5月24日にマツダから、アテンザの年次改良についての発表があった。
これまでリークされてきた内装、外装を含めサプライズはないが、改めてアテンザの改良について考えてみた。
GJアテンザは2012年に発表され、CX-5に続いてSKYACTIVE-Dを搭載する2番目の車種としてデビューした。SUV型のクルマに抵抗があるユーザにとって、流麗なセダンボディの新型アテンザは魅力的であった。 アテンザの中身は実質CX-5だったのだが、ユーザは魂動デザインをモデルカーそのもののようにまとったアテンザのデザインをまず気に入ったのだろうと思う。 私もその一人であったから、クリーンディーゼルよりもボディデザインで選んだと言ってよかった。 2014年、2016年と大きな改良を経てきたGJアテンザであるが、今回の商品改良は、外装、内装、サスペンション構造、パワートレインと全面的に手が入っている。
日本はセダンが不人気で軽自動車とSUVが主役になっており、今更なぜFFの大型セダンであるアテンザに大きな改良をするのか、という疑問を持つ人はいるかもしれない。 実は、アテンザはマツダの販売台数の上でも重要な車種なのである。 アテンザは、海外ではMAZDA6と呼ばれ、2017年は、世界120か国で総台数の約10%近い15万台を販売する、重要なモデルなのである。 マツダのフラッグシップは、CX5でもCX8でもなく、変わらずにMAZDA6だというわけだ。 日本の路上ではアテンザを多くみかけないかもしれないが、中国、タイ、マレーシア、ベトナムと言った東南アジア圏ではDセグメントのスタイリッシュなセダンとして人気があるのだ。

旧アテンザ(2016年モデル)
2012年にデビューしたGJアテンザはデザインだけでなく、フロントヘビーなフロントを持ちながらも、中高速コーナーを得意としたハンドリングを持ち、クリーンディーゼルターボは、低速から出力を発揮する特性で、街中の走行が楽しく、高速道路では、卓越した直進性を持っていた。 2012年当時としては先進的な対衝突安全装備を持ち、MRCC(レーダークルーズ)による追尾型オートクルーズは、設定速度の最高が110km/hまででと制限はあったが、高速道路の移動を楽にしていた。
フロントヘビーな物理特性から、登りのタイトなコーナーを苦手にすることや、大柄なボディサイズなど、いくつかの欠点はあれども、日本の道路事情にも適したクルマであっただけでなく、よくしつけられた電気式のパワーステアリング、何度もデータを更新して熟成していった、SKYACTIVE-Driveの賢い動作がこのクルマの魅力であったと言える。日本でのセダン不人気のため、トヨタのクラウンまで売れなくなるような状態の中で、台数は多くでることはなかったが、大型のFFセダン(後に4WDモデルも追加)が十分に健闘したのは、ボディデザインとハンドリング、クリーンディーゼルの組み合わせによるものだと言えるだろう。 そして、セダンを評価する国ではさらに人気を博することとなったわけだ。 5年の間でマツダが得たMAZDA6(アテンザではなく)の改良点の中心は、強みであるデザインをより上品に差別化すること、乗る人の気持ちをリラックスさせる内装に進化させること、より静かに真っ直ぐ走ることであった。

旧アテンザ(2016年モデル)
さて、新型のアテンザは、その目的を達しただろうか。 日本市場は2012年の時以上にセダンの人気がない。現在のアテンザの本命は、優れた電子式常時4WDシステムを搭載する、アテンザの4WDモデルだと言えるだろう。 しかし、4WDシステムは優秀であっても、スバルの4WDセダンたるレガシーB4は、よりフロントが軽く低重心であり、価格も100万円近く安い。 そのため、残念ながらCX-5に比べて、アテンザでは、積極的に4WDを選ぶユーザは多くない。 しかし、アジアマーケットでは、まだFFが中心ではあるものの、北米や欧州では4WDの評価が上がってきている。 アジアや北米に向けたペトロエンジンと、今や世界で唯一といって良い本当のクリーンディーゼルを提供するマツダにとって、クリーンディーゼルの進化の両立をやめるわけにはいかないわけだ。

新アテンザ
新アテンザには、CX-5に搭載された技術がほぼ同様に搭載される。CX-5に対するセダン&ワゴンモデルという位置づけでもあるように、生産技術面でも売れ筋のCX-5に近くすることで、価格の上昇を抑えている。 デザインは、「マツダ化」した新カムリに比べて、いまだに魅力的であり、深い彫を持つボディ形状は、面の色の変化を生かすクリスタルレッドが似合う。魂動デザインにとっての大きな進化は、プレミアムレッドからクリスタルレッドへの移行であろう。 多くの人は気が付いていないが、ボディデザインに大きな変化がないのに、プレミアムレッドのアテンザは、あきらかに「旧式」に見えるのである。 マツダの強みである、魂動デザインの改良点は塗装以外にも大きく二つある。 一つは、「車高を下げてみせること」 もう一つは、シルバーの加飾を美しく、下品にしないように使うことで、ボディカラーとボディの筐体の美しさを引き出すことにある。
ラジエターグリル、正面、背面、側面、伸びと深さを求めた新型ホイールを連続で見ていくと、MAZDA6としての「高級感」を引き出すために、強く輝くシルバーの加飾を連続させて、さらにその基準線を下方に下げるようにしてあることがわかるだろう。 正面のアイラインの上下をひっくり返し、フォグランプを廃止してまで下方に銀の加飾を追加し、と背面のシルバーのラインの位置を下げたことで、ボディ全体の重心位置を下げてみせる効果を狙っているわけだ。 ボディラインのデザインテーマを一切変えることなく、新鮮度とデザインの洗練度を上げることに成功していると思う。

アテンザ比較
室内は、構造的には大きな変更はないが、素材面、遮音面での更新が図られて、より一層静かで快適な移動を実現している。 ダッシュボード正面に貼られた東レ製の「ウルトラスエード・ヌー」と本木材で作られたダッシュボードが、高品質さを増している。 ウルトラスエード・ヌーは、2015年8月に東レが開発した、銀面調の光沢とスエードタッチを備えたハイブリッド人工皮革であり、マツダは早速東レに自動車用に使えるように共同開発を持ちかけて装備を行っている。 この素材だけで一本ブログが書けるほどのハイテク素材だが、マツダの他にレカロも採用を決めている。

Ultrasuede(R)nu 素材構成図

アテンザの内装への使用例 インパネ上部は本木材の装飾が行われている

アテンザのメーターパネル 液晶化され、ガラス投影型HUDを採用している。
もう一つの内装の大幅改良ポイントがシートである。今回は革シートにベンチレーションを加えただけでなく、フレームから構造を変更している。 新シートは、人間の脊髄の位置を正しく配置する理論に基づいて作られている。今回は細かくかかないが、マツダは今、「人馬一体ではまだ不十分」理論でクルマを設計している。その研究の一環から生まれたのが今回の新シートの構造帯なのである。 腰と脊髄と頭蓋骨を適切な形に整え、腕と足を理想的な形に配置してやることが、クルマが人間と同じ動きをすることの第一歩だという考え方である。(本理論はマツダがら学術論文として発表されている。)

シートに座る時の脊椎と骨盤の理想形状(マツダ)
シートの出来が悪いと腰が痛くなったり、脚がしびれたりするのは、体の中心の幹である脊髄に不要な力が加わっているからだとしている。背骨と骨盤の性能が遺憾なく発揮できる姿勢を崩さないことこそシートに求められる要件であり、新シートがアテンザに採用された。

新アテンザシート
ダンパーの取り付け位置は、2014年に行った思い切った設計改定で、設計上の誤りを修正して不要な突き上げを削減し、ショーワのダンパーを適切に動かすように、ボディ補強を行ったことで、前後共に快適な走りを実現できるようになった。 しかし、今回の改良では、直進時にハーシュネスを減らして走行性能をより上質にするためにサスペンションの取り付け位置を変更した。 マツダの設計は飛び道具を使わず、当たり前の方法で物理学上の理想を追求する形をとる。今回の改良で、直進走行時のハーシュネスが大きく改善される。

ホイールデザインだけでなく、サスペンション構造も変更した。
新エンジンに置き換わっても、物理的なバランスは変わらないから、相変わらず、Rの小さいコーナーは苦手だけれど、大人4人と荷物を載せて、1000km以上の距離を快適に移動できることが、新型アテンザの狙いである。 SKYACTIVE-Dは熟成してより静かに滑らかになり、パワーの出方も適切になった。 ペトロモデルの2.5はピストンなどの基本部品の見直しで抵抗が減り、出力が伸びたことよりも、シュンと上まで抵抗なく回ることを目標とした。 CX-5で採用した気筒停止機能により、実燃費が大幅に向上している。(実燃費で、一般道走行時に14km/Lレベルを期待できそうだ)

新アテンザ
今回の改良は、「MAZDA6をより継続して売るためにはどうすべきか」と考えたものだ。オリジナルのロードマップでは、FRの新型シャーシに、SKYACTIVE-Xの直列6気筒エンジンを組み合わせて出す予定であったが、新SKYACTIVEのFRシャーシも、SKYACTIVE-Xも開発にもう少し時間を要する。 そのため、今回のMAZDA6の改造は、あと3年、市場で競争力を持たせるためのものだ。
日本市場のアテンザは人気がないクルマであるが、マツダは持てる最新の技術を注いだMAZDA6をアテンザとして登場させた。 仮にCX-5で失敗していたら、改善版をアテンザで出すつもりなのであろう。こうして、マツダのクルマは、それぞれが更新→市場テスト→更新と順を追って進めていくことで、車両全体のレベルアップを図ろうとしている。 今回のアテンザのチャレンジは、魂動デザインのシルバー加飾によるアップデートと、内装素材、新シートである。 これが市場で受け入れられれば、この素材はアクセラとデミオへと引き継がれていく。
日本国内でも、北米でも、欧州でも、東南アジアでも、しばしば比較されるマツダとスバルは企業の大きさが同等くらいで、ともにハイブリッドもEVに関するアナウンスもしないといった共通点があるが、両社のクルマの開発に対するポリシーは異なる。 次は、スバルがどのような手を打ってくるのか楽しみにしたい。
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自動車技術 | クルマ
Posted at
2018/05/24 21:42:45