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zato787のブログ一覧

2023年11月22日 イイね!

RZのMTは、良くできていて走りが楽しい

RZのMTは、良くできていて走りが楽しいスープラの一番の魅力は、車両全体の剛性の高さから、ドライバーの操作に迅速に反応するところだと言える。 さらにその操作を右足でコントロールできるFRであるところと、適切な出力を持つエンジンとの組み合わせを楽しむクルマだとなと感じるので、乗っていて楽しい。
例えば、GR86やNDに乗って、コーナーを曲がった時に、「なんか、シャシーの右下の方が歪んでない?」とか「脚が動きすぎるんじゃないのこれ」と感じるような人にお勧め。特にその辺の違いを感じない人にとっては、使いづらい燃費の悪い2シータのクルマで、あまり乗った時の楽しさは感じないではないかと少し心配する。

BMWの直6は、世間一般の想像通りの出来で、エンジンの中心で、何かでっかい文鎮みたいなものが綺麗に回ってる感じがBMWらしいなと感じる。 この辺の味付けはトヨタのかつての2JZとは違うので、80のフィーリングが好きな人は、スープラらしくないと思うかもしれない。
Posted at 2023/11/22 23:26:23 | コメント(1) | クルマレビュー
2022年09月04日 イイね!

ミライバルダンス

ミライバルダンス思いっきり普段使いができるスーパーカー。 高速道路では一切ポルシェに負ける気がしないし、山道では二輪駆動車に圧倒的なアドバンテージを感じるくらいのハンドリングの正確性、加速・減速力、旋回性能を持っている。一般道でイオンに買い物に行ったり、2名でゴルフに行くことも楽勝にできる、「自家用車」としての価値もある。(ちなみに、私の保有しているクルマで、リアシートがあるのはヤリスだけである。)

このクルマは、脚をKVに変えて、前後255のRE71を履いているので、山道もまた、何も心配することなく走れるスペシャルステージになる。そのドライビングフィールの違いから、FRも楽しいが、4WDもまた走らせて楽しいと感じられると思う。山道では前後・左右のG変化でタブレットがすっとんでしまうので、走行前には外しておく必要があるくらい。

ブレーキもまた相当に素晴らしい。フィーリング・ストッピングパワーとも純正で問題ないが、ACREのパッドとも相性が良いので、少しハードに走る人にはお勧めしたい。

残念ながら、受注停止期間が長く続くが、中古車でも市場にでているし、2024年からはマイナーチェンジした新モデルが販売されるとの噂もあるので、是非一度保有してみることをお勧めしたい。
Posted at 2022/09/05 00:05:33 | コメント(1) | クルマレビュー
2019年04月26日 イイね!

最上級ぱらどっくす BMW Z4 M40i

最上級ぱらどっくす BMW Z4 M40iBMWは改心したと思う。

改心したというくらいだから、「旧Z4のシャシーであるE90系が悪かったとでも言うのか」と思うかもしれないが、Mモデル以外のあれは、FRではなく「BMWという名前のFRみたいな何か」だ。BMWの方針で、エンジニアがそもそも自分の意図に沿わない「ハンドル切れば曲がるガチガチのクルマ」設定で仕立て、電子制御を外すと、前後荷重移動速度が速すぎるなどの理由でプッシュアンダーになるクルマを販売してきた。この設計は、はっきりと言えば、中国と日本など限られた地域でしか受けず、特に最大マーケットたる北米では、セダンの人気が劣化し、SUVへとマーケットが切り替わる中で、トヨタ、ホンダ、ポルシェなどにシェアを奪われ、BMWのブランド価値までもが劣化し始めていたのだ。 2012年にF30系に更新された後でも、この設計方針の根本的な部分は変わっていなかった。中国市場のBMWが未来永劫伸び続けるなどと考えることはできない。


  BMWはセダンが主力で北米では苦戦

BMWを改心させたのは、トヨタの力が大きい。トヨタとBMWの協業が突然始まったようにトヨタは見せているが、そんなことはなく、トヨタの戦略部がBMWを研究した結果、もしBMWがトヨタ式の設計方式を、次世代の主力モデル設計(現在、G20系と呼ぶ新モデル)で受け入れるなら、今後の協業を考えても良いと2012年にBMWに提案したのだ。 BMWの経営陣も、技術者も当然のように反発した。どれだけ丁寧な言い回しをしても、トヨタの提案は明らかに上から目線の言いように見えるからだ。  しかし、同様な事象は、スバルと協業した時にも経験していたから、トヨタは驚きでも何でもなかったが。 

トヨタと仕事をしたことがある人ならよく知ってるだろうが、トヨタは徹底した理詰めの会社だ。 そして、相手が納得するだけの裏付けを持って、自分の意見を述べる。 普通の会社なら調べられないようなデータですら、費用と要員を使って調査して、実験して提示してくる。 最初は、「トヨタの技術者ごときが」と思っていたBMWの技術者も、理詰めのエンジニアリングの世界では、真実は一つだ。 トヨタは、一つ一つ、BMWが変えるべき点を上げて、BMWの技術者を納得させ、同時に彼ら自身がずっと不満に思ってた、BMWの経営陣が指示する「切るだけで曲がるハンドリングのクルマ」をやめると言う共通の目的のために動き始めさせることに成功した。 トヨタの設計方式は、決してBMWの独自性を奪うものではななく、BMWの技術者は自分の力で、同じパーツを使ってトヨタの設計を上回るクルマを作ることができるのだ。トヨタの多田氏は理解していた。BMWに腹落ちさせるには、彼らに、最終的にパラドックスを体感させるしかないとことを。

当初、「ポルシェなんて眼中にない、我々はBMWだ」と言っていたBMWも、今度こそ、ボクスターを仮想敵にすることを目標にした。 これまで、ファンタジー・スポーツカーだったZ4が、MX-5や124スパイダーと、718ボクスターの間のマーケットを狙うことにしたのだ。


  良い天気で、オープン日和  

■G20系シャシー

トヨタのTNGAと同様の設計思想でBMW社によって設計された、G20系シャシーは、新型Z4と新型3シリーズで共有である。 例えば、Aピラーから先のフロントセクションは、外板パーツ以外は、新型3シリーズとほぼ同じである。F30系と比較して、ボディフレームで剛性を確保し、上屋の素材を見直して、高すぎる重心高を下げて、上屋の動きを硬いバネで支える必要をなくした。モノコックではなく、フレームのセクション構成で剛性と荷重応力変化を設計し、車両全体として必要な剛性と応力伝達速度を確保する。細長く、前後荷重移動の速度管理ができないいシャシーを、適切なトレッド・ホイールベース比を取ることで、前後荷重移動速度を適正化させる。 トレッドの拡張に伴い、サスペンションアームを長くして、サスペンションのストローク変化の増大に伴うロール剛性の変動を抑制する。と言った「FR設計の基本」から見直した。 こうした設計が可能になったのは、トヨタの設計手法に習い、BMWの技術者がずっとやりたかった設計ができるように、設計方法を大きく変えたからである。もちろん、トヨタがBMWから学んだ事もたくさんあった。 スープラの記事の中で、「スポーツカー作りにおいて、BMWがトヨタから学ぶものなど何もない」と書いているヒョウロンカがいたが、不勉強を通り越して滑稽ですらある。 トヨタとしては、盲目的にBMWを信奉するヒョウロンカがスープラを批判しにくくなって、多少はしめしめと思ってるかもしれないが。


  G20系の足回り
  長いアームでサスペンションの可動範囲を確保


■ハンドリング特性

物理的な特性から想像できる通り、コーナリング特性も悪くない。まだバネレートが合っていなくて、アダプティブMサスペンションをSportsにセットしてやらないと、衰滅力がバネレートと合わないが、Sports以上にセットすれば、荷重移動も期待通りに行えるし、コーナーでのスロットルの踏み込み位置も、FRらしくボクスターよりも手前から踏んでいける。 電子制御LSDの「Mスポーツディファレンシャル」の動作を知らないまま、コーナーリング中にスロットルを急激にオフにすると、想定外の挙動変化が起きる事にどきっとするケースがあるが、この電子制御LSDの特性を理解すれば、制御可能の範囲ではある。 例えて言うなら、かつてのR32GT-Rの「アンダー出ても踏む」と言うクセに近いものがあるといえばいいだろうか。 こう言う特性は私はあまり好きではないけど、電子制御が適切に介入するので、胃がキュッとなるほどの事は起きない。 だから、電制をONにして、電子制御LSDを効かせ、自動変速に任せて走ることがキモチイイと感じる人は結構いるだろうと思った。 基本的にぐいぐいスロットルを踏んで、ステアリングを左右に切り込んで走るのが好きって言う人なら、前後左右のバランスがいいから、ボクスターや124よりずっと楽チンで速く本人の想定通りの走りができるからだ。



  Z4 コーナリング

スープラもZ4と同様に、電子制御LSDを使用するが、この制御SWのロジックは、Z4とは異なり、トヨタ独自の制御で行われる。各国で行われた試乗会で、スープラの操安性の方が、Z4より高く評価されたのは、主にVSCの制御ロジックと、この電子制御LSDの制御ロジックが大きく貢献している。 スープラはVSCを解除すると、かなりテールハッピーになるようだから、VSCオフでも、電子LSDのSW制御は維持されているのではないかと考えている。


  A90スープラ

■エンジン特性

高圧縮エンジン+直噴ターボだから、大きなターボラグはないが、それでも2500回転以下のステージ1と、2500回転から6500回転のステージ2の2段の走りがあるように感じる。ステージ1でも、公道で走るには十分なパフォーマンスで、8速ATとの組み合わせで特に不満なく使える。 ステージ2は、丁度いいくらいのパワーで、公道で遵法的に使うには余るくらいだが、危険なほどではない。 気持ち良いかと言うと、ちょっと答えに悩む。 ストレート6は滑らかと言うより回転感覚が小粒で、エキゾーストを開モードにした時の音を聞かなければ、BMWの4気筒と変わらない回転感覚なのだ。音もちょっと作りすぎで、デジタルな作り物感を感じてしまう。 もちろん、Z4に積まれているN58B6気筒ターボエンジンは、F30系や旧M2で使われていたN55より近代化され、洗練されたと思うが、むしろ6気筒っぽさが減ってしまったように感じる。 それでも、N58Bは、エンジン音の面ではボクスターSのフラット4に優っている。  出力に関してもターボラグはあるけれども、ターボが効いたあとのパワー感は十分にあるので、ノーズが重いことを受け入れるくらいの価値はあると思う。

一方、ボクスターSのフラット4のエンジン音はドロドロと低音で、BMWに比べて色気はないものの、VTGによる全域ターボ特性が素晴らしい。 


  N58型6気筒ターボエンジン

Z4は、低回転でも排気量が大きいだけにスロットル操作に気を使わなくても良いので、長距離ドライブは、124より楽しいと思う。8速ATの変速も適切かつシフトショックも無く、ボクスターSやM2CompetionのDCTほど直結感はないが、変速速度に不満はなく、Sports+ではGがかかっている状態で減速するとちゃんとシフトダウンして、高回転も積極的に使える。Openの状態で街中、高速道路、ワインディングを気持ちよく走ることが目的であるZ4にとって、丁度いい変速機との組み合わせであると言える。

余談ではあるが、G29 Z4 M40iを買おうかなと思っている人は、M2 CompetionやM3に乗ってはならない。 Mには本当のBMWストレート6が載っているからだ。S55型6気筒ツインターボは、出力も400馬力を軽く超えるが、回転感、エンジンサウンド、出力特性のいずれもが、まさに6気筒ターボだからだ。 Z4は、65,000ドル級の2シーターのOpenで、ライバルは718ボクスターSであるからB58でいいと判断されているのだろう。 Mの本来の金額レンジの相手は6気筒の911カレラだから相手が違う。  しかし、不思議なことに、日本での値付けは、M2 Competionは901万円で、Z4が835万円とZ4の割高感が半端ない。M2はシャシーがZ4より古く、絶対的なシャシー性能は、G20系に及ばないはずだが、幸いなことにMのシャシー設定は、まともなFRのそれであり、BMWの他のモデルのハンドリングとは異なるので、Z4を買うならM2 Competionを買ったほうが幸せになれると言う気持ちになってしまいかねない。 本命は、G系シャシー+S55エンジンが乗った次のMモデルだろうが、G20系の価格体系から見ると、今度こそ、911が買える値段になりそうだ。
*注:MとMsportsは全く別物である。
   Msportsとは、「Mっぽい感じがあるとかっこいいかも」
   と言うドレスアップモデル 
   ついでに、Z4のM40i のMは、Msportsと概ね同じ意味で、Mではない。



  S55型6気筒ツインターボエンジン
*注:N55をベースに、ツインターボにしている。シリンダーのクローズドデッキ化、オイルパンにマグネシウム合金を使用している。クランクシャフトを窒化処理したクロームモリブデン鋼に変更し、高出力と軽量化のための改良が随所に施されている。コンロッドも特殊な表面・端面処理を行い、マーレ製Si12Cu4Ni2Mg配合アルミ合金ピストンを使用して高回転を許容する仕様になっている。


■課題

価格は、ボクスターSの価格を意識していて、オープン故にスープラより高い値付けをしたとは言え、日本市場での値付けは高いと思う。 北米では、ほぼ同等の装備のZ4 M40iが69,300USDくらいで買えるのだから、日本市場での値付けの835万円は、少々高いと言えるだろう。 BMWジャパンが「BMWは高級車だから」という理由でそう値づけたならそれでもよかろう。 ポルシェは別段高級車ではなく、高額車ではあるものの、中古車として売却する場合でも新車の購入価格に対して適切な下取り価格で引き取ってもらえる。 しかし、BMWはそうはならない。 なぜ、そうなるのかの理由は一つしかない。

お金で解決できる課題以外に、Z4には大きな問題がある。 車線逸脱警告装置だ。 同等の装備をマツダのCX-5なども持っていて、白線の引かれた道路から逸脱すると、それを元に戻そうとする。マツダの設定は、危険な範囲にならない程度でステアリングに伝えてくるが、BMWのそれは、かなり強力に作用し、初めて経験すると相当に驚くことになり、事故につながる可能性すらあると思えた。 オートクルーズのように自分で入れるのではなく、規定値で入ってるので、普通に乗ると、この逸脱補正に突然出会うことになる。 首都高の入り口と別れるところなどで、白線をまたぐと、驚くほどの力でステアリングが押し戻される。Y字の左に行きたいのだが、強制的に右の高速道路ランプへと切り込もうとするのだ。 マツダの3倍くらいの力でステアリングが動くので、これは、安全装備というよりむしろ危険な装備である。 Z4を利用する人は、十分この動きに慣れて、クルマが押し戻そうとしても、必要な場合は、自分で強く逆に切り込む意識を持たないと危ない。 言うまでもないが、新3シリーズも全く同じ問題を抱えている。



  車線逸脱防止機構
*注:車線逸脱警告システムは、フロントウインドウのカメラで車線表示を検知し、70 km/h 以上での走行時に車線からクルマが逸脱しそうになると、ステアリングホイールを逆方向に動かしてドライバーに警告するが、この反力が強すぎる。


■内装から見たスープラとの違い

Z4の一番の魅力は、まず内装だろう。 ボクスターやスープラと比較の対象にならないくらい、ラグジュアリー感が違う。スープラは86並だし、ボクスターでこのレベルにしようと思うと、オプション代がいくらになるのか、計算する気も起きない。 


  Z4の内装

Z4とスープラは、特にお値段なりの作り込みの差が顕著で、スープラの実車と比較すると相当に、スープラの内装が安っぽい。 4発モデルのスープラの内装は、安価なモデルの方だとほぼ86の中間モデルくらいの品質で、安っぽさに定評のあるボクスターの内装より安っぽく感じる。 6気筒モデルの690万円のスープラでも、86の最高グレードと変わらないのではと思うレベルだから、ドアやインパネ類の作り込みは、Z4が最も良い。 何でもかんでもオプションで、追加装備に莫大な費用がかかるボクスターに比べて、もしかしたら、Z4の価格を受け入れられる人がいるかもしれない。  シートは、スープラはトヨタ製、Z4はBMW製で、実用面ではスープラも問題はないが、見栄えと手触りは、お値段以上の違いがある。BMWのナッパレザーは、マツダのそれよりも高品質で、良いものを買った感を味わえる。


  スープラ内装
  安い方の内装なのは、嫌がらせじゃなくて、実車が4発モデルだったから。
  中間グレードの86と同じくらいのレベル。

ステアリングも、それぞれトヨタ、BMW製なのだが、BMWの方は当然極太のグリップである。 内装がLEDと電球だとかの差はあれど、内装の最も大きな違いは、インフォテインメントで、Z4は最新のボイスコントロールができるiDriveが搭載されているが、スープラのそれは1世代前の、BMW現行モデルが使っているバージョンである。スープラは690万円とより安価なので、それなりの差はある。運転席全体のデザインは、Z4の方が断然カッコ良く、視点の動きも少なく、使いやすいと思う。


   Z4内装
   最新の、「Hey BMW」ってやつが使えるが、普段SiriもAlexaも
   使わない人は多分使わない。
   なお、ドイツ語モードでは、下手なドイツ語でも認識する。
   ちょっと、ファイアフォックスぽい。(あれはロシア語か)
   Bitteを最後につけるとより効果的、結構ツンデレかも。 
   日本語モードの日本語認識は、ちょっとイマイチ感あり

しかし、私は、全面液晶の画面は嫌いだ。グラスコクピット化は、航空機だけで十分だ。 BMWのレブカウンターの針の向きが右下から上に逆時計回りに回るのも受け入れられないが、一般的な人の印象はApple watchの時計盤みたいなものだと思われているのだろう。 BMWはメーターのデザインがカッコよくて好きだったのに、デジタル化された際に全く踏襲されていなくて残念だ。


  Z4メーター
  これが良いとは思えないが、Apple Watchだと思えば良いのか。


スープラは、回転計など配列を固定化した上で、液晶を部分的に使っているから、この辺はスープラの方が見やすい。レクサスのLFAのメータも部分液晶だが、あれはとても良いデザインだと思う。 全面液晶のパネルは、iPadが付いているみたいで、味気ないのだ。


  スープラのメーター
  カッコよくはないが、トヨタらしく、
  必要な情報が見やすいレイアウト。


室内の居心地、エアコンディショニングなど、後発だけにボクスターよりかなり快適に広くなっている。 ロードスターや124スパイダーで面していた、「LCC並みのギリギリの広さの座席」に対して、Z4は、「プレミアム・エコノミー」くらいの余裕度の差はある。 同じFRで、クルマとキャビンが大きくて、乗車人数が同じなのだから、広いのは当たり前であるのだが。 スープラのシートは見ただけでわかると思うが、トヨタ製がBMWの工場に持ち込まれて取り付けられる。


  Z4シート

トランクはクルマのサイズ相応に広い。幌にした事で、トランクスペースを小さくせずにすみ、MX5/124スパイダーの2倍くらいの容量があるように見える。二人分の旅行の荷物はバッチリ積めるので、旅行の帰りにお土産を入れるところがなくて、買うのを諦めるなんてことがなくて良い。キャンプ道具だってバッチリ積めそうなので、124スパイダーのトランクに入るグッズを必死に集めなくても、楽々キャンプに行けるのではないかと思う。 スープラも、ハッチの下にそれなりのスペースがあり、タイヤは積めそうにないが、旅行用の荷物は積めそうである。


  Z4トランク


  スープラのリアハッチ収納スペース


■オープンとクローズ

 バスタブに沈む感覚があって、開放感は、NDロードスターや124には及ばない。 その代わり、包まれ感があるので、ロードスターRFに近い感覚がある。
 後方は空いているが、シートバックが少し高く、風の巻き込みは少なくて、快適なオープンエアモータリングが楽しめる。124スパイダーよりデート向き。
 オープンにするのは12秒くらいで、電動で動作する。50km/h以下の速度ならば開閉可能である。


  オープン状態

 クローズ状態では、静かというわけではないが、ロードノイズの遮断性や、ガラスの厚みの差によって、静粛性は124スパイダーやボクスターより優れている。 でも、幌なので雨が降ればパチパチいうし、大きな差があるというものではない。 やっぱり幌型は、オープンの姿が基本だと思う。


  クローズ状態




■結論

G29型Z4は、豪華な大きな124スパイダーだと思う。 お値段が2倍以上違うため、よりラグジュアリーで、保有する満足度もある。両車とも前後のオーバハングがやや大きく、ターボラグのある過給エンジンをスクエアなディメンジョンのシャシーに積んだFRであり、外装の見た目までもそれとなく似ている2台である。「大きな124スパイダー」というのが、褒めてる言葉なのか、と問われるならば、それはYESだ。 私が、M以外のBMWを好意的に書くのは多分初めてで、それは私にとって最上級のパラドックスでもある。 G29型Z4は、ディメンジョンがスクエアに見直され、アームはマツダのFRのようにアルミ製の必要な長さのアームを持ち、ミシュラン・パイロットスポーツを履きこなせるだけのシャシーの余裕がある魅力的なFRの一台だと思う。 B58エンジンは、Mシリーズに載るS55を知らずに、エンジンサウンドが妙にデジタル的に雑味がなさ過ぎることが気にならないなら、パワーは丁度よく、シャシーとのバランスも良い。 124やMX-5に比べると何事にも重さは感じるが、それでもスポーツドライビングの操作には、概ねちゃんと答えてくれる。

つまりZ4は、価格が高い事と車線逸脱防止機構以外に、取り立てて大きな欠点がない。 ここまで各論で述べてきたように、エンジン、内装、走り、オープン時の快適性もみんな悪くない。 それでも、誰も「Z4は、718ボクスターを超えた」とは言わないのだ。私も含めて。「Z4なのによく頑張った」といい方は失礼だが、実感に近い。  では、一体何が気に入らないと言うのだろう。 まず外観はフロントデザインがあまり好みではない。 エンジンが6気筒らしい回転感がないのに、作りすぎた感のある排気音も気になる。 でも、一番重大な問題は、スポーツカーとしてのブランド力を感じないことだ。多くの人が、M以外のBMWをスポーツカーとして認めてくれないのである。 スープラ、FD、GT-R、ロードスターといった、2次元系の媒体を通して世界中に知られるようになった日本車より、スポーツカーとしての認知度が低いのだ。  最終的に、預金通帳を見ながら、「Z4を買おう」という最後の一歩が踏み切れない。


  BMW Z4 M40i
  デザインを見て、「欲しい」と思えないと
  手が出しづらいように感じる

A90スープラと比較されるZ4だが、では、もしスープラとZ4のどちらかを2択で選べと言われても、私はどちらも選ばない。 まだ乗ったことがないスープラを批判するつもりはないが、内装と外装のデザインが更に受け入れられないと言う好みの問題よりも、スープラは、私が持っているスポーツカーに対する楽しみ方の違いを感じるからだと思う。 LWSならMTのロードスターやエリーゼの方が好みだし、LW以外なら、ボクスター/ケイマンや911の方が自分でクルマを操る楽しさがより高いように思う。 そんな私の好みよりも大事な、世間の判断はこうだ。690万円のスープラは、順調に売れていて、3月の時点で6気筒のRZは、2019年欧州への割り当ての900台、日本向けの570台は既に完売で、納期は1年を超えているから、ローンチ後のマーケットを十分に持っている。 製造がBMWであっても、トヨタが保証すると言うトヨタ・ブランドの安心感はあるだろう。しかし、大きな問題もなく、走りも同様に楽しいはずのZ4は、世界中でスープラのようには売れていない。 世界レベルでのこの差は、BMW にとって、最上級のパラドックスだろう。


  トヨタ A90 スープラ

それを解決することができるかどうかが、BMWのこのクラスのスポーツカー市場での課題だ。既に、ポルシェとトヨタは各国の市場でそれを成し遂げている。評論家が「売れる方がいいクルマだとは限らない」といくら言っても、現実は実態を見ている。G29型Z4は、歴代Z4の中でもっとスポーツ性の高いクルマになった。でも、Z4じゃなければ手に入らない何かは見当たらない。 将来、Z4がボクスターやスープラのように市場で認められるようになるかは、まだ、「希望はあるかも」としか言えない。

この記事は、当初試乗記事として書いた。しかし、とてもではないが、試乗記の文字数まで削りきれず、通常ブログ記事での公開とした。 元の原稿は、ここに載せている3倍くらいの量を書いてる。 それは、未来のBMWのスポーツカーへの期待からくる以外の何物でもない。

BMWにとって、トヨタとの協業はきっと大きな一歩になると思う。



  BMW Z4 M40i
Posted at 2019/04/26 19:26:31 | コメント(6) | 試乗記 | クルマ
2019年04月01日 イイね!

自分ではない、他の誰かを幸せにするために

自分ではない、他の誰かを幸せにするために
「大人になったら、何になる?♪」

この言葉がフレーズ付きで浮かぶ人はそう多くないと思うが、昔から日本の子供向け番組は変身モノが定番だ。男児用は、ヒーローに変身するモノが主体で昔から変わらないが、女児用は、最近はアイドルに変身するモノが多いようだ。

今日は、クルマそのものとはほとんど関係がない。
新元号も決まった縁起の良い日なので、今日中にアップしたかった。


■子供には、なりたい職業がある。
子供がなりたい職業を調べている資料は、ソニー生命保険や第一生命の調査がメジャーだが、傾向はどの調査も概ね変わらない。小学生が将来なりたい職業は、男児がスポーツ選手が上位、女児はパティシェと看護師が上位を占めるケースが多い。世相を反映して、Youtuberも憧れの職業の一つになってきた。


高校生になると、ぐっと職業が現実的になって、男子はIT技術者、ものづくりのエンジニア(自動車など)が上位に現れる。女子は、歌手、声優、アイドルよりも、公務員、保育士、教師と比較的安定志向(長く勤務しやすい職場環境だからだと思うが)の職業が中盤を占めるのが面白い。


 男子高校生の傾向は、技術系の職業が人気だが、
 進学率は文系の方が高い。
 ソニー生命保険株式会社から発表2017年



 女子高校生の傾向は、長く勤務できる職業が人気
 資格を持つ専門職の選択率も高い。
 アイドルや声優を諦める傾向がでている。
 ソニー生命保険株式会社から発表2017年



■親は、受験勉強の必要性を理解させて取り組ませているか

高校生の時点で、将来なりたい職業があるなら、その道に近いルートを選ぶのが良いと思うが、多くの親は、「まず、いい大学(偏差値の高い大学という意味)に進学しなさい。そのためにもっと勉強しなさい」と言う。その理由は想像に難くない。 親は、子供が「なりたい」と言ってる職業が一過性のものか、本気なのか見極めがつかず、職業選択を将来に持ち越し、少しでも選択肢を多くするために、より偏差値の高い有名大学への進学を進めるのだ。

人間は、目標がないと努力はできない。有名大学に入ることが、自分の将来の何の役に立つのか、親も、子供もはっきりした理由がわかっていない。だから、受験勉強は辛い。


昨日、学生生活の最終日に私の運転手をさせられた彼は、今日から新社会人となった。彼は自分が長く望んだ通りに、自動車メーカーにシャシー設計の技術者として入社した。ウキウキと、入社式に行くのかと思ったら、意外に「今日からいよいよ社会人か・・」と言ってたから、それなりに思うことはあるのだろう。


 「学生最後の日」を私の運転手クンとして過ごす
 「顔出し不可」っぽいので、腕だけ。
 もちろん、摘みたて苺も食事も全部おごったけど。
 午前中は、私の代わりにG20の試乗に行ってもらった。
 どうやらBMWは少し改心したらしい。


彼は、PS2のグランツーリスモにハマり、高校2年生の時に、自動車メーカーの設計者になりたいと思った。思っただけで、どうやったら、そうなれるのかは知らなかったが、なぜか、彼の父親は、自動車メーカーの技術者になるための方法は知っていたから、できるかどうかはともかく、それを示してやるしかなかった。 その第一歩は、当時の彼の成績からみて、容易なことではなかったが、自分次第で不可能なことでもなかった。彼は、大学を2つしか受験しなかった。彼の能力で自動車メーカーに入るには、どこの大学でも良いわけではないからだ。でも、国公立大学の合格発表の日、彼のもとには、友達から、「合格したか?」と問うLineはただの1本も届かなかったから、高校生時代に、そこまで友達に気を使わせるだけの成績だったことがわかるだろう。



 「サクラサク」昔は合格発表の結果を電報するバイトがあったのよ。
 今は、LineなどのSNSが主体だけど。
 彼が、友人に「俺、受かったけど、どうだった?」と送るまで、
 見事に一本もLineが来なかった。



■親がすべきこと
 大事なのは、志望大学に入学することは、目標に向けての第一歩であり、単に予定の2年目に入っただけだということを理解させることだ。旧帝大学レベルに入れる学力はないのだから、高校3年生の現在から、入社するまでの7年間に何をするかをちゃんと理解させて、そこに向かって進まねばならない。 もちろん、馬が水を飲むかどうかは馬次第だから、本人の気持ちが一番大事であることは当然だ。


■必要性を理解した上で努力が必用
大学生活は、それなりに楽しんだとは言っていたが、クラブ活動も、自動車部ではなく、公益法人自動車技術会が主催する、学生フォーミュラの活動を選ぶようにアドバイスした。決して楽な部活動ではないし、女子学生と知り合える機会もほとんどいない。自動車業界に名前と顔と実力を売ることが必用であるし、学生フォーミュラを通して、クルマづくりのプロジェクト管理能力を実戦で鍛えることができるからだ。 学生レベルの知識そのものは、企業はそれほど期待はしていないが、技術プロジェクトを纏めて目的を成し遂げる能力は重要なのだ。(6年間やって5回失敗したらしいが) 



   学生フォーミュラ
   スポンサー探しから、費用調達、マシンの設計・製造
   期日までにクルマを完成させて、完走するだけでも大変
   国内だけでなく、海外の大学も参加


卒業した大学名を重要視するなら、有名大学の大学院に進学するという選択肢もある。しかし、大学で教授の信頼を得て研究するために修士コースを進むなら、自大学の大学院に推薦で行くべきだ。多くの大学では、GPA(Grade Point Average)と呼ばれる成績スコアを維持して、大学院に推薦を取って進学することが重要であるから、4年間遊んでいると工学修士コースには進めない。なぜ、大学院へ進むかと言えば、機械工学を専攻する学士に比べて、修士は日本全国でごく少数なのである。ならば、その2年間で研究と技術PM力を高めて、更に自分の能力を高く売り込むべきである。 大学院で選ぶ専門のコース選択も重要で、彼には、第一に希望するシャシー設計技術だけでなく、近年必須知識となっている自動車エレクトロニクスのコースも選ぶことを強く勧めた。(余分に勉強せねばならないから、普通の学生は2つも選ばない) こうした選択が後に何を意味するか、多くの学生は知らない。だから、人よりも先に「これが後で役に立つ」と自信を持って選択することで、他の学生と一つ違う応用力を身につけることを目指すのだ。


   面接
   クルマづくりに対する熱意が大事
   技術知識とクルマへの思いをどんな方向からでも
   繋げて語れるヤツは強い。


■工学修士の就活は、実力でやりたい仕事を選ぶ場

工学修士の採用過程に入ると、大学名よりも、本人の技術応用力の高さが勝負になる。 大学名は、その場に進めるかどうかの権利でしかない。 理系修士が文系学士と少々違うのは、学校推薦をもらうということは、通常の試験や手続きは免除になる代わりに、より専門的な内容の面接を受けることを意味することだ。

技術専門枠での採用では、将来その企業でどんな仕事ができるか、やりたいか、という話を面接よりももっと深い世界で討論することで決まる。各メーカーとの面談は、ほぼ技術統括部長クラスとの面接になる。そこでは、付け焼き刃の就活スキルは必用ない。技術者としてちゃんと会話ができる人材かどうかが求められる。 そのかわり、会社に入ったら何やるんだろう、ではなく、もう何をせねばならないか、決まった上で入社するのだ。その前提で入社するメーカーを選ぶことになる。 彼も最終的に2社の間で相当に迷ったが、より自分のやりたい仕事を任せてくれそうな方を選んだ。多くの人なら、違う方を選べばいいのに、といいそうだが、私は彼がそこまで話した上での選択なら、それが正しいと思った。



   採用されるかどうかは
   結果を聞かなくてもわかるくらい面接が重要
   内々々定くらいの時期で決まることが多い。


■仕事は、自分ではない誰かを幸せをするためにするもの

彼は、今日から自動車メーカーの技術者としての一歩を歩き始めた。まだ彼は、素人の私と普通にクルマ談義ができる程度の知識を持つレベルに過ぎないが、やがて彼の方がより最新で高い知識と経験を持つようになるだろう。社会人になった大きな違いは、仕事とは、お金を稼ぐためにやるのではない。自分ではない、他の誰かを幸せにするためにやるものだという理解だ。 そのために、会社の中で組織を作り、育て、チーム力を発揮して、より他人を幸せにするなにかを成すのだ。 地位も、名声も、報酬も、それは結果論であって、目的ではない。 とりあえず、今は言葉ではわかってると思うが、日々それを感じて働けるかどうかだ。 誰も人生は毎日が、はじめての経験だから、迷いはある。上級職になればなるほど、一人で決めなければならなくなっていく。でもリーダーは迷っていては務まらない。

 一歩だけ、ゆっくり踏み出せば、ほらね。左足も前進。


彼達が作るクルマが、人々をもっと幸せにできる日が来ることを願っている。
Posted at 2019/04/01 21:21:29 | コメント(2) | トラックバック(0) | イベント | クルマ
2019年03月14日 イイね!

マツダGVC Plusは、「わーすた」 になり得るか

マツダGVC Plusは、「わーすた」 になり得るか 「わ→すた」が World Standard を意味する言葉であることを知らない人は、人生の0.1%くらいは損しているが、それは特に問題はない。もちろん、いまググる必要もない。

 さて、

 「人馬一体」と「人間中心」

 この二つの表現は違うものでもなく、マツダの中では同じ方向を向いた言葉なのだが、マツダが自社の考え方を説明する上で、より説明しやすい方法が、「人間中心」ということで、最近のマツダ広報は、「人間中心」の方を強くアピールしているようだ。
 
 マツダの広報は、最近のマツダ車について、
「「誰もがリラックスして思いのままにクルマを操れる」感覚を、さらに高い次元に引き上げる。」と言うよくあるコンセプトを述べているから、最近は、「人馬一体」ではなかなか意図が通じないと理解したのだろう。

 今日の話題は、GVC Plusの評価と今後の進むべき方向性である。
私は、GVC Plusの発売まで、その制御に大きな懸念を持っていて、GVC Plusが人が違和感を感じない制御に仕上がっているかどうかを確認するために、最新型のCX-5 25T のAWDモデルを一定期間借りて、雪道を含む公道を中心に数日間に渡り走ってみることにとしたのである。CX-5 25Tそのものの試乗記は別途アップロードする予定だが、今日は、最新の運転支援システムたるGVC Plusが、マツダが言うところの「人間中心」ロジックにあっているのかどうかを考えようと思っている。


  マツダCX-5 25T
  ターボエンジンは、パワーの要否より乗って楽しいので欲しくなる。
  1台しかクルマを持たないならターボを買いそう


 GVC Plusは、一見、VSCのようなスタビリティコントロールの一種に見えたり、レクサスのTVDやランエボのAYCのような、旋回能力支援システムと同様に見える人もいるかもしれなくて、果たしてそれは「人間中心」に即したディバイスたり得るのか、ということを確認しようと思ったのだ。 この試走を実行した後、記事を書かずに放っておいたら、春になってしまった。 時々、スバルフォレスターと比較している箇所があるが、同時に2台乗ったわけではなく、それぞれ別の日に乗っている。スバルフォレスターのモデルは、2.5のX-Breakである。


■乗った結果どうだったのか

技術論などに興味がない人も多いから、先にGVC Plusとi-Active AWDの組み合わせがどうだったのか書いておこう。
ターマックにおける、GVC Plusは、特に雪などの滑りやすい路面において極めて有効で、これにi-Active 4WDを加えると、操安における安定性は、他のクルマと比較しづらいくらい高いレベルになる。夕方や夜間の雪道で視界が広くない事が不満なCX-5であっても、スタビリティに関しては文句がない。 悪天候時の視界確保やグラベルなどの悪路走破性においては、スバルフォレスターの視界とX-MODEには及ばないが、平滑な路面における雪道走行においては、旋回性能もGVCの効果によりCX-5の方が優れているし、運転していて不安を感じない。 減速性能においても、雪上でのABSの性能は差を感じるものの、スバルよりもCX-5の方が軽量であるため、実用ケースではCX-5の方が有利である。

  
  CX-5 25T
  i-Active AWDがおすすめ。
  雪が降らない地域だとFFを買いたくなるだろうけど

高速道路を走行する速度域で、ドライ路面で障害回避のために急激なレーンチェンジと復帰を行った際にも、ボディ上屋がそのG変化に耐えきれず多少の歪みは出るものの、障害を避けた後、再度レーンに戻る操作ならびに、直進に戻する際の操作性(直進に向かうまでの安定性)の反応が高く、ステアリングを切っている方向とは逆のモーメントが消滅する様がドライバを安心させる。「この速度域だと、テールが逆に出るかも」と身構えていると何事もなく収束するので、拍子抜けすることはあるが、安全という点で見れば素晴らしいとしか言えない。スタビリティコントロールが効いたのとは異なり、最初からステアリングを向けた方向へと進もうとするのだ。


  こういう雪のある道路環境も走行
冬季の和歌山と奈良の県境の山道は結構大変だった


GVC Plusの違和感はほとんどない。 「逆位相のヨーモーメントが来る」と、覚悟したのに何も起きない、という点に最初だけ なぜ?となるが、2個目のコーナーからそれを忘れて、ステアリング操作に適切に追従するなと感じるだろう。 モータースポーツで使用する速度域においては、連続したコーナーを速度域をあげて走行すると、放物曲線を描いて走るはずのクルマの挙動が予想と違う軌跡をとるので、それには違和感を感じる人もいるだろう。さらに速度を上げていくと、やがてタイヤの限界に達するが、そこまでの過程がGVC Plusなしのクルマとは少し異なる。 なので、モータースポーツでGVC Plusありのクルマを使う場合は、その差異を知ってから限界まで攻める方がいい。 有り無しで比較していないから数値は出せないが、多分、GVC PLusありの方がタイムは速いと思う。


  CX-5 25T内装
  価格帯の中では、仕立てのいい内装。
  クルマ自体も丁度いい大きさで使いやすい。
  物理的な前方視界が狭いのが唯一の欠点か。


フォレスターとCX-5を比較する上で、少し意地悪な気持ちで乗ったのだが、GVC Plusは有用な技術であるという結論に達した。でも、GVC Plusのようなデバイスは、ロードスターには載せないで欲しいと思っている。 あれは、自分の手で速く走らせることを目的にしたクルマだからだ。


 ■GVC Plusとは

 まず、GVC Plusとは何かについて確認しよう。

 GVC とGVC Plusの基礎は、日立オートモティブシステムズ社が開発した、車両運動制御アルゴリズムで、オリジナルの名前は、「プレビューG-Vectoring Control+ACC」という。日立オートモティブシステムが開発したのは、車両の横方向と前後方向の連係運動を制御する技術であった。この技術を基盤にして、マツダが自動車への応用方式を開発して2016年に発表したのがGVCである。2018年にマツダと日立オートモティブシステムズ社は、スロットルだけでなく、ブレーキによる直接ヨーモーメント制御によってさらなる車両挙動の安定化を目指してGVC Plusを共同開発し、2018年の年次改良から、CX-5、CX-8に搭載して発売した。


  GVC Plusの動作を示す。
  いろんなところで、見たことがあると思うが、
  注目すべきは、右(外側)前輪にブレーキをかけて
  車両の外側方向(直進に向かう方向)に回転するモーメントを作り出しているところ。
   

まず、GVCとは、コーナリングの進入時(ターンイン)の走行を支援するもので、モータースポーツを楽しんでいる人であれば、直線からコーナに挑む過程において、減速とステアリング操作をどう組み合わせるべきかを理解していると思うが、それを一般のドライバーが公道で走る速度域でも恩恵に預かれるようにしたものだ。 速度域の高い低いに関係なく、わずかに前後の適切な荷重移動を行うだけで、より少ないステリング操作で旋回していくことができる。 速度域が高くなると、もっと大きな荷重移動が必要になるが、GVCでは調整できる加減速Gの大きさに制限があり、一般道を走行する速度域を超えるような領域では、その効果は限定的であり、ドライバーが積極的に荷重移動を行わねばならない。



  GVC/GVC Plusの働き
  コーナーの侵入時に荷重を前輪に移動させて舵の効きを高める。
  コーナーの脱出時に外側前輪にブレーキをかけて旋回モーメントを打ち消す。

次に、GVC Plusは、コーナリングの脱出時(ターンアウト)を支援するものだ。旋回中のドライバーのハンドル戻し操作に応じて外輪をわずかに制動し、車両を直進状態へ戻すための復元モーメントを与えることで安定性の向上を目指している。ヨー、ロール、ピッチの各回転運動のつながりを高い旋回Gの領域まで一貫させ、素早いハンドル操作に対する車両の追従性を高めるとともに、挙動の収束性を大幅に改善することを目的としている。この恩恵は、タイヤのグリップ力が相対的に劣化する、高速度領域や、雨や雪などの滑りやすい路面での緊急回避操作に大きな効果を生む他に、市街地走行のような速度域でも、運転しやすいと感じられる効果を生み出している。


  コーナリング中のG変化とGVC/GVC Plus


 別段、難しいことをマツダは言ってないのだが、やっぱりよくわからない、という人もいるだろう。
 (既に面倒臭くなってきて、この記事を読むのをやめようと思う気持ちもよくわかる)

 動作原理とかどうでもいい人は、下記の図の通りコーナリングにおいて、


 コーナーの進入をしやすくする:GVC
 コーナーの脱出をしやすくする:GVC Plus

 と覚えておけばいいだろう。

もう少し詳しく知りたいなら、GVC/GVC Plusの制御フローのスイムレーンの主体は、以下の要素で構成されている。

・電動パワーステアリングの舵角センサーから読み取ったハンドル角度
・車速
・発生している横Gの計算値(Gセンサーの値じゃない)
・横Gを一回微分した横躍度

・前後Gのゲイン(センサー値からのゲイン)
・ヨーモーメント
・ヨーモーメントに関連したゲイン項

ここから、ヨーモーメントの指示値とエンジントルクのダウン指示値を計算し、エンジンとブレーキ制御ユニットへ制御をかける。
ブレーキ制御ユニットはモーメント指示を受けて、それを実現するための各輪の液圧値を決定し、ブレーキを作動させるわけだ。
エンジンのトルクダウン指示値をGVCに用いて、ヨーモーメント指示値をGVC Plusに用いている。


  エンジン、ブレーキ制御ユニットを制御して、
  コーナリング中のクルマに発生するG変化の躍度を一定にすることで
  乗員の快適さと安定を目指す。
 
これらの、指示値を一定の躍度にするために、どの時間軸で微分するかが重要なのだが、これをリアルの時間軸で計算しないところが、GVC/GVC Plusのキモだ。
マツダは、微分用の基準時間を、電動パワーステアリングの情報出力周期とエンジンコンピュータの情報取り込み周期に合わせている。
(この二つも同じクロック周波数に合わせてある)マツダの設定では秒間200回、200HZを基準時間としている。

200HZすなわち、5ミリ秒毎というのは、コンピュータの世界では、かなり長い時間で、こんなに広い間隔で計算していて大丈夫なの?と思うだろうが、
このクロックは、CPUの計算クロックの周波数ではなく、車両制御の間隔だからこんなものだ。1GHZでブレーキの液圧を制御しても意味はない。
人間のクルマを変化を感じ取る間隔が、概ね10ミリ秒くらいと言われるので、理にはかなってる。
だから、多くの人は、GVC Plusの介入に対して、違和感を感じにくい。


  前後Gと横Gの変化の躍度を一定にして、変動の波を小さくすることで
  乗員は不快な変動を感じず、快適にコーナリングすることができる。


数学的な技術論は、だいたいわかったような気になればいいから、これくらいにしておこう。



■「人間中心」の制御のために

コーナリングにおけるGは、進入時(ターンイン)と脱出時(ターンアウト)の際に大きな変化がある。この変化を滑らか(躍度一定)にできると、乗員は快適に感じ、この変化が大きい(躍度が可変する)と乗員は不快に感じて、時には酔ってしまう。 ならばこの変化量を外から制御してしまおうというのが、GVCの基礎理論だ。 残念ながら、ステアリングをパキッっと一気に切る癖のあるドライバーが起こす不快なG変化を完全に収めることはできないが、それを軽減することは可能だ。

GVC/ GVC Plusが、VSCなどのスタビリティコントロールと違うのは、「フィードバック制御」ではないことだ。つまり、悪い事が起きてから、対処する方式ではない。人間は、別に対処がしたいわけではなく、そもそも何も悪い事が起きない方がいいのだ。 GVC/GVC Plusは、ドライバーの操作に合わせて、先手を打って自分で結果を作ろうとする。もちろん、人とクルマは直接繋がっているわけではないから、先手を打たれたことをドライバーはあまり気がつかない。例えば、ステアリングを操作する手とタイヤが直接繋がっているわけではないから、手が操作したステアリングと、クルマの動きの間には、様々な仲介物体がある。でも、人間の頭が期待しているのは、クルマの動きなので、その期待に沿うように制御してやろうとしている。 フィードバックではないから、発生するケースは自分で決める事ができるので、計算パターンも対象となる情報量もずっと少なくて済む。フィードバックしないから、多数の状況把握のためのセンサーもいらない。 


  前後G、横Gを制御することで、バラバラになりやすいピッチとロール
  をスムースに繋げ、車体を斜め外側に傾ける「ダイアゴナル姿勢」
  を作りコーナリングする。

人間は、自分がやった行動のミスを後からカバーしてもらうより、最初からうまく走る方が快適に感じる。
VSCを効かせまくって走った時に助かったとは思っても、快適だとは思わない。

制御技術の内容よりも、GVC Plusを評価するのは、ステアリングを直進に戻す時だけ、外向きベクトルのヨーモーメントを減らすという思想だ。 私は、人間が操作できない動作をクルマが勝手にやるクルマがあまり好きではない。 例えば、ランエボのAYCや、レクサスのTVDのように、前輪以外のパーツで旋回能力を高める装置が付いている場合だ。それをステアリングと前輪だけで旋回力を生み出すクルマと比べると旋回の制御軸が2本あるようで、電車に乗ってるような大きな違和感を感じる。 4本のタイヤの荷重を意識しながら走らせている時に、自分の予想以上に切れ込んだり、モーメントの変化が予想外のタイミングで発生するなど、そのクルマ特有の、「クルマ中心」の制御をせねばならなくなる。 「AYCを使いこなせるという意味での」「ランエボ使い」という言葉は、人間中心理論から言えば、逆方向なのだ。


  ランサーエボリューション
  速いクルマだが、スーパーAYC作動中はレールの上を走るような大きな違和感がある。


GVC Plusだって、「人が制御できない外側のタイヤだけに、ブレーキをかける」というクルマにしかできない制御をする。 その結果、従来のクルマと少し乗り味は変わるけど、うわーと驚くほどの違和感は生まない。 やろうと思えば、ターインの時から片側にブレーキ制御をかけて、旋回能力を増すことだって簡単にできるが、そこで旋回力を足す設定はやらずに、ステアリングを戻す時だけ助けて、ターンアウトの姿勢を支援してやるのが、マツダ式なのである。



■「人間中心」技術の次のステップ

クルマは、いろんな非合理性を併せ持った上で選ばれている。 SUVだって、99%はその効果を生むような道路を走らないけれど、見た目のカッコよさやアイポイントの高さがドライバーの心を掴んで選ばれていたりする。スポーツカーが好きな人は、物理的な動的運動性能の優位性に注目してしまうが、クルマに乗って楽しみたい、という人間の気持ちは様々で、デザインや、積載性を優先したいから、物理的な不利を受け入れるというケースだってたくさんあるわけだ。


  マツダの代表的なSUVであるCX-5もほとんど舗装路を走るために選ばれる

過去の記事で「人馬一体」は、乗り手のスキルを求める思想だと書いた。最近のマツダが言うところの、「人間中心」は、もう少しユニバーサルな方向へと顔を向けようとしているのだと感じる。 それに応じて未来の「人馬一体」は、乗り手がもっとリラックスした状態で得られるべきものだと考えているようだ。でも、上に述べたように人々の期待は、必ずしも物理的に有利な特性のクルマとは限らない。 だから、これから、そのギャップを埋めるための何かが必要になる。

私自身は、クルマの楽しさとは、自分が磨いたスキルをが如何に発揮できるかだと思っていて(結果が上手くいくかどうかは別にして)、クルマのチューニングとは、自分の特性に合わせて、クルマの操作系、動的モーメントの伝達速度、伝達方法を調整することだと思っている。 ポルシェ911 GT3や、ロータスエリーゼや、マツダロードスターと言った、走行を楽しむことにポイントを全振りしたクルマには、それぞれのメーカーが考えるドライビングスキルの発揮の仕方がある。でも、どのクルマもドライビングスキルの基本は同じで、細かいところが違うのだけれど、それをそれぞれのドライバーが把握して能力を発揮するために、自分に合わせたチューニングをしている人が多い。 そうやって、それぞれのクルマを操る楽しさを探しているように思う。 最初に書いた通り、こういうタイプのクルマを楽しむ人は、GVC Plusみたいな装備は欲しくあるまい。公道走行にはあってもいいかもしれないけど、多分OFFにしてしまうだろう。 この例が偏狭に見えるのは、クルマを楽しむ方法の一つの例に過ぎず、汎用的な話ではないからだ。
*注:前段の「ランエボ使い」と「911GT3使い」の一体何が違うんだ? と思う人もいるかもしれないが、「911 GT3使い」のスキルは普遍的なドライビングスキルの延長上にある。


   911 GT3
   普段乗りにも使えないことはないけど、
   本気で走らせるならサーキットに行くしかない。


では、もしマツダが、「「誰もがリラックスして思いのままにクルマを操れる」感覚を、さらに高い次元に引き上げる。」ことを目指し、「人間中心」を汎用的に進めたいなら、それはGVC Plusのような動的モーメントの制御を一意の完成形で与えるのではなく、人に応じて調整できるように進化させるべきだろう。 ステアリング、シート、ペダル、シフトと言った操作性もまた然りだ。
人間の特性には主に4つのパターンがあると言われる。(詳しく知りたい人は、フォースタンス理論で検索) この理論に沿ったチューニングは、ドライバにとって大きな効果を持つ。 例えば、ステアリングの太さ、シフトノブの形状の適正値は、同じ体型の人でもフォースタンスのタイプによって全然違う。 例えば、私はB2タイプで、シフトノブをガングリップタイプにする方が、腕を内側に曲げにくいタイプ故に正確な操作をしやすいのだ。 

  
   ロードスターRF

まだ世界に、ドライバーのタイプに合わせてセッティングを変更できるクルマはない。 マツダは、「人間中心」の研究の中で、シートへの座り方や、路面の状態やモーメント変化をどういうタイミングで伝えるべきかということを研究している。 それは、「一意な最適解」を求めているのではないと思う。 彼らはきっとドライバーに合わせて操作インターフェイスと、モーメント変化制御を調整する機構を作り出すだろう。 GVC Plusがなぜフィードバック制御を行わず、ターンインで強制的に旋回力を高める制御をしないのか、それは次の世代の制御に向けての一歩だからである。

「先手を打つことは、後手に回らない最高の方法である」

ということだ。じゃあ、先手とは何か、そこにマツダの考え方が「わーすた」になり得る次世代の制御の答えがある。

Posted at 2019/03/14 02:12:41 | コメント(0) | トラックバック(0) | 自動車技術 | クルマ

プロフィール

「RFの後任のND2のNRA-Aが来ました。

マツダ製チューニングカーとでもいうのか、色々なところが改善されて、走らせていて楽しいです。特にステアリングの反力がしっかり計算されてアシストされていて、ステアリングフィールがとても良くなってます。」
何シテル?   04/27 21:12
zato787です。よろしくお願いします。 買い替えずに増車をした結果、スポーツカー3台持ちになってしまいました。保有車両が増えて来たので、車庫を思い切って群...
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