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2018年06月15日

商品改良版のRFにデュアルマス・フライホイールを採用した理由

商品改良版のRFにデュアルマス・フライホイールを採用した理由
 どうやら世間では、NDロードスターの分類を、製造番号の最初の桁数から、初期型:ND1、2017年12月商品改良型:ND2、2018年6月商品改良型:ND3と呼び始めているようだ。ここのブログでも、以降はこの分類名称を使っていくことにする。今日はND3の2.0エンジン搭載車のフライホイールの話である。 今日の話題とも関連するが、ND1、ND2のフライホイールを軽量フライホイールに替えた際のフィールについては、パーツレビューでAUTOEXE版の軽量フライホイールの装着レビューを載せているので、そちらを見てほしい。 クルマのエンジンは、レシプロエンジンでも、ロータリーエンジンでも、燃焼エネルギーをを回転運動に変換する際に出力のムラが発生し、クランクシャフト/エキセントリックシャフトをクラッチ経由でそのままドライブトレーンにつなぐと、燃焼状況や回転数の変動による出力変化でガクガクしてまともに走れない。そこで、重量のある円盤をクランクシャフトの後ろにつけて回転させてクラッチ以降のドライブトレーンと接続し、その慣性モーメントによって、トルク変動を吸収して安定化させている。この回転している部品をフライホイールという。

 フライホイールというのは、重量が8kg~10kgくらいある重たい金属製のはずみ車だから、低回転でエンジンがトルクを十分に発生できない時でも、保持されている慣性エネルギーによって、一定のトルクをギアに伝えることができる。 逆にフライホイールは、クランクシャフトに接続されて、クランクシャフトと同じ回転数で回るわけだから、クランクシャフトからみたら「重し」でしかない。 回転数が上がれば上がるほど、エンジンが発生できるトルクは小さくなっていくから、よりクランクシャフトと一緒に回すことがつらい錘になるわけだ。トルクコンバータ式のATの場合は、トルクコンバータが変速機とクランクの間に入ってこの変動を吸収するので、フライホイールを必要としない。しかし、それ故にダイレクト感は薄い。



 フライホイールの構造

 エンジンの高回転での伸びが欲しいと思う人が、なぜ、このフライホイールを高いお金をかけてまで取り替えるのかというと、「フライホイールが、錘になって、回転上昇の妨げになる」からである。フライホイールは鉄の円盤であり、手で持ってみればその重さがよくわかる。市販車とチューニングカーの違いとして、何を捨てて、何を取るか、という取捨選択の内容の差異があるわけだが、軽量フライホイールもその取捨選択の一つだ。 ロードスターRF用(ND2まで)は、アテンザやアクセラと比べると、街乗りのしやすさよりも、回転レスポンスを重視した軽量版のフライホイールが標準で使われていた。


 RF用(ND1,ND2)標準フライホイール(ロードスターRF用は軽量版が搭載されている)


マツダがND1に2.0にエンジンを搭載する際に、高回転域でのレスポンスを高めるために、アテンザやアクセラよりも回転慣性モーメントを減らしたフライホイールを使うことを考えた。ND3になってさらに高回転の伸びがよくなるエンジンを搭載するなら、もっと軽いフライホイールを使いたい。 しかし、その軽量化には限度がある。 フライホイールの軽量化を進めると、一般的にはメリットよりもデメリットを生む。 例えば、ND1,ND2のRFのフライホイール(7.6kg)を37%軽量化したAUTOEXE製のクロモリ製フライホイール(4.8kg)に変更すると、以下のようなデメリットがあった。


 ①低速トルクの低下
  上り坂での低速運転に影響する。例えば、首都高速道路の大橋JCTで渋滞した際に、これまで2速15km/hまでは、ここの上り坂でも使えていたが、交換後は、20km/h以下では1速を使う必要がある。(発進トルクは、クルマが排気量に対して軽量であること、ギアを1速に入れると1000回転まで回転が上昇するので、実用上問題になるほどの差はない)

 ②1000回転~2000回転の低回転域での加速能力の劣化
  低ギアで顕著であり、1000回転~2000回転のスルーギア加速時間が20%ほど劣化

 ③低回転域でのエンジンブレーキ力の劣化
  50km/h以下での速度域で、2速、3速でエンジンブレーキが体感的に30%程度減った。フットブレーキを多用するほどではないが、エンジンブレーキが効かなくなったなとは感じる。

 ④高回転での変速時の回転数の下落速度の上昇
  高回転域で変速(加速、減速共に)する時に、スパッ、スパッと回転が落ちるので、その回転数に応じた変速操作を必要とする。


37%程度の軽量化であれば、アイドリングのムラ、発進時の低速トルク不足、装着時の異音、ギアからの異音と言った典型的な問題は起きていない。しかし、材質をクロモリから軽金属に変更したり、円周部に穴をあけて慣性を減らす造形にするなどすると、さらにデメリットが強化されてしまう。 その代り、高回転域では、ノーマルとは比べ物にならないほどのレスポンス、回転上昇、時間あたりの軸出力の増大を得ることができる。

 私は得られるメリットと比較して、①~④のデメリットを受け入れたが、37%の軽量化ですら、大部分のRFのユーザがメリットと引き換えにこれだけのデメリットを受け入れる必要があり、それが妥当かと問われると、そうは思えない。マツダも同様に考えるだろう。 だからND3にも、少なくともND1、ND2と同等のフライホイールが採用し、高回転をより楽しむ設定にするのは当然だろうと考えていたし、あるいは、トルクが増えた分だけ、10%くらい軽量化してくるかも・・とすら考えた。




 ND1,ND2RF用AUTOEXE軽量フライホイール(37%軽量)


■ND3になぜ、デュアルマスフ・フライホイールが必要なのか

 ところが、ND3のRFのフライホイールは、イナーシャ(慣性)を低くしたとは言うが、デュアルマス・フライホイール(以下DMFと略す)が採用された。このフライホイールが、軽量フライホイールならば、高回転を楽しむ方向に向いているわけだが、一般的にDMFは軽くないどころか、むしろかなり重たい。スポーツエンジンのフライホイールを重くしてしまうと、最大トルクを20.5Nmに引き上げ、全域で初期型よりトルクが増大した効果が出せない可能性もある。 というのも、DMFとは、ドライブトレインの振動を抑制することにより、快適な運転感覚を生み出し、燃料消費を改善するために採用するものだからだ。振動に悩む水平対向エンジンを採用するポルシェやスバルは振動を抑えるためにDMFを採用した事例がある。 ND3の2.0エンジンのクランクシャフトは、フルカウンターバランスを取っているので、高回転でも振動がでない・・・はずだ。 最近は、高回転型エンジンが減ったこともあって、DMFは、ディーゼルエンジンの振動低減のために採用される事例が多く、マツダでもSKYACTIVE-DのMT用に採用している。 もう一つのメリットは、燃費性能だ。 確かにND3のエンジンは全域でトルクが向上したにも関わらず、燃費性能も向上しているが、「スポーツ性能の向上」という方向ではないことは、何となくわかったと思う。



 一般的なDMFの構造図


 マツダのメディア向けの広報資料には、こう書いてある。 「リニアに澄んだ力強いサウンドを提供するために、フライホイールに低イナーシャDMFを採用した。従来は1つのフライホイールだったが、プライマリーとセカンダリーの2つに分け、その間にバネを設け、2つの回転差、そして捩じりを使って回転数の変動を抑えることで、ギヤが発するラトルノイズを低減することで、車内で感じる音を低減した。」ラトルノイズとは、「製品に対して振動が加わった際に部材同士が衝突し、カタカタというような異音」のことである。 

ここが気になる。 ND1やND2は、単なる鉄の円盤たるフライホイールでクランクシャフトとドライブトレーンをつないでいる。しかし、ドライブトレーンからカタカタ言うようなノイズは発生していない。クロムモリブデン鋼の軽量版に替えても、レブリミットまでの間に変なノイズは発生しない。 一般的に、ラトルノイズというのは、「製品不良の際に」出る音で、「設計数値を満たす」正常な部品の場合は発生しないのである。 同様に7500回転まで回る高回転エンジンを搭載する1.5は、ND3において2.0と同じトランスミッションを組み合わせていても、一枚の金属円盤であるフライホイールを使用している。 RFもトランスミッションは変更していないから、高回転で高出力を与えた時に、現行のミッションには、ラトルノイズが発生するということが起きたわけだ。 後半の説明はまさに、DMFの構造の説明であり、ここに疑問点はない。

NDのマニュアルトランスミッションが、ぎりぎりの軽量化をされていることは、「スピリットオブロードスター」にも記載されているとおりだ。軽量で素晴らしいミッションだが、高出力に耐える特性がないため、最高出力170馬力を発生する124スパイダーには、NC用のギアボックスが採用されている。つまり、現行のトランスミッションは、ND3の2.0の「高出力」に長期間耐えられないのではないかという疑問が出てきたわけだ。NDロードスターに2.0エンジンを設計想定外に無理やり積む経緯があったことは、よく知られている。NDのリリース後、世界での商業的な面から2.0の高出力化が求められてきたことも厳しい条件だったに違いない。 チューニングカーならば、耐用年数のことを考えなくても良いが、メーカーの製品はチューニングカーと求められる次元が異なる。 それ故に、万が一を考えてDMFの採用を決めたのではないだろうか。


■どこを「低イナーシャ」にしたのか

 先に述べた通りDMFとは、フライホイールをエンジン側とミッション・クラッチ側にわけた2枚のディスクに分割し、フライホイール自体である程度の回転差を吸収できるようにして、騒音低減や燃費向上を図るものだ。しかし、1枚の鉄の板→複数の部品に分割して構成する以上、総重量の増加、ダイレクト感の希薄化、レスポンス低下、本体内部に円形のバネ・ダンパが介在することによる伝達トルクの低下というデメリットがあるとされる。スバルやポルシェのDMFは15kgくらいの重さがあり、軽量どころか、重量フライホイールだ。


 マツダ ロードスター RF 改良型「SKYACTIV-G 2.0」用 低イナーシャDMF

 マツダは、DMFに対して、「低イナーシャ」と言う言葉を付けてきた。マツダのDMFは、他のDMFと構造が違うように見えるところがある。写真を見る限りでは、全体的に薄く作られていそうだということと、ミッション側のフライホイールの直径が大きく、厚みが薄いことが見て取れる。この「ミッション側とエンジン側のフライホイールの直径が異なる理由」に、低イナーシャの秘密があるのだろうか。

 二つにわけられたフライホイールは、個々で見れば、シングルのフライホイールよりも軽い。 エンジンの回転数が高い時は、ギア側に取り付けたフライホイールの重量影響をうけないように圧着度を下げれば、相対的にクランクシャフトの負担は、軽量フライホイールを付けたのと同様の効果があることになる。 二つのフライホイールはスプリング(減衰装置)によって繋がれていて、中央部に挟み込まれたクラッチディスクが二番目のフライホイールと変速機の間で接続及び分離機能を果たすわけだが、回転数が低い時は遠心力でバネが外側に伸びないことを利用して、2枚のフライホイールが組み合わせる率を高めて相対的な重量を大きくするようにすれば、低回転域で慣性マスを大きくして、ドライバビリティを維持することができる。 そのために、二つのフライホイールの直径を変えたのかもしれないとみている。 しかし、前述のとおり、DMFを採用したそもそもの理由は、スポーツ性能の向上のためではないと思う。この通りの原理で動くなら、回転上昇はスムースでも、ドライブトレーンに伝わる軸出力が減らされてしまうということになるからだ。


■ND3の懸念

 DMFの装備で、軸出力が大きく下がることはないだろうが、単一プレートに対して、DMFは構造上一定の出力がロスすることは避けられまい。 好意的に受け取れば、184馬力の出力をかけた時にだけ異音が出るミッションを守るため、DMFを採用し、出力もレスポンスも維持した上でスムースで静かな走りを実現したと考えられる。 悲観的に受け取れば、ミッションが長時間の184馬力の連続負荷に耐えられないリスクを考慮して、レスポンス、ダイレクト感、軸出力の低下を覚悟の上でDMFを採用したとも考えられる。

 いつもの通り、どこにも自動車ジャーナリストは不在らしく、どの記事にも、試乗した誰もが広報資料以外のことを述べていない。(こんなことなら、マツダが全メディアの原稿を自分で書けばいいのだ) メーカー広報の発表の後、一定の期間は、ネガティブなことを書いてはいけないというメディアの下らないルールのせいだとも思うけれど、それは自動車会社の広報部門の一員になっているだけで、ジャーナリストだとは名乗らないでほしい。「自動車評論家」という名前が似合っている。

 NDの華奢なトランスミッションが、トルクの大きなターボの170馬力には耐えられないけれど、NAの184馬力には耐えられるということに納得がいく人は、DMFがここに書いた想定のような懸念がなく、ND3が数値通りの素晴らしいパフォーマンスを発揮できることを期待していいと思う。そして、軸出力の制限だけでなく、間にバネを挟んで伝達制御を行うDMFによって、MTならではのダイレクト感が失われてないことも。

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Posted at 2018/06/15 20:25:53

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マツダ製チューニングカーとでもいうのか、色々なところが改善されて、走らせていて楽しいです。特にステアリングの反力がしっかり計算されてアシストされていて、ステアリングフィールがとても良くなってます。」
何シテル?   04/27 21:12
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