旧三井文庫第二書庫(品川区)
国の登録有形文化財で「文庫の森」にある旧三井文庫第二書庫
2023年09月30日

文庫の森から都立大崎高校にかけての一帯、約3万3千坪(約10万9千m)は、江戸時代、大名下屋敷がおかれました。文庫の森と北西側の区道の間が外部との境界にあたり、南西側の道は、直線の馬場だったとされています。
寛文2(1662)年に熊本藩の分家熊本新田藩が下屋敷として拝領、その後本家の所有となり戸越屋敷として整備されました。
江戸時代初期、熊本藩細川家が所有していた時期がこの下屋敷の最盛期でした。
19世紀初頭には分筆され、何回か所有者が変わりました。
その後、明治23(1890)年に、財閥の三井家の所有となりました。明治26年(1893)頃、三井銀行がほぼ下屋敷の範囲となる約3万(約9千9百m)を買収、南側に農園(三井農園)、北側に外国人接待用別邸(三井別邸)を建設しました。やがてこの地に三井文庫が設置されることになり、平屋の事務棟と3階建ての同形の書庫2棟が、すべて鉄筋コンクリート造で建てられました。
大正7年(1918)、三井家の江戸時代以来の営業記録等歴史史料を管理する三井家同族会事務所庶務課記録掛が三井別邸に移転し、「三井文庫」と改組しました。移転した年に第一書庫が建てられ、第二書庫は、事務棟造築とともに大正11(1922)年に完成しました。これらの建物を設計したのは、東京帝国大学営繕課長(当時)の山口孝吉です。このうちで現存するのが第二書庫です。
江戸時代以来の史料が保管されました。関東大震災後の防火対策にみられるように、この書庫は資料の保存を第一に作られています。また、外壁はモルタルをタイル風に塗り、その間を東京駅でも使われている愛輪自地で仕上げており、このような職人の卓越した技を各所に見ることができます。
現在の文庫の森の土地は、昭和22(1947)年文部省に売却されたのち、昭和26年設立された文部省史料館が置かれ、同館は昭和47(1972)年には国文学研究の機能も備えた国立国文学研究資料館へと改組しました。
両書庫とも国立国文学研究資料館の書庫として利用されていましたが、敷地内整備のため第一書庫は昭和51(1976)年に取り壊され、第二書庫のみが残りました。国立国文学研究資料館は平成20(2008)年立川市に移転し、その際品川区は防災機能を持った公園を作るため跡地を買収、第二書庫はその文化財的価値から、修理の上保存することになりました。平成25(2013)年3月に公園は開園し、三井文庫そして第二書庫にちなんで「文庫の森」と名付けられました。
第二書庫は、約14m×9mの長方形平面の建物で、空気層を挟む2重の鉄筋コンクリート造壁で囲われています。
柱ではなく、壁が荷重を支えるこのような形式は、壁式構造と呼ばれます。大正・昭和戦前期の日本の鉄筋コンクリート造建物にはこの形式は希で、現在知られている限りでは、この建物が最古の現存例です。
ちなみに、2重壁にしたのは史料を火災の熱から守るためと考えられます。1階スラブ(床)と屋根スラブまで鉄筋コンクリート造にしているのは当時では珍しいが、建物を不燃材で囲うということで、これも防火のためと見られます。
内部には書架が並んでいるが、その書架の柱を鉄骨にして、その上の梁を受ける構造材としても利用しているのが注目されます。梁は、平行に並ぶ書架に合わせて、通例よりも遙かに狭い1.6m間隔で並び、その梁のラインに1.2m間隔で3本1組になった書架の鉄骨柱2組が一列に配されて、6つの点で梁を受けます。この鉄骨による多支点支持は、書籍などの史料の重さに耐える必要があるという書庫の目的にもかなうユニークで巧みな手法で、それにより約9mの梁間では90cm程度必要になるはずの梁の高さを20cmに抑えることもできました。ちなみに、書架の鉄骨柱は、アメリカ製の山形鋼を背中合わせに4本組み合わせて十字型断面(端の柱は2本でT字型断面)にしたものです。
大正12(1923)年の関東大震災では、この建物はほとんど被害を受けなかったが、この震災の被害の多くが火災によるものだったことを教訓に、三井文庫は直ちにこの建物の防火性能を高める改修工事に着手しました。窓を市松模様につぶして火が入る危険を減らしつつ、残した開口部の内外面に人造石研ぎ出しの防火戸を増設しました。この改修工事は大正15(1926)年に完了しました。
以上から、この建物は、ユニークで巧みな構造でつくられている点で、日本における壁式コンクリート造建物の現存最古のものと見られる点で、また震災の教訓をすぐに活かして防火性能を高めた点で、建築技術史上注目すべきものといえます。令和2(2020)年4月3日付で国の登録有形文化財となりました
(現地説明板などより)
Photo Canon EOS 5D Mark Ⅳ
R5.9.17
住所: 東京都品川区豊町1丁目16−23
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