こんばんは、銀匙です。
今回はタムロンのAFマクロレンズ、SPAF90mmF2.5(52E)を紹介します。
前回のタクマー50mmF4と同じマクロレンズに分類されますが、別の性格付けがなされたレンズです。
私の持っているのは52Eのミノルタマウント、52EMという物です。
ちなみにミノルタマウントは通称ではαマウントと呼ばれますが、正式名はAマウントのαレンズです。豆知識。
タムロンの90mmマクロレンズは最初に発売されたMFの52Bから最新の272Eまで人気のあるレンズですが、実は型番数字末尾が52で終わる52系と、72で終わる72系では、その性格が異なります。
ちなみに、現在発売されているレンズは72系の272Eとなります。
数字後のアルファベットはBがMFレンズ、EがAFレンズを指すようですが、型名はやや不規則です。
52系は初代は52B、2代目は52BB、3代目がこの52E、4代目が152Eで、72系は72B、72E、172E、272Eとなります。
また、市場では52系といえば、初代の52Bが圧倒的に人気だそうです。
アダプトールMFレンズである52Bか、次点として52BBを指名して探す人は多いものの、52Eや152Eを指名で探す人は珍しいそうです。
あるカメラ屋の店主いわく、「52のAF系はいわゆるマクロレンズらしい撮影には不向きだし見た目も安っぽい。やはり52系でマクロなら初代の52Bだよ」と仰ってました。
これはある側面で正解であり、花の撮影で有名な丸林さんも、タムロンの90mmで一番好きなのは52Bだと仰っていました。
52系を店頭で探すなら2代目の52BBが最も探しやすいです。
圧倒的に良く見かけるからです。
52Bは上の通り今では神格化されておりますので市場に出てこないのは解るのですが、実は52E系も市場に出てこないのです。
52Eや152Eは、物があれば1.5万前後で購入できるでしょう。
ただし、E系はアダプトールマウントではないので、マウント違いで涙を呑む可能性はあります。
ちなみに私の52EMは現在α700に装着しておりますが、全く問題なく使えている事を報告しておきます。
さて、その52Eの外観写真です。
ご覧の通り小さな茶筒のごとき形で前玉も小さく、とても高そうには見えません。
総プラスチック製の鏡筒ながら405gとマクロタクマーより重い。
ちなみに最新の272Eも405gです。
私は52BBも持っておりますが、接写する場合ならMFながらピントリングの太い52BBの方が意のままに操作しやすいと感じます。
52Eはご覧の通りピントリングが細くてMFが脇役という感じですが、接写ではMF調整が必須ですから、AFがむしろ脇役なのです。
また、52系と72系の異なる点はまずは開放F値で、52系はF2.5ですが、72系は半段暗いF2.8となります。
一方、72系は等倍まで接写出来ますが、52系は1/2倍までしか寄れません。
さらに、52Eと152Eには60cm以下に寄れなくする為のフォーカスリミッタースイッチが装備されています。
ただでさえ寄れないのに、何故こんな事をしたのか。
タムロンの52系レンズは、マクロレンズとしては異端の存在でした。
マクロレンズは本来、小さな物や寄って精密に撮影したい時に使うレンズとして設計されており、ボケは2の次3の次というのが普通でした。
マクロの王道であるマクロタクマーも文書複写や小物撮影、あるいは学術的な用途向けに設計されており、当時のカタログに載っているサンプル写真も外国の切手のアップでした。
マクロレンズは接写用途を求める人のみが購入する特殊なレンズ、それが当時の常識でした。
しかし、タムロンはマクロレンズにある特徴を与えました。
全域でのボケの美しさ、という特徴です。
マクロでは使われていなかったレンズ構成を用いた上、ボケを綺麗に描く為に絞り羽は円形を描きやすい9枚の羽を与えました。
寄る事で主体以外を強くボカし、さらにレンズ構成上の特性と絞り羽でケアしたのです。
元々はネイチャー系フォトグラファーが中距離の被写体でも背景を綺麗に溶かしたいという要望から生まれたそうですが、これが思わぬ副産物を与えました。
人物撮影にも適していたのです。
人物を撮る場合、たとえ上半身しか撮らないとしても60cm以下まで寄る事は少ないです。
そして、52Eはリミットモードにした場合AFが速くなり、ほぼ普通の中望遠レンズが持つレスポンスを叩き出します。
また、60cmという距離は、普通の85mm中望遠の最短撮影距離が85cm前後ですので、さらに半歩踏み込めるという上手い設定でした。
また、開放Fを普通の中望遠単焦点とそのまま比較すればF2.5対F1.4、つまり1.5段劣るので、ボケは明らかな差が出るはずです。
しかし、マクロ設計ゆえに近い被写体が得意で、開放から十分芯のあるシャープな描写ができます。
一方で普通の中望遠は無限遠が最も良い描写ですから、近い被写体の場合は1段絞らないと芯がやや甘くなる=1段絞るのはお約束となっていた為、実質はF1.4から1段絞ったF2対F2.5となり、さらに5mm長い焦点距離と半歩踏み込める事が功を奏し、互角に戦えるポートレートレンズになっていたのです。
同じ距離なら中望遠レンズよりちょっと大きく撮れ、リミットモードでも後1歩踏み込める。その気になればリミッターを左親指で解除して39cmまで寄れる。
ポートレートに適した距離域で開放でも芯はしっかりしてボケも綺麗、必要ならあえて絞ってもボケの綺麗さは維持される。
そして、普通の中望遠単焦点よりずっと軽い。
52系は全てレンズ構成が一緒なので、初代52Bから「ポートレートマクロ」という異名を持っておりますが、AFとリミッターを持つ52Eと152Eは特にポートレート向けのチューニングを受けたモデルといえます。
無論、純粋にマクロ撮影を求めるネイチャーフォトグラファーがAFを使いたくて選択したケースもあるとは思いますが、ポートレート目的でこそ本領が発揮されるという、タムロン90mmマクロの中でも、いわば鬼っ子的なレンズ。
それが52Eなのです。
しかし、タムロンは等倍化のニーズに応える為、新設計の72系にする際、綺麗なボケは残したものの、マクロレンズ本来の接写向けに最適化しました。
従って現在でもタムロンの90mmマクロはボケの綺麗なマクロとして人気ですが、AFレスポンスに関しては他のマクロレンズと同様、
「遅いのは仕方ないよ、マクロレンズなんだから」
という評価になっておりますので、ネイチャーフォトといった正統なマクロレンズとしての使い方が正しいでしょう。
よって、私のように「マクロも出来るポートレートレンズ」という不純な動機で探す人(笑)にとっては、たった2種類しかないAF化された52Eレンズは、現行の72系よりも魅惑的な存在なのです。
ちなみに、タムロンの90mmマクロをコレクションするなら、接写目的に硬派なMFの72B、ポートレート用には52Eか152E、そして伝説になっている52Bで完成らしいです。
私はヘタレなので52BBと52Eしか持ってませんが(笑)
ちなみに72Bはアダプトールレンズですが、アダプトールは特有の注意点があります。
これは52BBをご紹介する時にお話します。
なお、下の参考情報はタムロンのサイトへのリンクですが、タムロンはアダプトール世代の大変古いレンズから最新のレンズまで詳細情報を公開しています。
これは非常に稀な事です。現行レンズしか詳細情報はなく、古いレンズは古い書籍を探し回るしかないというのが普通なのです。
新しいもの万歳というこのご時世に、古いレンズからケアしようという姿勢は応援したくなります。
タムロンには熱烈な支持者が居られますが、古いレンズに対する姿勢からも、支持される理由が解る気がするのです。
参考情報(いずれもタムロンのサイトです):
90mmマクロ伝説
52EMのページ