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まとめ記事(コンテンツ)
タッチ_さん
2015/02/06
マツダコネクト物語:第十壱章
※この物語はフィクションです。登場する人物、企業、製品、団体等は実在するものとは全く関係ありませんww
第十壱章:開発と保守と
国産ナビの開発は始まった。結局、関西圏に本社を持つM社をパートナーとした共同開発と言う形になった。M社はスマートフォン向けの有料ナビアプリを市販している会社で、ベースとなるナビプログラムの提供と技術者の支援を受け、マツダが主体となって開発を行う。
先ずはマツダコネクトの基本的な画面デザインに準拠した形で、ナビの外部設計を急ピッチで進めた。メニュー階層、各画面のデザイン、コマンダーコントロールの操作に対する動き、戻るボタンの戻り先、etc。ナビの機能はM社のナビアプリがベースとなるが、小峰率いるマツダのエンジニアは慎重に各機能の設計を決めていった。このとき、田中が用意してくれた顧客から寄せられた要望一覧と、それを採用して改善を行ったナビの機能詳細に関する資料が大変参考になった。
N社と最初にナビを開発した際は、画面の基本デザインを仕様として渡し、全てをN社に任せていた。口の悪い言い方をすれば丸投げしていたのだ。今となっては大きな反省点だが、サプライヤが持っているソフトウェアをベースとし、自動車メーカーにとっては知見の無いナビの開発である。サプライヤに好き勝手作らせる、という意味ではないが、専門会社の技術者に基本的には任せて出来具合を評価する、というやり方に当然なる。でなければ、サプライヤを使う意味が無い。今回は特にベースとなるソフトウェアは全世界共通であるため、日本仕様のナビの設計が上がってきたときには「今度のウチのナビはこういう風になるのか」という受け止め方で、それが日本のユーザーに使い難いと思われないか?といったところまで十分な評価ができたとは言い難い。勿論、N社がこの段階でマツダの要望を拒絶したなどという事もない。日本人エンジニアの「ここはなぜこうなのか?」「ここはこうならないか?」などの質疑や要望は、設計レビューの段階で当然行っているし「こうした方が使い易いのでは?」という指摘には柔軟に変更に応じてくれていた。そういったやり取りが不十分だったのか?といえばそうではない。「なぜ?」という問いに対する回答が、N社が実績豊富な海外ユーザーにとっては一般的な仕様だという回答だったからだ。全世界共通仕様に拘ったというよりは、海外でそれが一般的ならそれでも良いだろう、と素直に判断しての仕様決定であった。結果的にはこれが日本のユーザーにとっては極めて使い難いという厳しい評価に繋がるワケだが、マツダで初めて開発する自社製のナビである。ハッキリ言えば経験不足というのが原因であった。
しかしこの教訓は、国産ナビの開発には是非活かさねばならない。田中が用意してくれた資料もそうだが、メジャーな国産ナビメーカーのメニュー構成や画面デザイン、M社のナビアプリの画面や動作などを参考に、慎重に仕様を決定していった。
画面や各機能、操作性などの外部仕様が固まると、M社のエンジニアが中心となってプログラム設計が進められた。ベースとなるナビ部分は基本的に流用だが、設計通りの画面イメージの作成や、操作に伴うシステムの振る舞いをプログラムでどう処理するかを細かく決めていく。
これと並行して、3Dジャイロを搭載しないハンディを克服するための代替策の検討と、実現可能性の検証も進められた。具体的には車載コンピュータからCAN通信でCMUに情報を入れ、それを適切に処理して足りない1軸の情報の代替とする。実際の車載コンピュータからの情報がどのようなもので、どんなフィルタを掛ければジャイロの情報を近似するのか?実車を走らせてデータを取り、プロトタイプの処理プログラムを修正しながら実現性を検証する。役員会で報告した「やってみなければわからない」世界に、こうした試行錯誤を通じて解決策を見つけるのだ。
なぜ素直に3Dジャイロを搭載しないのか?CMUに3Dジャイロを搭載すれば、それは日本専用となり海外向けには使えない。となればCMUは2つの仕様が存在することになり、今後も日本向けと海外向け、それぞれを用意し続けなければならない。当然コストは大幅にアップすることになる。日本向けにナビを開発するだけでも大幅に事業採算には影響を与える。ジャイロを3Dにするなら全世界一斉に切り替えたい。これは次期バージョンのCMUまでお預けにして、今回はなんとか2Dジャイロのまま乗り切り、事業採算への影響は最小限にしたい。CMUを日本専用にしてしまったら、車両価格への転嫁が避けられないばかりか、5万円以下で提供しているナビプログラムも、その値段では出せなくなってしまう。そこまでの価格高騰はなんとしてでも避けたい。出来ればCMUには全く手を付けない形で国産ナビを開発したかったのだが、それは諦めざるを得なかった。代わりに海外向けのN社製ナビには影響を与えない、下位互換性を持たせたマイナーチェンジ版CMUで済ませられれば、そのコストは全仕向地で販売する全てのマツダ車で回収出来る。ここは正念場だった。
一方、N社製ナビを搭載する現行マツダコネクトを保守する田中のチームは、なかなか撲滅出来ないプログラムダウン問題に地道に取り組みつつ、デミオの発売を目指して品質改善に努めていた。バージョン31ではギリギリまでナビの機能・性能改善を行った関係で、ナビプログラムの安定性向上に十分な手が打てたとは言い難い。何しろ怪しい部分を見つけて修正依頼をN社に出すそばから、プログラムがどんどん書き換わってしまうのだ。イタチゴッコだったが、これも仕方がなかった。バージョン31提供後、なんとか機能面、性能面の改修には一旦区切りを付けて安定性向上に努め、お客様の要望などを踏まえて改善項目を吟味して実装した後は、再び安定性を含めた検証を行うという、言わばソフトウェアの保守・改善業務としては極めて真っ当なプロセスを落ち着いて実行出来る状況にようやくなってきた。
これを踏まえて、遅れていたマツダコネクトのサポートサイトの立ち上げや、マツダコネクト上で動作するアプリケーションを開発するためのSDKの提供などもようやく本格化できた。2014年1月には海外の見本市で開発環境を紹介するなどマツダコネクトを市販後にもさまざまな新しい取り組みは計画されていたのだが、あまりに多発した日本市場向け製品の問題に対処するため、計画はスローダウン、或いは延期を余儀なくされていた。海外向けには逆に大きな問題は生じていなかったものの、やはりシステムの安定性に関する課題は共通で内在しており、その向上は急務であった。ココにようやく改善効果がみとめられたが故の動きである。
サービスキャンペーンに一定の効果がみとめられたとはいえ、依然として厳しい指摘も多く、まだまだ品質改善に手を抜くワケにはいかない。特に日本向けナビに関しては、やはりどうしても熟成に時間が掛かることは避けられない。ときどきネット上で見掛けたり、コールセンターに寄せられる「妙なルートを案内された」というクレームは、一朝一夕に撲滅することは困難であった。地道に粘り強く改善していくしかなかった。
サービスキャンペーンの実施が落ち着いた後からデミオがデビューするまでの3ケ月弱の間、田中は更なる品質改善に必死に取り組んでくれるN社のエンジニアたちと日々接しながら、複雑な想いを抱かずにはいられなかった。彼らはまだ知らないが、年末には国産ナビがデビューする。M社は決して国産ナビのトップメーカーでは無いが、少なくとも国内ではスマートフォン向けアプリで実績のある会社だ。このルート品質とN社ナビのルート品質、果たして違いがどれほど出るか?国産ナビがカタログに並んだ後、N社ナビを選択してくれるお客様は存在するのか?そのとき、我々はどうするのか?彼らは?今心配しても仕方がない未来に複雑な想いを抱きつつ、目の前の課題解決に取り組む田中であった。
第十壱章:開発と保守と
国産ナビの開発は始まった。結局、関西圏に本社を持つM社をパートナーとした共同開発と言う形になった。M社はスマートフォン向けの有料ナビアプリを市販している会社で、ベースとなるナビプログラムの提供と技術者の支援を受け、マツダが主体となって開発を行う。
先ずはマツダコネクトの基本的な画面デザインに準拠した形で、ナビの外部設計を急ピッチで進めた。メニュー階層、各画面のデザイン、コマンダーコントロールの操作に対する動き、戻るボタンの戻り先、etc。ナビの機能はM社のナビアプリがベースとなるが、小峰率いるマツダのエンジニアは慎重に各機能の設計を決めていった。このとき、田中が用意してくれた顧客から寄せられた要望一覧と、それを採用して改善を行ったナビの機能詳細に関する資料が大変参考になった。
N社と最初にナビを開発した際は、画面の基本デザインを仕様として渡し、全てをN社に任せていた。口の悪い言い方をすれば丸投げしていたのだ。今となっては大きな反省点だが、サプライヤが持っているソフトウェアをベースとし、自動車メーカーにとっては知見の無いナビの開発である。サプライヤに好き勝手作らせる、という意味ではないが、専門会社の技術者に基本的には任せて出来具合を評価する、というやり方に当然なる。でなければ、サプライヤを使う意味が無い。今回は特にベースとなるソフトウェアは全世界共通であるため、日本仕様のナビの設計が上がってきたときには「今度のウチのナビはこういう風になるのか」という受け止め方で、それが日本のユーザーに使い難いと思われないか?といったところまで十分な評価ができたとは言い難い。勿論、N社がこの段階でマツダの要望を拒絶したなどという事もない。日本人エンジニアの「ここはなぜこうなのか?」「ここはこうならないか?」などの質疑や要望は、設計レビューの段階で当然行っているし「こうした方が使い易いのでは?」という指摘には柔軟に変更に応じてくれていた。そういったやり取りが不十分だったのか?といえばそうではない。「なぜ?」という問いに対する回答が、N社が実績豊富な海外ユーザーにとっては一般的な仕様だという回答だったからだ。全世界共通仕様に拘ったというよりは、海外でそれが一般的ならそれでも良いだろう、と素直に判断しての仕様決定であった。結果的にはこれが日本のユーザーにとっては極めて使い難いという厳しい評価に繋がるワケだが、マツダで初めて開発する自社製のナビである。ハッキリ言えば経験不足というのが原因であった。
しかしこの教訓は、国産ナビの開発には是非活かさねばならない。田中が用意してくれた資料もそうだが、メジャーな国産ナビメーカーのメニュー構成や画面デザイン、M社のナビアプリの画面や動作などを参考に、慎重に仕様を決定していった。
画面や各機能、操作性などの外部仕様が固まると、M社のエンジニアが中心となってプログラム設計が進められた。ベースとなるナビ部分は基本的に流用だが、設計通りの画面イメージの作成や、操作に伴うシステムの振る舞いをプログラムでどう処理するかを細かく決めていく。
これと並行して、3Dジャイロを搭載しないハンディを克服するための代替策の検討と、実現可能性の検証も進められた。具体的には車載コンピュータからCAN通信でCMUに情報を入れ、それを適切に処理して足りない1軸の情報の代替とする。実際の車載コンピュータからの情報がどのようなもので、どんなフィルタを掛ければジャイロの情報を近似するのか?実車を走らせてデータを取り、プロトタイプの処理プログラムを修正しながら実現性を検証する。役員会で報告した「やってみなければわからない」世界に、こうした試行錯誤を通じて解決策を見つけるのだ。
なぜ素直に3Dジャイロを搭載しないのか?CMUに3Dジャイロを搭載すれば、それは日本専用となり海外向けには使えない。となればCMUは2つの仕様が存在することになり、今後も日本向けと海外向け、それぞれを用意し続けなければならない。当然コストは大幅にアップすることになる。日本向けにナビを開発するだけでも大幅に事業採算には影響を与える。ジャイロを3Dにするなら全世界一斉に切り替えたい。これは次期バージョンのCMUまでお預けにして、今回はなんとか2Dジャイロのまま乗り切り、事業採算への影響は最小限にしたい。CMUを日本専用にしてしまったら、車両価格への転嫁が避けられないばかりか、5万円以下で提供しているナビプログラムも、その値段では出せなくなってしまう。そこまでの価格高騰はなんとしてでも避けたい。出来ればCMUには全く手を付けない形で国産ナビを開発したかったのだが、それは諦めざるを得なかった。代わりに海外向けのN社製ナビには影響を与えない、下位互換性を持たせたマイナーチェンジ版CMUで済ませられれば、そのコストは全仕向地で販売する全てのマツダ車で回収出来る。ここは正念場だった。
一方、N社製ナビを搭載する現行マツダコネクトを保守する田中のチームは、なかなか撲滅出来ないプログラムダウン問題に地道に取り組みつつ、デミオの発売を目指して品質改善に努めていた。バージョン31ではギリギリまでナビの機能・性能改善を行った関係で、ナビプログラムの安定性向上に十分な手が打てたとは言い難い。何しろ怪しい部分を見つけて修正依頼をN社に出すそばから、プログラムがどんどん書き換わってしまうのだ。イタチゴッコだったが、これも仕方がなかった。バージョン31提供後、なんとか機能面、性能面の改修には一旦区切りを付けて安定性向上に努め、お客様の要望などを踏まえて改善項目を吟味して実装した後は、再び安定性を含めた検証を行うという、言わばソフトウェアの保守・改善業務としては極めて真っ当なプロセスを落ち着いて実行出来る状況にようやくなってきた。
これを踏まえて、遅れていたマツダコネクトのサポートサイトの立ち上げや、マツダコネクト上で動作するアプリケーションを開発するためのSDKの提供などもようやく本格化できた。2014年1月には海外の見本市で開発環境を紹介するなどマツダコネクトを市販後にもさまざまな新しい取り組みは計画されていたのだが、あまりに多発した日本市場向け製品の問題に対処するため、計画はスローダウン、或いは延期を余儀なくされていた。海外向けには逆に大きな問題は生じていなかったものの、やはりシステムの安定性に関する課題は共通で内在しており、その向上は急務であった。ココにようやく改善効果がみとめられたが故の動きである。
サービスキャンペーンに一定の効果がみとめられたとはいえ、依然として厳しい指摘も多く、まだまだ品質改善に手を抜くワケにはいかない。特に日本向けナビに関しては、やはりどうしても熟成に時間が掛かることは避けられない。ときどきネット上で見掛けたり、コールセンターに寄せられる「妙なルートを案内された」というクレームは、一朝一夕に撲滅することは困難であった。地道に粘り強く改善していくしかなかった。
サービスキャンペーンの実施が落ち着いた後からデミオがデビューするまでの3ケ月弱の間、田中は更なる品質改善に必死に取り組んでくれるN社のエンジニアたちと日々接しながら、複雑な想いを抱かずにはいられなかった。彼らはまだ知らないが、年末には国産ナビがデビューする。M社は決して国産ナビのトップメーカーでは無いが、少なくとも国内ではスマートフォン向けアプリで実績のある会社だ。このルート品質とN社ナビのルート品質、果たして違いがどれほど出るか?国産ナビがカタログに並んだ後、N社ナビを選択してくれるお客様は存在するのか?そのとき、我々はどうするのか?彼らは?今心配しても仕方がない未来に複雑な想いを抱きつつ、目の前の課題解決に取り組む田中であった。
Posted at 2015/02/06 18:20:58
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