
「ソウルレッドクリスタルメタリック」のRFが出たら買い換えようと思っていた。スポーツカーにとってカラーは大事な要素である。しかし、意外にクリスタルレッドとプレミアムレッドの違いを知らない人も多いようだ。 今日はこの2つの色の違いについて述べようと思う。
現行CX-5に初めて採用された時から、やはり、ロードスターにはこの色の方が似合うと思っていたからである。RFの発表と同時に世に出てきたマシーングレーも良い色だし、RFのVSの内装には合っていたと思うけれど、私はやはり赤いクルマが好きなのだ。 GJアテンザを選んだ理由の最たるものは、マツダのソウルレッドプレミアムメタリックとデザインであった。 このプレミアムレッドは、後に多くのフォロワーを作り出したが、マツダ自身が新たな赤色である、ソウルレッドクリスタルメタリックをどのように作り出したのか見て行こうと思う。
■色味の違いについて
最初に両方のカラーの違いを見てみよう。
・ソウルレッドプレミアムメタリック(41V)(以下、プレミアムレッドと記載する)
・ソウルレッドクリスタルメタリック(46V)(以下、クリスタルレッドと記載する)
二つの赤の違いが写真からわかるだろうか。トップに載せたRFの写真でもクリスタルレッドの特徴がわかる写真を選んだのだが、クリスタルレッドの方が赤の深みが濃くワインレッドに近い方向の色になり、プレミアムレッドの方がより深みが少なめな赤色であることがわかると思う。
クリスタルレッドは、面に当たる光の変化によって、「透明感ある鮮やかな赤」→「深い赤」→「漆黒」へと変化していく様子を再現することが目的であるため、クリスタルレッドは、プレミアムレッドよりも、色の深みと鮮やかさのうち、やや色の深みの方がやや高めになるように開発されている。
■クリスタルレッド色の特性の実現
鮮やかさを高め、深みを強くするには、塗装面を厚くするだけでは実現できない。塗装面を厚くして光を吸収してしまうと、深みが出るよりも艶消しの方向に進んでしまい、色がくすんでしまうのである。
狙った光学特性を実現するには、塗膜内の光の経路に沿って各塗膜層の役割に合わせて塗料を配置せねばならない。まず、「シャープな赤の波長分布」を透過層に分担させ、赤以外の色を効率的に吸収してしまうことで、シャープさを引き出さなければならない。
しかし、シャープな赤の波長分布は、プレミアムレッドの顔料を使う限り変化はない。より透明感のある鮮やか赤の反射光を作り出すには、より粒子の細かい顔料でないと反射光の波長を変更することができないためだ。 プレミアムメタリックの顔料は、クリスタルレッドの顔料より大きく、構造はこうなっている。
一方、クリスタルレッドの構造は、この赤色顔料の粒子をより細かくして、このような波長特性を持たせることにした。
光が顔料粒子にあたったとき,顔料は物質固有の光の吸収特性を示す。一方で,顔料の表面では一部の光が乱反射する。顔料粒子サイズが大きいとより乱反射が起こり、反射光が白く見えてしまうためるため顔料粒子サイズを小さくして乱反射を抑えることで,より純粋な赤色の波長特性を得ることができる。
こうして、クリスタルレッドの顔料はより小型の顔料粒子を使用して、透明感のある鮮やかな赤を実現することができるようになったことが、「クリスタルレッド」の名前の由来ともなった。
■面を表現する新高輝度アルミフレーク
急激な明暗変化を実現する高輝度アルミフレークによる金属調反射の実現にはギラギラしたメタリック塗装固有の質感ではなく、もっと緻密で面全体が光るような特性と光が正反射するハイライト領域での強い反射を実現させることを目指した。(プレミアムレッドの初期塗装が、ややザラついて見えると批判されるのは、赤色顔料やクリア塗装ムラよりも、アルミフレークの乱反射によるものだった。)プレミアムレッド用のアルミフレークは,表面の凸凹や外周面で光が拡散してしまい、跳ね返してほしい正反射光の強度は弱まる一方で,正反射でない方向にも光が反射してしまっている。例えていうなら、月面のようにぼやっと乱反射しているわけである。
かといって、反射強度を高めるべく、レクサスのメタリック塗装のように大粒のアルミフレークを使用すると、こんどは「ラメぽい塗装感」が強調されてしまう。 レクサスのデザインにはこれでも構わないのかもしれないが、マツダの「和」的な凛としたたたずまいとは相いれない。よって、マツダは小さくても、表面が平滑なアルミフレークを与えれば、乱反射せず、鏡のように一定方向に光を反射し、「面」が表現できるのではないかと考えた。 こう書くのは簡単だが、そんな都合のいいアルミフレークは現実には存在しない。
そこで、人間の目から見て、外周と面積比が最小になる円形の中で、最も表面が平滑にできるところまでアルミフレークを削って、クリスタルレッド用のアルミフレークを開発している。この新高輝度アルミフレークにより,ハイライトでの輝くような明るさと粒子感のないまるで1枚の金属板のような緻密な塗膜を表現して、クリスタルレッド特有の面で光る特性を得ることができているのだ。
■明暗変化を表現する光吸収フレーク
透過層の下には、「金属の反射特性」と「ハイライトとシェードの光量差」を担当させなければならない。 マシーングレーメタリックでは、最下層にグレーの吸収層を設けていたが、クリスタルレッドでは、3層の機能を2層に集約する手法を取りたかった。 透明感のある鮮明な赤色を急激に明暗変化させるには、吸収層と反射層の不一致が起きることで、想定通りの色調変化を生み出さないからである。
よって、光を吸収する物質を反射層のアルミフレークと併用して、光の反射量をコントロールすることで,アルミフレークでの光の反射を阻害することなく吸収層の機能を反射層に組み込み、吸収層と反射層を一つの層にすることを実現している。
もちろん、このような機能を持つ塗装材料が世の中にあるわけはなく、吸収・反射面を作り出すためにクリスタルレッド用に光吸収フレークの開発を行っている。この新規材料により,反射層と吸収層を集約することができ、ハイライトからシェードにかけての急激な明度変化を実現することができているのである。
「マツダは塗装が薄い」と塗装の技術も知らず、無意味な批判する人をしばしばみかけるが、技術力がないといくつもの層を作り出して、その合計で色味を作り出さねばならないので、そちらの方が技術力がないのである。マツダのように、層を減らすことで1層あたりの厚みを増やし、より素早い色変化に対応することの方が、光の制御に何倍も優れていて、塗装自体も強くなるのである。
マツダの新色は、このようにさまざまなチャレンジを持って実現されている。 ソウルレッドクリスタルメタリックもまた、様々なことを考えてつくられているのだなと、少しでも理解して、クルマをもっと楽しんでもらえるとうれしい。
■発色の維持性
時々、赤色は「色褪せ」しやすいと言われるが、かつては、太陽光のうち赤色以外を吸収して反射しない反動で、顔料が分解してしまうケースがあるため、このように思われている人もいるようだ。現在は、顔料の研究が進み、「色褪せ」は、赤色だから起きやすいわけではなく、表面の「クリア層」の強度に依存している。クリア層が失われてしまうとどのような塗料でも色あせてしまう。 マツダのクリア層の塗装は他社と比べて平均的な強度で、葯5年間、ほぼノーメンテナンスで初期型のソウルプレミアムレッドカラーのアテンザを屋外においていたが、色あせ等の問題は一切発生しなかったことを報告しておく。
クリスタルレッドの鮮やかさ、艶、光の変化を楽しむには、できるだけクリア層を傷つけないように、また乱反射しないように、一定のコーティングをして、光の通り道を邪魔しない手入れをすることをお勧めしておく。
クリスタルレッドの塗装面の保護については、また別の機会に詳しく述べたいと思う。
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自動車技術 | クルマ
Posted at
2018/04/21 18:32:50