M42愛好家の方、引きずり込まれた方、こんばんは。
銀匙です。
さて、今日はタイトルの通り、いよいよレンズ自体のお話。
「M42レンズって何が楽しいの?」
これは結構聞かれます。
でも、大抵ネガティブな意味です。何故ならその後に
「AF出来ないんでしょ?」
「重いんでしょ?」
「周辺光量落ちが酷いんですって?」
「絞りがすぐ壊れるって聞きますけど・・」
といった言葉が続くからです。
で、その答えは
「撮る事を楽しまないなら最低のレンズです。
M42とは、安価で、撮る事が楽しくなるレンズです。」
以下は私の経験と、M42を持ってから知った事です。
ご気分を害される表現もあるかもしれませんが、私もαのAFズーム・単焦点レンズを半年前まではかなり買い揃え、今も幾つか持っている1オーナーとしての正直な話です。
AF、マルチ測光、ズーム、高速レスポンス、連写、デジタル化、手ぶれ補正。
ISO可変なんて当たり前。
今の一眼レフとそのレンズシステムは一見完璧です。
フィルム世代と比べればその便利さはとてつもないです。
他に開発すべき機能があるんか?という位、多機能です。
でも、それらの機能で対応出来ない時、極めて不親切になります。
また、完全自動化は、実は誰も望んでいないのです。
昔、ミノルタがαにXiシリーズというカメラとレンズを作りました。
シャッターを半押しにしただけで適切なピントと絞りを割り出し、ズームも電動、撮影者は構図構成とシャッターを適切なタイミングで押すだけですという究極まで自動化されたカメラでした。
しかし、発売直後から超不人気で、すぐ廃版となりました。
全自動が究極の理想なら、主流になったはずです。
何故か。
自動化の為に切り捨てられた、本来ならとても楽しい部分があるのです。
AFレンズを付け、AFモードでシャッター半押しにするとAFが作動します。
カメラが焦点が合わせた対象物が自分の意図する被写体と一致している事を当たり前と考えます。
しかし、時としてAFは意図と違う所に時折ピントを合わせます。
半押しをもう一回やったら今度はAFがピントリングを端から端まで延々と動かして「解りません」と放り出されて結局写せなかった。
そんな経験ありませんか?
私は半押ししただけです。
なんか私のせいじゃないと思いたいのですけど・・・そうなの?
AFは万能ではありません。
AFは撮影者の意図を汲んでくれない。
一方でAFの為に多くが犠牲になっています。
持ちにくくなった太い鏡胴は、AF機構やCPUを収めるためです。
ピントリングが細くなったのは、AF機構に邪魔だし、AF作動時に手を傷めないようにする為です。
コンマ1mm単位で大きくずれるピントは、AFを早くする為です。
あなたの「写す楽しさ」を高める為じゃないんです。
ズームは便利です。
一眼レフに付けっぱなしにしておけば、CCDのゴミ問題も減ります。
実際、αで24-85を常用している私、利便性がどうしても必要な時はこれほど便利な代物はありません。
中にはシグマの17-70ズームのように、テレ端にしてレンズ先端に被写体をぶら下げて撮るとすんごく楽しいレンズや、PENTAXの12-24mm等の痒い所に手が届くズームレンズもあります。
それに、ボディより高いAF単焦点なんてちょっとした興味でおいそれと買える代物じゃないです。
一方、究極の利便性を追求した28-300などのズームレンズがあります。
普通求められるほとんど全ての焦点領域をカバーし、値段もそんなに高くありません。
一見、高い単焦点を買い揃える事なんて時代遅れの馬鹿な事と思うかもしれません。私もそう思った時期がありました。
でも、そういう高倍率ズームはお勧めしません。
何故なら楽しい事は何一つ出来ないからです。
例えば広角。
広角は被写体に徹底的に寄る事で1つの楽しい世界を醸し出します。
極端にデフォルメされた遠近感というやつです。
24mmで20cmまで寄ったら得られます。
でも、高倍率ズームでは広角側でも最短撮影距離が0.5mなど、最短撮影距離が遠すぎてこの撮影方法は出来ません。
この効果は50cmの距離からズームリングを望遠側に回しても得られません。
望遠にすると遠近感を圧縮してしまうからです。
望遠側では、その開放F値を見てください。
F6とかとんでもなく暗い値が書かれていませんか?
F値が大きいほど、一眼の楽しみである「ボケ」が出ません。
手ぶれ補正が無ければ手ぶれ写真の山です。
中望遠(85~135mm前後)はもっとも悲惨です。
AFのせいでカクカクの形の絞りにしかならず、F値も暗い。
広角と望遠をつなぐおまけでしかありません。
85mmエリアでポートレートを撮る時、邪魔な背景をボケで消すにはF2程度まで開けられる事が必要です。
135mmエリアならF4でも良いですが、その代わり、その時の絞りの形は綺麗でなくては台無しです。
どちらも出来ません。
グズグズの背景に多角形のボケじゃ楽しくないです。
ズームレンズ全てを否定するわけではありません。
単焦点では得られない利便性がありますし、5倍未満の低倍率レンズには名玉もあります。
実際、私の持つα24-85mmは感性に合うボケを描いてくれます。
ただ、セットレンズや高倍率ズームだけしか持たないと、一眼レフ自体はもっと許容範囲が広く楽しい世界があると知る事もなく、「なんだ、一眼レフってこんなものか」と変な誤解をして悲しい結末を迎えます。
私もM42を知らなかったら、おそらくそんな結末だったことでしょう。
高倍率ズームしか使わないという事は、リミッターが40kmに制限されたBMW-M5に乗るようなものだ。
今になると私はそう思うのです。
折角大枚はたいて買ったカメラ。
使い尽くしてナンボとは思いませんか?
「でも、AF単焦点は大きいし高すぎる」
複雑なAF機構を入れた上でF1.8とか確保するには鬼のような難問が山積みなんですから高くて大きいのは仕方ないんです。
「絞りなんてせいぜい9枚で、15枚の真円絞りなんて探したけど無いよ?」
AF単焦点で15枚の絞りなんてありません。
だってシャッターボタンを切ってから絞りを設定値まで動かし、最終測光をして、ミラーを上げて、時間通りにシャッター幕を開けて、シャッター幕を閉じたらCCD露光結果をバッファに送り、絞りを開け、ミラーを下げる。
こんな事を百分の何秒で行うんです。
15枚も絞りがあったら、連写したら質量が重過ぎて間に合いません。
「じゃあ無理じゃん」
いや、M42レンズならあります。
ピント合わせも手動だし、絞りは手動だから慣性問題もありませんし。
例えば標準域で、開放F1.8あたりなら安くて良い写りしますよ。
「どうせ何万とか言うんでしょ?」
5千円でお釣りが来ますよ。
「何ていうレンズよ?」
PENTAX、55mmF1.8です。
「ふうん・・・」
こうして、どうせ眉唾話だろと馬鹿にしつつ、まあ安いしと言って興味本位で手にした1つのM42レンズ。
アダプタとレンズで1万円くらいですから、AFズームの高級保護フィルタ1枚の値段程度にしかなりません。
「ピントリング広いな~」
その程度の第一印象。
ところが、その小さい割に重さを感じるレンズを付けたカメラで部屋にある置物等を何気なく見てみると・・
「マニュアルフォーカスって、別に大変じゃないな」
マニュアルフォーカスしか無い時代。
マニュアルフォーカスしやすいように設計されているのが普通です。
そして撮ってみると・・
「ボケが綺麗だなあ」
こうして、私はM42症候群に感染しました。
M42の最大の特徴は当時の時代背景として
・単焦点のレンズ構造は既にずっと前に確立されていた。
・単焦点の方が普通で、ズームレンズが高級品だった。
・ズームレンズの技術は発展途上で今よりレベルが低かった。
という事が挙げられます。よって、単焦点がわんさかありますが、ズームは良いのがありません。
単焦点だけでも聞いたことの無いロシアメーカーから、カールツァイス、ローライ、マミヤ、PENTAXといった名門まで数多あります。
実際、M42レンズを全て網羅した資料はこの世にありません。
余りにも多すぎるのです。
また、当然、1本のM42単焦点レンズでは全ての夢を叶えてはくれません。
究極の広角マクロと言われるツァイスフレクトゴン35mmF2.4も、月のクレーターを大きく鮮明に撮ってはくれないのです。
しかし、AF単焦点と違い、安い予算で豊富な種類から選べます。
「もう1本買ってみようかな。安いし、1本じゃアダプタ勿体無いし」
最初は1万円もあれば選び放題でしょう。
安価なレンズでも135mmF2.8なんていうスペックを持っていますから、今までのセットレンズとは比べ物にならない自由度を楽しめます。
まさに開放された気分。
タバコの箱でもキーホルダーでも近所の電柱でも楽しい楽しい。
自分の手でピントリングを回し、意図通りの位置で止める。
絞りはこんなもんかいな?という具合です。
でも次第に、より楽しく撮る為に色々な事にコダワりたくなる。
それが人間というものです。
そして、まだレンズ1つ1つは値段が手頃だから余り懐が痛みません。
同じ焦点距離で数本を経験すると、何となく嗜好が解ってきます。
自分が好きな焦点距離や、撮影距離、その時良く使う絞りの値や、はたまた絞りの形、開放F値など。
ふと気が付くと、自分のコダワリはAFズームでは叶えてくれない領域に入っている事に気づきます。
AFに戻ってみても撮る楽しさが少ない事に気づきます。
いつしか平凡なレンズは脇役に追いやり、手放してゆきます。
自分が一眼を構えるのに、ファインダーを覗いて楽しい事が重要であると気づいてしまったからです。
絞り枚数など強いコダワリを持つようになると、M42でも高額なレンズを買い求めてしまうようになります。
新品ツァイスの25mmは10万近いですが、それが自分の好みなら買ってしまうでしょう。
新品のツァイスやフォクトレンダーのM42レンズは最近設計された為、下手なAF単焦点を軽く越える光学性能を持ちます。
何故なら、AFとか絞りレスポンスといった余計な制約が無いため、純粋に光学性能重視で設計出来るからです。
優秀すぎて何だか憎たらしくなり、私はフォクトレンダー90mmF3.5SLを手放しましたけど・・・
ちなみに新品で売られているAFレンズですが、レンズ構成は20年以上変わってないというのが結構あるそうです。
M42は古いと思ってるあなたのAFレンズ、実は似た年代の設計かも・・・
気に入ったレンズは大事に保管しますけど、不慮の事故で修理やオーバーホールを頼みたくなる事もあるでしょう。
しかし、プラ部品同士を接着し、すぐ保守部品が無くなるAFレンズは小カビ一つでもあれば中古市場では修理不能のジャンク品として捨て値で扱われます。
PENTAXのLimitedレンズは金属製でオーバーホール可能ですが・・
でも、M42レンズは一般的に金属製で修理可能です。
なぜなら当時はまだプラスチック成型技術の精度が悪かったからです。
また、各パーツをネジで固定し、電子機器も無い単純な構造ゆえ、カビ除去、ヘリコイドオイル交換、絞り不具合の修正といった事を扱う業者が今も居ます。
高いですが、レンズの再研磨&再コーティングといったウルトラC級の修理をやってくれる所もあります。
レンズを割ったり絞り部品を無くしてしまえば修理不能でしょうが、それは普通に考えても無理な相談です。
こうしてレンズが山のように集まったら使わないレンズは売る時が来ます。
だから市場には良い状態のレンズが必ず探せばあり、新しく興味を持った人が良い状態のレンズを手に入れられる。
M42はそういうリサイクルが成立しています。
選別が進むと、自分の望みを叶えてくれる精鋭レンズ達が残ります。
それは自分がとことん拘り抜いた逸品達。
人が酷評していても、自分の願いを叶えてくれるので気になりません。
安値で取引されているレンズで凄く気に入ったレンズなんかは嬉しくなります。
一方で、マニアしか知らない神格化されたレンズはごくたまにしか市場に顔を出しません。
アンジェニューR11、ゾナー135mmF3.5、ローライ85mmF2.8HFTなどです。
これらは値段も8万円以上とAF単焦点並みに高くなりますが、それがあなたの感性に響くかどうかは解りませんから、M42レンズは手にとって試写して確認してください。
人の評価も絶対ではありません。
私の感性に響いたレンズ達が誰にも素晴らしいレンズとは限りません。
レンズの話なのに具体的なレンズの名前も紹介も無いのはそれゆえです。
ただし、PENTAX55mmF1.8は多くの人に支持されており、私も良いと思いますので前回ご紹介しました。
なお、周辺光量落ちの話ですが、APS-Cデジタル一眼では全く気にしなくていいです。
何故ならAPS-Cサイズの受光部では、光量落ちする部分は写らないからです。
絞りが壊れやすいレンズは確かにあります。
ロシアレンズでは割と聞きます。
どうしても気になるなら、ロシアレンズ専門店ならそういう問題を直してから売ってくれますから安心です。
しかし、リスクを引き換えにしても手に入れるか敬遠するかは、ご自身で判断してください。
重さについては確かにAFプラスチックレンズよりは重いです。
もしそれが写りより重大な問題なら、止めておいた方がいいと思います。
私の場合極端な望遠単焦点は出番が少ないです。
500mmF8とか400mmF5.6とか。
でも、スポーツやレースカーを撮る方達なら出番も多いと思います。
自分の用途を考えて、見合った焦点距離を揃えると楽しいですよ。
まずは50mm代と135mmを買い、広角好みか望遠好みか選ぶと良いと思います。
最後に。
M42とAPS-Cデジタル一眼の組み合わせの場合、唯一難しい問題があります。
それは超広角領域です。
これはM42では元々ラインナップが少ないですから入手困難です。
12-24mmとか、16-50mmなど、現代のズームレンズで補うのがいいでしょう。
☆☆☆追加のお知らせ☆☆☆
PENTAXからK20D、K200Dが発表されました。
発売はまだ先(K20Dが3月、K200Dが2月下旬)だそうですが、楽しみです。
http://www.digital.pentax.co.jp/ja/35mm/k20d/feature_08.html