知事の希望が叶ったとして、三宅島TTはどんなレースになるだろう。小排気量のトレール車を使ったスタンプラリー形式のエンデューロであれば、それほど危険はないはずだが、知事が視察したのは「サガミ・ダ・カーラ」ではない。昨年、前田淳が亡くなったその日の「マン島TT」なのだ。しかし、「マン島TT」が普通の「モータースポーツ」に属するレースかと言われれば、私は違うと思う。
オートバイというものは、それほど危険な乗り物ではない。転んで滑るだけならば、打撲はしても命まで落とすことはないからだ。死亡事故のほとんどは転んだ後であり、壁や他車などにぶつかることで肉体が耐えられないインパクトを受けてしまうのが原因である。サーキットが安全と言われるのは、この転んだ後、十分に速度を落とせるセーフティゾーンがあるからだ。
しかし、公道の場合はセーフティゾーンも十分にない。スポンジバリアの代わりにガードレールや電柱があり、対向車も走ってくる。だから危険なのである。仮にヘルメットが割れなくても、瞬間的に数百Gもの衝撃が加われば、体が内部から破壊されてしまうのだ。
「マン島TT」は確かに由緒あるレースである。しかし、かつての「マン島TT」とは違うのだ。何しろ、今のオートバイが持つ性能というのは凄まじく、かつてマン島を走っていたマシンとは比較にならないものである。今や「マン島TT」は世界で最も危険なレースの一つでもあり、その事実を知らず「三宅島TT」の見本とするのは浅はかすぎる。
よって、マン島TTに出走するレーサー達の顔ぶれはサーキットのレーサー達とは違う。ほぼ同様の車両によるオートバイレースでも、その中身は全く異なるのだ。
「あいつらは命をかけてやってんだから、やらせてやればいいじゃないか。それで復興に一役買うのだから。」
…と都知事はいうかもしれない。(後記の定例会見でもやはり予想通り、いやそれ以上のことを言っていた)しかし、それはモータースポーツというものよりも、ローマのコロセウムで行われた見せ物に近いものだ。現代スポーツは人の命を捧げることを前提とはしていない。それでも知事が「三宅島TT」をモータースポーツと言い切るのならば、峠のローリング族も湾岸族も立派なスポーツマンであり、本気じゃないからジョギングみたいなものだろう。
結局の所、知事が狙っているのは知事選に向けたスタンドプレー、息子のスキャンダルのごまかし、「三宅島TT」に向けて流れるカネのような気がしてならない。投入されるカネは3億以上と言われるが、その内容は路面改修や、マンホールに滑り止めの塗布、さらに
民家に激突して損害を出さないためのガードレールの設置だそうである。
良質な舗装で、マンホールも気にせずにすむので、当然アベレージ・スピードは上がる。そして一歩間違えば、固いガードレールが待ち受けるのだ。これがスポーツだろうか?
ちなみに私は都知事が100%キライじゃない。弱腰のセージ屋が言えないような事をズバズバ言うところは好きでもある。
しかし「三宅島TT」については現役ライダーとして、そして公道での惨事を知っている人間として反対なのである。
<おまけ>
石原知事定例記者会見録
平成18(2006)年6月9日(金)
【記者】
マン島のオートバイレースで、日本人のレーサーの前田(淳)選手が亡くなってしまうという大変痛ましい事故が起きてしまいましたけれども、三宅や八丈島でこのようなレースを行うという知事のお考えは、変わりはないでしょうか。
【知事】
変わりないですね。何もねレースや予選でライダーが、4輪にしろ2輪にしろ事故を起こすのは、何もマン島のケースだけじゃない。マン島だって随分そういうケースがある訳ですが、
みんなそれを覚悟でやっているんだから、プロだから。大事な事はね、マン島のレフェリーたちが、シェリフ、何というんですか(マーシャル:監視員)、とにかくボランティアで出ている監視員たちが言ってる事は、公道を使うんだけど、
絶対に住民の事故を防がなきゃいけないと。それから、マン島は歴史が長いからね、条例(法律)をつくって、あれは一種の国ですからね。外交と防衛だけはイギリス本国に任しているけど、あそこの王様は今の王室だけども、総理大臣は別にいるんですよ。ですから、自分たちの国法できちっと法律をつくって、とにかく協力しないで勝手に出てきた人間はペナルティーといって、罰金まで課すだけの、そういう取り締まりをしていますからね。歴史も長いし、島民全体が観光振興にでも協力しているんで、そういう事故は起こりませんけど、
自分たちが一番注意しているのはそれだ。あとは知らぬと。プロなんだから。
まあ前田君の場合もね、初めての機械でね、車検を受けたばかりのマシンだったので。それもしかも300キロぐらい出る直線コースを、その後上がり坂の、これはかなり直線に近いんですけど、すぐに見に行きましたが。まあ、それでもね、200キロを超すスピードが出ているあたりで機械が急に、あれは止まったんだな。それでね、後ろから来た車が追突した。後ろから来た車もちょうど真正面に太陽が見えるので、それほど太陽は低くなかったと思うんですがね、とにかくちょっと上り傾斜のところでね、光線に目がくらんでね、前が見えなかったのかなと言うんだけど、とにかく急に減速したのにぶつかって、追突した方が完全に意識不明でね。
どうなったか知りませんけど。前田選手はね、本当に日本人で一人頑張って、前回も6位までいって、非常に期待されていたんですがね。まあね、ライダーとしては乗れなくなっても、本当に日本で珍しくあのレースに参加してね、公道レースの経験があるんで、三宅や八丈でこれが実現されたらいいと思うし、されるためにも、彼のアドバイスを聴こうと思ったんですけど、残念です、本当に。まあしかし、ああいうパイオニアがいてね、物事というのはどんどん、どんどん敷衍(ふえん)し、進歩していくんで、やっぱり
彼の死を無駄に終わらせたくないと思いますね。
まあ、あれは多分恋人なんだろうけどね(?)、英語の上手い、日本の、何といったかな、京都の女性がつき添っていて、マネージャーしていて。ああいう何というのかな、若い人がね、国際的にメディアが追っかけなくても頑張っているというのは美しいよね。
ああいうところは本当の青春の燃焼だよ。はい、それじゃ。はい、どうぞ。
Posted at 2006/12/22 00:11:14 | |
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