるが前者の方が可能性は高いと筆者は考えている。

それぞれの意地を通す為に、そして長い戦いに決着をつける為に、ここに両軍の長であるフロスト・ランカスター中尉とワシタ・ブラックケトル酋長が始めて相まみえた。それぞれの背後霊も先の戦いでの恨みつらみで激しく火花を散らしながら無言で入歯や紙おむつを投げ合っている。

中尉の前で仁王立ちする酋長は突然、足を揃えて直立、両手も揃えて大きく高々と天に向かって真直ぐに振り上げて中尉に覆い被さる様に背伸びをした。だが何もその体勢からの攻撃はしない。顔は凶悪な相貌にしかめて、涎を垂らす赤い舌を長くだらりと垂れ出して中尉を侮辱する。動物が頬を異常に膨らませたり、襟巻を大きく広げたり、イタチが尻を向けたりして自分の強さを誇示しながら威嚇する行動と同じである。中尉は突然に初めて見せるその酋長に怒りが爆発しそうであったが、南の天国の島々の住民を思い出すと直ぐに唯の威嚇と見切わめて張扇を正眼に構えて静かに酋長に対峙した。ブラックケトル酋長の隙だらけの異様な構えと酋長の発する気の中に何か奥深い隠された秘技があると本能的に中尉は感じ取っているのだ。酋長の次の動きを読み取ろうとして、中尉の耳からはノイズキャンセラーを装着したが如くに周囲の雑音がきれいさっぱりと消え去り、代わりに指向性帯域可変増幅装置によって酋長の発する血脈の脈動音や、体や筋肉の力の入れ具合で筋肉繊維の軋む音だけになった。瞼を瞬く音が微かに聞こえた。力んで軋んでいた筋肉音が突然に消えた。筋肉を弛緩させたのだ。中尉は戦闘中に体の力を抜くという、つまり攻撃行為とは真逆の動きをする酋長に緊張した。それは、酋長の必殺の秘技が襲い掛かって来る前触れではないかと中尉の本能が激しく感じたのだ。時が過ぎるにつれて、実は目にも留まらぬ俊足の攻撃で既に攻撃を受けているのではないのかと自問すしてしまう中尉であった。「こやつは只者ではない」と内なる声が響いてくる。

酋長は突然両手を水平に真横に広げて地面にペタリと張り付くようにその体を落として地面に腰を上げたまま平たく伸びる姿勢を取った。中尉は先の読めないこの意表を突く動きに警戒して一歩だけするりと引き下がり、張扇を上段に構えて下から飛び掛かって懐に入り込むという攻撃に備えて、酋長との間合いを少し余計に取った。だが、酋長は地を這うような姿勢のままで再び静止していた。酋長は三白眼の上目使いで中尉を小馬鹿にしたように見上げている。先の読めない中尉は張扇を斜め後ろ下に構え直して低位置に居る敵を掬い上げるような攻撃姿勢に入るが酋長の誘いに乗って直ぐには攻撃を仕掛けない。飛び掛かる時の足の筋肉の軋む音が酋長から発してこないのである。つまり、酋長は静かな体勢であり、中尉からの攻撃を誘っているとしか思えなかった。だが、中尉はその誘いに乗らない。酋長の次の行動が全く予想できない状況が続く。

酋長の脚の筋肉が軋む。「来る!」中尉は思った。酋長は緊張が走った中尉の構える張扇の向きとは反対方向にその姿勢のままでカニのようにゆっくりと横這い移動する。攻撃を受ける緊張を少し緩めて中尉はその動きに合わせて体を回転させながらホールインワンを狙ってティーインググラウンドにクラブを持って立つゴルファーの体勢に入る。張扇はテークバックまでで、バックスイングのステップはまだとっていない。中尉の目は今までに経験した事が無い酋長のその奇怪な横這い運動、今は左右に乱雑に横這い移動を注意深く観察しながら体の向きを変えて追いかけた。その為に中尉は自分自身の酋長以外の周囲の警戒が怠ってしまった。

ランカスター中尉にその隙が出来た時、中尉と酋長をこっそりと幾重にも取り囲んでいた北方蛮族がその隙を待っていたかのように中尉に襲い掛かる。予め決められていた3方向からの同時攻撃であった。中尉は殺到する空気の動きを感じると手首を捻り、張扇を横薙ぎにしたその一振りで、他から少し先走ってしまっていた右側の第一の蛮族を弾き返した。弾き返された蛮族は後ろで襲い掛かろうと構えて待機していた蛮族達を巻き添えにして地面に倒れた。僅かに遅れてしまった第二第三の北方蛮族の攻撃が中尉の背後と左から襲い掛かる。振り切りかけた張扇を返して右の蛮族を打ち、背後の蛮族の攻撃を右の蛮族の懐に飛び込むようにしてさらり体を右に避ける。懐に飛び込まれ顎を丸出しにした右の蛮族のその顎の下を張扇の柄頭で突き上げ、たたら足となってしまっている背後から攻撃する蛮族の顔面を横から足蹴りして倒した。その後の間を開けずに次々と襲って来る蛮族を右に左にと張扇で張り飛ばし、拳や足蹴り、頭突きや?みつきで痛打を与えて行く。奇妙な格好をする酋長はこの攻撃の為の囮であったと中尉は知った。通常であれば最初の蛮族の3方向同時攻撃でほぼほぼ罠に嵌まった敵は倒されるはずであったが中尉は別格である。「ちょこざいな!」とまた蛮族を中尉は打ちのめす。だが、いつまで攻撃を防げるかは危ぶまれた。

痛烈な戦闘を行っている最中に中尉はふと、足首にむず痒い不快感を感じた。蛮族を張扇の柄頭で小突いて押し返した時に自分の足元を目の片隅でちらりと見下ろす。いつのまにか、地面をカニのように足元に這いよっていた酋長がカニ鋏の如くに菜箸を使ってチマチマと中尉の足の肉を摘まむという秘技「肉つみれ」攻撃をしていた。この攻撃に痛みは伴わなかったが極めて不快であった。不快で煩わしかったが、北方蛮族の連続した攻撃に阻まれて酋長を排除する事ができなかった。

中尉のこの危機に新参者の一本鎗が捨て身で中尉の元に飛び込み、自慢の長槍を振り回して蛮族の相手を始める。その後を追って、数騎の第七騎兵も参戦してきたので、酋長の罠は自ずと崩れ去ってしまう。中尉を捕らえていた罠が崩れ始めるのを悟った酋長ガニは慌ててすぐ脇の竪穴に逃げ込もうとするのだが、体半分が潜った所で積年の恨みを晴らすが如くの中尉に情け容赦無く踏み潰されてしまった。こうして新参者と第七騎兵達の活躍で中尉を取り囲む蛮族を蹴散らしてしランカスター中尉を罠から解放したのである。直ぐにランカスター中尉は新参者と騎兵を伴って王者コナンが往復して切り開いた新道で遮ろうとする北方蛮族を打倒しながら再び走った。

騎兵が中尉の周囲で中尉を守り、新参者が先端にマルケットベルト作戦開始から締めていた褌を先端に付けた槍を振り回してそのしんがりを務める。その闘いの間に褌を締めた新参者は凶悪な北方蛮族に睨まれて失禁した事が幾度もあった。グライダーで夜間着陸を強行した時などは涙と鼻水と悲鳴がそれに伴っていた。戦闘中に徳川家康の伝承と同じ様に死を目前にしての恐怖に糞尿を垂らしながら逃げ惑う事もあった。そういった、今では懐かしい時を共にしてきた褌であった。尚、追記すると槍の先端には北方蛮族の物とも思われる褌も幾枚か追加されていたという。よって、後方ではあられもないフリチン姿で仁王立ちになって戦う北方蛮族の姿が度々見られる。逆に考えると、この新参者はどうかというとになるが・・・特に記載はしないでおく。

北方蛮族にBB歩兵私団のように上官の命令に対する使命感は無い。「きつい」「厳しい」「汚い」「危険」「給金無し」の5ケイ職場のような戦闘に参加する気などが全くない北方蛮族達は新参者の一本鎗の追撃から次々と我先に離脱していった。さらに、アラモフヶ丘麓では第1高歌猟犬兵軍の間ではワシタ・ブラックケトル酋長が半ば地面に半ば埋められて倒されてしまった事から、次期酋長の座を狙っての争いが必然的に勃発していた。北方蛮族にとってその争いに名乗りを上げねば「北方蛮族にして北方蛮族たらん」なのであるから、「去る者追わず」となってしまい、逃げる者を追撃するなどは二の次となるのである。それが5ケイ職場なら尚の事であった。

酋長の戦没地はランカスター中尉が酋長を倒した時の状況とは全く違っており、酋長の上には幾つもの岩塊が積み上げられたえそこには墓碑銘すら作られていた。立派な、というよりはその下から這いずり出られない様に効果的に作られた墓である。そういった北方蛮族達の努力の賜物である墓であるが不撓不屈の精神力によるものか、積み上がった下の方の岩が極僅かに動いていた。刺が酋長の座を得ただけの事はあるが、もちろん北方蛮族達はそれを見て見ぬふりを貫き通してお山の大将巡っての戦いに没していった。この酋長の座を巡っての争いのおかげでアラモフヶ丘守備隊への第1高歌猟犬兵軍の追撃が無くなってアラモフヶ丘の包囲網を難なく突き抜けたのである。

ランカスター中尉と七本の槍達とアーネム第7騎兵隊と、そして新米村民兵達は物資輸送隊の救援に向かう。だが、目前の物資輸送隊は超人的で狂人的な王者コナンに2度も蹂躙されてほぼ壊滅状態となっていた。BB歩兵師団もまた物資輸送隊ほどに酷くはないが似たような状態である。ついでに記録すると「銀」の玉の芝狸達は勝ち組ではあるがほぼ単独行動の王者コナンの側に付く事が出来ないでいた。むしろ、その凄まじさに気圧されて傍に立った時は茫然として何もできなかった。ベンとハーの狂犬的睨み付けは決定的で、「銀」の玉の芝狸達は思わず死んだ振りをするのであった。蹂躙され混沌と化した戦場で散り散りとなっている「銀」の玉の芝狸達は生き残りをかけた一族の集会も開けずに、単独では一体どうしたら良いのか分からず、戦場を右往左往して走り回った。なかには地面で丸くなって自分の世界に引き籠る芝狸も居た。それを岩の下を覗き込むように持ち上げたら、薄ら笑いをしている芝狸の顔を拝めるかもしれない。

ここに、もう一つの番外な集団が呆けていた。本編外野で主役の筈が出番の無い灰色猫とその一座である。この乱戦に乗じて、本編に混ざり込もうとしたのだが、余りの壮絶な有様にただただ呆然と立ち尽くしてしまったのである。灰色猫一座は灰色猫を置いて徐々に後じさっていた。

王者コナンの異常な強さを身に染みて知っているBB歩兵師団兵達はこの戦場からいち早く離脱を考えるのだが、悲しいかな兵士の性で上官の命令に背けない。巻き添えにならないようにと逃げ回りはするものの物資輸送隊と共に束ねられて倒されていったのである。だがBB歩兵師団兵達は戦場で上官のゲルフォン・ルント中佐の亡骸、もとい大の字で倒れる失神状態の姿を発見すると、誰が始めるという事も無く墓標を建立しようとするのであった。しかし、このBB歩兵私団兵達は狂王コナンの嵐の衝撃から正常な思考が保てずに混乱していた為に単純なミスを犯してしまった。この状況であれば失神したゲルフォン・ルント中佐を手つかずにしてBB歩兵私団兵達は闇雲に戦場を離脱すればよかったし、そうした師団兵も居た。それなのに逃げ帰った際の軍上層部への報告の言い訳を連ねる為にも、ご丁寧にルント中佐の墓標を作ろうとしたのである。上官の死で、やむなく撤退したという理由を取り繕う為であった。しかし、北方地帯にあって、さらにD村軍部からOOOOしている筈なのにその報告を何処にするつもりかは不明だが、師団兵の「兵士の性」がこの報告の義務という責務に惑わされているだった。とにかく、BB歩兵私団兵達は雪で中佐の墓を作ろうとしたのである。この雪がミスの元であった。ワシタ・ブラックケトル酋長への第1高歌猟犬兵軍の対応と同じく、岩塊を積み上げれば良かったのであるが、慌てている為かゲルフォン・ルント中佐にこの冷たい雪をかけて丁重に盛り付けようとしたのである。当然の如く冷たい雪は中佐の顔にも押し付けられ、その冷たさでゲルフォン・ルント中佐が息を吹き返してしまい、墓を作ろうとして逃げ損ねたBB歩兵私団兵の前に昂然と立ち上がったのである。BB歩兵私団兵達は悔やんだ。

ルント中佐の整列命令でBB歩兵私団兵達は列を正しながら整列しつつ、責任の擦り合いで互いの足を踏みつけ合う。そんなBB歩兵私団を他所に王者コナンの武勇を知らない哀れな物資輸送隊の新米村民兵達はまだ動ける兵士達で互いに助け合いながら負傷兵を連れだって渡河した河へと三々五々逃げ帰っていく。種の絶滅を防ぐ、「銀」の玉の狸達は物資輸送隊の新米村民兵達を追う一団と、BB歩兵私団兵の影で狸寝入りという死んだ振りをする一団と、引き籠りに徹する一団とに分かれていた。引き籠っている狸達は戦場のそこここに点々と存在しており、その顔に薄ら笑いを浮かべたままである。灰色猫の一座を追って灰色猫は場外へ逃げかえって行く。

外野の諸事情はさておき、超人的で狂人的なコナンに蹂躙された物資輸送隊はこのように全滅状態となっていた。ランカスター中尉はその壊滅への道をたゆまなく進む資輸送隊を見て、この物資輸送隊を取り込んで再軍備を計っての第二拠点の再奪取に期待する事はできないと痛感した。ランカスター中尉はこの厚切りの細切れ戦況では今まで喉から手が出るほど期待していた補給物資もアラモフヶ丘一夜陣には絶対に運び込む事は出来ないとも確信した。チャンス無しの打つ手なしの状況である事が確定し、覚悟はしていたがマルケットベルト作戦の第二拠点確保は完全に失敗であると中尉はここに至ってついにその事実を受け入れた。そして、マルケットベルト作戦のその行方はアイゼン・ブル・マクレン大佐の行動次第となったのである。中尉は挽回不可能と見極めると既に命令していた事、つまり大佐の指揮する本隊に命を懸けてでも伝える伝令の命令を直ちに実行するように七本槍に命じる。

この覚悟を決めて最後の行動に出るランカスター中尉とアラモフヶ丘守備隊の行く手をゲルフォン・ルント中佐率いるBB歩兵私団の逃げ損ねた兵達と王者コナンを追い掛けて疲労困憊しやむなくルント中佐に従う北方蛮族達が遮る。狂王コナンに震えるBB歩兵私団兵達は戦場を逃げ損ねた事で不満たらたらであり、隙あらばルント中佐の目を盗んで逃げようと考えているのでかなり及び腰であった。王者コナン率いる蛮族達は狂王コナンに追いつけないままに足を引き摺っていたところをルント中佐に捕まり、しぶしぶと言わるがままにこの場所で戦闘の群れを整えたが、近代戦になれていないので不安の面持ちでいた。中尉達の行く手を遮りどの兵士もその戦闘力を疑ってしまう程の体裁ではあったが、そういった事情で弱さが滲み出ている。それでも、ランカスター中尉達を全滅させる事が出来るとルント中佐は目論んでいた。BB歩兵私団兵達には的確な命令を与えれば良く戦うだろうし、北方蛮族達の底力は計り知れず敵に相対すると激しくぶつかり合うであろうとルント中佐は予想している。つまり爆裂弾の様な北方蛮族をBB歩兵私団兵達が的へと誘導して闘うのだと考えていた。刻一刻とあ互いの距離が狭まって行く。

そのころ王者コナンはベンとハーと共に少し離れた草地でおにぎりの魔力に取り付かれていた。この新たに出来上がる決戦の場へは片時も目をやる事は無い。ベンとハーは柔らかい草地の上を満腹な腹を上にしたへそ天でコロコロしている。この草地だけ、まるで春が来ているようにぽかぽか陽気であった。王者コナンは権力を笠に着て取り上げた最後の二つのおにぎりのうち、「鮭」を先に食べるか「梅」を食べるかで悩んでいた。何故ここに「ツナマヨ」が無いのかという疑問もあった。もしかしたら、ベンかハーが隠しポケットからうっかりと「ツナマヨ」を落とすのではないかとも期待している。なので、当分の間は王者コナンがこの陽気な草地の外界に気を止める事は無い。おにぎりの魔法の場のフォースはクォークすらも捕捉する程に強い力なのであった。

ランカスター中尉とアラモフヶ丘守備隊がゲルフォン・ルント中佐率いる混成兵団の中央に向かって真一文字に突撃する。七本槍のうち一本槍である元新米村民兵はその中尉を最後まで守る為に中尉の後を槍を振り回して追っていった。

敵中横断百里の進撃なみに猛進するランカスター中尉に次々とコナンの部下やBB歩兵私団兵が襲い掛かりその足止めを図る。すかさずに一本槍は体ごとその敵にぶつかってゆき、中尉から敵を無理矢理に引き剥がした。そして、更なる攻撃を防ぐ為に自慢の一本鎗を振り回して集まって来る敵を遠ざける。ランカスター中尉が前方の敵を打倒し、その加勢に入ろうとする北方蛮族やBB歩兵私団兵を一本鎗が追い払うという戦いが続いた。追い払われて怯んだ敵を、モロに顔で一本鎗を受けてしまい朦朧とする敵を、アラモフヶ丘守備隊がさらに袋叩きにして掃討する。そうしているうちにルント中佐の混成兵団が次第に分断されていった。

とはいえ、BB歩兵私団兵も北方蛮族も只者ではなかった。北方蛮族はコナンとの駆け足で疲労して動きは鈍いものの、一旦戦場に座り込むとそれはトーチカの如く強力な防御壁となってランカスター中尉を追うアラモフヶ丘守備兵を足止めにした。爆裂弾の代わりとして敵に放とうとしたルント中佐であったが、思いのほかトーチカとして使えると考えを改めた。ランカスター中尉を孤立させようとして中尉とアラモフヶ丘守備隊の間に北方蛮族のトーチカが幾つもでき上がる。それを盾にしてBB歩兵私団兵達はアラモフヶ丘守備兵達を撃破もしくは足止めして孤立させていった。孤立したアラモフヶ丘守備兵が全周囲から襲われて袋叩きにされる。アラモフヶ丘守備兵達の勢いと勢力が徐々にではあるが散らされていった。

仲間と切り離されてゆくランカスター中尉の後を満身創痍の元新米村民兵の一本鎗が必死に走る。中尉を守るのは自分だけであるという執念が一本鎗を走らせていた。何度も張扇を打ち込まれても駄々をこねる子供の様に両手両足はバタつかせて敵を追い払い、ランカスター中尉を追っていった。幾つもの瘤やあざを作り、鼻血と鼻水を流し、さらに大粒の涙を流し、口を食いしばって我慢しながら一本鎗は走った。ランカスター中尉はその姿の裏の気合を見て自分自身が奮い立つのを感じた。自ずと、この勢いでもってここの敵を滅ぼしてくれようぞと気合が入る。

しかし、BB歩兵私団兵達はこの一本鎗の攻撃に次第に馴れて対抗策を実行した。やはり歴戦の兵士達である。一本鎗が槍を振り回すと孫の手を使って、その先端に付いている褌を含めた数々の不快物質を一つ一つ、根気よく引っ掛けては取り除いた。故に槍の先端に付いている毒に匹敵する不快物質は槍の一振りごとに取り除かれていった。槍の最後の最悪の最恐の猛毒性不快物質である新米村民兵の褌がついに取り除かれた時、一本鎗の新米村民兵は難なくBB歩兵私団兵に打倒されて地面に這いつくばってしまった。BB歩兵私団兵に袋にされる中、北方蛮族がその体の上にどっしりと座り込み、生贄付属の強力なトーチカが出来上がる。何もできなくなった一本鎗の慟哭がそのトーチカの下から聞こえてきた。

その慟哭に背中を押されるかのように単身となったランカスター中尉は北方蛮族やBB歩兵私団兵の群れに向かって勇まし突進する。群がる敵兵を右に左に打倒すランカスター中尉をついにゲルフォン・ルント中佐が遮った。中尉の足が止まり、群がる敵は後ろに引いて行った。戦場にこの一騎打ちの為の小さな空間が自然と発生した。

ランカスター中尉達の活躍によって手すきとなってしまった敵陣の両端を六本槍達が中尉に与えられた伝令という使命を果たす為に涙しながらも突破を試みている。その六本槍を敵から守るために選抜されたアラモフヶ丘守備隊が彼らを囲むようにして戦っている。見てくれと違ってかなりの力量を相手の内に読み取った六本槍達はこの突破にはかなり厳しいと判断した。六本槍の中からも犠牲が出る事を覚悟をしなければならなかった。

突破寸前では六本槍を守っていたアラモフヶ丘守備隊のほぼ全員が敵と相まみえており他へ力を貸すなどという余裕がなくなっていた。最後の突破は六本槍自身で行わなければならない状況に陥っている。この突破にかなり困難であると見込んだ六本槍の数本が見方を行かせる為に先頭に立って最後の壁を無理矢理に圧し開き、抜けた六本槍に追い縋ろうとする敵に襲い掛かる。そして、囮の四本槍の最後の一本が蛮族の群れの中に消えた時、敵陣の両サイドから一本づつ、計二本の槍が伝令の使命を帯びて丸太上陸部隊のアイゼン・ブル・マクレン大佐の元へと走り去った。

王者コナンは指に付いた最後のおにぎりのご飯粒をしゃぶりながら始めてこの戦場を眺めた。指を舐める動作がいったん止まり、しばらく時が経つ。目の前で、一騎を先頭にして自分の部下の陣を、唯の群集のように切り裂いていく光景が広がっている。王者コナンの目はその一騎に釘付けにされてしまった。強者があそこに居る。待ちに待った本物の強者があそこに居る。王者コナンは慌ててベンとハーを叩き起こそうとした。仰向けの成ってへそ天で食後の居眠りをしているベンとハーは柔らかい草の上をゴロゴロと転がって王者コナンの手を逃れる。抵抗するベンとハーを起こしたうえ戦車に結び付ける手間暇に、そして戦場の急激な変化に堪えられず、焦った王者コナンは戦場へと自分の足で走り出した。

そのころ、アーネム第7騎兵のフロスト・ランカスター中尉とBB歩兵私団のゲルフォン・ルント中佐が相手の力量を探るように睨み合っていた。戦場にはその決闘の為の小さな空間が出来上がってている。
「その勝負!待て待て~!」と走りながら叫ぶ王者コナンの声は届かなし、決闘に興奮した兵達の耳にすら入らない。
「儂が相手じゃ~!」と叫ぼうとするがおにぎりがむせ返って声が詰まってしまう。
これはおにぎりの怨念であろうか、はたまたベンとハーの奸計であろうか。謎である。王者コナンは足を止める事無く「走れ、コナン」であった。

決闘が始まろうとする頃にはランカスター中尉以外のアラモフヶ丘守備隊は壊滅していた。だが、ランカスター中尉の目には2本の槍が北と南を西に向かって走る姿が垣間見えた。伝令を差し向ける使命を果たせたと中尉は思った。これで心置きなく目の前の対峙する敵に最後の力を振り絞って全力で戦う事が出来ると考えた。心残りはもう何もないのだ。対するルント中佐は腰を屈めて、腰に差した張扇の柄を手前に出し、その柄に手を添えて構える。足指でじりじりと間合いを詰める。「居合か?」とランカスター中尉は思った。張扇を正眼に構えるが、ランカスター中尉の持つその張扇は形を成さない程にボロボロであった。これでは真新しい張扇の攻撃を受ける止める事が出来るか甚だ疑問であった。それは一瞬の出来事であった。

ルント中佐の手が一瞬の間だけぼやけた。画像のその部分に薄灰色の霞が懸ったかのように見えた。ランカスター中尉は動く事すら出来なかった。疲労で心と体が別々になってしまっていた。ランカスター中尉は激しく打ち込まれた腹を押さえて地面に膝をつく。
「?!」何が起きたのか寸の間理解できなかった。
「もはや、これまで。」
走り去る伝令の姿を再び敵の合間に見ると微笑みながら地面に倒れる。一本槍の新米の姿を探したが見つける事が出来なかった。暗い帳が中尉の視界にかかるり、意識が遠のいてしまう。

調子づいたBB歩兵私団兵が円陣から飛び出してきて倒れた中尉に馬乗りになる。自分が倒したかのようにこれ見よがしに最後の一撃を加えようとして張扇を高々に振り上げる。だが、その足に痒みのような不快感を感じて、BB歩兵私団兵はその一撃を中断し、足元を振り返って見た。その足にトーチカから必死に這いずり出てきてここまで追って来た一本鎗の新参者が縋りついており、弱々しく足に歯を立てていたのだ。

その後ろではトーチカであった北方蛮族がその新参者の行為を食い入るように見ていた。トーチカの北方蛮族は慟哭と共にじりじりとその身が動かされる事に気持ちが耐えられず、ついには新参者を解き放ってしまったのだ。そして、必死に這っていく新参者の邪魔する者を打ち倒しながら、その行く末を見届ける為に後を付いてきたのである。

中尉に跨ったBB歩兵私団兵は舌打ちと共に足の一振りで新参者を蹴り飛ばした。新参者の体はトーチカ北方蛮族の足元に転がって行き動かなくなった。トーチカの北方蛮族にはその姿がそれでもなお力を振り絞って地面を藻掻いているように見えていた。手助けしたいと思ったが、その姿はきっぱりとそれを断っている風に見えていて身動きできない。北方蛮族の心が震えていた。

中尉に馬乗りになって再び最後の一打を張扇を振り上げたBB歩兵私団兵が掻き消すかの様に宙を飛んでいった。王者コナンの横薙ぎの一振りがその原因であった。この時になってやっと王者コナンがランカスター中尉を取り囲んでいる兵士達を押し退けて中尉の横に立つ事が出来たのだ。中尉を見下ろし、今では北方蛮族の足元で一ミリとも動かなくなった新参者に目をやる。

「あっぱれ。」
王者コナンの口から自然と零れる。戦えなかった事は残念無念であったが、敵ながらにしてあっぱれであったと王者コナンは思った。そして、これはランカスター中尉のみでなく新参者やアラモフヶ丘守備隊を含め、ここに倒れている全兵に対しての賞賛でもあった。「良い部下を持っている」と我知れずに涙が浮かぶ王者コナンであった。こういった強者達と是非とも手合わせしたかったと王者コナンは思う。いつかまた、機会があれば手合わせしたいと念じている。

王者コナンは部下にランカスター中尉を英雄の客人としての扱いをするように指示し治療するように命じる。その後は、丁重に河の方に居る味方の元へ送って行けと命じた。体を十分に養生した後に真剣勝負を申し込むと動かない中尉に囁く事を忘れない王者コナンであった。こうしてフロスト・ランカスター中尉率いる第2飛行隊(アーネム第7騎兵隊・新米村民兵の混成部隊)は壊滅し、第2拠点の確保は失敗した。

後にこの激戦の地であったアラモフヶ丘を昔の橋の戦いにちなんで、誰もが「遠い丘(A Hill Too Far)」と称することとなった。

-- 灰色猫の大劇場 その30 ----------------
灰色猫が玉座に座っている。
野良猫オッドアームズが柱の影から玉座を狙っている。
玉座を前に猫の撤退を懇願するハムスターが居た。

ハムスターは王様である灰色猫に「僕らのユートピアを建設したいのです。」と願い出ていた。
なので、猫の大将である灰色猫にオッドアームズ率いる野良猫達の排除を願っているのだ。
オッドアームズは灰色猫が請願を効けば右腕で灰色猫を、却下されれば左腕でハムスターを捌いて始末するつもりであった。
ハムスターが両手を合わせ、後ろ足で立って居る姿を想像して欲しい。
それはそれは「かわいい」である。
灰色猫はその姿におっとりとし、ハムスターに何度も願わせた。
いつでも始末できるようにと両腕を構えている為に、両脚だけで柱にしがみ付くオッドアームズである。だが、ハムスターの請願が長引くにつれ両足が痺れ始め、柱にしがみ付くのもやっとであった。
灰色猫の鈍感な脳細胞がやっと「飽きる」という機能を叩いた。
灰色猫は王座の肘掛を激しく叩いた。もちろん、却下する為にハムスターの演説を中止させる為である。肘掛を叩くと同時に柱の影で音が響く。両足を引き攣らせたオッドアームズがその音に驚いて泡を吹くなり倒れて・・・落ちていった。
灰色猫はおもむろに床で引き攣っているオッドアームズを指さし、ハムスターの請願に答えた事を伝える。ハムスターはいつまでも頭を下げてお礼をする。
刻々と灰色猫のお昼ごはんが近づくのも気づかずに、次第にお昼ご飯化するハムスターのお礼は続く。

--続く
この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。
この物語の著作権はFreedog(ブロガーネーム)にあります。
Copywright 2023 Freedog(blugger-Name)
ブログ一覧 | 物語A | 日記
Posted at 2023/09/20 22:34:47

イイね!0件



今、あなたにおすすめ

関連記事

2月26日と言う事で ( ・ω・)ノ
waiqueureさん

多賀城駐屯地創立70周年記念行事見学
おのちん(・ω・ゞ-☆さん

赤い彗星
砂くじら3さん

忘れちゃアいけない ( ・ω・)ノ
waiqueureさん

関東大震災100年 帝国海軍の被災 ...
IJNさん

母の日と言う事で ( ・ω・)ノ
waiqueureさん

この記事へのコメント

ユーザーの設定によりコメントできません。


プロフィール

「プリウスミサイルというが・・・ http://cvw.jp/b/1467453/47466114/
何シテル?   01/11 12:41
FreeDog(寒;)です。よろしくお願いします。 好きな言葉「笑う門に福あり。」 さぁ、みんなでブログ読んで笑いましょう! 嫌な真実「My JOKE...
みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

<< 2024/5 >>

   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 

愛車一覧

ホンダ フリードスパイクハイブリッド ホンダ フリードスパイクハイブリッド
フリードスパイクハイブリッドに乗りました。
ヘルプ利用規約サイトマップ

あなたの愛車、今いくら?

複数社の査定額を比較して愛車の最高額を調べよう!

あなたの愛車、今いくら?
メーカー
モデル
年式
走行距離(km)
© LY Corporation