こんばんは、銀匙です。
タイトルに「なんでやねん」とツッコんでくれた貴方が大好きです。
さて。
レンジファインダー道という奥の細道に足を突っ込んでいなくても、カメラを趣味とした人なら
ズミクロン
という名前は1度は聞いた事があると思います。
それも良い方の意味で。
一眼方向でもうちょっと詳しくなると
和製ズミクロン
という単語を聞いた事があるかもしれません。
そう。
日本人にとってズミクロンは、大変良いレンズとして知られています。
このレンズについて略して紹介すれば、ライツ社はこのレンズを設計する時、先代であるズミタール(ズミター)とかが抱えていた欠点であるコマ収差を何とかしたいと考えていました。
ライツ社はライカ(ライツ社のカメラだから略してライカ)、つまりカメラ本体はすごく良い物を作ってたんですが、解像度が高く、収差の少ないレンズがなかなか作れなかったんです。
「えー、バルナックライカ時代だってエルマーがあったでしょー」
と言われますが、エルマーって実は変形テッサーです。
なぜ変形かというと、テッサーの特許を回避する為です。
そう。
先にツァイスがテッサーを作り、それを真似したわけです。
別にそれで良い物が出来たんだから良いんですが、ライツ社はズミクロンの後もレンズ開発では苦しんでるようです。
でも頑張ってます。
実際、ズミクロンのプロトタイプモデルでは、当時最先端だったトリウムガラスまで使ってます。
トリウムは放射線を出す物質ですが、レンズとしての性能を極端に上げるので、国内外を問わず一時期よく使われました。
だからズミクロンは全部アトムレンズだとか恥ずかしい事を言ってる人がいますが、あくまでズミクロンのプロトタイプモデルとごく一部のロットに限られます。
少し話が逸れますが、ガラスにトリウムを入れた事によるメリットが性能の向上とすれば、デメリットは使用環境によって起きる極端な黄変です。
国産レンズでも例えばペンタックスのスクリューレンズであるタクマー50mmF1.4の一部や35mmF2で黄変が見られますが、あれはトリウムガラスの放射線による影響です。
ここで良い話を1つしておくと、トリウムによる黄変だけが問題になっていて安く売られてるレンズがあったら即買いましょう。
なぜならレンズを太陽または紫外線照射器に数日当てておけば黄変は取れてしまうからです。
先ほどなぜ使用環境とわざわざ書いたかといえば、冷暗所に仕舞いっ放しだから紫外線を浴びないので黄変してしまうんです。
高いレンズだからと大切にし過ぎたから状態が悪くなるというのも皮肉な話です。
ですから製造からの年数と黄変には全く関係性がありません。
黄変してようと紫外線を当てれば元に戻るので、黄変してなくてもトリウムガラスではない理由にはなりません。
実際、私は黄変したレンズをレジンキット用の大変安価な紫外線照射器で何本か直しました。
当然ですがバルサムやコーティングの劣化などで黄変してるケースなど、放射線以外の理由で黄変してるものは救えません。
当該レンズがトリウムを使ってるかなど、知識は正しく持ちましょう。
知識といえばここで更に話をずらしますが、たまにトリウムの放射線をアトムレンズ怖いと言ってやたら心配する人がいますよね。
はっきり言いますが、あれくらいで目や体に影響は出ません。
なぜなら当時のカメラ本体には、人間の体よりはるかに放射線に敏感なフィルムが入れっぱなしになることが多々あるわけですが、あれだけ至近距離に長期に置かれても感光しないように設計されてるんです。
トリウムガラスの放射線量を気にするならレントゲンやCTスキャンの方がはるかに強烈なんで毎年の健康診断を拒否する方が意味があります。
要は地球で普通に生きてればトリウムガラス以上の放射線に囲まれてる訳です。
過度に怖がれば怖がる事によって自分が受けるストレスが高まりますし、悪戯に騒げば周囲から嫌われるわけで、そういう方が放射線により直接受ける影響よりよほど大きなデメリットとなるんじゃないですかね。
いい加減、話を元に戻しますね。
さて、そういえばズミクロンの空気レンズって一体なんなのといいますと、要はレンズの前から見て1枚目と2枚目の貼り合わせを止めて隙間を開けたんです。
構造でいうと5群7枚の設計を6群7枚にしたってことです。
(ちなみにズミタールは3群6枚ですから別物です)
どのメーカーもレンズ開発では普通に試行錯誤しますから、貼り合わせをやめる事なんて当たり前にやってる事です。
でも、それで凄く性能が上がったので、ライツ社としても相当嬉しかったんでしょう。
だから皆にセンセーショナルに伝える為に空気レンズと称したわけです。
ここからも言えることですが、ライツ社は技術力もさることながら、今なおブランディングとマーケティングの戦略に大変長けてます。
日本の自動車メーカーでいえばトヨタ的な。
ツァイスは日産やマツダですかね。技術は凄いけど表現力が・・ねぇ・・
一応ライツ社の名誉の為に記しておけば、実際にズミクロンの解像力は高かったのです。
日本で計測した時、測定上限だった1mm辺り280本の線を描き切ってしまい、本当の実力は解らないけどすげーよという意味で280+と示されました。
ちなみに1mm辺り100本描くのをデジカメの画素的に言えば3400万画素クラスとなります。
NEX-6の受光部は1600万画素です。
現代風に言えば「9520万画素以上の受光部でないと対応しきれないレンズ性能」と言われたようなものですから、そりゃまぁ凄い事なんですよ。
だからズミクロンという名前は高性能の代名詞となりました。
そこで国産レンズにおいて必ずしも解像度の高さは関係ないのですが、描写が良かったレンズは「和製ズミクロン」と呼ばれたわけです。
日本製の良いレンズ、というわけですね。
例えばリコーのXRリケノン50mmF2なんかはそう呼ばれてますが、あれは当時としてもお手頃な1本9800円で、しかもリコーのXR500というカメラを買えば同梱されるレンズだったので、そういう扱いのレンズにしてはボケと解像度のバランスが良くまとまってるレンズだよねとなったわけです。
実際私も安価に手に入れた割には欠点らしい欠点の無いレンズだったなという記憶です。
ちなみにXRリケノン50mmF2が解像度280+だなんて聞いた事ないですから、和製ズミクロンはズミクロン並みの解像度を持っているわけではありません。
XRリケノン50mmF2を使ったからといってズミクロンを理解したような事を言ってはいけません。
この辺がライカ信者の方々が和製ズミクロンという言葉を嫌う理由なんでしょうね。
さてさて。
ズミクロンはプロトタイプモデルを除けば1953年前後から売り始めたようです。
そして最初はライカLマウント、つまりバルナックライカ用だったわけです。
でも1954年にボディとしてM3を売り始めるにあたってライカMマウントレンズの1本として選ばれ、Mマウントの沈胴ズミクロンが生まれました。
この後LマウントとMマウントは短期間併売されたようです。
だからこそLマウントでも銀の固定鏡筒モデルがあります。
(1160本しか作られなかったせいでめっちゃ高価ですけど)
その銀の固定鏡筒モデルの中から”近接ズミクロン”たるDRズミクロンが生まれます。
さらに黒鏡筒になり、bitコードが付加され、今に至るまで営々脈々と続いています。
さて、意外に知られてませんが、ズミクロンの構造は世代によってどんどん変わってます。
沈胴世代の6群7枚と固定鏡筒後期の6群7枚では2枚目の前側の形が違います。
最短撮影距離が0.7メートルになった黒鏡筒時代になると5群6枚になり、さらに1979年以降の世代では4群6枚になります。
人によって色々分け方はありますが、私はDRズミクロンまでが空気レンズ世代であり、そのあとのズミクロンは正確に言えば名前だけはズミクロンでも別物だと思っています。
なぜなら。
私は日本では不人気な、国際的には評価の高いRズミクロンも保有してた事がありますが、気に入りませんでした。
理由はつまらなかったのです。ズミクロンらしさがどこにもない。
シアンに転びやすい、ただの解像重視系レンズだったのです。
そりゃ人気も出る筈がありません。
あれなら同じ解像重視でもMFニッコールの方がよほど面白いです。
奴は4群6枚でしたから、系統的にはMの黒鏡筒後期になりますか。
時代的にもだいたい合ってます。
店頭だけですが、最新のズミクロンも触れました。
けど、正直上に書いたまんまです。
MもRも。
黒鏡筒時代になって何が変わったかと言えば、設計にコンピュータが導入されたことです。
それまで人の感性で作られてきたライカレンズは、数字上良かろうが悪かろうが描写が良ければ良しとされたのに、コンピュータは数字でしか物を見ませんから味わいとかそういう部分をばっさり捨ててしまったんじゃないか。
そもそも空気レンズと呼ばれた6群7枚とは群も枚数も違う訳ですから別物に決まってるんです。
タクマー50mmF1.4だって1stの6群8枚時代と2nd以降の6群7枚時代では写りが違います。
コンピュータが測りうる範囲は人間が感知しうる範囲よりよほど狭いのです。
私が上の方でライツ社がレンズ開発に苦労してるみたい、と現在進行形で言ったのはこの為です。
世間的にも黒鏡筒以降のズミクロンはMもRもガチガチのハイコントラスト=低諧調といわれており、沈胴や銀鏡筒ズミクロンの高い解像度でありながら豊かな諧調性との絶妙なバランスという評価とは異なっています。
この優劣はあくまで私個人の主観です。
でもハイコントラストが好きなら他にも良いレンズ一杯あるんで、なにもズミクロンでなくても良いじゃないとライカ信者から刺されそうなことを呟いてみたり。
じゃあL沈胴ズミクロンはどうだったよ、という話。
ちゃんとマルミのUVフィルタもつけて、NEX-6につけてみましたよ。
最初に断っておきますが、私が買った沈胴ズミクロンは良品ではありません。
レンズにはLEDペンライトで見ても曇りやカビはありませんでした。
青いコーティングも残っていますが揺らぎがあり、これはおそらくカビ跡だろうとの事。
鏡筒は引き出す部分にスレはありますが、しっとり動きますしガタもありません。
ヘリコイドもトルクむらもなく全域でスムーズです。
絞りもクリック感もあり羽の乱れもありません。
でも委託品だった事もあり、お値段は4万ちょいでした。
実用品、とお考えください。
製造年が1953年という事を考えれば私には十分でした。
ちなみに私が好きな1本であるJupiter3が1952年製ですから1年新しい。
ここまでくるとどうでもいい差ですかね。
ちなみにJupiter3はツァイスガラスを追い求めた結果6万近く払いました。
ロシア製だろうがドイツ製だろうがマニアックにこだわればそれなりの対価を求められるということです。
まぁ60年以上前の品を博物館で対面するのではなく個人が手に取れるという意味で、カメラは偉大な共有財産だなと思うわけですが。
話が逸れました。
さてさて、沈胴ライカレンズにおける特徴とも言えますし、ミラーレスで使いづらい理由でもある、これ。
そう、インフニティロックです。
Eマウント向けのライカL、あるいはライカMレンズのマウントアダプターは、その大概がオーバーインフ、つまりフランジバックの本来の差分に対してごく僅か短く作られています。
それは何十年もの時を経ればピント精度の個体差も出ますし、そもそも製造された年代を考えれば工業製品の製造誤差もあるわけです。
で、無限が出ないくらいなら10mとか短い地点で無限に合ってしまう方が被害が少ないだろうと、こういうわけです。
しかし。
沈胴ライカレンズはインフィニティロックの為、
無限からちょっと戻す
という操作が異常なほどやりにくい。
したがってミラーレスでの運用はインフィニティロックの無くなった固定鏡筒時代、例えばDRズミクロンなんかの方がずっとやりやすいわけです。
銀塩フィルムカメラであってもインフィニティロックがあると無限ちょっと手前の領域を設定しづらい事に変わりはなく、ゆえに固定鏡筒ズミクロン、特にDRズミクロンは日本のズミクロンの中でもっとも人気があります。
世界的にはDRは大変物が多く存在した為に値段がこなれていたので、輸入して売りさばくと旨みの大きいぼろ儲けレンズだったというのは業界では有名な話です。
ゆえに輸入しまくったので、世界のライカレンズの半分は日本にあるなんて揶揄される訳です。
ただし今では古いズミクロン、特にDRズミクロンはクモリを抱えている個体が多いです。
クモリ、欠け、後玉の傷やカビ、鏡筒の歪み。
これらはどうやっても直せず、写りに影響を及ぼすのでどんなに安くても買ってはいけません。
DRといっても例えば今のEF50mmF1.8といった標準レンズと撮影可能距離の範囲は変わりませんし、1m未満のレンジではわざわざメガネと呼ばれるアタッチメントをつけ、ヘリコイド上の操作を経ないと回せません。
ゆえにインフィニティロックと同じく、DRズミクロンでは1mから90cmの間にピント合わせをすることが事実上できません。
とはいえ。
沈胴ズミクロンでは最短撮影距離は1mです。
DRの方が出来ないよりいいじゃねーかと言われればその通りです。
ただし。
Eマウントユーザーには別の武器があります。
ヘリコイド付きマウントアダプターです。
私はJupiter3やORION15、ゾナー38mmでも使っていますが、マウントアダプター自体にローレットがついていて、これを回すとマウントアダプターが伸び縮みするわけですね。
DRズミクロンはメガネをつける事で更にヘリコイドが回せる=鏡筒が伸びて近接域も撮影出来るわけですが、それと同じ事ができるわけです。
私が使ってるヘリコイド付きマウントアダプターはインフィニティロックなんてめんどくさい物はありません。
本来、ヘリコイド付きマウントアダプターはレンズ側のヘリコイドを回しても寄り切れないときにこれを回すことでさらに寄る事を目的としていますが、レンズ側のヘリコイドもインフィニティにしておけば、先にマウントアダプターのヘリコイドを回してピントを合わせても問題はないわけです。
つまり、通常はレンズ側はインフィニティロックをしたままマウントアダプターのヘリコイドを回し、より寄りたい時にレンズ側ヘリコイドを使えばインフィニティロック問題を回避出来るんです。
さらに。
沈胴ズミクロン50mmF2をNEX6で使う場合、レンズ側をインフィニティで固定し、マウントアダプターのヘリコイドを回すだけで無限から65cmまで寄れます。
そこでさらにレンズ側のヘリコイドを回すと43cmまで寄れます。
DRズミと同じ撮影範囲でじゃまくさいメガネもいらな・・えっふんえっふん。
なお、沈胴ズミクロンをNEX-6で使う場合、レンズを沈めてもNEX-6の内部ピンなどには干渉しませんでした。
ですからレンズを使わない時には沈めて構わないのです。
・・・使いやすいですよ、NEX-6に沈胴ズミクロン(ぼそ)
では、描写の方をさらっと。
まず無限で、さくっと撮ってみます。
ところで画面中央下に1か所、小さな黄色い枠がありますよね。
上の写真は幅800に縮小してますが、NEX-6の元写真(3568x2368)
からここを切り取ってみますと、
コスモ石油の看板がちゃんと読めます。
60年以上前のレンズとしては異常な解像度といえます。
ズミクロンの評判通りでしょう。
次に近接域ですが、
よく、ズミクロンはボケがよろしくないという話がありますが、沈胴ズミクロンのボケはF2.8程度でもこのくらいです。
硬さが残るというか、嫌なクセではないと思います。
さらに1m未満の領域ですが、
布、擦れた金属、磨かれた金属、木に描かれた文字など、それぞれの質感が見えていると思います。
たった800x531の写真ですよ?
末筆になりますが、DRズミクロンは”近接”ズミクロン、つまりマクロ方面を意識した為か、沈胴ズミクロンよりボケが硬いです。
特に2枚目表面が変わった固定鏡筒後期型とDRズミクロン後期はそうです。
(黒鏡筒以降はもう・・ね。Rズミも酷かったです)
固定鏡筒前期が大変高額である理由は、製造本数だけではなさそうかなと。
ただ、それを除いて考えると、Eマウントユーザーならばヘリコイド付きマウントアダプター+沈胴ズミクロンという運用はアリじゃないか。
中古市場での買取値を見ると、同じ程度でも沈胴ズミクロンの方がメガネ付きDRズミクロンより高い値段がついてます。
私の今の見解を読んでこられた方には納得して頂けるかなと思います。
なお、沈胴ズミクロンは当然ですがモノクロフィルム前提の設計です。
カラー表現は想定外ですので、カラーも含めた表現となると黒鏡筒ズミやRズミの方が優位になっていくでしょう。
別に沈胴ズミクロンでもNEX-6の受光部はフルカラーCMOSですからカラー写真だってこの程度は撮れます。
けれども、より沈胴ズミクロンの凄さを楽しみたければモノクロームモードで撮るべきです。
NEX-6にあるリッチトーンモノクロとかも良いと思います。
全部出したら楽しみが減るでしょうから出しませんけど。
α6300とかではどうなんだろうと思いますが、あんなに高価になってしまってはおいそれと手が出せません。
そもそもMFの沈胴ズミクロンで使う分には4Dフォーカスとか猫に小判・・
ちなみに、沈胴ズミクロンの重さは226gです。
沈胴ズミクロン+マウントアダプター+NEX-6(バッテリなど込み)で613g。
RX100がバッテリやらすべて込みで244g、
一般的なスマホが160g
オリオン15(28mmF6)をつけたα7が602gです。
お解りいただけるでしょうか。
そう。
重いんです。とっても。
ここは諦めてください。
でもDRズミクロンは300g+メガネ55gなんですよね。
ギミック満載ですからね・・
あんまり重いシステムは持ち出さなくなりますよとポソッと呟く。
別にDRズミクロンが嫌いな訳じゃないんですが、どうもミラーレスの時代では過剰評価されてる気がするんですよね・・・
世の中、全てが良い物なんてないのは重々承知してますけども・・