
Q。
PENTAXがリリースしたミラーレス一眼だ。
左の写真の左に写っている缶は350ml入りだ。
右端に写っているのはM42の50mmレンズだ。
決して冗談ではない。遠近法を使ったゴマカシでもない。
カメラが、レンズが、小さいのだ。
私はこの夏になるまで、このQという存在を無視していた。
正確に言えば、ネットで「表向き」流れている情報に騙されていたのだ。
1/2.3型CMOSセンサーは小さすぎてダメだ。
コンデジどころかケータイにも負ける画質。
CMOSが小さすぎて、マウントアダプターがあってもレンズの選択肢が無い。
よく耳にした意見はこうだった。
しかし、これらは実はまやかしだと断言できる。
なぜそう言うのかを、これから書いていこうと思う。
まず、この写真を見て欲しい。

当然みんカラに掲載する為に縮小しているが、Qで撮ったものである。
カメラ側の設定はISO125の1/6400で、モノクロ。
レンズ側は35mm換算約36mmのレンズでF5.6だ。
特記しておく事は、これは50年近く前のレンズであるという事だ。
Qにとっては本領を発揮していない状況だが、それでもこれだけ写るのである。
画質云々いう人は、多分自分の求める方向性と違うと言いたいのであろう。
さて、皆様はZUNOW、という名前を聞いたことがあるだろうか。
日本のメーカーであり、M42における富岡光学のような存在で、その名は知る人ぞ知る、である。
彼らはバルナックライカ向けに50mmF1.1という現代でもお目にかからないような明るいレンズを1950年には既に販売していた。
ちなみにこのレンズは写りも大変良く、久しく幻のレンズと言われており、今カメラ屋の店頭に出てくれば30万円程度の値段がついても瞬時にコレクターが奪い去っていくと言われている。
彼らが活躍したもう1つの場が、8ミリシネカメラ、という分野である。
シネカメラとは今で言えば動画撮影用カメラなのであるが、当時はフィルムを長い紐のようにつなげ、1秒に24枚といったペースで撮影し続ける事で、パラパラマンガの要領で動きを見せていたのである。
1秒で24枚も必要とする為、フィルムの大きさはもろにコストに跳ね返る。
従って、普通の人が使う8ミリ規格では1コマあたりの面積は大変狭かった。
しかも、動力はゼンマイ。
狭いフィルムに、僅かな時間で、不均等な動力源に左右されず、どれだけ緻密に現実を写しこめるか。
それが8ミリシネカメラ用のレンズに課せられた命題だった。
この分野でも、ZUNOWは頭角を現している。
今のAFレンズから見たらミニチュアかと思うような小さな筐体にF1.1という明るさと、きちんとヘリコイドでピント合わせが出来る一眼レフのMFレンズと同じ仕組みを持ち、芸術的な写りを備えたレンズを発売していたのである。
焦点距離は6.5mm、13mm、38mmの3つがあった。
ちなみに廉価版でF1.9のシリーズもあった。
この8ミリのフィルム1コマの寸法が、Qの1/2.3型CMOSとそっくりなのである。
Qがこれを意図していたかどうかは知らない。
しかし、このドンピシャぶりは、ちょっと疑いたくなるのである。
さて、最初の批判に戻ろう。
Qは、一眼レフの35mm判に換算する為には5.5倍という係数を要する。
これは50mmレンズが275mmになってしまうという事である。
一眼レフのレンズで50mmは普通である。
広角といっても18mm程度であり、これをQにつけても99mmになってしまう。
そう考えれば「一眼レフのレンズを使って広角レンズを求めるなら」選択肢が無い、というのは正論である。
しかし、8ミリシネレンズなら6.5mmというタマがある。
6.5mmのレンズなら約36mmであり、準広角域である。
この、ZUNOW6.5mmF1.1で撮ったのが先の雲の写真、と言うわけである。
8ミリシネレンズは、規格としてはDマウントと呼ばれる。
そして、Dマウントを事実上の実用射程範囲に納めているのは、Qか、Q10だけである。
それ以外はQ7でさえ、CMOSが「大きすぎて」Dマウントの美味しさが生かしきれない。
つまり、Dマウントは既に新品が手に入らないQ/Q10の独壇場だったのである。
一方、8ミリシネレンズは絶滅危惧種である。
昔は工場フル生産で作ったそうだが、それから半世紀が過ぎている。
ライカのように特別に大切に残されたシステムではないから、生き残っているほうが珍しい。
この辺に、Qがなぜ批判ばかり目立つのか、Dマウントの情報がほとんど書かれないのかと言う裏の意図が見えるような気がしないでもない。
正直、私も探しているレンズがあり、競合者は少ないほど好ましい。
だが、こんなに良い物が誤った批判に埋もれるのは、なんというか、良心が痛むのである。
オールドレンズはミラーレスの台頭で全般的に高騰しているが、Qの独壇場だったDマウントレンズは数千円から手に入るし、M42程ではないが色々なメーカーが作っている。
そして、Q-Dマウントアダプターはせいぜい2000円もあれば買える。
Dマウントレンズの特徴は、一眼レフのメーカーとは異なるメーカーも名を連ねているという事。
そして、本当に精密で小さな小さな工芸品であるという事。
アメリカ製のレンズはピカピカのクロームコートがされていたり、ZUNOWなどの日本製やスイス製は細かい所までギミックや彫りこみがあったりと、お国柄が良く出ているのである。
写りも非常にクセ玉から素直なものまで様々である。
ニコンやキャノンのレンズはやはりニコンらしさ、キャノンらしさがある。
ZUNOWがなぜライカの世界でもてはやされているのか8ミリシネレンズでも良く解る。
スイスのYVAR13mmはポートレートにうってつけである。
あまり書いてしまうと写した後の楽しみが減るだろうからこれで止めておく。
Dマウントで主に供給されているレンズをQにつけた場合、6.5mmは約36mm相当、13mmは約72mm相当、38mmは約210mm相当の望遠レンズとなる。
つまり、Dマウントレンズだけで可愛らしいがきちんと要点を抑えたシステムが作れるのである。
さらに、QにM42レンズをつけるマウントアダプターについて触れておく。
先程も言ったとおり、Qは5.5倍の係数がかかるので、M42は広角運用するのには向かない。
しかし、コンパクトで明るい望遠環境は容易に作れる。
例えば、M42のPENTAX55mmF1.8をつければ、302.5mmF1.8になる。
300mmクラスでF1.8等というバケモノを一眼レフで求めたら100万近い値段がするだろうが、55mmF1.8は数千円である。写りは世間でも太鼓判が押されている通りだ。
2000円程度の捨て値になって久しい200mmF4をつければ1100mmF4に化ける。
一眼レフで1100mmなんて所望すればレフレックスでも重くて難儀するレンズがやってくるが、Qなら両手のひらの中に収まる。
ちなみに下の写真は、夕方に、PENTAXの150mmF4というM42レンズを使い、「手持ちで」撮った写真である。
換算825mmのレンズを夕方の暗い中手持ちで撮って、これだけ鮮明に写るのである。
ここでPENTAXがQ用に売っているレンズも触れておく。
1つ目は、家族写真など、汎用性のあるレンズとして何が便利か、という事である。
もちろんDマウントの6.5mm辺りを付けっぱなしでも面白いが、Q用レンズという事なら02のスタンダードズームである。
一眼で言えばキットレンズとしてスタンダードな18-55mmと同じであり、レンズとしての面白みはないが気軽で利便性はピカイチ。
とりあえず家族の手前マニアックなレンズじゃないものも持っておきたいという場合には良いだろう。
中古で9000円以下で見つけたら押さえておけばよいのではないかと思う。
そして、本当のネタは、ひっそり品薄になっているQの魚眼レンズである。
160度対角魚眼は、特にぐぐっと被写体に寄って撮ると、その誇張された遠近感が楽しいのだが、魚眼特有のグニグニ曲がる描写が、一般的ではない。
一眼レフの魚眼レンズは何万もする高価なシロモノであり、面白さの為だけに買うのもなあと手が出ないものだが、Q用の魚眼レンズはAmazonとかで買えば新品で8000円くらいしかしない。
私も持っているが、たまにこれだけ持って出かけるほど面白い。
街角スナップでも野原の散歩でも、モノクロでも銀残しでも雅でも面白い。
下の街角のモノクロ写真は、この対角魚眼で撮ったものである。

この魚眼を押さえれば、Qでも17.6mmという超広角からシステムが構築できるのである。
そしてQ本体の機能として外せないのは、マウントアダプターをつけたレンズでも手振れ補正が効き、この補正能力が馬鹿に出来ないという事である。
いくら超望遠を構築できても三脚必須ではQの魅力半減だ。
だからこの補正能力は必須であるし、充分役立つシロモノなのである。
補正能力を補佐する強力な理由として、ISO6400まで実用範囲である事も上げられる。
ISO6400で夜景を撮っても普通に満足出来るレベルであるがゆえに、そもそもブレるほどシャッタースピードが落ちないのである。
また、Qは映画風の色遣いで撮れる「銀残し」やモノクロを始め、普通のPENTAX一眼が備えているエフェクト類をちゃんと揃えている。勿論動画も撮れる。
8ミリシネレンズで映画風の色遣いで動画を撮るなんてステキではなかろうか。
Q10は、まだ発売終了から時間が経っていないし、カラーリングモデルを作る為に樹脂ボディだったが、Qはマグネシウム合金製で、12000円も出せば美品クラスの中古が買える。
予備バッテリーは互換品なら1000円も出せば買える。
そう。
QはDマウントの援護射撃を受ければ、低予算で、場所も取らず、至極まともなシステムにも、濃密な趣味性のあるレンズシステムでも、あなた好みに選び放題なのである。
特にコストバランスと保管場所という意味では、マウントアダプター天国のNEXでも及ばない。
オークションや中古カメラ街をこつこつ地味に彷徨い、少しずつシステムを成長させていく。
システムはドライボックス1つに全部収まるから、机の引き出しにでも入れておけばいいのだ。
あなたのココロの引き出しにも、Qを仕舞ってみては如何だろうか。
2014年4月20日
レンズシステム例を載せました。よろしければ。