こんばんは、銀匙です。
今回はちょっと知識寄りのお話です。
フィルム時代と異なり、デジタル一眼の世界では、受光部の「コストと制御技術上の問題」により、受光部の大きさがまちまちになりました。
いわゆる35mmフィルムとほぼ同じなのが「35mmフルサイズ」と呼ばれる物であり、フィルムの1コマの半分を使う「ハーフ版」と同じなのがAPS-C、もう少し小さいのがマイクロフォーサーズ、更に小さいのが1型、2/3型などと続いていきます。
逆に35mmフルサイズより大きい、例えばPENTAXの645Dのような中版フィルムクラスの物もありますが、今回は35mmフルサイズを最大として扱います。
これに受光素子タイプを組み合わせて、例えば「35mmフルサイズCMOS」などと言います。
受光部が35mmフルサイズより小さくなっていくと何が起こるかと言うと、写せる範囲が狭まります。
写真への影響として、同じ場所から、同じ50mmレンズを使ったとして、35mmフルサイズ受光部なら幅4m高さ3mの範囲を写せるのが、APS-Cだと幅3m高さ2mしか写せないといった具合です。
同じレンズを使う限り、受光部が違っても描写の癖は同じですが、写せる範囲が異なってしまう。
それじゃユーザーが混乱するという事で生まれたのが
「35mm換算OOmm」
という言い方と、受光素子別に掛け合わせる係数です。
例えばAPS-Cでは、係数が1.5になります。
これが何を言ってるかと言うと、
換算されたmm数が、フルサイズで撮る時と同じ撮影範囲と考えてください
という意味なんですね。
例えばレンズが50mmでAPS-C受光部の場合、係数1.5をかけた75mmが「35mm換算」の値です。
つまりAPS-C受光部で50mmレンズを使うと、フルサイズ35mm受光部に75mmレンズをつけたときと同じ「範囲」が写せますよ、という意味です。
ちなみにフォーサーズだと係数は2、PENTAX-Qだと係数は5.5です。
スマホや安価なコンパクトカメラに使われているレンズはQと同じか、それ以上に係数が大きいです。
(注:SONYのRX1などは35mmフルサイズ受光部を持ってます。あぁややこしい)
で。
係数との関係をもう少し書いてみます。
例えばフルサイズ35mm受光部に55mmレンズをつけたのと同じ範囲を撮りたいという場合。
APS-Cならば37mmのレンズが必要になります。
フォーサーズなら28mmのレンズが必要になります。
PENTAX-Qだと10mmのレンズが必要になります。
要するに、レンズが写せる範囲の一部を受光部が切り取るけれど、切り取れる範囲が狭い(=係数が大きい)ならば、より広角のレンズを持ってこないといけないというわけですね。
では、レンズのmm数が与える影響とは何でしょう。
20mmと50mmのレンズがあったとします。
最大の違いは、写せる範囲です。
当然20mmの方が50mmより広い範囲を写せます。
次の違いは、同じ絞り(F値)でピントが合う範囲が異なります。
20mmと50mmで同じF5.6にして、被写体から同じ距離で撮影した場合、20mmの方がピントが合う範囲が広いです。
最後の違いは遠近の誇張。立体感とも言えます。
人間が肉眼で見る立体感と最も近いレンズは40~60mmと言われています。
これより望遠側、たとえば150mmとか500mmとかになると圧縮された感じになり、これより広角側になると拡張、つまり間延びして見えます。
他にもありますが、今回はこの3つについて話します。
フィルム時代、つまりフルサイズ35mmでは、85mmF1.4のレンズはポートレートレンズと呼ばれていました。
それは85mm程度の軽い圧縮感をかけ、かつ、85mmでF1.4という「ほとんど紙1枚の厚さ分しかピントが合わない」レンズで人物(特に女性)を写すと、
・圧縮感で程よく整形される
・ピントをまつげの根元に当てると、目だけピントが合い、他の部分が適度にぼけるので毛穴のくすみとかがぼかされ、肌が白く綺麗に見える。
という効果が得られるので、美人製造レンズだったわけなんです。
しかし。
現在のカメラメーカーや販売店は、レンズを「写せる範囲」しか着目しない、「35mm換算」で語ります。
例えば係数が2のマイクロフォーサーズのカメラでは、上で言った「フィルム時代の85mm」と同じ範囲を写そうとすれば、実際は43mmのレンズが必要です。
でも43mmのレンズでは2番目の違いに書いた通り、85mmレンズのようなカミソリのように薄いピント範囲ではありません。もっとピントが合ってしまいます。
すると何が起こるかと言うと、女性の毛穴までピントが合ってしまい、綺麗にボカしきれない。さらには43mmという広角レンズですから間延びしてしまう訳です。
文字でばかり書いてると飽きてくるでしょうから例を示します。
1枚目の写真はα7(フルサイズ35mm受光部を持つカメラ)に50mmレンズをつけ、F4で撮ってます。
2枚目の写真は、NEX-6(APS-C受光部を持つカメラ)に35mmレンズをつけ、F4で撮ってます。
レンズが異なるのでAWBが黄色に転んでいる、手持ちで撮ったので数センチは被写体との距離に誤差がある、被写体のレイアウトが異なるなどのズボラ仕様ではありますが、注目して頂きたいのは左奥に見えるキーボードです。
フルサイズに50mmの方が良くボケてると思います。
そして手前の水の入ったグラスが「良く浮き出て見える」のは50mmの方ですよね?
2枚とも、絞りは同じF4で撮影しています。
NEX-6の方には「35mm換算50mm」のレンズを使ってますから、写っている範囲は両方ともほぼ同じです。
係数がたった1.5でもこういう違いがある。
NEX-6(APS-C)の写真はあくまでも「35mmレンズが写した範囲を50mmレンズと同じ範囲だけ切り取ったもの」に過ぎないという事で、同じ描写にはならないという事をお解り頂けたかと思います。
ちなみに使ったレンズはヤシカのヤシノン50mmF1.9とカールツァイスのフレクトゴン35mmF2.8ですから、どちらも描写は悪くないと思います。
ただ、やっぱり35mmレンズと50mmレンズでは描写は違うのです。
「35mm換算」という表記自体を悪いとは言いません。
実際問題、APS-Cの方が技術的に成熟しており、低コストで高速連写機能をつけられる等の利点もあります。
ただ、「フルサイズ50mmと35mm換算50mmは一緒です」と宣伝するのは、いささか暴論だと私は思っています。
この差異は当然、係数が大きいほど顕著になります。
つまり、スマホやコンパクトカメラに比べ、ボケや浮き出て見えるといった違いを求める為にミラーレスや一眼を買うのなら、係数が小さいほうの受光部を持つカメラを買い、F値の少ないレンズを付けると良く解ります。
例えばα7に50mmF1.4クラスのオールドレンズなんかをつけるとすぐ解りますし、APS-C受光部を持つNEXでも違いは解ると思います。
だからM42やオールドレンズで遊ぶにはα7やNEXが楽しい。
別に最新のα6000とか買わなくても中古のNEX-3でも充分解ります。
今尚NEX-3の中古価格が8千円前後を維持してる理由です。
むしろ、この「35mm換算」と「係数」の意味を適当に誤魔化して説明するから不幸が起きてると思います。
例えばPENTAX-QやQ7に開放F値がF8とかのレンズをつけている限り、スマホやコンパクトカメラとボケや浮き出て見える感といった分野で違いを見出すのは難しいと思うんです。
それはユーザーのせいじゃなく、PENTAX-Qがヘボいわけでもなく、係数がスマホとかと似てるからなんです。
Qがコンデジと似たような写りをする、というコメントはそういう事なんです。
ですから、とりあえず立体感とかオールドレンズで遊んでみたいよ~という場合は、やっぱりNEXの3、5、C3、3N、5N辺りをお勧めします。それ以外は遊びで買うにはちょっと高いですからね。
あと、オールドレンズ遊びに関する事は、
こんな過去記事を紹介して終わりとします。
ちなみに、一部のプロの方が大判や中判を使われるのは、上記と逆の効果を得るためです。
中判や大判の世界では85mmレンズ位が標準と言われます。
それくらい広い範囲を写せるんですね。
だから「85mmレンズの立体感を得つつ50mm並の範囲を写したい」という願いを叶える事が出来ます。
引き換えに機材は重く、高価になります。
PENTAXの645Z本体と28-45mmレンズのセットで120万とかですからね。
文字通り桁違いの世界です。
ではでは。