今年の
オートモビルカウンシル、4月11日から13日の開催でした。もちろん行ってきました。
今回は10周年。私は第1回から毎回通っていますが、最初にこの展示会を知ったのは本当にちょっとしたこと。確かWeb記事だったと思います。いざ行ってみてとても感激したのですが、当時はこれだけ続くとは思っていませんでした。日本で、この規模の旧車・ヴィンテージカーの展示会が続くとは思っていませんでした。
主催者、スタッフ、そして出品者には心からの敬意しかありません。
オートモビルカウンシル2024
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オートモビルカウンシル2016
世界的カーデザイナーである
ジョルジェット・ジウジアーロ。今回は特別展示「世界を変えたマエストロ」のタイトルで、10台のジウジアーロ作品がずらりと並べられています。それだけでなく、なんとご本人が来日し、この展示会に足を運んでいます。わたしもそのお顔を拝見しました。80歳をとうに越えているにも関わらず、とてもお元気そうでした。
なお同氏のお名前ですが、最近は「ジュジャーロ」と表記されることが増えているようですね。この展示会でもそうでした。ならばそちらに合わせるべきなのですが、慣れというか個人的に違和感があり…ここではジウジアーロ表記とさせてください。
いままでは国別に展示車をブログにしてきましたが、今回はまずその特別展示を一気に紹介したいと思います。
Giorgetto Giugiaro展「世界を変えたマエストロ」
アルファロメオ ジュリア・スプリント GTA(1963年)

20代のジウジアーロが手掛けたジュリア・スプリント。ジウジアーロは徴兵中のイタリア軍キャンプでこのデザインを仕上げたとのこと。なんとも驚きます。

もちろんこっそりとやっていたわけではなく、上官の許可を得たうえで、当時所属していたベルトーネの仕事として自由時間に作業をしていたそうです。なんともイタリアっぽいというか。いや普通に良い話ですね。

当時の車は丸いヘッドライトに合わせてフロントに豊かな峰や曲線を持たせることが普通でしたが(先行していたジュリアのセダン、いやベルリーナがまさにそうですね)、このジュリア・スプリントはそうではなく、ヘッドライトを中央寄りに配置しボンネット先端を水平にし、かなりモダンな表情を持たせています。実際にそれがジウジアーロの狙いだったそうです。

1963年。昭和でいえば38年です。この車が当時の最先端スポーツクーペだったのは間違いないでしょう。
マセラティ メラクSS(1972年)

マセラティが同社として初めて世に出したミッドエンジン・スーパーカー。

同じレイアウトのライバルとしてはカウンタックや365BBになると思いますが、前衛そのもののカウンタックや先進性を強く打ち出した365BBに比べ、このメラクは古典的でエレガントです。

ファストバックのクーペのように見えて、実はパネルやガラスはなく、そこには広大なエンジンフードが露出している。「フライング・バットレス」という形式で、建築技法からのスタイル。メラクが極めて個性的なのはこの部分でしょう。

リアランプは丸や四角ではなく、いたって普通の形状です。どこかのサルーンから流用したものと言われても通りそうです。
フォルクスワーゲン・ゴルフ(1974年)

ジウジアーロの代表作として必ず名前が出るのが初代ゴルフ。

直線で構成され、グラスエリアを広く取りウエストラインも下げ、良好な視界を確保したそのデザインはまさに実用車のお手本ですね。それでいて安定感や重厚感もあるのは凄いことです。

立派なレインランネルやリアゲートのくぼみなど、悪天候時の視界確保や空力特性も考慮されています。この手のウンチクってベンツの独擅場かと思いきや、VWもなかなかやります。リアランプもシンプルで良い。まだこの時代はリアフォグランプが付きません。

ゴルフといえば太いCピラー。これは現行モデルまで連綿と続けられていますね。これってジウジアーロのアイデアなわけですが、「これだけは絶対に引き継いでくれ」みたいな話がおそらくあったのでしょう。「Cピラーこそゴルフでもっとも特徴的な部分」という発言もされています。

私はある機会で初代ゴルフの運転席に座ったことがあります。広い足元と極めて良好な視界に感心したことをいまも覚えています。これならすぐに慣れて自分の手足のように操れそうだなと。外から見たデザインの良さを、中からも感じることができたわけです。
BMW M1(1978年)

BMWのミッドエンジン・スポーツ。ランボルギーニと提携する形で開発され、設計はジャンパオロ・ダラーラ。デザインはジウジアーロ。

国を超えての提携。とはいえ苦境のランボルギーニを救済する意味合いが強かったわけですが、開発はうまくいっても肝心の生産ではトラブル続きだったとの話が残っています。

あくまでBMWらしく、しかもクリーンなデザインだと思います。

サイド両端に2つエンブレムを貼っているのはユーモラスです。リアのランプはE24・6シリーズからの流用ですかね。
いすゞ アッソ・ディ・フィオーリ(1979年)

117クーペの後継としていすゞが世に出した「ピアッツァ」、そのデザインベースとしてイタルデザイン・ジウジアーロが作成したのが、このアッソ・ディ・フィオーリ。

アッソ・ディ・フィオーリ「Asso di Fiori」とはクラブのエースのことだそうです。アッソ・ディ・ピッチェ(スペードのエース)、アッソ・ディ・クワドリ(ダイヤのエース)というコンセプトカーもあり、それぞれアウディとBMWがベース。

通常、デザインコンセプトがそのまま世に出るケースというのはまずないのですが(保安基準や生産性などがあるので当然ですね)、ピアッツァはほとんどこのままで生産されました。これはジウジアーロが凄いのかいすゞの技術者がすごいのか、いやその両方ですね…

とはいえ当時はドアミラーが国内で認可されておらず、初期型はフェンダーミラー装備でした。これについては「悪魔の角だ」とジウジアーロが激怒したとか、逆に「このフェンダーミラーもジウジアーロがデザインした」といすゞが言ったとか、なんか都市伝説みたいな話があります。いまとなっては、もはやどうでも良いことかもしれません。

直筆サインも!
ランチア デルタ HFターボ(1979年)

上記「アッソ・ディ・ピッチェ」にさらに進化の手を加えたのがこのデルタだそうです。水平基調でシンプルながらも上品さがあります。

日本国内でデルタといえば、いわずと知れたHFインテグラーレでしょうね。しかしベースモデルのこれもとてもいい。

個人的に私は角形ヘッドライトが好きなんですよね。このデルタも、四角いライトがランチアらしさを強調していると思います。
フィアット パンダ(1980年)

当時、苦境に陥っていたフィアットが起死回生とばかりに世に出した初代パンダ。当時、フィアットはデザイン上の要件をほとんど付けず、ジウジアーロは車体レイアウトまで含め自由にデザインできたそうです。

その結果、パンダは新しい「庶民の足」として大ヒットし、フィアットの立て直しに貢献しました。

パンダはそのシンプルを極めた外観だけでなく、内装も独創的なんですよね。後期にはポップに内装を飾ったモデルもありました。
DMC デロリアン(1981年)

そういえばデロリアンもジウジアーロデザインでしたね。GMの副社長が立ち上げたデロリアン・モーター・カンパニー(DMC)、その唯一の車。

基本メカニズムはロータスで、PRVエンジンをベースにし、ボディは無塗装ステンレス。ガルウィングドアを採用した極めて個性的な2シーター。生産は北アイルランド。アメ車だけどエンジンや生産地はヨーロッパ。イギリスには右ハンドルにコンバートされた個体もあるそうです。

しかしこの個性的すぎるクーペは商業的に成功せず、わずか2年足らずの生産で幕を閉じました。9000台に満たない数しか生産されず、DMCも消滅してしまいましたが、後年に映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でタイムマシンとしてデロリアンは復活したわけです。
イタルデザイン アズテック(1988年)

左右に完全に独立した2シーターで、乗員はインカムで会話する。いかにもぶっ飛んだこの車はイタルデザインの創業20年を記念したコンセプトモデル。しかしそれだけでは終わらせず、当時はこれを50台、日本で独占販売しようという計画がありました。ってこれを?マジで?

と、いまではそう思うしかないのですが、当時の日本はバブル景気。なんでもありでした。ただしバブル崩壊により、その計画は文字通り水泡に帰した。なんとか生産までは持っていけたものの、最終的にはわずか18台で終わったそうです。そしていまも日本には2台が現存し、うち1台は自走可能とのこと。これがその1台なのでしょうか。

エンジンはアウディの5気筒。パワーは?サイドに「250HP」と貼ってあります。その通りなら見た目の割りにずいぶん控えめですね。駆動系はデルタHFインテグラーレから流用した4輪駆動システム。そっちはアウディじゃないのか。非現実的なスタイリングですが、リアコンビネーションランプはアルファロメオ164からの流用ですね。この現実感あるワンポイントにほっとします。

それにしても、これを日本で独占販売とは。無粋かもしれませんが、いったいどこを走るのかと…夜の六本木でしょうか?なんかネオ東京とかじゃないとサマにならない気も…金田のバイクとセットで所有したらイイかも(?)
バンディーニ ドーラ(2020年)

この車は不遇です。「こんなのあったのか?」と思う人もいるでしょう。私も知りませんでした。

2020年のジュネーブショーで公開されるはずが、コロナ禍でそのショー自体中止。開催3日前、直前の中止決定というドタバタぶり。この、過去のブランドを使ったEVスポーツは、デビューの場を奪われオンライン公開のみということに。車は実際にその目で見ないとわからないのに…

充電ポートに「AC」とありますが、急速充電には対応していないのかな?それともこの手の車なら、自宅でゆっくり充電するのがデフォだということでしょうか。

「AUTOMOBIL COUNCILでパブリックデビューを果たす。事実上のワールドプレミアと言っていいだろう」と、誇らしげな説明がありました。なのですが、この車自体は端っこにポンと置かれていました。すごい車でもさりげなく展示してしまうところがこのショーの大きな魅力です。いやはや。
会場のジウジアーロ氏も、この10台の展示を当然目にしていて、とても嬉しそうにしていたそうです。

最初に「カーデザイナー」と書いてしまいましたが、氏は工業デザイナーというべき存在ですね。車だけでなくいろいろなものをデザインしています。

バスケットボールも?と思ってしまったのですが、ジウジアーロデザインのバスケットボールって普通に売られていて有名なんですね。まったく知りませんでした。しかもぜんぜん高くなくて驚きました。欲しくなってしまった…
←続きます。