M42レンズ愛好家の方、そうでない方、こんばんは。
銀匙です。
今日ご紹介する玉は、PENTAXの【8枚玉】、SuperTakumar50mmF1.4です。
このキーワードに反応する、ましてや欲しがる方はM42病末期症状とカテゴライズされるそうです。
ちなみに初期症状では同じ焦点距離の別メーカー品を集めだし、コシナフォクトレンダーやコシナツァイスを調べだすそうです。
※50mm前後のレンズを5本以上持ち始める、「標準レンズ症候群」という合併症を併発する事もあります。
中程度になると東側諸国(旧東ドイツ、ロシア等)のレンズを探し始め、ローライのM42レンズといった珍品を見つめたり、DIYでオーバーホールしたり、M42レンズ1本に万単位の金を突っ込んだりするそうで。
当てはまるなあ・・・(T△T)
てことはそろそろ終わりが見えてきましたかね。
あははは・・・
さて、【8枚玉】というキーワード。
これは普通、レンジファインダーの王様であるライカに冒された方(通称ライカ熱)が捜し求める超名玉、Summicron35mmF2.0の初期型モデルを意味します。
そして圧倒的にライカの方が患者数は多いです。
もっとも、ライカ熱8枚玉症候群の場合、
「コーティングも素晴らしい状態のレンズをたった20万円で買えました。いやぁ、これで4個目です。撮り比べるのが楽しみで」
というような恐ろしい経済力をお持ちなので、私と争いになるような事はありません(笑)
ただし、病状は似ている所があります。
Summicron35mmF2.0は8枚玉で青いコーティングがされた初期モデルと玉数が減った後期モデルが存在しますが、実はPENTAXのSuperTakumar50mmF1.4にも、初期型の極初期に6群8枚の黄金色の単層コートがされたレンズが存在し、それ以降のModel2からは6群7枚になっています。
ライカ熱の方の場合は「青色の8枚玉、青色の8枚玉・・」という呪文を唱えますが、私の場合は「黄金色の8枚玉、黄金色の8枚玉・・」となります。
まあ、普通の方から見れば「どっちもビョーキ」ですね(汗)
なんでそんなのが欲しいのか。
通常、全く同じ光学性能を出せるなら、レンズの数が少ない方が有利です。
レンズ構成が単純化でき、軽くなり、ガラス透過時の明るさ損失も減ります。
内面反射も少なくてすみます。
でも、同じ素材であれば、レンズ構成が多い方が、一般的に光学特性は良いのです。
PENTAXは後期型からレンズにトリウムという物質を混ぜる事によって飛躍的に光学性能を上げ、6群7枚にしたそうです。
しかし。
このトリウムという物質は放射性元素。
別にレンズから青白い光が出たり、カメラ構えただけで黒こげになるほどタップリ入れたわけではない(汗)のですが、レンズのガラスは延々とその放射線を受け続け、トリウムと共にごく僅か入ってしまう不純物によって、製造後数十年経った現在ではレンズヤケと呼ばれる麦茶色か茶色に近い色へと変色する現象がおきてしまいます。
なので、SuperTakumarの50mmF1.4や35mmF2は大概「レンズヤケあり」と表記されて売られています。
備考1:一部のカメラ屋では「これが当時の色です」なんて言うそうですが、絶対そんな事はありません。即、縁を切りましょう。
備考2:後にPENTAXは素晴らしいコーティング技術(SMC、SuperMultiCoatedの略)を開発したので、現在の50mmF1.4は通常のガラスレンズ+SMCによる6群7枚構成で発売しています。
つまりSuperTakumar50mmF1.4のModel2以降、コーティングやAF化という変更はあってもレンズ構成は一緒なんですね。
現行レンズ(FA50mmF1.4)のレンズ説明は
こちら
備考3:じゃあレンズヤケしたSuperTakumar50mmF1.4は悪いかと言われればそんな事はありません。ただ、余りにもヤケが酷いと撮影結果が茶色っぽくなるので、僅かに明るさが失われる事、デジタルカメラの場合は現像時に色温度変換をしてあげる必要が出るくらいです。
さて、話を戻して。
PENTAXが最初期だけ作ってくれた、8枚玉の50mmF1.4、Model1。
これはトリウムを含有していないレンズに、単層の黄金色のコーティングが施されています。
よって放射性元素によるレンズヤケはなく、純粋にレンズ枚数を増やして光学性能を上げ、今でも当時の明るさと光学性能を楽しめる贅沢なレンズといえます。
ただSMCの威力は絶大で、8枚玉に対して逆光環境で完勝、順光でも良い勝負らしいので、現在では事実上大枚払う価値はありません。
レンズが多い事で多少の特徴はあるそうですが、まあそれは保有者だけの趣味の領域かと思われます。
珍品という意味では120mmF2.8も生産数が少なく名玉なので市場に出る事は稀ですが、「120mmF2.8」というキーワードで根気よく探せば必ず巡り合えます。
しかし、50mmF1.4の8枚玉は少ない上、同スペックの7枚玉が巷に溢れているので森の中で1本の木を探すような苦労があります。
さらに、当時は50mmF1.4は上級ながら標準レンズとしてカメラを買うとついてくるレンズでそれほど大事にされなかった為、現存数が極めて少ない。
なのに、下取り値はModel2以降のレンズと全く変わりませんし、8枚玉の市場価格はModel2以降と変わりません。
それゆえ、Model1の貴重性を知ってて保有しているオーナーは手放しません。
というわけで、PENTAX製の35mm一眼レフ用M42レンズの中で、一番見つけにくいレンズですが、「実家にぽつんと置いてあった」「カメラ屋のジャンクコーナーにあった」というようなケースもあるから面白いレンズなのです。
これを知っているカメラ屋さんは僅かに居ますが、上述の通りずば抜けた美しい描写をするわけでもないので、あえて捜し求める人は末期症状というわけです。
金銭的価値はありませんがトレジャーハンターに近い感覚です。
さて。
そこまで言われるとちょっと気になるゾ、M42遊びの一環として探してみようじゃないのという珍しい方も居るかもしれません。
なので、Model1と呼ばれる8枚玉の探し方を現物で説明します。
当然の事ながら、【8枚玉】なんてどこにも書かれていませんし、店頭で分解なんてさせてくれるわけがありません。
【8枚玉】自体を知っている店員さんも稀です。
よって、自分で、外観で見分けるしかありません。
特徴は8枚玉らしく8つ。
全て満たしていなくてはModel1ではありません。
まず、特徴その1は、金属ローレットである事。
ピントを合わせる部分が総金属製で多角形。
凸凹のゴムが巻かれたレンズはもっと後の世代です。
その2は、光に対してある角度で反射させてみると、黄金色に輝く事。
単層コートの証です。七色に輝くレンズはSMC世代です。
ここまではSuperTakumar世代共通の特徴です。
トリウム含有のModel2以降も同じですからこれだけで飛びつかないように。
この2つの特徴は遠目でも解りますので、これに該当したら3以降に進む目安としてください。
その3は、レンズ越しに反対側を見た時、現時点でもほぼ色の違いがない事。
要するにレンズヤケしていない事です。
トリウムレンズの金属ローレット物は必ずヤケています。
こんな風に見た時、ヤケた物なら茶色に見えます。
その4は、銘番の書き順です。
【8枚玉】は以下の順番で並んでいます。
1:1.4 /50 Asahi Opt. Co. ・・・
Model2以降は以下の順番で並んでいます。
1:1.4 /50 {製造番号7桁の数字} ・・・
Model1の並び方。

でも、正直言って覚えているのは難しいので、写真を小さく印刷して持っている方が確実ですね。
その5は「6」の文字です。
Model1は6が丸く、太っています。
絞りの「5.6」「16」が特徴的です。
Model2以降は6の字が細く、縦長のフォントに変わっています。
その6は、絞り切り替えレバーの裏の刻印です。
Model2以降のレンズには、絞りのManual・Autoを切り替える為のレバーの裏に、6桁程度の番号が刻印されていますが、Model1だけ刻印がありません。
その7は、後玉の出方です。
リアキャップをしないとあっという間に傷つきそうなくらい、みょんと後ろに飛び出しています。
ゆえに後玉にガッツリ傷が入った個体も多いです。
(現行品だろうとM42だろうと、後玉の傷は写りに大きく影響しますので絶対手を出してはいけません)
その5~7は、下記写真でどうぞ。
その8、最後の決め手は重量です。
Model1は8枚玉の為、レンズ+リアキャップの重量で約245g前後、Model2以降は同230g前後です。
ただ、15gの違いを確実に知るにはデジタル式で無いと厳しいですし、秤を持っている店は皆無なので、買ってきてからのお楽しみでしょうかね。
秤を持ち歩くようになったら私以上の「ビョーキ」です(汗)
ちなみに中古相場ですが・・・ありません(爆)
Supertakumar50mmF1.4全体の個体数が多すぎて相場を形成していないのです。
また、Model1に限って、しかも蔵から見つけたという人を除いても、ジャンク品で2千円で買ったという人も居ればSPとセットで1.5万円程度で買った人も居れば、Model2以降のレンズと同様単体で12000円前後で買ったという人も居ます。
なお、2万近く払って買った人も居るようですが、M42単層コートの標準レンズにそんな大金を突っ込む事はないと思います。
それなら素直にFA50mmF1.4を買ったほうが幸せだと思います。
AFでSMCで2万程度の相場ですし・・・
私の場合は1万円丁度ですから高いと思われるかもしれませんが、この値段にはオーバーホール料が含まれています。
そう、このレンズは先日120mmF2.8を丁寧に直してくれた工房で偶然見つけ、譲っていただいたレンズなのです。
カビ、曇り、絞り不良を綺麗に修理し、無限遠調整も完璧に行われ、当時の前後キャップまでつけてこの値段なら、私は高くないと思います。
でも、わざわざSMCの50mmF1.4を3千円で売ってModel1に1万円払う感覚こそ「ほとんどビョーキ」の証ですね(笑)