
15代目の新型クラウンが6/26発売となった。既に5万台近い受注があり、納期もしばらくかかる見込みだ。全国のトヨタ店では試乗車の準備に力を入れているので、発売後は、各ディーラーやMEGAWEBに行けば、試乗車に乗ることができると思う。ロードスターのユーザから最も縁遠いように見えるクルマの一つがクラウンかもしれないが、ロードスターだけで全ての需要をこなすのは難しい。 例えば、ロードスターで誰かとゴルフに行ったりアウトドアに行くために、別のクルマが欲しいと思うこともあるだろう。 そういう需要の有無とは別に、「クルマの進化」を体験するために試乗する価値があるクルマだと思う。 新型クラウンの記事は様々な場所に出ていると思うが、なるべくそうした記事には載っていないことを中心に書いたつもりだ。
■クラウンのマーケット変更
ロードスターの購入ユーザの年齢も、NAの頃に比べれば高くなったが、クラウンは平均年齢が65歳とほぼ終端に近づいている。今までも若返りを図ると口では言っていたけど、シャシーはキャリーオーバで、結局「在来ユーザを大事にする」というコンセプトがキープされた結果、ユーザ層は何も変わらなかった。 今回のクラウンは、たとえ在来のオーナーから見捨てられても構わないからと、今でとは逆のアプローチで、最新のFRセダンとして作ってから、内外装をクラウンっぽくする手段で開発した。

新型クラウン
その結果、見た目はクラウンっぽい(きっちりカッコ悪い)が、よく見るとクラウンではない。マークXが属する350万円台の中型FRセダンのマーケットに見切りをつけた結果、全幅1800ミリのFRセダンに集中して設計することができた。350万円の台のFRセダンに大きな需要がなく、FRセダンの需要がもう少し高い価格帯にあることは、レクサス、BWM、メルセデス、AUDIがずっと証明し続けて来たことだ。新型クラウンは、輸入車Dセグメントに近い価格帯で販売することにした。その代り、製品に言い訳はできない。

新型クラウン
■新型クラウンの重大な変更点はシャシー
日本でのみ販売するクラウンは、1800mmという全幅と低速走行時の燃費を走行の主体とした以外は、モダンなセダンの設計方式をそのままトレースしている。新旧の数値上の大きな変化は、ロングホイールベース化だ。旧型のトレッド1545/1545mm、ホイールベース2850mmのホイールベース・トレッドの比率が1.84から、1550/1500mmのトレッド、ホイールベースは2920mmと長くなり、新型のホイールベース・トレッドの比率は1.91に大きく伸びている。これがどのくらい長いかというと、BMWの新5シリーズが1.86、メルセデスのEクラスセダンが1.83だから、クラウンのシャシーが細長いことがよくわかるだろう。しかも、フロントの方がトレッドが広く、直進性に注力していることが分かる。70mm伸びたホイールベースは、その全てを前軸の延長に回し、V6ハイブリッドを前軸の後ろに配置できるロングノーズ形式となった。(完全後方にはできなかったが)さらにルーフトップからボディエンドに向けてファストバック形式で屋根を下げていくことで、後席のヘッドスペースとトランクルームを確保している。リアシートの配置位置も、BMWの新5シリーズやメルセデスのEシリーズと同様の考え方で配置されている。

新型クラウン
ホイールベースとボディのバランスをよく見てほしい
クラウンには、NDロードスターのようなアジリティは望めない代わりに、前後のボディとシャシーの剛性を調整して、前後の旋回バランスを重視することを選んだ。CX-8とも近い思想だが、スポーツカーのような機敏さよりも、ステアリング操作に対して、前後のサスペンションがロールをはじめる時間と旋回が始まる時間を調節しはじめた。 こうした手法は、これまで欧州の高級車のやり方であったが、トヨタはこの走りを実現させるために、使用する金属材料から生産方法まで見直しを行っている。 新日鉄住友金属が開発した、超高張力鋼板である、ホットスタンプ材(簡単に言えば、高張力鋼板を熱をかけながら鍛造した熱間プレス材で、薄くて硬い)をシャシーに採用した上で、生産工程において、サブフレーム/メインフレームの接続の誤差と接続ずれを、レクサスのLSやメルセデスと同様のレベルにまで詰めてきた。

新日鉄住金が開発した、新熱間プレス材 1470MPSのプレスでも歪まない
(在来のハイテンでは1000MPS以上の圧力には耐えられない)
さらに、GA-Lは、現行プリウスから採用された、ボディの環状構造を作るためのLSW(レーザースクリューウェルディング)溶接の採用範囲を拡大した。 LSWとは、レーザーを照射させて、スポット溶接よりも溶接打点のピッチを短くして隙間なくボディを結合させる溶接方法で、ボディを一つの剛体とすることができる。 新しい前軸のタワーの構造を見れば、GA-Lが在来のホワイトボディと大きな違いを持つことが理解できると思う。 こうしたボディの生産過程の変化により、クラウンの走行感覚は欧州車的なテイストに変わった。 トヨタもそういう生産方法を取れば、いいクルマになることはずっと前からわかっていたけど、年間1000万台を生産する工場の生産工程と生産台数の関係から採用できなかったことが、製造方法の大幅な改善と最低価格を460万円とすることで、実現可能となったのである。 つまり、これはクラウンだけの話ではなく、コストと工数がかけられるならば、今後のGA-L使用車両全体に適用可能な製造方法である。 だから、マークXはGA-Lの採用対象外になったのである。

LSWの例(スポット溶接に対して、接合点が多数に増えている)
ボディの環状構造の例
パワーユニットのうち、ハイブリッドシステムの話については、別稿で述べたいことがあるので、ここでは取り上げない。今回、期待していたのは、今まで「ターボラグ、回らないトップエンド、不足している出力」と3拍子揃っていた、2.0ターボエンジンが改良された(ぼそっとしか述べられてないが)ことである。トップエンドが6000回転であることは変わらないが、アイシンの新型8速AT、スロットル制御、エンジンを統合して改良し、体感的なターボラグを削減し(内製の都合上、可変ジオメトリタービンは採用できない。)、各回転域で十分なトルクを発生するだけでなく、4500回転から6000回転へのパワーの伸び感も持たせることができた。多段変速機専用のエンジンなので、一つのギアで引っ張るよりも、美味しいところをうまく使う方法でチューニングされている。 今までの2.0Tとは違って、選んでも後悔しないレベルになったと言える。(現行のISやRCの2.0Tよりも良くなった)

直列4気筒 2.0ターボエンジン
(写真は、改定前のエンジン)
■ベストバイ
トヨタが買わせたいのは、2.5HVだと思う。RSもGも「2.5HVがお買い得」に見える値付けをしている。2.0は、2.5をお買い得に見せるために、高めの価格に設定されているので、多くのユーザはより2.5HVを選ぶのではないだろうか。(約20万円HVが高価だが、分母の絶対値が大きいので安く見える)燃費のことさえ気にしなければ、改良されて大分気持ちよく走れるようになった2.0がお勧めだ。どのモデルよりも鼻先が軽いのは、パワーユニットが軽いだけでなく、前軸の後方に配置されているからでもある。 長いホイールベースに合っているのは17インチを採用するG系モデルの方で、このディメンジョンでRSモデルのように、アジリティを求めて、コツコツ感が残る18インチと衰滅力の高いダンパー設定をするS+モードを選ぶようなシーンが思いつかない。
よって、2.0のG、541.6万円をベストバイとしておく。2.5HVのGも、562.1万円と大きな価格差はないが、トヨタのHVは間もなく大きな進化をすると予想しているので、私はTHS-Ⅱ搭載車は推さない。3.5のマルチステージハイブリッドは、需要は多少あるだろうから、ラインナップにあってもいいと思うけれど、ベストバイの対象ではない。

新型クラウン 2.0G(内装)
■結論
クラウンを第一印象で「カッコワルイ」とただ切り捨てるのではなく(最初に私もそう書いたけど)、実車を360度じっくり見てから乗ってみれば、「日本車っぽい別の何か」であることが分かってくるはずだ。外装の共通化は、今まで旧型のロイヤルが欲しくても、外装がイマイチで選べず、泣く泣くアスリートを選んでいた層にも朗報だと思う。 ライバルの価格は、それぞれBMW523が625万円、E200が694万円、E220Dが717万円だ。(レクサスはGA-L対応セダンがLSしかないので比較できない) クラウンをBMWやメルセデスと比べることがナンセンスだと思うかもしれない。 しかし、価格差以上に、走りの実力差は接近している。 私はE220Dを高く評価していて、ゴルフエクスプレスとして買おうか、と思っていたくらいなのに比較に挙げているくらいだ。欧州車が好きで何台も乗ったことがある人ほど、新クラウンの進化(方向転換というべきか)を理解しやすいと思う。

メルセデスベンツE220D[サイドビュー)
日本車と欧州車のセダンの間には差がある。日本の技術が劣っているからではなく、それなりの理由があるからだが、もし、それらの差が無くなったならば、サービス面、信頼面、動産としての価値の維持と言った点で、日本車の方に大きなアドバンテージがある。 例えば、トヨタ店のサービスは、ファミリー向けのルーミーな店舗な見かけと違い、プレミアムブランドのディーラーと比較しても遜色がないどころか、むしろ優れている。

トヨタ店
クラウンはいいクルマになったと思う。でも、逆にそれが私に買わない決心を与えもした。 それはネガティブな意味ではなく、期待値からだ。 レクサスはGSを廃止してESに置き換える。つまり、次期ISのボディサイズが拡大することを意味しており、次期ISは高い確率でクラウンと同じGA-Lプラットフォーム・ナロー版を搭載すると思う。 走りがよくなることはクラウンで証明された。 その上、内装も外装もクラウンじゃないなら、もうどこにもネガがない。 クラウンは、次期ISに大きな期待を持たせることになった。 ボディのディメンジョンから見て、「インテリジェント・スポーツ」ではないと思うけれど。

次期レクサスIS(イメージ)
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自動車技術 | クルマ
Posted at
2018/06/26 21:50:07