「ロータリー・ターボ♪」
コスモのCMで、このフレーズを聞くのが好きだった。そして、ロータリー・ターボは、既に失われてからもう随分とたってしまった。私はロータリーエンジンにも、たくさん思い出があり、それを搭載したクルマたちもそれぞれが実に楽しいクルマであったから、私のロータリーに対する印象は悪くない・・どころか、相当に特別な思いれがある。だから、SA22をはじめとして、RX-7という名前のクルマには全部乗ってきた。(コスモも、RX-8もだけれど)

SA型 RX-7
このクルマは、排気ガス規制で失われたスポーツカーの復活の狼煙だった。
SA22の存在がどれほど頼もしく、嬉しかったことか。

FD型 RX-7
操安の不安定なクルマだが、未来永劫、カッコいいと言われるはず。
マツダ自身も、ロータリースポーツの夢が捨てきれず、何度もチャンレジしたが、どうやっても商業ベースの乗せる計画が立たず、新しいロータリーエンジンを積んだスポーツカーが発売されることはなかった。

RX-Vision
2015年の第44回東京モーターショーに出品。
次世代ロータリーエンジン「SKYACTIV-R」を搭載するとアナウンスされたが、
ビジネスとして成り立たず、発売は延期された。
メディアが、EV化の拡大を叫ぶなか、日欧の主力自動車メーカは、EVの商業的な問題点を見抜いており、動力の電動化が進むことには肯定的ではあっても、主にインフラと電池性能の理由から、EVの普及は限られた範囲になると考えている。 マツダでは、2030年でも、EVは全体数の10%程度の割合で、主力になるのは、ハイブリッドの発展系になるだろうと予想している。 パラレルハイブリッドだけでなく、シリーズハイブリッドもまた、日産やホンダの主力ハイブリッドになったことで、その候補の一つになりうると考えられている。(ホンダのハイブリッドは、エンジン動力でも駆動できるケースがあるが、主機能はシリーズハイブリッドだと言っていいだろう)
2013年にデミオEVをベースに試作したレンジエクステンダー用のロータリーは、搭載車両がEVだったことから「レンジエクステンダー」と呼ばれたが、現在の言い方で言えば、シリーズ式ハイブリッドのPHVである。 さすがに21世紀に設計・製造したロータリーだけに、主要パーツを13Bから流用して作ったシングルローターのエンジンだったにも関わらず、過去に発売されたどの13Bロータリーよりも静かに回ったのだ。 しかし、この時代のマツダには、その先に進むための研究費用と人材を開発に回すことができず、それ以上研究を続けることはできなかった。 当時のマツダは全リソースをSKYACTIVEの展開にかけるしかなかったからだ。 しかし、このロータリーを積んだレンジエクステンダーは、意外な方向から注目されていた。その一つがトヨタである。

13Bがベースのレンジエクステンダー用RE(2013年)
単室容積330cc、圧縮比10.0、単体重量35kg、最高出力25kW/4500rpm、最大トルク47Nm
最高許容回転数4500rpm、運転範囲は1500rpmから4000rpm
マツダは発電用エンジンにロータリーの特許を取っている。
発電用に絞ったロータリーエンジンは、定速回転用として再設計すればもっと軽量にできるし、弱点と言われている排ガスや燃費の不利の面も、使用する回転数や運転方式を限ることができるため対策が可能だ。 発電・駆動モーターのシステムは、この技術に長けた会社-例えば、モータージェネレータ(MG)が得意なデンソーのような-が協力すれば、うんと軽く作れそうだった。 そして、トヨタは、よりドライバビリティの高い電動化の方法を模索しており、自社のパラレルハイブリッドの他にも方式を考えておくべきだと言う結論に至った。単純なシリアルハイブリッドですら市場に受け入れられることは、日産のe-Powerが既に十二分に証明していたからだ。
トヨタは、電動化の開発において、「運転の楽しさ」が「ダイレクト感」と関連していることを十分意識していたから、莫大な費用をかけて、マルチステージハイブリッドを開発した。(「トヨタ・ハイブリッドは電気羊の夢を見るか」参照)それは、マツダが呪文のように唱えている、「躍度一定」と方向性が同じであることは、トヨタも良く理解していた。 だから、マツダが再びロータリーを新設計するためには、トヨタとデンソーの存在は不可欠だったと言える。トヨタを中心に、この3社で設立した「EV.C.A. Spirit(EVCAS)」には、現在、日野、スバル、スズキ、ダイハツも加わっているが、キーソリューションは、シリアルハイブリッドに必要な、ロータリー、発電システム(MG)、変速機(これはまだ公式発言していない)の3つである。 トヨタとマツダ以外は、ロータリーを使うかどうかを明らかにしていないが、シリーズハイブリッドに適したエンジンでなければ、新たに開発する意味がない。

トヨタ、マツダ、デンソーにて「EV.C.A. Spirit(EVCAS)」を設立
ロータリーには、まるでシリアルハイブリッドのために生まれてきたような特性がある。
1.エンジン全体がコンパクトであり、配置の自由度があること
2.モジュール化して連接させて性能拡大ができる。
3.一定回転数にすると燃費が良く、振動が少なく静か。
4.停止→始動→停止のショックが小さい。
5.複数の化石燃料が使える。
6.既存の生産技術・設備で量産できる。
7.競争力のある値段で販売できる。
8.整備技術、整備網がある。
この1~8の特徴を全て持つ内燃機関は、ロータリーしかない。ロータリー以外では、ガスタービンの特性に近いものがあるが、コストや整備性などの話を出せば、全く実用的ではないことがすぐにわかるだろう。もちろん、マツダ以外の会社でも、ロータリーを開発することは可能であろうから、マツダ以外のロータリーが生まれてくる可能性もある。

シリアルハイブリッドに対するロータリーの適正は高い
こう見ていくと、ピンチなのは、SCKACTIVE-X以外の、既存の4気筒などの一般的なエンジンであり、電動化されて比較されたとたんに、ロータリーと直列4気筒の差があきらかになってしまう。単装ロータリーは極めて小型で、4000回転で50馬力程度の出力は容易に発揮できる。トヨタがハイブリッドを通して編み出した技術に、モーターでドライブトレーンの振動を打ち消す技術がある。この技術は、モーターと同軸上に配置可能なロータリーには大いに有効で、単装ロータリーでもその振動を打ち消してしまうことができる。

トヨタの制振技術 モータ駆動の位相変化で振動を吸収する。
トヨタが、自慢の高熱効率エンジンではなく、ロータリーを使うのは、その全長の短さ故に、トランスミッションをモーターと組み合わせて配置できるからだ。 世界的には、電動化のモーターは駆動輪の近くに配置しようとしているのだが、トヨタは電動化における、運転の楽しさの実現のために、モーターの後ろに変速機を配置する構造を考えている。現在のEVはモーター直結方式が主体になっていて、この方式は簡単だが、エネルギー効率もドライバビリティも良くない。
モーターの減速比は、最高速度に必要な出力を得るために、トルクとモーターの許容回転数を元に決定されるので、必要な出力を得るためには、モーターのサイズを大きくして大トルクを発生させるか、モーターの回転数を高くするかの選択になってしまう。 エンジンルームの大きさの制限から、小型のモーターを積まねばならないEVでは、減速比を高く設定し駆動モータの最高回転速度を上げざるを得ず、減速機の動力損失は増大し効率が低下してしまう。変速機で、減速比を変えてやることで、モータ最高回転速度を高めることなく,駆動モータの最大トルクを低く設定できる。
さらに、駆動モータおよびインバータの効率とレスポンスは、回転速度とトルクによって変化する。 だから、モーターもまた高効率で運転できる回転速度とトルクの領域で動かせば、最も良いレスポンスを引き出すことができるので高いドライバビリティが実現できるわけだ。

モーターに変速機を加えると、エネルギー効率性と
ドライバビリティを高めることができる。
このように、EVの中にも差別化が可能であるため、トヨタ・マツダ・デンソーは、モーターに変速機を配置して、モーターを変速して使用することを考えた。モーターが一定出力であることを考えれば、回転数を下げて、より高いトルクを優秀な変速機で駆動輪に伝えた方が、ドライバーが電動機の高速運転時に感じる、薄いトルクによるレスポンスの悪化と違和感を回避する事ができるわけだ。

モーターに変速機を加えた駆動装置(NTN製)
変速機の有無でドライバビリティが大きく変わる。
ボルグワーナーもEV用のモーター変速機を開発
サイズがコンパクトで、複数の燃料が使える事が生み出すメリットも大きい。
ロータリーもモーターも、ペッちゃんこで小さいから、横置きにして変速機を組み合わせることもできるし、初代エスティマのように床下にミドシップして、前から後ろまで使えるミニバンを作ってもいい。まさに、ロータリーが夢見ていた、コンパクトでハイパワーなユニットの使い方ができるのだ。
マツダから提案されているように、災害時には、家庭のプロパンガスを接続し、そのプロパンガスで発電を行い、災害時の電力供給を支援できるという考え方も可能で、ガソリンが手に入らない場所でも、容器が丈夫な故に、その辺に転がっているプロパンガスなら手に入りやすいし、扱いもとても簡単だ。

LPGを使用して災害時の電気供給源となりうる。
(PHVが被災地で活躍した事例を生かしている。)
被災地以外でも、電気のない所に電気を作り出せる。
さて、トヨタとマツダが、「エコカー」のためだけに、この技術を作っていると思ったら、大きな認識不足だ。彼らは、プレゼンの中で、あえて、エコを中心に話していて、聞き手がそれを素直に受けってしまっている傾向がみられるが、このシステムは決してコンパクトカーのためだけのシステムではない。テスラみたいな無謀なバッテリーの使い方がハイパワーカーの未来の姿ではないと思うが、もっとまともな方法でハイパワーを楽しむことは可能だ。 トヨタのモーター制御技術で、単装ロータリーの振動は打ち消すことができる。しかし、ロータリーには、複数ローターが連接できるという特徴がある。連装、3連装にすれば、ロータリー自身がもっと滑らかに静かに回るし、内燃機関が発揮できる最大出力を増大させることができるので、バッテリーを全て使い果たした状態でも、内燃機関が発揮する出力をモーターが発揮し続けることができるのだ。

直列・コンパクトなRE
マツダの言葉に隠された真意を見抜く必要がある
もし、3ローター150馬力で足らないなら・・排気タービンでも、電動タービンでも使って過給すれば、出力の増大は可能だ。ここまで来ると、「モーターを取っ払う」やつが必ず出てくるだろうが、その手法は未来のコーチビルダーに任そう。我々は、商業的に成り立たないことを心の中で理解していて、もう新ロータリーエンジンはこの世に出てこないと思っていた。 新ロータリーがシリーズハイブリッド用として生き延びることに、何か複雑な物を感じた人もいるだろう。 しかし、それは喜ぶべきことであって、悲しむべきことではない。

3ローターエンジン(20B型)、ユーノス・コスモに搭載された。
燃料をがぶ飲みはしたが、滑らかで気持ちのいいエンジンだった
ロータリーはまだ死なない。そして、次の世代でこそ、ロータリーが本当の意味で活躍できる時が来ると思っている。ロータリー・ターボは、憧れであっても、ロータリーの本命にはなりえなかった。 だから、ロータリーはもう一度復活せねばならない。 ノスタルジックに考えれば、これまでのロータリーは乗っていて楽しかったが、それは私達の時代で十分経験できたし、そのうちの何台かはずっと未来まで残されるだろうから、未来の人もOLD-TIMERとして経験することはできるだろう。
ロータリーは、もう一度生まれ変わる。
今度こそ、彼がやりたかった夢をかなえてほしい。
RX-7, You Only Live Twice