今巷を騒がせているプリウスのブレーキ問題。
アメリカでの全天候型フロアマット騒動に端を発する一連のリコール騒動の中の一つではありますが、フロアマットとアクセルペダルが海外仕様車限定での話だったのに対し、プリウスに関しては国内仕様も含まれ、なおかつ昨年度のベストセラーカーにおいて起こっている問題である為、日本国内では目下のところこれが一番注目されています。
正直なところ、情報が錯綜している上に、そもそも一連の問題が本当にユーザーから発せられている問題なのか、政治的な駆け引きから起こされているものかが極めてグレーな状態である為に、私としてもこの問題に言及するのを躊躇っていた次第なのですが(脊椎反射的な文章は書きたくなかったので)・・・
しかし、自分でも昨年のカーオブザイヤーに選んでいますし、今言及できる点について書いておこうかと思います。
そもそも今回のブレーキ問題とは何か。
現状ユーザーから寄せられているとされる苦情は、以下の症状です。
「低μ路もしくは凹凸で低速時において制動をかけた際、一瞬制動が抜けるように感じる」
ひとまずこの点において千葉県松戸市で起きた玉突き事故については議論を分ける必要があります。
なぜなら、松戸の事故は上記の条件に当てはまらないからです。
さて、そこで上記症状はなぜ指摘されることになったか。
プリウスのブレーキシステムは初代から一貫して、従来どおりの油圧ブレーキと駆動用モーターを利用した回生ブレーキのハイブリッドタイプとなっています。
初代プリウスは油圧ブレーキを既存車と同じくブレーキベダル直結のシステムとしていたため、回生ブレーキのコントロールに苦しみ、最後まで停止直前時に起こる「カックン」ブレーキ症状に悩まされました。
そこで、これはAHR10系先代エスティマハイブリッドが初採用になるのですが、油圧ブレーキをブレーキペダルから機械的に切り離し、ブレーキペダルは単なる入力デバイスとして、実際にはその入力値に基づき油圧ブレーキと回生ブレーキを協調制御させるバイワイヤ式ブレーキ(以下電子制御式ブレーキの略でECBと呼称)をプリウスとしては2代目のNHW20系から採用しています。
私は以前から自分のHPやmixi等でコンベンショナルなガソリンエンジン以外の動力を使う自動車についていろいろ記載しているのですが、そういう類の車について個人レベルですので活動は限られていますが、機会があれば試乗等を試みております。
そして、その類の車の中で最も身近な存在がプリウスであり、登場直後の1997年12月の最初期型プリウスから試乗車やレンタカー、はてまた家族所有の自家用車を通じて、歴代モデル全てにおいて運転経験があります。
そこでの経験からすると、プリウスのブレーキはECB採用のNHW20系から劇的にフィーリングが改善され、現行ZVW30においては違和感が全く無くなっているという印象です。
さて、それでは指摘されている苦情は一体何なのか?
そもそも18万台近く販売されている新型ユーザーの内の100件に満たない苦情ですので、割合的にどれほどまでに信憑性があるのか疑わしい部分もあるかとは思うのですが、一番に着目すべきは苦情の前半部分にあると思われます。
つまり、症状が起こっているのが低μ路及び凹凸のある状況と言うことです。
特に凍結路面を走られる東北・北陸地方の方ならば「おや?」と思われたかもしれません。
この症状、ABSが作動していただけなのではないかと。
そもそもECBに問題があるとすれば、それを採用している先代のNHW20の時点で何らかの問題が出ているはずです。
基本的にZVW30のECBは先代の技術を流用していますので(味付けは変わっていますが)システム事態に問題があるのであれば、既にNHW20でそれは現れていたはずです。
ではNHW20とZVW30で何が違うかと言うと、ユーザー層の変化です。
NHW20では次世代自動車に興味があるユーザーが多く、下取車も比較的高年式の車が多く、ユーザーの年齢も40代前後が主流だった聞いています。
しかしZVW30はスクラップインセンティブの絡みもあり、低年式車尚且つ比較的高齢のユーザーも増えていると言う点です。
低年式車からの買い替えとなると、その車はABSが付いていないか、若しくは比較的初期のABSが付いている車輌と言うことになります。
また、90年代前半までの国産車はアメ車志向の比較的カックン傾向が強いブレーキシステムであったことも着目する必要があります。
ABS無車や古いABS付車で、プリウスで苦情が出ているような条件でブレーキを踏むとどうなるか。
前者であればタイヤはロックしますし、後者であればABSが作動しブレーキペダルに過大なキックバックがあります。
双方で制動距離には違いが出ますが、共通して言えるのは双方ともペダルに何らかのフィードバックがあると言うことです。
一方で、プリウスのようなECB車でABSが動作するとどうなるかと言うと、当然油圧系統はアクチュエータで圧をコントロールしますが、ブレーキペダルは単なる入力デバイスですからアクチュエータの脈動が伝わることはありません。
まして、プリウスの場合はロックしにくい回生ブレーキを動作させる場合もありますから、そもそも油圧系統の脈動が発生しない場合もあるわけです。
それにもまして、カックン症状を解消したZVW30プリウスの場合、旧式のカックン症状の強い国産車から乗り換えると「ブレーキが効かない!」という印象を持つ恐れは充分にあります。当然実際の制動距離はプリウスのほうが短いわけですが。
しかし、この問題について困ったことは、私がこの症例を全く感じられなかったことなのです。
新型プリウスに関しては既に何回も乗車しているのですが、低μ路での制動感覚の抜けと言うのは経験していないわけです。
ヘビーレインの状況で、乗っていたのがシリーズで一番グリップレベルの低い185/65R15タイヤ装着のLグレードだったのですが、自然になったブレーキフィールに感心するだけで騒がれている症状はまるで確認できなかったのです。
ただ、これはNHW20プリウスで初めてABS作動を経験した時に感じたことなのですが、ABSが作動してもブレーキに脈動がない、というのは確かに驚いた覚えがあります。
その時はこれがECBなんだね~と言う感想だったわけですが、それを違和感と感じる層がいたとしてもそれは確かにありえる。
つまり、上記の記述はそこから導いた推論でしかありません。
推論は推論でしかないわけで、それがこの問題を書くのを躊躇っていた理由でもあります。
このあたり、私の敬愛する
伏木悦郎氏のエントリにも記載があり、私も同じ考えなのですが、自分で症例を感じられない以上、想像や状況から判断した感想にならざるを得ないわけで・・・
少なくとも走行実験を繰り返した新型プリウスのECBなので、実用上問題のあるような特性にはなっていないとは思うのですが・・・
先代NHW20は低ミュー路での発進時にトラクションを失い、VSCが作動するような症状を確認したことはありますが、これは同じような状況下で新型ZVW30では改善されてトラクションの抜けによる不安定感は無くなっていましたし、私がプリウスの低μ路時の特性で語れるのはそのぐらいしかありません。
私の推論のようなことであれば、これは性質の悪い言い掛かりだと結論付けられるのですが、はてさていががなものか・・・
少なくともこれはリコールじゃなくてサービスキャンペーンの範疇だよなぁ、とは思いますが。
それよりこの問題で、せっかく自然なフィールになったプリウスのブレーキが失われてしまうのではないかが心配です。今回の改善策って要は「カックンブレーキ」の方向に持ってく制御ですから。
追記(2/6 21:20):
信濃毎日新聞において、長野トヨタでの聞き取り調査に関する記事がありました
http://www.shinmai.co.jp/news/20100206/KT100205FTI090019000022.htm
これによれば、900台のユーザーの内数人がブレーキの違和感を感じていると言うことです。
数字的には1%未満、しかも報道後でそれに影響されて何となくそう思ってしまっている人もいるでしょうから(そういうパターン、意外とあるんですよ)、実際には2~3人程度と見ることができそうです。
長野県は当然雪の多い地域ですから、凍結路面ユーザーの生の声と見て間違い無いでしょう。
とすれば、これは既存のブレーシステムと全く違う車に対する違和感と見れないことも無いのかな・・・
今のところはそんな印象です。