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2016年05月02日

クルマの「室内」を考える 《2》

クルマの「室内」を考える 《2》 「室内」の色が“脱・黒色”を果たしつつあった頃、とくに日本車に向けて放たれた非難のひとつに「質感」の不足ということがあった。また、この「質感」なるものは、色味が明るいと妙に目立つものらしい? ただ、この用語はしっかりと定義されないままに使われることが多く──というのは、この言葉は「室内」パーツの品質レベルを問うているのでもないようで、なぜなら、パーツの素材として用いられているのは、欧州車でも日本車でも同じプラスチックだからだ。いまにして思えば、あの「質感」への非難は、要するに日本車のデザインに対してのヒフ感覚的な不満と苛立ちであったのかもしれない。(フシギだが、日本の“自動車ジャーナリズム”は、日本のクルマについての悪口を異様に好む)

そして、そんなファッション化の時代に、「室内」における“おもてなし”機能も併行して進化していった。たとえばエアコンは「オート」がスタンダードとなり、デジタルで温度の数字を設定することが、ドライバーにとってのエアコン操作ということになる。エンジンの各種の制御がコンピュータになると同時に、車体の各所でマイコンが活躍するようになり、メーターのデジタル化も強力に進行した。

また、室内の重要パーツであるシートに目を向けると、1990年代半ば頃に、日本車のシートは長足の進歩を遂げた。この展開を牽引したメーカーのひとつがトヨタで、社内にシート研究のプロジェクト・チームを起こし、いいシートとは何かという研究と実作を開始していた。その結実としてのシートが装着される起点のモデルとなったのは、初代のRAV4、そして同時期のビスタ/アルデオだった。

トヨタのこの研究は、シートの基本形状のあるべきかたち(どういうラインで人体を支えるか)にまで踏み込んだもので、具体的には、ランバーサポートがそれまでの人間工学的な位置とは異なっていた。そして、こんな研究に触発されるようにして、他の完成車メーカーやシート・メーカーも、シートの改良を進めていくことになる。

人間工学といえば、この1990年代中葉にはもうひとつ、「室内」にとってほとんど革命といってもいい“事件”が起こっていた。それは着座位置(ヒップポイント=HP)の変更と、それに伴うパッケージングの大変化である。この革命の秘かな火種となったクルマは、1993年・秋に登場したワゴンR(初代)だった。

そして、このクルマが行なった提案を、それは単に「軽」という枠内だけで起こったことではなく、ワゴン型ボディという車型だけのことでもないと考えた国内メーカーが複数あった。本家のスズキ以外で、この「パッケージング革命」をリードしたモデルをひとつ挙げるなら、それはトヨタのプリウス(初代)になる。このモデルは世界初のハイブリッド車として、その駆動システムだけが話題となりがちだが、実はパッケージングにおいても、それ以後の日本車に大きな影響を与える提案を行なっていたのだ。

人が椅子に座る時、その椅子(の座面)が地上からどのくらいの高さであれば、人体の各部に負担がかかることなく、スムーズに座れて、かつ快適だろうか? これについて、ワゴンRが地上から「620ミリ」の高さにシート座面(着座位置)を設定したことを受けて、乗用車(セダン)なら、果たしてどのくらいが可能で、そして適切なのか。こうした探究の結果、いくつかのメーカーから、高めに着座位置を設定した市販モデルが登場するが、それらは期せずして、ある「高さ」(ヒップポイント)で共通していた。それが地上からおよそ「600ミリ」という位置である。そして、このノウハウというかファクトに対して、“本家”のスズキ以外で、最も忠実、かつ継続的にクルマ作りとパッケージング革命を行なったのがトヨタであった。

         *

さて、ここで述べているのは乗用車(パセンジャー・カー)におけるパッケージングやインターフェイス、つまりクルマ作りでの変化だが、これとほぼ時を同じくして、カスタマー側でも新しい潮流が動き始めていた。それは、乗用車とは分類されないビークル、「非・セダン」系のクルマを一般乗用ユースに「転用」してしまうというトレンドである。

それまでの分類としてはオフロード系であったり、また、商用車系のワゴンやワンボックス車であったりというクルマを、作り手の思惑とはまったく関係なく「乗用車」として日常的に乗ってしまう。1993年のワゴンRがスムーズにマーケットに受け入れられたのも、この志向と無関係ではないはずで、1990年代後半のSUVブームやワゴン&ミニバン志向も、この「非・セダン」志向というベクトルの中で捉えるべきものだ。

そして、これら「非・セダン」がほぼ例外なく、高いHP(着座位置)を持ち、一方、「脱セダン」傾向の乗用車でも、その着座位置が上がっていく。「非・セダン」傾向とは同時に、高い着座位置のクルマに乗りたいというカスタマーの、実は自分でもあまり気づいていないクルマへの新志向だった。

また、着座位置が変われば、当然クルマの中で、人の顔の位置も変わってくる。メーカーによっては、ヒップポイントという言葉が開発用語にない場合があるが、「アイポイント」の変化といった言い方で、このパッケージングの変革を捉えていたメーカーもあった。

そして、こうした高い着座位置にドライバーが収まると、そのドライビング姿勢にも変化が生じる。寝っ転がるような格好にならず、逆に、背もたれを立てて運転する。つまり、姿勢が基本的にアップライトになるのだ。その結果、スピードなどの各種メーターの配置にも変化が起こった。その変革のひとつが、プリウスやヴィッツ系が最初に採用した「センターメーター」である。

それまでの、足を前に投げ出すかたちで、オーバーに言えば寝っ転がるように運転する姿勢であれば、メーターは丸いステアリング径の中にあった方が見やすい。しかし、ハイ・ヒップポイント&アップライト・ポジションでは、ステアリング径の中以外の場所に、メーターを置いてほしくなるのだ。

(つづく)

( JA MAGAZINE 自動車工業 2008年10月号「車室内環境として──役に立つ、安らぐ“居住空間”を考察する」より加筆修整)
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Posted at 2016/05/02 22:20:07

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