まとめ記事(コンテンツ)

2015/02/01

マツダコネクト物語:第六章

※この物語はフィクションです。登場する人物、企業、製品、団体等は実在するものとは全く関係ありません。デッチ上げww

第六章:国産ナビに向けて

田中がサポートチームを率いて苦闘し、松本が国産ナビ開発の機関決定を得るために奔走している中、小峰も密かに国産ナビ開発の下準備に暗躍(苦笑)していた。なにしろ会社がまだ正式に認めていないマツダコネクト・ナビの国産化である。しかも自社開発ではなくサプライヤーに頼む事になる以上、社外の人間と話をせざるを得ない。松本から「危ない橋を渡っている自覚を持って」と釘を刺されるまでもなく、慎重に事を進めなければならないのは承知していた。

先ず相談の門を叩いたのは、マツダコネクト・ナビのコンペでN社に敗退したA社である。そのときに提案書を作成してくれた課長と主任技術者に協力して貰えるように松本が根回しを済ませてくれていた。

しかし実際に事を進めるのは容易ではなかった。先ず先般のコンペのときとは状況が全く異なる。既にマツダコネクトは完成し、H/W、S/Wの仕様も決まってしまった後の事。そこにA社のナビソフトを載せて欲しいという話なワケで、見積りを依頼するには仕様詳細を開示しなければ話が進まない。しかし会社が正式決定をしていない以上、現場担当者の一存で機密情報を開示するワケにもいかない。
先ずはシステム仕様の概略を口頭で説明し、打ち合わせの場ではPCのスクリーンに映した図面等を見せながら最低限、今回のビジネスがもし正式決定した場合の開発イメージを掴んで貰うという、些か迂遠な方法を取らざるを得なかった。A社の技術主任も事情は百も承知してくれ「あくまでも将来のビジネスに繋がる可能性がある」という名目で、このまどろっこしいアプローチに付き合ってくれた。当然のことながら全ての情報は開示できない。あくまでもA社が取引に応じられるかどうかを判断するための最低限の情報を提示する、その内容に沿ってどのくらいのスケジュール感、費用感で開発が可能かを検討して貰うというところが、最初のゴールという感じであった。
本来、必要情報一式を渡してまとまった質疑の時間を設ければ長くても数日で終わる作業だが、広島と静岡を何度も往復して結局1ヶ月。そこからA社側の検討期間が三週間ほど掛かった。

2014年1月下旬に入った頃にA社側から結論が出たとの連絡が入り、小峰は急遽静岡に赴いた。
これまでの流れから、色よい返事は難しいかもしれないと覚悟を決めて出向いたが、嫌な予感は的中した。A社側は課長、技術主任に加えて部長の三名が出迎えてくれた。

部長:遠路、ご足労頂いて大変恐縮なのですが、弊社としましては今回のお話が仮に具体化したとしても、協力させて頂くことは困難とお伝えせざるを得ません。

小峰:そうですか。非常に残念ですが仕方がありません。

部長:御社の松本課長からお話を頂き、状況が状況という些か変則的な形ではありましたが、将来のビジネスの可能性ということでお手伝いさせて頂きました。しかしながら一昨年にお話を頂いたときとは内容が随分変ってしまいました。弊社としましても、ワールドワイドに製品を供給できるのであれば大変魅力的なお話なのですが、他社のナビソフトが載る前提で設計されたH/Wにわが社のナビソフトを載せることの難易度もそうですし、供給量が日本国内に限定されるというのであれば、正直なところビジネスとしての旨味はほとんどありません。我々も営利企業である以上、そういったお話であれば、手を挙げることは難しい。ご理解頂ければ幸いです。

小峰:もちろんです。逆にこれまでこのような非公式なお願いにも関わらず、多大なご協力を頂いて感謝しています。


小峰は恐縮しつつ、頭を下げた。今度は技術主任が話をはじめた。

技術主任:今回の件もあって実はマツダコネクトの評判などを気にしてネットで少し調べてみたんですが、なかなかご苦労されているようですね。

小峰:・・・

技術主任:開示して頂いたH/W情報で、ジャイロが2Dという事がとても奇異に思えましてね。もしかしたらこれはN社からの要望か提案で設計が決まったのではないですか?

小峰:それは・・・実は、、、


言いかけたところで技術主任は慌てて小峰の言葉を遮り続けた。

技術主任:あ、お答え頂かなくて結構です。これからお話しすることは私のあくまで私見ですが、理由や経緯をお答えくださらなくて構いません。ただ聞いて下さい。恐らくN社のエンジニアがCMUの設計を固める際に、ジャイロセンサーは2Dで良いと言ったのではないかと推察しています。国産のナビでは3Dジャイロが常識です。地図データには傾斜情報がほとんど含まれていて、ジャイロから車両の傾きと地図の傾斜データを照合して自車位置を補正することは、日本のナビメーカーであれば、どこでもやっている処理です。一方海外では日本ほどに自車位置精度に対する要求が高くありません。実際我々も海外でナビを提供していますが、日本製のナビの自車位置精度の高さは、外国のお客様からも意外に価値を認めて頂けません。ですからN社も、これも私の勝手な憶測ですが、ジャイロを3Dにしても、地図に傾斜データが含まれていても、それらの活用ノウハウがそもそも無かったのではないかな?と推察しました。彼の地では、そこまでの要求がないですから。

課長:今回のお話では、CMUのH/W設計には可能な限り手を加えたくないとのことでした。
(技術主任の)彼が申した通りで、CMUはあくまで全世界共通仕様に拘るのであれば、日本仕様のナビの自車位置精度向上策は2Dジャイロを前提とする以上、非常にハードルの高いものになります。日本専用のCMUを設計して、私どもから提供させて頂く事が可能であれば我々としても協力の可能性は高くなりますが、その点について現時点での確約が難しいとなると、我々も尻込みせざるを得なかったのです。

小峰は黙って聞くしかなかった。ただ流石に専門メーカーの技術者である。限られた情報開示と現行マツダコネクト・ナビの不具合情報から、原因や設計の経緯をそこまで洞察するとは、、、

技術主任:国産ナビの自車位置精度についてはパイオニアさんが文字通りパイオニアですが、彼らの3Dハイブリッドセンサーの技術と性能は我々から見ても素晴らしいものです。例えば東京都内など比較的道路の入り組んだエリアで、意図的にGPS信号を遮断して走ると、どうなると思います?

小峰:?

技術主任:GPS信号を遮断する直前の自車位置が正確であることが前提ですが、信号を遮断して走り回っても自車位置がほとんど狂いません。勿論少しずつズレは生じますが、交差点を曲がったり、傾斜のある道路を上って下って、と走り回る都度、マップマッチングとジャイロとパルスによる自立走行が絶妙に絡み合って、要所要所で自車位置補正が掛かるんですね。結果として概ね正しい自車位置を維持し続けます。あれは我々同業から見ても驚異的というか、素晴らしい性能です。勿論、自車位置が狂った状態で信号を失えば、正しい位置に補正されるかどうかは運次第、となりますがね。

課長:というワケで、カロッツェリアのナビのそんな性能をベンチマークに各社がしのぎを削る国産ナビに、外国メーカーがしかも2Dジャイロというスペックに劣るH/Wでは、日本のお客様を満足させる性能を出すのは困難でしょうね。


今語られた話は恐らく日本のナビ業界では常識なのだろうが、自分は全く知らなかった。こんなことも知らずに我々は海外のナビメーカーに依頼し、そして今、性能面の課題に直面して苦労しているのか、と思うと彼らを目の前にして恥かしい気持ちにもなってくる。その一方で、仕事の話を断わった上でこのような話を聞かせる彼らの真意を量りかねてもいた。外国メーカーを採用した腹いせに皮肉を聞かせているのか?そんな疑念がチラリと頭を過ぎったときに、再び部長が話を始めた。

部長:雑談はこのくらいにして、今回のお話に我社は残念ながらお手伝いは難しいのですが、我々の協力会社、まぁ下請けとも言えますが、小さくても優秀な技術者を擁する会社が何社か、彼らをご紹介することは出来ます。

小峰:えっ?

部長:既製のH/Wにソフトを載せるだけのビジネスで、しかも短納期というのであれば私共のような所帯の会社ではなかなか対応が難しいケースも、彼らのような小回りの利く会社の方が、もしかしたらお力になるかもしれません。

小峰:・・・ありがとうございます。その、大変助かります!


正式に依頼をする前に断わられ、今後はどうしようか?どうなるのか?と不安を抱いた矢先の思わぬ申し出に、一瞬なんと口にすれば良いかと思ったくらいの驚きだった。更に、、、

技術主任:会社は小さくても本当に優秀なプログラマを多く抱えている会社ばかりですから、喜んで引き受けてくれるところが必ずありますよ。そのときに、小峰さん。ポイントは車両の傾き情報と地図の傾斜データです。これを上手く活用できるかがポイントです。先ほどお話した通りで、、、

課長:ジャイロから情報を得られないとすれば、何か代替策が必要ですね。


小峰はハッとなった。さきほどはなぜそのような話をしていたのか合点がいかなかったが、彼らは自分たちの会社で仕事が請けられない代わりに他の会社を紹介してくれたばかりか、その際に今のシステムの問題を解決するための重要なヒントまで授けてくれたのだ!

小峰:ありがとうございました!

小峰はガタッと音を鳴らして席を立つと、深々と頭を下げた。目蓋の奥に熱いものがこみ上げてきて、顔を上げることが出来ない。

部長:これからご苦労が多々あると思いますが、日本のナビメーカーは大きいところから小さいところまで、そうやすやすと外国のメーカーに遅れを取ったりしません。是非、良い製品を開発してお客様に喜んで貰って下さい。

小峰:ハイ!ありがとうございます!!




その日の内に広島にとんぼ返りすると、小峰は早速、松本に全てを報告した。松本はA社が今回の件を請けてくれないかもしれない点を危惧していたので「やはり」という顔をして聞いていたが、ナビ開発経験の数社を紹介してくれた件を聞いて、早速社名を確認した。そして険しい表情になった。

松本:どこも、ウチとは取引実績がないな、、、

小峰は一瞬、直ぐに基本契約や機密保持契約の手続きを進めて、、、と思ったところで松本の険しい表情の理由を悟った。

A社とは過去に取引実績があり、会社間の基本契約、並びに機密保持契約を結んでいた関係もあって、今後のビジネスの可能性という名目でもある程度の情報開示は大きな問題にならないとの認識で事を進められた。実際に開示した情報の一部は厳密に言えばコンプライアンス違反の疑いはあったが、書類等を渡さず、メールでのやり取りもせず、あくまで小峰が先方を訪れたときに担当者に紙やPCのスクリーン、口頭で情報を伝達したのみだ。云わば証拠を残さない形で進めていたため、万が一にも後々問題になることはないように配慮していた。

しかし紹介してもらった数社はどこも取引実績が無いので当然、基本契約も機密保持契約も無い。会って自己紹介することは出来ても、具体的にビジネスの話を進めることが出来ない。なにしろ国産ナビ検討の許可は、結果的に2月の役員会で了承されるものの、それまではこれらの会社と一連の契約を取り交わす口実がない。担当者の一存で社内資料を開示すれば立派な情報漏えいだ。

松本は小峰に「A社のようなワケには行かない」ということを口が酸っぱくなるほど念押しし、先ずはそれぞれの会社にコンタクトを取る事、国産ナビの開発の可能性がある事と基本的な前提条件(H/Wが決まっていること、CPUやOSなど、マツダ技報で開示しているレベルの情報まで)を伝達し、見積りを取るために必要な情報の事前確認と、見積り回答に要する時間など、とにかくGOサインが出た後に即座に事が円滑に進むための下準備のみに限定して動くように指示した。無論、見積りに必要な情報開示のために各種契約書は、社の捺印をして出状する一歩手前の段階まで準備した上で、待ちとなった。

そして2月の役員会で国産ナビ検討の了承を得ると、小峰は各社に一斉に契約書を配布。押印された契約書の返送を受けて見積りの依頼書を送付した。検討期間は僅かに1ヵ月。各社の見積りは1~2週間で回答が得られる予定だが、小峰には他にもやるべきことが山積していた。

第七章につづく
Posted at 2015/02/02 00:15:26

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