前回の記事でご紹介したGiulietta SZは、プライベートドライバーがZagatoに依頼した改造車SVZが発端となって誕生した車でしたが、SZのデビューとほとんど同時期の1959年から、アルファの正式プロジェクトとして新しい本格的レーシングGTの開発がスタートしました。
今回はその結果生まれたGiulia TZシリーズについてご紹介しましょう。
Giulia TZ
SZが量産車ジュリエッタのシャシーを利用したものであったのに対して、TZは重量わずか60kgの専用鋼管スペースフレームを持った、より高度で本格的なコンペティションマシンであり、この鋼管フレームにちなんでTZ(Tubolare Zagato)と呼ばれることになりました。
足回りもSZから進化し、ブレーキはドラムから4輪ディスク(リアはインボード配置)に、サスペンションも後輪リジットから専用設計のフロント・リアともダブルウィッシュボーン/コイルの4輪独立懸架になっています。
ボディーはSZと同様にZagatoがデザイン・製造した軽量アルミボディーで、SZ2でその空力有効性が実証されたコーダ・トロンカ(Coda Tronca)をさらに進化させたものになっています。
エンジンはジュリア用の1570cc 直4 DOHCエンジンを流用していますが、後にGiulia GTAにも用いられることになるツインプラグヘッド、2基の45DCOEウェーバーキャブ、圧縮比9.7へアップ等により、市販状態でDIN表示112hp(レース仕様では160hp位)の出力を発揮し、660kgの軽量ボディーと相まって216Km/hの最高速を誇りました。
重心位置を出来るだけ下げるため、エンジンは排気側に約18°傾けて搭載されています。
ダッシュボードの中央にまだちゃんとスピードメーターが付いている所がロードゴーイングレーサーですね。
以上のように、TZはGiuliaの名称は付いていますが、エンジン以外はジュリアとは何の関係もない純コンペティションカーといえます。
TZの生産モデルは1963年に完成し、3月のジュネーブショーでデビューしました。
GTとしてFIAの認定を受けるためには、この量産し難い車を連続した12ヶ月間に100台以上製造する必要がありますが、ボディーの製造はZagato、組立は後にアルファのレーシング部門を担うことになるAutodeltaが担当という分業体制で、1965年までに112台のTZが製造されました。
当時はまだアルファがワークス活動を行っていなかったので、プライベーターによりレースに参戦しましたが、セブリング12時間、デイトナ24時間、ルマン24時間、ニュールブルックリング1000km、タルガ・フローリオ等でクラス優勝を果たし、ツール・ド・コルスのようなハイスピードラリーでは総合優勝さえ遂げるなど、GT1.6クラスでは無敵の強さを誇りました。
但し、当時の国際格式のレース(FIA国際マニュファクチャラーズ選手権)は、Div.1(1L以下、64年以降1.3L以下)、Div.2(2L以下)、Div.3(2L以上)の3クラスにそれぞれチャンピオンシップを与えるという規定であり、2L の車特にミッドシップのPorsche 904という強敵と争わないといけないというハンディがあったため、チャンピオンのタイトルを獲得することはできませんでした。
以前
「初めてのタイピン、初めてのミニカー」というタイトルの記事の中で、私が幼いころに初めて買ってもらったミニカーFerrari Dino 246SP(仏Solido社製)のことを書きましたが、その次に買ってもらったミニカーがこの伊Politoys社のTZです。
もちろん当時はTZという車のことは全然知らず、その形とガバッとボンネットが開いてエンジンが見える所がカッコいいと感じて買ってもらったと思うのですが、当時からちゃんとアルファの血が流れていたようです(笑)
もっと現代的な1/43ミニカーとしては、伊Best社から色んなレースに出場したTZが発売されていますが、私が所有しているのは、以下の2台です。
Giulia TZ, #53 Jim Kaser/ Chuck Stoddard, Sebring 12hrs 1964
1964年のセブリング12時間にScuderia Saint Ambroeusから出場し、総合13位、GT1.6クラス優勝を遂げた車です。
Giulia TZ, #57 Roberto Bussinello / Bruno Deserti, Le Mans 24hrs 1964
1964年のルマン24時間に、同じくScuderia Saint Ambroeusから出場し、総合13位、GT1.6クラス優勝を遂げた車です。
何度も登場していますが、Scuderia Saint Ambroeusのトランスポーターとのショットです。
Giulia TZ2
TZの競争力をさらに高めるため、より低く軽量なFRPボディーを持ったTZ2が開発され。1965年から実戦投入されました。
ボディーだけでなく、シャシーももはや時代遅れになった15インチホイールの細いタイヤからワイドな13インチタイヤの使用を前提としたものに変更されています。
エンジンもさらに搭載位置を下げるためにドライサンプ化され、より高出力化(170hp)が図られており、TZよりさらに40kg軽量化された620kgのボディーを245km/hの最高速まで引っ張ることが出来ます。
少々腰高でころんとした印象のTZに比べて、地面に伏せて獲物を狙う猛獣のような低く精悍なTZ2はめっちゃカッコイイですね。
TZ2はわずか12台のみが製造されましたが、TZと異なり市販されることなくAutodeltaによるワークス体制でレースに使われました。
しかし、すでにミッドシップの時代に入ったレースの世界では、熟成の進んだPorsche 904やその発展型906に対抗するのはなかなか難しく、あまり目立った戦績を残すことはできませんでした。
Giulia TZ2, #41 Roberto Bussinello/ Jean Rolland, Le Mans 24hrs 1965
1965年のルマン24時間にAutodeltaから出場し、217ラップでリタイアに終わった車を再現した、伊BBR製の1/43ミニカーです。
さすがにハンドメイドミニカーの雄BBRの製品だけあって、なかなか良い出来です。
Giulia TZ2, #48 Enrico Pinto/ Carlo Zuccoli, 1000 km Monza 1966
1966年のモンツァ1000kmにAutodeltaから出場しリタイアに終わった車を再現した、同じく伊BBR製の1/43ミニカーです。
以前の記事でもご紹介した、当時のAutodeltaのトランスポーターやサポートバンとのショットです。
おまけとしてTZ3
時は流れて2010年、ドイツのアルファロメオ・コレクター、マルティン・カップ氏の依頼によりZagotoが製作したワンオフのレーシングカーに、アルファ創業100周年を記念してTZ3 Corsaという名が与えられました。
オリジナルシャシーにマセラティ用の4200cc V8 420hpエンジンを搭載し、往年のTZを思わせるロングノーズ、コーダ・トロンカテールのアルミボディーを架装しています。
翌2011年には、公道バージョンのTZ3 Stradaleも発表され、9台が製作されました。
ベースは、フィアットと提携しているクライスラーのダッジ・バイパーACRで、V型10気筒8400ccエンジン(600馬力)を搭載し、往年のTZ2を思わせるCFRP製のボディーを架装しています。
いずれの車も、Zagatoのチーフデザイナー原田則彦氏の作品です。
どちらの車もなかなか美しいですが、個人的にはStradaleの方が好みかな。
いずれも、伊MR Collection (Look Smart)から1/43ミニカーも発売されています。
TZ3 Corsa (2010)
TZ3 Stradale (2011)
現在のレーシングカーは、完全にサーキットのみに特化し、ロードカーとは全く異なる特殊な車となっていますが、TZの頃まではロードカーとレーシングカーの境界はまだ不明瞭で、一般公道を走ることも可能な車でありました。
そういう意味では、TZ, TZ2はFerrai 250 GTOと並んで、古き良き時代の終わりを告げる最後のロードゴーイングレーシングカーということが出来るでしょう。
その後のアルファは、大成功したGiulia GTAによるツーリングカーレースに注力すると共に、ポルシェに対抗できる2L ミッドシップ レーシングカーTipo 33の開発に励むことになりますが、そのお話はまた別の機会に・・・・。