M.2とは、ノートPCやNUC(Next Unit of Computing:小型PCフォームファクター)で使われているminiPCIeやmSATAといったデバイスのフォームファクターの一つ。
次世代の規格ということで「NGFF(Next Generation Form Factor)」とも呼ばれ、一部のノートPCでは既に使用されている。
今回は、M.2フォームのSSD(Solid State Drive)のお話。
SATA接続の半導体素子メモリを用いた記憶装置としてのSSDは、従来からの2.5インチHDDに準じた箱型筐体が主流だが、ノートPCの更なる小型化とベアボーン(半完成品)などのUNCの普及により、筐体を無くした基板むき出しのSSDとしてmSATA SSDが使われている。
SSDはディスクの回転や可動部のあるHDDでは成し得ないダウンサイジングが可能で、M.2フォームでのSSDでは、基板の幅が22mmで長さは38/42/60/80/110mmの4種類となっている。
コネクタ形状やピン配置はデバイスのインターフェースの種類によって12種類の「Key ID」で識別され、5
月初旬からリリースされたInteのlチップセットZ97/H97では、PCI Expressネイティブ接続のSSDに正式対応したことで、M.2用ソケットが実装されてM.2 SSDの使用が可能になった。
現在、SSDの転送速度が接続するSATA3(600MB/sec)規格の上限で頭打ちになっていることから、より速いPCI Express接続に期待されており、今後、SSDのPCI Expressのネイティブ接続が普及する可能性は高い。
(その為のトレードオフもある。)
現時点で市場投入されているM.2 SSDは種類が少なく、PlextorのM6シリーズがPCI Express(2.0)x2接続とPCI Expressネイティブだが、未だ多くはSATA3対応コントローラーを搭載したSATA接続なため2.5インチ筐体のSSDと同等だ。
その中で別格なM.2 SSDが、
SamsungのXP941シリーズである。
XP941シリーズは、昨年7月に発表された世界初のM.2 PCI Expressネイティブ接続のSSDで、PCI Express(2.0)x4接続に対応した高速SSDだ。
容量は128GB/256GB/512GBの3製品がラインナップし、公称最大読み出し速度は128GBで1,000MB/sec、512GBは1,170MB/sec、記録速度は128GBで450MB/sec、512GBは950MB/secという、SATA3接続でのSSD2台によるRAID_0に匹敵する性能を持つが、性能と引き換えに価格も高価である。
発表と同時に生産開始も開始され、既にノートPCであるVAIOシリーズの一部機種などにも採用されている。
※SATA規格
SATA(1.0):実効転送速度=150MB/s
SATA2:実効転送速度=300MB/s
SATA3:実効転送速度=600MB/s
※RAID_0とは
複数の外部記憶装置(HDDやSSD)を一台の装置として管理する技術方式の一つで、設定した複数の外部記憶装置にデータを振り分けて記録(ストライピング)する方法。
利点は、データの読み書きが高速になり、記憶容量は設定された記憶装置を合算した値になる。
欠点は、設定された装置が1台でも故障すると全データを損失し、速度と信頼性がトレードされる。
【Samsung XP941 512GB (MZHPU512HCGL-00000)】
幅22mmで長さ80mmの2280と呼ばれる基板で、重量は約7gと超軽量だ。

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NANDフラッシュメモリは1パッケージあたり128GBの容量を持つ16積層品で、片面に2個づつ両面で4個が実装されている。

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M.2 SSDは、主流の2.5インチSSDと比較してもサイズの違いは歴然で、3.5インチHDDと比較すれば技術の進歩に感嘆してしまう。
実際に手にとってみると、写真で見るより更に小さく感じられる。

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せっかくM.2 SSDがZ97/H97搭載マザーボードでPCI Expressネイティブ接続が可能になったのだが、マザーボード側の対応はPCI Express(2.0)x2接続であり、PCI Express(2.0)x4接続のXP941シリーズでは性能を活かし切れない。
また、従来のHDDやSSDのように起動用Option ROM(OROM)を搭載していないため、データ用ドライブとしては普通に使えるものの、OSの起動用ドライブとして使うにはマザーボードレベルでの対応が必要である。
※PCI Expressとは
PC内部の各パーツ間を結ぶバス(データ伝送路)の規格。
x1を1レーンとし、4本を束ねたものをx4(4レーン)、16本束ねたものがx16(16レーン)となる。
PCI Express(1.1):転送速度は片方向で250MB/sec
PCI Express(2.0):転送速度は片方向で500MB/sec
PCI Express(3.0):転送速度は片方向で800MB/sec(転送方式の変更にて1000MB/sec)
※起動用OROMとは
電源投入時にデバイスの初期化やブート(OS起動)可能なデバイスとしての認識を行う機能を有するBIOSの一つ。
しかし、兼ねてから「変態マザーボードメーカー」としても周知されているASRockが、Ultra M.2と称する世界初のCPU側のPCI Express(3.0)を利用したPCI Express(3.0)x4に接続する世界最速のM.2ソケットを有する「Z97 Extreme9」と「Z97 Extreme6」というマザーボードをリリースしてきた。
PCI Express(3.0)x4は最大32Gb/secの転送速度になり、XP941のPCI Express(2.0)x4(20Gb/sec)を上回ることで、XP941シリーズを活かし切ることが可能だ。
尚、この2機種については普通のPCI Express(2.0)x2のM.2ソケットも設けられており、ダブルM.2ソケット仕様は他社に無く、その点でも世界初といえよう。
ASRock社は、2002年に大手PCパーツメーカーであるASUSの直属子会社として設立された。
(現在は、元ASUSの子会社だった製造部門の子会社となっている)
ほとんどのメーカーのマザーボードは、その時代に於ける技術や規格を盛り込んだ標準的製品を投入するものなのだが、ASRockは設立以来、一般的、標準的な仕様から離れた独自機能を盛り込んだ“世界初”を謳う“普通じゃないマザーボード”を多くリリースしてきた。
例えば、Pentium 4のCPUがSocket 478からLGA 775に変わる時代には、その2種のソケットを1枚のマザーボードに搭載してどちらのCPUも使える(排他仕様)という「P4 Combo」といった製品や、メモリーのDDRとDDR2の両方のソケットを有し、更にはPCI Express x16スロットとAGP 8xスロットも載せてしまった「4CoreDual-SATA2」という製品など、およそ他社では有り得ない仕様の変態マザーボードを多くリリースしてきた。
その多くはプラットフォームの変更時であるが、それは、いたって真面目な理由からで、変態モデルのコンセプトは「少ないコストで新しいプラットフォームへ移行できる」ということにある。
通常、新規格のプラットフォームへの移行は高価でコストが掛かるもので、旧規格になって低価になったパーツが使え尚且つ新規格のパーツへの移行をスムーズにできるようにと、ユーザーへのコスト負担を抑えようというユーザーフレンドリーなポリシーからだ。
だが、メーカーとしてはしごく真っ当な会社であり、近年では堅実でコストパフォーマンスに優れた製品を出すようになって技術面・性能面でも定評を得て、親会社であるASUSをはじめとする他大手PCパーツメーカーと肩を並べるほどにまでに成長し、PCパーツ市場の一角を担うほどの企業になっている。
昨今はやや変態度が薄くなってきた感もあるASRockだが、世界初のUltra M.2で変態度もややアップしたことだろう。
今回、Samsung XP941シリーズの512GB(MZHPU512HCGL)を自分の目で確かめてみるべく、マザーボードには、
ASRock Z97 Extreme9を使った。
XP941シリーズの検証は、既にネット上に幾つか出ていて目新しさは無い点は勘弁して欲しい。

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予備のベンチ台にセット。
現在はCPUにGPU(描画用グラフィックスコア)が内蔵されているため、別途グラフィックボードを用意しなくても画面に映し出せる。

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【OSのインストール】
この起動用OROMを持たないXP941を起動ドライブにできるマザーボードは限られている。
自作PC専門誌
「DOS/V POWER REPORT」の記事によれば、OSを直接インストールできるのはASRockとMSIの2社であり、ASUSとGIGABYTEの2社製品は不可である。
ASRockは特殊仕様だが、MSIの場合はM.2との接続がZ97のSATAポートと排他仕様となり、M.2 SSD使用時には6個のSATAポートのうち2個が使えなくなる。
それに対しASUSとGIGABYTEは、追加のサードパーティー製SATAコントローラー管轄のSATAポートとの排他仕様であり、その違いで直接OSをインストールすることの可否になるとも考えられるが、ASRockのようにサードパーティー製SATAコントローラー経由でも直接インストールが可能なものもあるため、やはりメーカーの仕様次第であろう。
実際は個別に試してみないと分からないのが現実だ。
※条件を満たせばIntel製のドライバを使ってOSのインストールと起動も可能→
記事
Z97 Extreme9のUltra M.2でXP941にOSをインストールした設定は、何故か「DOS/V POWER REPORT」や「
エルミタージュ秋葉原」で紹介されたものと少々異なった。
最小構成で接続。
①:UEFI(BIOS)画面のアドバンス設定画面で接続デバイスを確認。
SATAポートにインストール用光学ドライブのDVR-221L、M2_1にMZHPU512HCGL-00000(XP941 512GB)が認識されている。

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②:起動設定画面にて、起動の順番を設定する。
#1に“UEFI:(FAT)Pioner DVD-RW DVR-221L”を選択。
#2には“AHCI:SAMSUNG MZHPU512HCGL”を選択。
#3以降は何を設定しても構わない。

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③:起動設定画面にて、速い起動(Fast Boot)設定を“高速(Fast)”に設定。

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以上3点の確認と設定だけで、後は普通にインストール手順を踏めばOSのインストールが完了する。
「エルミタージュ秋葉原」のZ97 Extreme6による記事では
>Ultra M.2にOSをインストールする場合は、「Fast Boot」を必ず“Ultra Fast”に設定しておこう。
>「Fast Boot」を“Ultra Fast”に設定しておかないと、Windows 8.1、Windows 7ともインストールディスクに選択できなかった。
と書かれているが、「Fast Boot」は必ずしも“Ultra Fast”でなくても構わない。
無効(Disabled)にしても可能だが、POST画面の表示時間が恐ろしく長くなってスタックしているのではないか?と思うくらいに長い。
重要な事は、②でのWindowsインストールディスクを読み込ませる光学ドライブを“UEFI:(FAT)xxxxxx”に設定すること。(xxxxxxは光学ドライブ機種名)
同時に“AHCI:P0 xxxxxx”という選択肢が確認できるが、これを選択すると旧来のレガシー・インストールとなり、インストール先でインストール不可となる。
理由はディスクシステムの違いに因るもので、“AHCI:P0 xxxxxx”ではインストール先は旧来のBIOSで使用されている「MBR(マスターブートレコード)ディスク」としてフォーマットされ、“UEFI:(FAT)xxxxxx”なら EFIで使われる「GPT(GUIDパーティションテーブル)ディスク」としてフォーマットされる。
要は「GPTディスク」にしかOSのインストールができないということのようだ。
【速度検証】
詳細なベンチマーク結果は特に海外サイトが詳しく、ここでは
CrystalDiskMarkを使ってのOSによる違いを検証してみた。
XP941は1パーティションのデータ用としてMBRディスクとGPTディスクとの違いも確認してみた。
環境
CPU:Intel Core i7-4790K
M/B:ASRock Extreme9(BIOS:1.10)
MEM:Team TXD316G2400HC10QDC01 Xtreem Series (DDR3-2400 CL10 4GBx2)
SSD:Intel 330 128GB (Windows 7 Pro SP1&Windows 8.1Dual Boot)
●Windows 7 SP1(MBRディスク)
●Windows 7 SP1(GPTディスク)
●Windows 8.1(MBRディスク)
●Windows 8.1(GPTディスク)
測定1:シーケンシャル速度(seq)
読み込み速度は一目瞭然で、Windows 8.1では公称速度の1,170MB/secに近い結果が出たが、Windows 7では若干低下している。
書き込み速度はいづれも公称速度の950MB/secに少し足りないくらい。
測定2:512KBのランダム速度(512K)
結果の数値は多少のバラツキや測定誤差が有り、OSの違いやMBRとGPTの違いによる変化は無さそうだ。
測定3:4KBのランダム速度(4K)
読み込み速度は全体的にWindows 7のほうが若干高く、逆に書き込み速度はWindows 8.1のほうが高い結果となった。
偶然の可能性もあるが、測定誤差の範囲内と捉えられるかもしれない。
ちなみに、OSのシステムドライブとして有利なのは4KBのランダム速度が影響する。
巨大ファイルの読み書きならシーケンシャル速度性能の優劣だが、OSのシステムファイルのような小サイズのファイルの読み書きの場合はランダム速度が重要で、現行の性能の高いSATA接続2.5インチSSDと比較するとやや低いのがXP941の弱点だ。
測定4:NCQによる4KBのランダム速度(4K QD32)
NCQ(Native Command Queuing)とは、複数の読み書き命令を同時に受け取ったときに、同時処理や順序の並び替えによってパフォーマンスを向上させる仕組みで、この仕組みを使って同時に32個の命令を処理する速度を測定する。
NCQが非対応なストレージでは、ランダム4Kと同等な数値となる。
こちらも一目瞭然で、Windows 8.1のほうがWindows 7よりかなり速いことが伺われる。
MBRディスクとGPTディスクの違い
特に明確な違いは感じられないのだが、GPTディスクでのWindows 7でシーケンシャルの書き込み速度、Windows 8.1ではシーケンシャルの書き込み速度とNCQのランダム4K読み込み速度がMBRディスクの速度を上回る傾向がある。
数回のベンチを採ってみたが、僅差でそのような傾向が見られ、どちらかといえばGPTディスクが有利といえる。
両OSでの決定的な違いは、シーケンシャルの読み込み速度とNCQである。
Windows 7では何度計っても1,100MB/secを超えることはなく、Windows 8.1はほとんど1,100MB/secを超える結果だった。
PCの起動中は何かとデータのやり取りが行われているため、複数の同時命令が発行された時の処理能力が高いにこしたことはない。
Windows 8.1は、NCQの処理能力だけではなく既にNVMe(Non Volatile Memory Express)対応ドライバーが組み込まれており、SSDのPCI Expressネイティブ接続に対する準備がされている。
現在のPCI Expressネイティブ接続のSSDはAHCIドライバーのみの対応だが、年内には真のNVMe対応SSDが登場(Samsung XS1715)するとも云われ、AHCIドライバーを介さずネイティブにコントロールできるようになる。
未だM.2 SSDを市場投入していないメーカーからも発表済み若しくは開発中とのことで、来年には種類も多くなって選択肢も増えることだろう。
特にPCI Expressネイティブ接続の製品に期待したい。
Samsung XP941シリーズを使うにあたり、決してWindows 7が劣っているとは云わないが、やはり最新デバイスには最新OSを使いたいものだ。
この後は、もう少し設定を煮詰めてメインシステムに組み込む予定にしている。
※NVMeとは
不揮発性メモリのための次世代インタフェース規格。
Windows 8.1にはこの次世代用のドライバーが組み込まれている。
現在のSSDはAHCIドライバーで動作しており、AHCIはHDDを前提に設計されたものでSSD本来の性能を引き出せていない。
冒頭での「トレードオフもある。」は、PCI Expressのレーン本数のこと。
メインストリーム向けCPU(LGA1150)には16本あり、通常は主にPCI Express x16(16レーン)
接続のグラフィックボード向けに使われている。
Z97 Extreme9/6では、Ultra M.2のためにx4が使われて残りはx12となり、PCI Expressスロットにはx8とx4に分かれる。
実際にはx16のグラフィックボードをx8で使うと3~5%の描画能力が低下するものの、できればフルにx16で使いたいのが心情だ。
かといってチップセット側のPCI Expressを使った場合には、SATAポートやUSBポートの数が減ることになり、いずれにせよ何かとトレードオフになってしまう点は仕方が無い。
高性能なハイエンドCPU(LGA2011)ならPCI Expressが40レーンと多く、トレードオフの影響は少なくなるのだが。