護衛艦「いずも」特別公開後編です。

こちらは第1エレベータです。
正確には第1エレベータのプラットホームの下になります。
この巨大なプラットホームが昇降するのですから大迫力ですね。
妨幻のために内側は黒く塗られています。
では飛行甲板に向かいましょう。
飛行甲板にはこの第1プラットホームでいっきに上ります。
第1エレベータの仕様荷重は30トンになるそうですね。

第1エレベータのプラットホームに乗って、見上げてみたところです。
なんだか不思議な感覚になります。
第1エレベータは艦橋よりも艦首側に位置しています。

飛行甲板からプラットホームを覗いている人をみるとこのエレベータの大きさがわかります。
第1エレベータのプラットホームは長さ20メートル×幅13メートル。
「ひゅうが」が20メートル×10メートルなので広くなりました。
飛行甲板の下で丸ものがついた機械がみえますが、これはプラットホームを固定するためのピン。
さぁエレベータのプラットホームにのって飛行甲板へ!
(youtubeに私がupした動画です。・・・・地味な動画ですが 笑)

おい・・・なんかいたぞ・・・?
馬・・・・だと・・・・?

第1プラットホームはこのように飛行甲板にせりあがると一体化します。

第1プラットホームが下がった状態で飛行甲板から見下ろしたところ。
20メートル×13メートルという広大な面積のプラットホームが格納庫まで下がっているわけですが、なんとも不思議な感じがします。
今回の公開では転落防止のために柵が設置されていますが、作戦時などでは夜間の灯火管制なんかもするのでしょうから航空機や作業者の転落防止には気を使うんでしょうね。
航空機に搭載する弾薬や燃料の補給・抜き取りは火災の危険からエレベータで飛行甲板まで上げてから行うようです。

第1プラットホームの近くの艦橋基部に設置されたエレベータ操作盤。
ここと格納庫管制室と情報をやり取りしながら航空機をプラットホームに載せたり昇降させるんでしょうね。
では艦首から艦尾にかけてみていきましょう。

艦首にある艦首旗です。
自衛隊の施設では午前8時から日没まで旗竿に日の丸が掲げられるよう決められていますが、自衛艦もそれと同じく停泊中は艦首に日の丸を掲げるようになっています。

艦首右舷側には高性能20ミリ機関砲が設置されています。
この機関砲はファランクスといわれるもので、射撃統制装置、機関砲、弾装から構成されています。
敵の航空機や対艦ミサイルは僚艦の迎撃ミサイルで迎撃しますが、それをかいくぐって突入する場合も想定されます。
その最終段階に機関砲で弾幕をはって撃破を行うものです。
機関砲はF-15などに搭載される20ミリ機関砲(いわゆるバルカン砲)を艦載仕様にしたもので、白く見えるドーム状の中にはいっている射撃統制装置で目標の捜索・探知・追尾・評価・射撃を全自動で行います。
最近はテレビカメラを搭載して目視で不審船などに射撃が出来るようになったブロック1B型が搭載されつつありますが、「いずも」は他の引退した護衛艦からの転用なのかテレビカメラは搭載されていないブロック1A型のようです。

艦首から艦尾をみわたしたところ。
本当に広大な飛行甲板が広がっています。
そして艦橋は右舷にオフセットして配置してあるので飛行甲板は障害物の無い全通式になっています。
まるで空母みたいに見えるこの全通飛行甲板型が「いずも」の特徴ですね。
全通飛行甲板は「ひゅうが」型と同じですが全長・全幅ともに拡大しましたので飛行甲板の面積は「ひゅうが」のざっくり1.5倍の面積を確保しています。

こちらは救難作業車。
いわゆる消防車ですね。
化学消火剤をつかった泡消火装置を搭載しているようです。

艦橋基部を前から。
手前に見える巨大なものはNORA-7スーパーバード衛星通信アンテナ。
通信衛星スーパーバードDを使って艦船用の衛星通信を行うものです。

NORA-7スーパーバード衛星通信アンテナの後方の艦橋基部に設置されたシーRAMです。
RIM-116 RAMという小型のミサイルと高性能20ミリ機関砲の射撃統制装置を組み合わせたもので、全自動で自律した目標の捜索・探知・追尾・評価・射撃を行います。
実は護衛艦「いずも」の武装は高性能20ミリ機関砲とシーRAMが各2基づつの計4基のみしかありません。
護衛艦「ひゅうが」ではESSM短SAMやVL-ASROC、短魚雷発射管が装備されていましたが「いずも」ではそれらは装備されず、自衛用のみとなっているんです。

護衛艦「いずも」を最も象徴するもの、それはこの艦橋だと私は思います。
艦の中央ではなく右舷にオフセットされて、飛行甲板の妨げにならないレイアウトは艦橋というよりは空母の「アイランド」といういう感じです。
そしてこの艦橋、他の護衛艦には必ずあるものがないんです。
それは・・・
射撃統制装置が無いんです。
射撃統制装置とは護衛艦の速射砲や対艦ミサイル、艦対空ミサイルの射撃を行う際にレーダ照射を行って目標への射撃コントロールを行うものです。
もちろん護衛艦「ひゅうが」にもあります(艦橋についてる四角いアンテナがそれです)。
ところが・・・・「いずも」にはそれがありません。
「ひゅうが」の射撃統制装置があった部分にはOPS-50という三次元レーダが搭載されています。
見た目は「ひゅうが」に搭載されている射撃指揮装置3型(FCS3)そのままですが、「いずも」はそもそも艦隊空ミサイルを搭載していないのでミサイルの管制機能を省いています。
もちろんミサイル誘導用のXバンドレーダもありません。
このOPS-50は対空捜索と航空管制に特化したものとなっています。
射撃統制装置がない=武器をもっていない(自衛用のCIWSは除く)わけですので、「いずも」は従来の護衛艦とは全く異なるものになっています。
護衛艦「ひゅうが」は形は「いずも」と似ている大型のヘリコプタ搭載護衛艦ですが、対艦ミサイルや速射砲をもっていないだけで基本的には従来の護衛艦と同じく個艦防空の艦対空ミサイルや短魚雷、対潜ミサイルをもった護衛艦です。
つまり他の護衛艦と同じく単独で作戦が行えます。
一方「いずも」は武器を持っていないので1艦だけで行動はせず、必ず他の護衛艦の護衛が前提になっています。
完全に「空母的」な運用ですね。
空母といっても戦闘機をのせて・・・という意味じゃなく、僚艦に護衛を完全に任せ、ヘリコプターの洋上プラットホームになるということで、従来の護衛艦とは全く異なった運用になります。
「いずも」に武装がされていないのはコストを抑えるという意味もありますが、これだけ巨大になると従来の護衛艦と同じような運用が難しいでしょうし、航空機運用に絞った運用を求めた結果なのでしょうね。
今回公開はされませんでしたが「いずも」は「ひゅうが」以上に広大な多目的区画があるそうです。
ここに陸海空の幕僚がつめかけて部隊の指揮がおこなえるようになっています。
その指揮通信能力も相当なものらしく、自衛隊の統合運用を最初から考慮してるってことなんでしょうね。
東日本大震災では「ひゅうが」は米海軍と連日会議を行って災害派遣部隊の指揮をとっていたようです。
武装は自衛に限られていますが、「ひゅうが」以上に拡充された航空機の運用と指揮通信管制能力をもった「ヘリコプタープラットホーム兼洋上指揮艦」といったところでしょうか。

こちらは左舷にあったフィルタ室のドア。
空調か何かの関係なのかな?
「X」の記号は常時閉めておくべきという意味のようですが・・・?

左舷にはキャットウォークが設置されてました。
飛行甲板を歩くことなく艦尾から艦首まで歩いて移動が出来ます。
手前に見えるのは音に指向性をもたせて一方向に集中させることが出来るLRAD-RXです。
現在行われているソマリア沖での海賊対処行動で護衛艦に搭載されているもので、指向性を持っているので限られた範囲のみに大音量で特定の場所に指示や警告を与えることが出来ます。
この特別公開ではここからアナウンスもおこなっていました。

これな~んだ?
これは「いずも」の飛行甲板の表面です。
すべりどめのために非常にざらざらしています。
これが飛行甲板全体に塗装されているわけです。
丸く見えるのは航空機や車両を係止しておくフックで、蓋がしています。

こちらは飛行甲板のヘリコプター発着スポット。
上から見ると「K」に見えるあれです。
護衛艦「ひゅうが」よりも1箇所多い5箇所あって、同時に5機の航空機の発着が可能なようになっています。
護衛艦「いずも」はSH-60JまたはSH-60K哨戒ヘリコプターやMCH-101掃海・輸送ヘリコプターを最大で14機を搭載することが可能とされています。

こちらもエレベータですがちょっと小さいですね。
これは航空機用ではなく航空機に搭載するミサイルや魚雷などを弾庫から飛行甲板に昇降するための専用エレベータです。
火災や事故を防ぐために弾薬の搭載は格納庫内では行わず、こうやって飛行甲板まで移動させてから行います。

艦橋の側面です。
前部艦橋と後部艦橋の間にはエントツがありますが、その間は隙間があってそれぞれが独立しています。
左舷側はその隙間に鉄板で蓋がしてあるんですね。
第1煙突の後部にある白いドーム状のものはNORA-1Cスーパーバード衛星通信アンテナです。
スーパーバードB通信衛星を使って艦艇間、陸上基地へ通信を行うものです。
第2煙突にある白いドームは前からORQ-1Cヘリコプター用データリンク装置、NORQ-1スーパーバード衛星通信アンテナです。

艦橋を後部から。
マストがなかったらどちらが前か後ろかわからないほど前部と後部の艦橋は非常に似ています。
後部艦橋も前部と同じくOPS-50三次元レーダが設置されています。
後部艦橋は航空管制室となっています。
こうしてみると航空管制室の位置の関係でヘリコプター側から見て位置が掴みやすい、掴みにくいなどがあるでしょうから5箇所あるヘリコプター発着スポットでも着艦しやすいスポット、しにくいスポットがありそうですね。

後部艦橋です。
飛行甲板になっている左舷側に大きく張り出していますね。
手前にある巨大なドームはNORA-7スーパーバード衛星通信アンテナです。
「いずも」は「ひゅうが」と同じく艦橋の前後に設置されています。
常時どちらかのアンテナがスーパーバード通信衛星と向かい合ってるんですね。

こちらは飛行甲板後部に展示してあった作業車両です。
詳細はわかりませんが、「ひゅうが」に搭載されていたクレーン車は25トンの能力をもつもので、ヘリコプタの撤去などの作業を行います。
フォークリフトは貨物運搬用で、これらの装備は輸送艦「おおすみ」型から導入されてるようです。

艦後部右舷に設置されてる第2エレベータのプラットホーム上に載せられていたSH-60J哨戒ヘリコプター。
護衛艦「いずも」の上ポンシステムの中核となるもので、いずもはこれを複数機(SH-60Kで7機)搭載します。
哨戒ヘリコプターは「HS(ヘリコプターシステム)」と呼ばれています。
これは単に哨戒ヘリコプターが潜水艦を発見するためだけでなく、護衛艦のウエポンシステムの重要な一部だということを意味しています。
哨戒ヘリコプターに搭載されているソナーやセンサを使って潜水艦を発見して必要に応じて攻撃を加える対潜哨戒はもちろんですが、広い範囲を監視して対水上目標の情報を護衛艦に送って対艦ミサイル射撃支援を行うなど非常に重要な任務を負っています。
写真のSH-60Jは機体そのものは米海軍のSH-60Bシーホークのライセンス生産ですが、中の電子システムは国産のものを用いています。
米海軍は駆逐艦や巡洋艦に搭載するSH-60Bにソノブイ投射機と広範囲を監視するレーダを搭載して、空母からはるかに先に進出して潜水艦の監視・発見を行います。
そして空母にはSH-60Fオーシャンホークを載せて空母の直衛として間近に迫った敵潜水艦を精密に発見できるようディッピングソナというアクティブソナーをぶらさげます。
SH-60BとSH-60Fという明確に異なった哨戒ヘリコプターを運用しているわけですが、海上自衛隊はこれら両方の機能をもつSH-60Jを独自開発したわけです。
現在SH-60Jは退役がはじまっていますが、その後継として拡大発展型のSH-60Kが配備されています。

艦後部の右舷には右舷艦首側と同じくUSC-42衛星通信アンテナがあります。
米海軍の偵察衛星フリーサットを使って衛星通信を行います。

艦尾の自衛艦旗。
軍艦旗と同じ意味合いを持つ旗で、この艦艇が日本国の自衛艦であることを示す非常に重要な旗です。
日の丸の中心は旗竿から6分の1オフセットした位置にあり、日の丸からの光線は11度4分の1に開いています。
このデザインは大日本帝国海軍の軍艦旗から踏襲しています。

飛行甲板から左舷側をみるとYT-67「曳船67号」が「いずも」に接近してました。
曳船の体験搭乗は「いずも」の格納庫内で受付をしていましたのでここから乗り込んだのでしょうね。
私も乗りたかった!!

見学を終えて「いずも」から降りたあとに地方協力本部のブースにいくと南極の石が展示してありました。
南極観測は海上自衛隊が支援しています。
南極観測船として知られる「しらね」は海上自衛隊の砕氷艦で、横須賀基地の横須賀地方隊の所属なんですよ。

以上、護衛艦「いずも」特別公開の模様でした。
いずも特別公開 前編/後編