こんにちは、銀匙です。
2020年が大みそかを迎えました。
国が終わりを迎えなくて良かった、というのが正直な感想ですが、来年も油断できない状況が続くでしょう。
そんな最中において、私がこの10年以上続けてきた、カメラによる風景の撮影という趣味は、正直全く行う事が出来ませんでした。
久しぶりに取り出したカメラは軒並みバッテリーが切れており、充電器が現在フル活動しています。
リチウム系バッテリは蓄電量0%になると再起不能になりますから、長期保管する場合は出来れば40~60%前後の蓄電量を保たせてあげると良いんですけどね。
カメラは出番を失い、車は買い出し専用となって久しい訳ですが、家に居ながらにして楽しめる新しい趣味として選んだのが、天体観察でした。
今年はなんでも当たり年らしく、火星と木星の接近とか、流星群とか、変わったところでははやぶさ2がカプセルを地球に送り届けたとか、まぁそういうのが色々あったのです。
天体観察というと私は天体望遠鏡がないとダメ=場所食って仕方ない=面倒という図式が成り立っていたのですが、ちゃんと条件さえ揃えれば双眼鏡でも良いんだよと知りまして。
双眼鏡なら防湿庫の片隅にでも入れられるねと思い、早速情報収集に入ったわけです。
天体観測用双眼鏡としての条件は、以下の通りでした。
1:倍率で欲張らない事
2:お手頃な価格帯で探すならポロプリズムタイプにする事
3:ズームは買うな
4:集光出来るよう、大口径の対物レンズである事
これを理解頂くため、少し戻って双眼鏡の基礎知識を。
まず、双眼鏡には必ず、~x~という表記があります。
その意味は、
例:7x50と書いてある双眼鏡
→7倍の拡大率で、対物レンズが50口径である
となります。
おいおい、7倍って何の7倍だよとなるのですが、カメラが解る人なら標準レンズ、すなわち50mmレンズの7倍、つまり350mmレンズ相当だと覚えておけば大体あってます。
正確には人の目の標準焦点距離である43mm(ゆえにPENTAXはFA43mmF1.9 Limitedを作ったんですが)の倍数なので301mmなんですが、まぁそういうことです。
そして天体観測用の古来からの定番は、この7x50でした。
ちなみに海上保安庁の船では7x50タイプを使用しているそうです。
その理由ですが、まず対物レンズ口径を倍率で割るとひとみ径という、接眼レンズ側、つまり目に対して直径何ミリの像として映し出すかが計算出来るのですが、人が暗所で瞳孔を開き切った時の最大口径は7mmなのです。
50(対物レンズ)/7(倍)=約7mmなので、暗闇でのひとみ径とちゃんと合うから見やすいよ、という事なんですね。
ただし、ここに落とし穴があります。
年齢と共に、夜になっても瞳孔が開かなくなっていくのです。
おおよそですが、20代までは7mm開きますが、50代では5mmしか開きません。
また、山奥や無人の高原など、十分空が暗い所なら対物レンズが大きい方がより暗い星を見る事が出来るのですが、都市部などでLEDやハロゲン系の強烈な光源があって空が真っ暗にならない場所(これを光害といいます)の場合、空を暗くすることで星の光とコントラストが上がり、見やすくなります。
なのでバカデカイ対物レンズが偉いかというと、場所によっては逆効果になってしまうのです。
ゆえに現在では、ひとみ径5mm、例えば7x35とかが推奨されることも多いのです。
じゃあなんで7倍なのさといえば、それ以上の倍率だと手振れが酷くて固定しきれない、という理由でした。
カメラと異なり、双眼鏡は両手「だけで」支えます。
接眼レンズ側のアイカップはふにゃふにゃのゴム製で小口径なので、目の窪みに嵌ってしまい、顔に押し当てても支えになりません。
更には目と双眼鏡は適切に離さないと見えないのです。
(この距離をアイレリーフと言い、眼鏡越しに見るなら17mm以上必要です)
カメラでいえば夜中に、一眼レフを両手だけで持ち、手振れ補正機能をオフにして撮影するようなものなのです。
それも300mmレンズをつけてです。
それより低い焦点距離のレンズでは視認出来るかどうか分からないくらい小さく暗い点なのですから。
無茶も良い所でしょう?というわけです。
そのあたりの理由で7倍という数字になったと思われます。
これが条件1の「倍率で欲張らない事」につながります。
次に、双眼鏡は入口たる対物レンズと出口たる接眼レンズの間に、プリズムを挟むことで像が上下左右逆転するのを回避しています。
(銀塩カメラのファインダーにもプリズムがありましたよね。なお、デジカメの場合は受光部が上下左右逆転しています)
双眼鏡で用いられているプリズムは、ほぼポロプリズムとダハプリズムの2種類で占められています。
ポロプリズムの特徴は
・昔からある技術で安価に作れる
・精度を出しやすい
・重くてデカくなる
ダハプリズムの特徴は
・比較的新しい技術で改善の余地が多い
・精度を出すのにコストがかかる
・小型軽量にしやすい
とまぁ、真逆の存在なんですね。
参考までに、代表的なポロプリズム式、ダハプリズム式の外見を。
ポロプリズム式:(引用:Kenko Mirage)
ダハプリズム式:(引用:Olympus 10x42 PRO)
で、じゃあどのくらいの金額出せばダハプリズム式で天体観測できるのさ、という事なのですが、メーカーにもよりますが、およそ2万5千円が境界となります。
つまり、
・2万5千円以下の予算で探すならポロプリズム式で探せ
その代わり重くて大きいぞ
・小型軽量を求めるならダハプリズム式で探せ
その代わり2万5千円以上持ってこい
ということですね。
身も蓋もないかもしれませんが、大体そんなもんです。
もちろん上はライカとかスワロフスキーの何十万というブツだってあります。
ただ、ポロプリズム式に2万5千円以上の高い金を出せば、更に良い結果を得られます。
2万5千円以下のダハプリズム式が天体観測には向いてないというだけです。
小さくしか見えない、暗くしか見えない、程度なら良いのですが、プリズムの精度が悪すぎて像が歪み、何が見えてるかすら解らなかったり、少し見てると酔ってしまう、なんてこともあるのが安物のダハ式です。
amazonやホムセンにある、3千円位でルビーコートされてるやつとかね。
ゆえに条件2の「お手頃な価格帯で探すならポロプリズムタイプにする事」ということになります。
なお、ひとみ径計算方法とプリズムの精度は「倍率が固定である事」が前提となっています。
ゆえにズームタイプ、例えば「7~20x30」といった倍率変動型の双眼鏡は、よほど高い物を買わないと精度が出ませんし、ひとみ径もズームタイプの方が同じ倍率でも小さくなります。よって後述する明るさも倍率固定型に比べて暗くなります。
ゆえに低価格で30倍とか50倍といった超高倍率ズーム双眼鏡は、像が小さく暗く何が見えてるかさっぱりわかんない、という事になります。
カメラのレンズでも、特にオールドレンズは単焦点の方がズームレンズより明るくて写りが良かったりするじゃないですか。
双眼鏡はカメラレンズほど進化してないので、オールドレンズの感覚で考えると解り易い感じがします。
これが条件3の「ズームは買うな」という理由です。
さて、星という存在は1等星であっても肉眼では点にすぎません。
木星の縞や土星の環を裸眼で視認出来る人は相当稀だと思います。
星は小さく、暗い存在なのです。
火星大接近といっても、いつもは直径0.4㎜で見えてるのが0.5mmになるとか、そんな世界です。
月と太陽だけが別格の存在なのです。
一方、カメラのレンズで重要な指標である明るさ、つまりF値(正確にはT値)は、ひとみ径の2乗で求められます。
F値とは異なり、数字が大きいほど明るいです。
例えばひとみ径7mmなら明るさ49となります。
この明るさについて夜でも使える目安をメーカーに問い合わせたところ、少なくとも16以上は欲しいという答えでした。
つまりひとみ径は少なくとも4mmは欲しいわけで、よくある10x21とかの双眼鏡では話にならないのです。
(10x21だとひとみ径2.1mm=明るさ4.4しかない)
じゃあなんで10x21なんて製品が世の中にあるかといえば、人が昼間、明るい所で開いている瞳孔はせいぜい2mmなんです。
だから幾ら昼間に、明るい店内で双眼鏡を見比べても違いは解りません。
瞳孔が開いてないのですから。
カメラだと昼でも絞りを開ければISO値やシャッターを下げられることをもって、明るさを実感できるんですけどね。
話を戻すと7x50双眼鏡は明るさ49と大変明るいわけで、天体観測の定番だったのも頷けます。
一方で対物レンズが50を超えると双眼鏡の総重量が長時間の手持ちには向かない重さ、具体的には800gを超える世界になるので、事実上50口径が最大だったのです。
これが条件4の「集光出来るよう、大口径の対物レンズである事」につながります。
とはいえ、50口径以上は手持ちは無理なこと、倍率やひとみ径の考え方によっては、42口径や35口径等でもいいかもしれません。
なお、同じ7x50でも文字通り製品によって1桁2桁違う値段が並んでます。
ダハ式の場合は高いほどプリズム精度が高い良い物となるんですが、それ以外にも高級なボディ素材を使ってるとか、全部のレンズにマルチコートしてあるとか、像の歪みを補正するレンズ機構が入ってるとか、窒素ガスを気密充填してて結露しにくいとか、ものすごく品質管理基準を高くしていて不良品を極力減らしてるとか、色々理由はあります。
20万以上するスワロフスキーの8x42なんてまぁ、そりゃ超高性能ですよ。
徹底的に隅から隅までばっちりピントが合った良い像が見えますよ。
ただまぁ、お手軽に始められるお値段じゃないですよね。
普通にまともな天体望遠鏡の方が安いですし。
ちなみに窒素充填してても接眼レンズに直接息をかければ曇ります。
そういう曇りには曇り止めスプレーかける方が対策になります。
どこまで何を求めるかによって、その人に対する最適解は異なる。
ゆえに沢山の製品が世の中には存在しているのです。
さて、私は手始めに、天体望遠鏡も作っているケンコーが売り出している
Mirage(ミラージュ)という双眼鏡を買ってみました。
定番と呼ばれる7x50を、amazonで5千円位で買いました。
え?そんなもん大丈夫なのかって?
大丈夫でしたよ。
マゼンタのシングルコートでガスなんて充填してませんし、プラスチッキーな外見の割に重さは790gもあり、いかにもポロプリズム式双眼鏡という姿形。
ですが昼間に見てもほとんど色滲みもなく、きれいなもんです。
片方だけ視度補正出来ますから近視な私でも裸眼でオッケー。
で、テストという事で自宅から空を見てみたわけですよ。
テスト結果:首が凝る。
どこを向いても星はあるんですが、街の明かりとか屋根とか避けて見るとなると、どうしたって天頂、つまり上を向くわけです。
790gの代物、最初はしっかり固定出来てますよ。
脇を絞めて持っていれば良いんです。
でも段々首が痛くなってくる。
頭って2kg位あるし、首骨格の構造的に、上を見続けるように出来ていない。
一方で明るさ49は伊達ではなく、肉眼では見えなかった星も見える。
夢中になって10分20分と見てると、どうしようもなく首が凝って両腕もパンパンです。
これはあかん。
ていうか、もっと見ていたい。
なので、明るさに妥協して8x30という双眼鏡を買いました。
これなら重量550gですからね。
さらにこの双眼鏡は観測セットという名前で、双眼鏡、三脚、そして双眼鏡を三脚に固定する為の三脚取付ホルダーがセットになってました。
なので、三脚につけてみたんですよ。
確かに腕は楽です。支えなくていいですからね。
でも三脚の仰角っていうんでしょうか、天頂方向に向かせる角度になるとバランスが崩れてしまい、軽い三脚では非常にこけやすくなるわけです。
ならばと元々持っているマンフロットの三脚を持ってくると、今度は自分が双眼鏡を見る為のスペースがない。
頭だけ外して三脚にくっつけるか、エビ反りの格好のまま三脚の下に体を通して見続けるなんてことになる。
これなら手で持つ方が楽。550gになっただけ持ってられる時間も増えたし。
そういえば天体望遠鏡は接眼部が90度上に向いてますよね。
天体望遠鏡を天頂方向に向けたって自分は楽な姿勢を維持できるように。
・・諦める?
いや、違う。
三脚に固定しようとするから問題なんだ、と考えました。
ここで改めて双眼鏡を見てみます。
双眼鏡と三脚をつなぐ三脚取付ホルダーは、双眼鏡の先頭中心部にある、ネジ穴に取り付けます。

↑の金色の部分ですね。
本来の使い方なら、三脚は双眼鏡の下にあるわけですから、三脚取付ホルダーを下向きに取り付けます。
でも、ご覧の通り取り付け部は単なるネジ穴。
上方向にアダプタをつける事も出来る。
さらにネジ穴を調べると、カメラと三脚を固定する時に使う1/4インチ規格のネジである事が解りました。
そこでわたしは、分厚いL字鋼板と木の細長い角材を使い、こういう部品を作りました。
そして三脚用ネジを使い、双眼鏡へ、このように取り付けました。
別に普通の1/4ボルトとワッシャでも良いんですけどね。
外見がどうなったかというと、こうなるわけです。
上にL字材つけてどうするのと思われるでしょう。
答えは、自分が寝転がって双眼鏡を構えると、L字材が「頭の上」を経由し、端っこが地面に着くことで
双眼鏡を地面に支えさせる
という事です。
三脚だって結局は双眼鏡を地面に支えさせているわけですから、これでどうだと。
結果は成功でした。
790gの双眼鏡で30分観察してても平気。腕は全然痛くありません。
寒いから寝袋必須ですけどね。
ちなみに水平方向に見る時でも、角材を頭頂部に乗せれば支えになるので、大変楽に手振れを防ぐことができます。
ただ、天頂方向を見ていると、ちょっとふらつく。
ちょっと斜めというか水平線方向を見ようとすると地面とL字材が離れてしまい、支えられなくなる。
もうちょっとなんとかしたい。
なので、もう1つの双眼鏡用にはこんなアダプタを作ってみました。
双眼鏡に取り付けた状態です。
このアダプタのポイントは、接眼レンズ側に突き出た角材です。
これが何かというと、額で支える為のパーツです。
天頂部を向く時、額にアダプタを乗せる事で、額と地面の2点支持になります。
地面と離れる角度でも額には乗る。
水平に近づくと頭頂部と額の2点で支える
これによってかなりの手振れを低減することが出来ました。
世の中には電子手振れ補正機能を付けた双眼鏡もありますが、手振れ補正機能は相当追従性が良くないと自分の動きと手振れ補正が微妙にずれる事でかえって酔ってしまうなどの弊害があるので、それなりに高価なものでないと意味がありません。
そして電子機器はレンズなどに比べてはるかに短命です。
なので、私は自作したアダプタの方が寿命やコストという点では良いと思ってます。
他の人が見てどう思うかは考慮から外します。スタイリッシュでないのは解ってますとも。
これなら十分手振れ低減が可能という結論に達したので、更に追加でmirageの10x50と三脚取付ホルダーを買い、このような形にしてみました。
アダプタ前方を拡大します。
双眼鏡との取り付け部分に使っているのが、三脚取付ホルダーです。
本来の使い方とは天地が逆ですね。
どうして10x50を買ったかというと、自宅の窓から見える範囲の星を観察するのには、7倍だと広角過ぎるのです。
ちょっと動かしただけでビルの屋根や電柱が視野に入ってしまう。
そして星をもう少し拡大して見たいと思ったわけです。
10倍となると500mm相当であり、ひとみ径が減ったことで少し暗くなりますが、みかけのコントラストは上がるので、思った以上に見えます。
これなら12倍とかでもと思いますが、さすがに手ぶれが抑えられないかな。そんな所です。
以上から、私が現在お勧めするならこんな感じです。
山間部のキャンプ場などで空が充分暗いならひとみ径7mmクラス(7x50等)
夜でも普通に道を歩けるベッドタウン程度の場所ならひとみ径5mmクラス(10x50や8x40等)
簡単なアダプタを付けた双眼鏡で、キャンプ場で真夜中に星空観察なんてのも良いと思います。
あと、別にシングルコートのガス充填なし、プラスチッキーなMirageでも十分に使い物になります。
ただし、7倍でも手振れはしますので対策は各自ご検討ください。
固定方法は鎖骨付近にパッド当てて支えるとか、Zライトのようなアームで支えるとか、上に書いた方法以外にも色々あると思います。
時間があれば、こういう対策を考えるのも面白いかと思いますよ。
それでは皆様、どうかこの災害を無事乗り越えて、良いお年をお迎えください。